究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本
#06
エアアジアXを使うときにおすすめの街、マレーシア・セレンバン
文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部
日本からアジア諸国へ向かうLCCの中でも、人気のキャリアがエアアジアX。ゲートウェイとなるのはバンコクのほか、マレーシアのクアラルンプールだ。まずこの街に飛んできて、そこからさらにエアアジアで各地に向かう人もいるだろう。LCCのハブなのだ。
しかしクアラルンプールは大都市、けっこう疲れるものである。そこで空港から、小さな街セレンバンに直行してみる手もある。そこはマレーの地方都市ならではの静けさと味わいがある、なかなかいいところだった。
KLIA2まで、どんな帰路をとるか
シンガポールの歓楽街にして、安ホテルが密集する地区ゲイラン……屋台が集まったホーカーズでタイガービールを飲みながら考えていた。
旅も終わり、あとは日本への帰路につくだけである。が、飛行機に乗り込むのはここシンガポールではない。国境を越えて300キロほど行った先にある、マレーシアの首都クアラルンプールが擁する空港だ。
ふたつの巨大ターミナルがあるが、そのうち目指すはLCCの先駆け、我らが貧乏人の味方エアアジアXが飛び立つKLIA2(Kuala Lumpur International Airport Terminal 2)。LCC専用のターミナルだ。日本航空や全日空、マレーシア航空などが発着するメインの第1ターミナルとは隣接しており、電車や無料のシャトルバスで5分ほどの距離にある。
ちなみにこのときのチケットは、2か月ほど前に予約して往復3万円ちょいという安さであった。
エアアジアがばんばん発着するクアラルンプール国際空港の第2ターミナル
空港までバスで直行できるセレンバン
で、KLIA2から羽田へのフライトまでには、2日ほどの時間があった。中1日ぽっかりと空いたのだ。
このまま物価の高いシンガポールにいるのもナンだし、とりあえずはマレーシアに出国するべえか……とはいえ、クアラルンプールに向かうのはためらわれた。エアアジアXを使って、これまでに何度もこの街を訪れている。もう観光地は大半、巡ったと思う。
そんなクアラルンプールで妥協しては、旅人としてどうなのか。
そこでタイガービールを飲みながら、どこへ行こうかスマホで地図と格闘していたというわけである。
空港までサクッと直接アクセスできる、よさげな街はないものか。
あちこち探していると、ポートディクソンというビーチを見つけた。空港から4、50キロだろうか。海はたいしてきれいではないようだが、庶民的海水浴場として賑わっている感じだ。
しかし、どうにも空港まではタクシーしかアクセス手段がなさそうなのである。うーん……。
悩んでいると、すぐ東にセレンバンという街が目についた。なんだか、いい響きの街だなと思った。ヌグリ・スンビラン州の州都。とはいえ地図を見る限りでは小さな街である。いいかもしれない。
マレーシアとシンガポールを網羅するバス予約サイトCatchThatBus(www.catchthatbus.com、アプリもある)をチェックしてみると、セレンバンはKLIA2とバスで結ばれていた。所要45分で、午前中だけでも10本以上の便がある。しかも、ここシンガポールからも国際バスで直行できる。よおし、いいじゃないか。
高い建物はほとんどなく、マレーの田舎町といった風情のセレンバン
セレンバンの中心部には安ホテルがいくつかあり、リーズナブルに泊まれる
セレンバンは居心地のいい街だった
ジョホール水道を越えてシンガポールを抜け、マレー半島に上陸する。天然ゴムのプランテーションを貫く高速道路は日本のように立派で、2×1の座席は広々としており、快適なドライブだった。所要5時間ほどだが疲れも感じず、セレンバン中心部に到着する。バス代金は69リンギット(約1800円)。
バスターミナルと一体化しているショッピングモールを出て、歩いてみる。
実に落ち着いた風情の街だと思った。2、3階建ての低層の建物が並び、商店街を形成している。どれもクリーム色やオレンジ色をしておりカラフルだ。マレー語と漢字が入り乱れる看板はいかにもマレーシアである。交通量はたいして多くなく、のんびりと歩く。外国人は見ない。
商店街の広がる中心部は500メートル四方くらいだろうか。歩ける範囲だ。裏道に入ると昔懐かしい怪しげな中華系の旅社もあり、やり手ババアが出迎えてくれそうな雰囲気でソソられはしたのだが、このときは商店街の真ん中に建つAngsa Hotelに入ってみた。予約もなにもないが部屋は空いており、狭いがなかなか清潔だ。それに商店街を見下ろす角部屋というのが気に入った。もちろんエアコンだのwifiだのは完備で60リンギット(約1600円)と格安である。
ホテルの窓から見たセレンバンの中心部。州都とも思えない小ささだ
屋台街のはずれで旅を締める
セレンバンの見どころといえば、博物館くらいだろうか。150年ほど前にマレーシアの伝統様式で建造された木造の宮殿が保存されている。多民族国家らしく、狭いエリアに教会やインド・タミル様式の寺院、もちろんモスクも密集していてなかなか面白い。レトロな鉄道駅も味わいがある。
ぽてぽて歩いているうちに、夜になる。
いくつか屋台街が点在しているが、なんとカラオケステージつきのところまであった。客が食事を楽しみつつ熱唱している。
軽くミーゴレン(マレー風焼きそば)を食べてさらに散歩していると、漢字の看板を掲げたオープンエアの飲み屋を見つけた。丸テーブルに陣取った華僑たちが泥酔しながらサッカーを観戦していた。こういうところがたまらなく好きだ。旅の終わりを祝して、一杯いこう。
メニューはタイガービール大瓶のみ、ツマミもなしという一徹さであった。流し込んでみれば、喉から全身に染み渡る。こんな田舎町の飲み屋で、旅の最後の夜を飾るというのもいいものだ。
レトロでしぶいセレンバン駅。クアラルンプールと結ばれている
カラオケステージつき屋台街。おじさんおばさんが次々とマイクを握る
中華系の飲み屋にて。奥の店主は酔っ払って「この国はなんでもかんでもマレー人優遇で、中国人の立場は弱いんだよ」とグチッてきた
クアラルンプールからのフライトは「前泊セレンバン」も選択肢に
翌日は再び歩いてターミナルに向かい、KLIA2へのバスに乗り込む。45分で10リンギット(約270円)だ。渋滞もなくすいすいと進み、KLIA2に到着する。
このセレンバン・ルート、けっこう気に入った。とくに帰路だ。大都市でごみごみした首都から空港に向かうよりも、ずっと身体も楽だし、所要時間も変わらない。
セレンバンまではマラッカやクアンタンなどマレーシア各地からバスや鉄道が発着している。KLIA2から日本に帰るときは、セレンバンに前泊してラストポイントにするという手があるということを、覚えておいて損はない。もちろんKLIA1を使うときも同様だ。
KLIA2は近代的なターミナルだ。ちなみに、2017年2月に、かの金正男が暗殺された現場でもある
*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!
*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春
『バックパッカーズ読本』編集部 格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。 |