ブーツの国の街角で

ブーツの国の街角で

#00

号外(9):2ヶ月ぶりに明るい兆しが見えはじめたイタリア

文と写真・田島麻美

gougai9_00

新型コロナ第二波の感染拡大防止策として全土を3色のエリアに分け、段階的な移動制限を実施しているイタリアに、ようやく明るい兆しが見えてきた。昨夜のイタリア保健省の発表によると、国内の現行感染者数が約2ヶ月ぶりに減少に転じた。各地の医療現場の状況は今もなお逼迫しているが、一昨日まで1万人以上の増加が続いていた現行陽性者数は昨日一気に9000人以上減少し、それに反比例して回復者数が急速に増加した。12月のクリスマスシーズンを目前に控え、微かな希望の光が差し込んできたように思える。コロナ第二波に揺れるイタリアの現在の様子をローマからレポートする。 (本文中のデータは2020年11月23日現在のもの) 
 

 

 

 

エリアによって大きく異なる感染状況

 

11月6日から感染拡大防止策として、イタリア全土を危険度によって3つのゾーンに色分けした移動制限が実施されているが、当初4州だったレッドゾーンはこの2週間で8州にまで拡大した。イエローゾーンだったエリアも危険度が徐々に上がり、今日現在では国の大半がオレンジ、レッドゾーンになってしまった。最初にレッドゾーンに指定されたロンバルディア州、ピエモンテ州、カラブリア州、ヴァッレ・ダオスタ州は15日間の封鎖期限を12月3日まで延長せざるを得ないという厳しい状況が続いている。加えて、第二波ではナポリを中心とするカンパニア州やフィンレンツェがあるトスカーナ州、人口密度が低いヴァッレ・ダオスタ州やボルツァーノ自治県(トレンティーノ=アルト・アディジェ州)も危険度が最も高いレッドゾーンに入り、同エリアの市民は厳しい規制の中での暮らしを余儀なくされている。感染者の数だけで見ると比較的少ないエリアでも、医療施設のキャパシティや感染の拡大速度、陽性者の中で症状がある人の割合が高ければ危険度は高くなる。ミラノを州都とするロンバルティア州はイタリア国内でも医療施設が充実しているエリアだが、11月23日現在、州内で新型コロナで入院している患者数は8331名、集中治療患者は945名。対して、ローマがあるラツィオ州では入院患者は3351名、集中治療患者は335名と状況に大きな違いが出ている。カンパニア州やカラブリア州では医師や医療スタッフが不足しており、引退した医師などのボランティアを募る告知がテレビなどでも頻繁に流れるようになってしまった。昨夜のデータの数字だけを見ると明るい兆しが見えてきたように感じるが、医療現場ではこうしている今も、医師や看護師、スタッフたちが一人でも多くの命を救おうと懸命な治療に当たっていることを考えるとやはり胸が痛む。
 

 

gougai9_01
11月6日から感染拡大の危険度によりレッド、オレンジ、イエローに分割されたイタリア。右は11月6日に発表された州ごとの危険度別Map、左は11月23日現在のもの。2週間の間に国内のほとんどの州で厳しい移動制限が実施されるようになった。(出典:イタリア保健省サイト)

 

gougai9_02

3月からのイタリアの新型コロナウイルス感染状況を示すグラフ(出典:Il Sole 24 ORE/ 桃色は現行陽性者、緑色は完治者、黒色は死亡者、赤色はケースの総計)。10月半ばから急激に増加した新規陽性者数が11月初旬から急下降し、現在は回復者数が急速に増加している。
 

 

 

 

「一人にはしないよ」

 

移動規制により州を跨いでの移動がなくなったイタリアだが、各地でコロナウイルスに立ち向かっている人々のニュースは毎日飛び込んでくる。物理的な触れ合いがなくなった分、各地の人々の現状を伝えるニュースには敏感に反応するようになった。中でもこの2週間でとりわけ心に残ったニュースが二つある。
コロナ禍で最大の被害を受けているロンバルディア州のミラノでは、日々生活が困窮していく人々のために無償でパンを提供し続けていたパン屋の店主がコロナに感染して亡くなった。ミラノのチャイナタウンで30年以上続く老舗のパン屋「ベルニ」の店主ジャンニ・ベルナルディネッロさんは、最初のロックダウンの時点から生活に困窮する人たちのためにパンの無償提供を始めた。『困っている人を迎え入れるために。必要な方はどうぞご自由にお持ち帰りください。そして他の人々にも心を配って下さい』と書かれた看板の前には毎日焼かれるパンやお菓子が入った袋が置かれ、誰でも自由に持ち帰ることができるようにした。やがてジャンニさんの思いやりに感銘を受けた他の市民もパスタやオイルなどの日用食材を持ち寄るようになり、パン屋の前には日々の食料を必要とする人たちのために食材を無料で提供するコーナーが自然と出来上がっていった。76歳と高齢だったジャンニさんを気遣い、家族は仕事に行くことをやめさせようとしたが、ジャンニさんは「人々はパンを必要としている。私たちに助けることができるのなら、それをしなければ」と言って毎日店で働き続けた。コロナ第二波の急襲を受けたミラノでジャンニさんも感染し、11月12日に彼は天国へと旅立った。現在は娘のサムエラさんがジャンニさんの意志と店を引き継ぎ、今日もパンを焼き続けている。ニューヨーク・タイムズでも大きく取り上げられたこのニュースは、コロナと経済苦境という2つの現状に苦しむイタリア人の心に深く刻み込まれた。

