ブーツの国の街角で

ブーツの国の街角で

#00

号外(10):前代未聞のクリスマスシーズンの幕開け

文と写真・田島麻美

gougai10_00

今春のパンデミックの始まりから取り続けてきた感染動向のデータに注視する毎日が続いているが、猛烈な勢いで押し寄せてきた第二波により、イタリア国内の累計症例数は1,757,394という膨大な数に達してしまった。もちろん、大半は完治しているか無症状の陽性者ではあるのだが、一方で日々増加していく死亡者数は市民の脅威ともなっている。11月のエリア別移動制限の効果が現れ、状況は若干の落ち着きを見せてきてはいるものの、人々の関心は既に1月に予想されている第三波の襲来に向けられている。8日から始まったホリデーシーズンを前に、前代未聞のクリスマスを迎える準備に入ったイタリアの現状をローマからレポートする。(本文中のデータは2020年12月8日現在のもの) 

 

 

 

州を越える移動は禁止、プレゼント購入費は10%キャッシュバック
 

 

11月中旬からゾーンごとに厳しい行動制限を行っていたイタリアは、12月初旬に一旦の落ち着きを取り戻した。急速に拡大した第二波は人々が動きを止めた途端、今度は急激に縮小し、11月下旬からは新規陽性者が激減し始めた。とはいえ、市民の間には緊張感が漂い続けている。人が動けば感染が広がるということは、春のロックダウンを体験したイタリア国民は既に身に染みてわかっているが、一方でこれ以上持ち堪えられないという経済的窮地に追い込まれる市民も日に日に増えている。累計症例数は170万人を超え、6万人以上の犠牲者が出ている現在、国民が一丸となって耐え、助け合ってなんとか乗り越えるしかないという過酷な状況が続いている。12月8日から1月6日までは、イタリア人が一年で最も楽しみにしているホリデーシーズンだが、今年は1月に予想されているコロナ第三波に備えて異例の規制が敷かれることとなった。
12月3日に発表された新たな首相令では、人々がクリスマス休暇に入る12月21日〜1月6日の期間、州を越えての移動を禁止し、夜22時から翌朝5時まで(12月31日は22時〜翌7時まで)の夜間は全土で外出禁止。12月25、26、1月1日は自治体を越える移動禁止という厳しい措置が発表された。普段は離れた場所で暮らしている家族が一堂に会する機会であるクリスマスと新年だが、今年はバラバラに、それぞれの家で過ごすことになる。
他方、クリスマスシーズンに落ち込んだ経済を少しでも回復したいと望んでいる商業活動に関しては、12月4日〜1月6日の期間、小売業は夜21時まで営業可能となり、飲食サービス業(喫茶店、パブ、レストラン、ジェラート屋、菓子屋を含む)はイエローゾーン内では5時~18時まで営業が許可され、オレンジ・レッドゾーンでは5時〜18時までのテイクアウトサービスのみ営業可能。いずれのゾーンもデリバリーサービスは常に許可される。
既にホリデーシーズン後の第三波への警戒態勢に入っているイタリアでは、この1ヶ月間の人の動きをなんとしても抑えなければならない。しかし、商業活動は維持しなければ小規模企業や小売店、飲食店は総倒れになってしまう。春のロックダウン以降、企業の解雇禁止や税金の免除、支援金の給付などあらゆる経済支援策が取られてきたが、ホリデーシーズンはさらなる支援策として小売店でのプレゼント購入費、レストランなどでの飲食費の10%を政府がキャッシュバックすることが発表された。この経済回復支援策は2021年1月から6月まで継続して実施される予定だが、それを1ヶ月早め、ホリデーシーズンの消費活動を活発化させようという狙いがある。キャッシュバックは大型チェーン店やオンラインショッピングでは適用されず、商店街の小売店のみが対象となる。また、高額商品の購入も対象外で、より苦しい状況にある家庭を支援することを最大の目的としている。
 

 

gougai10_01
12月3日の首相会見では、ホリデーシーズンの行動規制や経済回復のための支援策など、第三波に備えるための新たな首相令が発表された。首相令は12月4日から発令され、1月6日まで有効となっている。
 

 

 

 

個人の自由よりも集団の安全を優先

 

苦境が続くイタリアでは各地で移動・行動の厳しい制限が実施されているが、こうした生活の中で最近、10代の若者たちの集団的な暴動や自棄的な行動が注視されるようになってきた。特に週末になると、パブやディスコなど集会の場を失った若者たちが公園や広場に集まり、アルコールの勢いに任せて喧嘩や暴動に走ることが問題となっている。先の見えない不安とやり場のない怒りや喪失感、こうした感情とエネルギーを爆発させる場を失ったことなど、あらゆる状況が一部の若者世代に悪影響を及ぼしていることは否めない。
しかしながら全体的な傾向を見ると、若者から高齢者まで、世代を超えて一致しているのが「今は我慢の時。助け合って乗り越えるしかない」という認識である。つい先日公開されたイタリアの社会調査機関Censisの最新レポートによると、イタリア人の79.8%がCovid-19の感染阻止を目的とする政府の規制措置に賛成していることが明らかになった。このレポートによると、イタリア人の約73%はパンデミックが始まって以来、将来と不確実な時代に対して不安を抱いている一方で、回答者の57.8%は、集団の健康と安全の確保のためなら個人の自由を放棄することを厭わず、今回のパンデミックに際して「いつ、どのような条件で外出できるか、誰と、どのような環境で会うことができるか」などの詳細な行動制限規定を設けた政府の決定を評価し、支持している。さらに、38.5%はより大きな経済的幸福のために市民権を放棄する準備ができており、ストライキの権利、意見の自由、および労働組合や協会に参加する権利の制限を受け入れる、と回答した。クリスマスに家族と食卓を囲めないという前代未聞の事態に際しても、イタリア国民は状況を冷静に受け入れている。イタリア人は困難な事態に陥ると、日頃の個人主義をあっさり放棄して驚くような団結力を見せるということは春のロックダウンで目の当たりにしたが、個々人の生活がより苦しくなってきた今は、こうした助け合い・支え合いの精神がより強くなって来ているように感じる。カトリック・キリスト教の最も大切な行事であるクリスマスは、多くの人々がそれぞれの良心に向き合う時期でもある。毎年この季節になると、スーパーや街角の広場には困っている家族のために食材や贈り物を寄付するコーナーが出現するが、今年はさらに大規模な助け合い運動が各地で行われている。寄付やボランティアの数も例年より遥かに多く、集まったお金や物資はボランティアの人々によってパッキングされ、支援を必要とする家庭に届ける活動があちこちで目につくようになってきた。イタリア赤十字や各地の教会を始め、大手スーパーチェーン各社も「Spesa Solidale(スペーザ・ソリダーレ)」という助け合い運動を展開し、クリスマス期間、困窮している家庭に少しでも多くの必需品と食料、そしてプレゼントも届けようと奮闘している。
 

 

 

gougai10_02

 

gougai10_03

ローマの赤十字が主催するクリスマス用の食材などの寄付イベントの告知(上)と、集まった必需品を配達するボランティア(下/2点とも写真はイタリア赤十字Croce Rossa Italianaより引用)。こうした寄付活動は12月から1月まで、ボランティア団体だけでなく、スーパー各社の全店舗でも行われている。また、その他自治体や各地の住宅地など小さなエリア内でも助け合い活動が各所で行われている。
 

 

 

 

思いやりの心を贈り合うクリスマスに

 

4連休の最終日である今日12月8日は、カトリック・キリスト教の祝日「無原罪の懐胎」の日。聖母マリアの無原罪懐胎を祝う日で、1月6日までのキリスト教のホリデーシーズンはここから始まる。伝統に則り、今年もローマ法王がスペイン広場にある聖母マリア像に花を供えて祈りを捧げた。例年なら旧市街を歩くローマ法王の姿を一目見ようと黒山の人だかりができるのだが、今年はコロナ対策で密にならないよう規制が敷かれていたことと、高齢のローマ法王の健康上の安全を期して朝7時という時間帯に行われたため人影もまばら。冷たい雨が降りしきる薄暗い朝のスペイン広場で、マスク姿の法王が真っ白な薔薇の花束をマリア像に捧げる姿が印象的だった。夕方にはローマのヴェネツィア広場に置かれた巨大クリスマスツリーとコルソ通りのイルミネーションの点灯式も行われ、いよいよ前例のないホリデーシーズンがスタートする。
例年であれば、この週末から友達や家族との行き来が頻繁になるのだが、今年は会うことができないので電話やメッセージが飛び交っている。話題はみんな「クリスマスどうする?」というもので、返事も決まって「どうもこうもない、家でのんびり過ごすよ」というパターンを繰り返している。そして誰もが最後に、「みんな元気でクリスマスを迎えられることが最高のプレゼントだ!」と言って締め括る。道端で会った近所のおばあちゃんは、「クリスマスは一人で過ごす」と言うのでさぞ寂しかろうと胸が痛んだが、「子どもや孫は万が一私が感染しちゃったら大変だと心配しているし、私も困るからね。今年はしょうがないわ。といっても私には来年のクリスマスがあるかどうかもわからないんだけど(笑)。でも、イタリア人は今みんな大変な思いをしているんだから、こうするのが当たり前よ。今日生きてるだけでも幸運だと神様に感謝しなくちゃ!」と彼女は言った。今年のクリスマスを嘆くでもなく、来年のクリスマスを夢見るでもなく、ただ淡々と「今生きていることに感謝する」と言ったおばあちゃんの力強い言葉に、また今日もガツンとやられた気がした。
スーパーの店頭には寄付を集めるカートや箱が並び始めた。クリスマスに四人家族の1ヶ月分の食料と必需品を贈ろう、と言う活動も気になっている。旅行もプレゼントも会食もない今年は、せめて思いやりの気持ちを贈り合うクリスマスにしようと心に誓った。
 

gougai10_04

午前7時のスペイン広場。降りしきる雨の中、白い薔薇の花束をマリア像に捧げるローマ法王。コロナ禍のクリスマスシーズンがいよいよ始まった(出典:ヴァチカンニュース)

 

gougai10_05

今日午後6時の点灯式を待つヴェネツィア広場のクリスマスツリー。今年は厳かで華やかなゴールド一色のライトアップになる予定。
 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2020年12月24日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

 

Exif_JPEG_PICTURE

田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

ブーツの国の街角で
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー