韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#99

韓国の角打ち、シュポ飲みの楽しみ方〈前編〉

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「シュポ」と呼ばれる食料雑貨店で飲む楽しさを、十年ほど前から伝え続けている。

 外国からの旅行者にはハードルが高い酒場であることは百も承知だったが、我が国の庶民の息吹を感じるには絶好の場所なので、Twitterや本コラムなどでこつこつと普及を続けてきた。

 この2、3年、読者のシュポ体験レポートをSNSで見かけるようになり、私が同行するパーソナルツアー「ソウル大衆酒場めぐり」でもシュポをリクエストする人が増えている。

 そこで、今回から2回に分けてシュポの基礎知識と楽しみ方をおさらいする。年明けにソウルを飲み歩きをする人の参考になれば幸いである。

 

00一般的なシュポの外観(鍾路3街)。飲料水や菓子、タバコ、酒などが主力商品

 

01韓国版角打ち、シュポ飲みの楽しさは安さだけではない。女将(中央)や常連客(両脇)など韓国庶民との交流だ。写真は鍾路3街の「ヨングァン食品」

 

シュポとは何か? 

 シュポ(슈퍼)とはスーパー(マーケット=마켓)の韓国的発音だ。日本でスーパーと言ったら、コンビニよりはだいぶ大きい食料雑貨店をイメージする人が多いと思うが、韓国のシュポはもっと小さい。少し古い日本の言葉では「よろずや」が近いかもしれない。個人経営のコンビニと言ってもよい。クモンカゲ(穴倉のような店)という古風な呼び名もある。マートゥ(MART)という呼び名(店名になっていることも)もあるが、日本の人はマートゥと聞くと、『Eマートゥ』とか『ロッテマートゥ』のような大規模なディスカウントショップを連想するので、あえて使わない。web上の韓国地図、たとえばKONESTの日本語地図では売店(メジョム)と書かれていたりする。これも誤りではない。

 

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よくあるシュポの外観。一見、飲める店には見えない。写真は乙支路4街の『大福マートゥ』

 

 シュポは人の集まるところならどこにでもあるが、90年代のコンビニの普及で相当数が廃業している。今、シュポ密度が高いのは、ソウルの中心部で言えば、鍾路3街エリアの南端や乙支路4街(ウルチロサーガ)駅4番出入口の東側ブロックだ。この辺りには町工場(まちこうば)や零細企業が密集しているので、そこで働いている人たちがタバコ1箱、缶コーヒー1本を買いに来る店と言えばイメージがわくだろう。

 

03小売用の食品や雑貨に囲まれた空間で飲むのがシュポの醍醐味。写真は鍾路3街『ソウル食品』の1階

 

 あくまで小売店で、飲み屋ではないのだが、仕事終わりの常連客に店内でビールやソジュ(韓国焼酎)を飲ませているうちに、イスやテーブルを置いたり、つまみを出したりするようになった例である。コンビニの普及で、ただでさえ薄利な商いが窮地に陥り、なし崩し的に居酒屋のようになった例も少なくないだろう。

 もちろん、店内で酒を飲ませるシュポはごく一部で、全国的に見たら食料雑貨の小売りだけしている店が多いはずだ。筆者は店内で飲むことのできる店を便宜上、シュポと呼んでいるに過ぎない。

 

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席数はシュポの規模にもよるが、4人がけテーブルが3~4卓と思っていたほうがいい。だから、4人以上での訪問は歓迎されない。写真は乙支路3街と4街の中間辺りに建つ世運商街ビル東側の『ヒョン食品』。店の奥にテーブルがいくつか置いてある  

 

シュポの酒とつまみ 

 小売が本業なので、一般的な酒はたいてい冷蔵庫に並んでいる。ビール4~5種類 、ソジュ3~4種類、マッコリ2~3種類といったところだ。店内に席がある店なら、ふつうの飲食店のようにガラスやアルミ製の酒器が用意されている。

 店内には席がないが、シュポやコンビニの前に置かれた簡易テーブルで飲んでいる人の姿をたまに見かける。あれは客が自分で買ったものを勝手に飲んでいる例である。ガラスのコップも提供されないし、店の人が作ったつまみもない。客が酒とともに紙コップやつまみ(袋菓子や乾きもの、缶詰)を買って飲んでいるというわけだ。これもシュポ飲みのひとつである。酒もつまみも小売価格だから、もっとも安い酒場といえるが、店の人や他の客との交流はあまりない。

 

05釜山のコンビニの前のテーブルで、ひとりマッコリを飲む男性。つまみは袋菓子

 

 筆者がよく利用するシュポは、主人、あるいは主人の奥さんが簡単に調理したつまみを出している店だ。ケランフライ(目玉焼き)、スパムクイ(缶入りポークランチョンミート焼き)などの即席料理から、コルベンイムチム(巻き貝の辛酸っぱい和え物)や豚肉の炒め物、魚の蒸し煮など少し手のかかるものまで、店によって違うが、決まったメニューはない。おなかが空いていなければ、袋菓子をつまみに飲んだってもちろんかまわない。酒代は小売価格プラス1000~2000ウォン程度が利益としてのせられている。

 

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07上がケランフライ(目玉両面焼き)。生ビールを出すシュポは珍しい。下がサンマの缶詰を豆腐やネギとともに煮たコンチチゲ。いずれも鍾路3街の「ソウル食品」。この店は建物の2階を飲食専用スペースとしている例

 

映画の中のシュポ飲み 

 韓国映画をよく観る人なら、次の2作でシュポの様子が確認できる。

 ひとつは1月10日から日本でも公開される『パラサイト 半地下の家族』(ソン・ガンホ主演)の前半、若者2人がシュポの前でソジュを飲む場面だ。1人がビニール袋を下げて店から出てくるので、前述したような小売価格で安く飲む例だろう。つまみは韓国で一般的な缶入りミックスナッツなど。器はシュポで買ったと思われるプラスチック製だ。店の脇が坂道になっていることから、いわゆるタルトンネ(傾斜面にある庶民の居住区)であることがうかがえる。

 もうひとつは『ワンドゥギ』。中盤、高校教師役のキム・ユンソクと問題児のお父さん(パク・スヨン)がシュポの入口にしつらえられた簡易屋台の中でマッコリを飲むシーンがある。

 マッコリの酒器は飲食店でよく見るアルミ製らしきもの。テーブルの上にはプチトマトのパックやポテトチップ、缶詰は牛肉の醤油煮、あるいはポンテギ(蚕のサナギの蒸し煮)だろうか。この2人はシュポで買ったもので安く済ませているが、マッコリの器が紙コップでないあたり、もしかしたら簡単なつまみを調理して出す店かもしれない。

 途中、近所に住む女性(パク・ヒョジュ)が現われ、自然に同席するところなど、いかにも地域に密着したシュポらしい。

 

*次回は実際に筆者がよく行くシュポを例に挙げながら、その楽しみ方を解説する。

(つづく)

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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