 

 

gougai9_03

ミラノのチャイナタウンの中心、パオロ・サルピ通りにある老舗のパン屋「Berni/ベルニ」の店内と亡くなったジャンニ・ベルナルディネッロさん(写真出典:il Fatto Quotidiano)
 

 

苦しい時にこそ他の人を思いやり、困っている人のために進んで行動するというイタリア人の強さと優しさを実感させてくれたもう一つのニュースは、ローマでコロナに感染して入院することになった叔父と一緒に入院した若者の話。50歳でダウン症を持つパオロさんは、コロナウイルスに感染し、症状が悪化したため緊急入院することになった時、自分の置かれた状況がよく理解できずに怯えていた。次から次へと検査に回され、緊急入院の措置がとられていく中、パオロさんは自分の身に何が起こっているのかわからず、ただただ恐怖の表情を見せていたという。この叔父の様子を目の当たりにした29歳の甥のマッテーオさんは、自身も陽性であることを医師に告げ、「一緒に入院させて欲しい」と申し出る。コロナ陽性ではあるがマッテーオさんは無症状だったため、医師たちは最初は躊躇した。しかし、「叔父には誰かのヘルプが必要で、それをするのは僕の義務です」と言ったマッテーオさんの言葉に折れ、パオロさんと一緒に入院することを許可する。
「入院当初、叔父は重症で、発熱や絶え間ない咳と眩暈、脱力感、そして酸素が得られない状態でした。彼は自分の身に何が起きているのか理解できず、いつも泣いて怖がっていた。僕は、叔父を一人にしておくことはできませんでした」。決して一人にしない、大丈夫、と励まし続けた甥の存在が力になったのだろう。パオロさんは徐々に回復し、11月21日に付き添っていたマッテーオさんと二人揃って退院した。不動産会社に勤めるマッテーオさんは、入院中も病室内でリモートワークを続けていたという。コロナ感染から晴れて回復した二人は、家に戻るや否や、パオロさんの大好物のスップリを食べてお祝いしたそうだ。
 

 

gougai9_04

コロナから回復し、退院を共に喜ぶパオロさんとマッテーオさん(写真出典:Agenzia Dire / Roma Today)
 

 

 

クリスマスシーズンを待ちわびて

 

移動規制が比較的緩やかなイエローゾーンのローマでは、日のあるうちは以前と変わらない生活が続いている、かのように見える。実際、メトロやバスなども平常通り動いているし、お店はどこも開いていて、私の行動範囲内では「相変わらずの日常」が続いている、と思っていた。ところが、先日ふらっと出かけたテルミニ駅の光景を目の当たりにし、やはり今が異常事態であることを改めて痛感させられた。
乗車率が半減したとはいえメトロの車内には人がいたので気づかなかったが、改札を出た途端、構内のあまりの寂しさと静けさに愕然とし、足がすくんだ。いつも急ぎ足で行き交う人々で溢れんばかりのテルミニ駅は、ゾンビ映画に出てくるショッピングモールのような異様な雰囲気に包まれていた。人の話声はおろか、物音一つしないメトロ構内を緊張しながら足早に通り抜け、ショッピングモールに出てようやくほっと胸を撫で下ろした。モール内を見回すと店舗は全て営業中だったが、ここでもまた、買い物客よりも巡回中の警察官の人数の方が遥かに多いという光景にショックを受けた。クリスマスシーズン目前のショーウインドウはやけに明るく煌びやかで、店先の華やかさと通路の侘しさのギャップがこの状況の異常さを浮き彫りにしている。以前はあまりの人混みの多さと喧騒のカオスに辟易していたテルミニ駅だが、こんな寂しい姿を見るのはもっと辛い。
6日から始まったコロナ対策の移動制限は、12月3日を一応の期限としている。昨日のデータを見る限り、状況は明るくなってきているように感じるが、専門家はクリスマス休暇中に家族や友人と集まることを避けるよう薦めていて、さらには1月に懸念される第三波にも備えが必要だと苦言を呈している。これから数週間で状況がどう変わっていくのか全く予想がつかないが、去年まで当たり前だと思っていたクリスマスと新年の過ごし方が今年は全く違うものになることだけは、すでに誰もが覚悟している。12月はもうすぐ。いまだかつて誰も経験したことがないクリスマスが、イタリアにやってこようとしている。
 

 

gougai9_05

クリスマスシーズンの幕開けを待ちわびているテルミニ駅のショッピングモール。
 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2020年12月10日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

Exif_JPEG_PICTURE

田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

ブーツの国の街角で
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー