料理評論家・山本益博&美穂子「夫婦で行く1泊2食の旅」
12 東京下町
てんぷら、中華、お菓子
東京ダウンタウンの旅
■40年間、東京をくまなく旅しているようなもの
私は東京生まれ下町育ちなので、東京の宿に泊まるということがありません。
ただし、40年前から東京中の飲食店の食べ歩きをしているものですから、毎日東京をくまなく旅しているようなものです。かつて、同じ下町育ちの永六輔さんが、知らない街角を曲がったら、そこから旅が始まっています、と仰っていました。
そこで、今回は、東京人による「東京ダウンタウンの旅」です。「すし、そば、てんぷら、うなぎ」は東京名物であると同時に、東京の郷土料理です。そこで、今回はまず「てんぷら」の名店をご紹介いたします。
私たち夫婦の一押しは、江東区福住にある「みかわ是山居」です。30年ほど前に「てんぷらは魚の脱水作業」という名言をご主人の早乙女哲哉さんから伺って以来、この店に通い続けています。10年ほど前は中央区茅場町に店がありその揚げ場に立っていたのですが、現在、その店は息子さんに譲り、今年古希を迎えた早乙女さんは、自宅を兼ねた門前仲町に近い福住で、毎日てんぷらを揚げています。ここで、才巻き海老、いか、きす、あなご、こばしらのかき揚げなどをいただくと、ほかのてんぷらがただの「魚のフライ」に思えてしまうくらい、魚介を生で食べる以上の美味しさに感動します。
自宅を兼ねた店と言いましたが、1階2階が店舗で3階はお茶席を兼ねたギャラリーになっています。
2年前、ここに自分の所蔵する伊藤若冲の絵画を九幅も展示したところ、てんぷらを食べに来たお客様がびっくりしました。個人で若冲を幾つも持っている方はそうはいないのではないでしょうか?
現在は東京メトロ門前仲町駅近くに作家物の焼き物や絵画を収納する借家を見つけ、その1階をギャラリーにして「伊藤若冲展」を開いています。入場無料の上に、訪れる人がほとんどいません。13幅の若冲の画をまじかに観る眼福のひとときが楽しめます。
翌日には、銀座1丁目にこの6月オープンした中国料理店「厲家菜」へ出かけてはいかがでしょうか?中国清朝の西太后が日常に食べていた料理が楽しめます。「美と健康のための長寿食」がテーマで、何種類もテーブルに並ぶ、手数をかけた前菜が魅力です。中国料理の脂っこいイメージが一新されること請け合いです。この店、とりわけ妻の美穂子のお気に入りです。「厲家菜」のデザートは清冽で淡白ですから、食後、そこから歩いて5分もかからない京橋のお菓子屋さん「HIDEMISUGINO」へ出かけましょう。
持ち帰りせずにお店でいただくイートインのお菓子で、ムースででき上がっている「アンブロワジー」「アラビック」「マリエ」「スーボワ」などをいただくと、お菓子が瞬く間に消えてゆき、まるで夢を見ているような心地になります。
「みかわ是山居」の早乙女哲哉さんは天才肌のてんぷら職人、「HIDEMISUGINO」の杉野英実さんは名人気質の菓子職人です。フランスのお菓子を40年以上前から食べていますが、私が思うに世界一のケーキです。それが、東京で味わえるのですから、東京は世界に名だたる食都と言えましょう。
■てんぷら 「みかわ是山居」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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香り高い穴子のてんぷら | 車海老の頭は香ばしく、身は驚くほど甘い | 早乙女哲哉さんの職人ワザを目と舌で味わえる |
■「伊藤若冲展『祇矢羅李(ギャラリー) 二十代三十代』」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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早乙女さんが個人所有する伊藤若冲13幅を無料公開中 |
■中国料理 「廣家菜(れいかさい)銀座」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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豚肉と白菜の煮込み | 優雅でモダンな翡翠色のソファ |
白菜、チャーシュー、翡翠豆腐など圧巻の前菜10皿 |
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■菓子 「HIDEMISUGINO」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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アンブロワジー |
スーボワ |
イートインでしか味わえない繊細なムースがオススメ |
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■お気に入り 「傳」 PHOTO/MASUHIRO YAMAMOTO
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今、私たちの東京のお気に入りの1軒、神保町「傳」で |
*この連載は毎月25日に更新です。次回は「名古屋」へ。