旅とメイハネと音楽と

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#96

イスタンブルの人気レストラン『ネオローカル』〈前編〉

文と写真・サラーム海上

友人シェフ、マクスットのレストランに招待された

  2019年7月5日、五泊したアラチャトゥからイスタンブルへと戻った。この晩は友人のシェフ、マクスットから彼のレストラン、『Neolokal(ネオローカル)』へと招待されていた。
 マクスットは同年の3月に日本最大の料理見本市FOODEXでのトルコ食材ワークショップと、トルコ大使館主催のパーティーでの調理を任され、同じくシェフのユルマズとともに初めて東京を訪れた。僕は友人のハッカンから彼らを紹介され、築地市場や豊洲市場、合羽橋商店街、西荻窪のお好み焼き屋や新宿の日本酒居酒屋やラーメン屋を案内し、10日間、毎晩のように飲み歩いた。その時の様子は本連載#67「トルコ人シェフ訪日レポート」にも記したが、トルコ大使館での別れ際にマクスットとユルマズに「次回イスタンブルに来る時はお店に招待するから、必ず連絡くれよ」と言われていたのだ。
 それから四ヶ月後、イスタンブルを再訪した僕はマクスットとユルマズの店に招待された。イスタンブル滞在中は朝食と昼食を抜いてでも、腹を減らしておかないと大変なことになりそうだ!

 

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2019年3月、築地場外市場で卵焼きを味見するマクスット(左)とユルマズ(右)

 

 お昼前にアジア側の町、カドゥキョイにあるハッカンの家に荷物を置き、一休みした後、夕方にフェリーに乗ってヨーロッパ側、イスタンブル新市街のカラキョイ埠頭に渡った。マクスットがオーナーシェフを務める店ネオローカルは、埠頭から新市街ガラタ地区へ向かう坂の途中、現在のベイオウル地区、かつての名前ならペラ地区にあり、19世紀に銀行として建てられた巨大な白亜の建物の中に入っていた。

 

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アジア側カドゥキョイからヨーロッパ側へと向かうフェリーの船外デッキから。すぐ後ろにもフェリーが着いてきた 

 

 僕は以前からネオローカルの名前を聞いてはいたが、この年、インターネットのレストランランキングサイト、World50restaurant.comでなんと世界110位に選出されていた。ちなみにトルコのレストランとしては堂々の第二位である! ちなみに110位までに日本のレストランは9軒がランクインしていたので、日本で考えるなら第10位のクラスのお店と考えていいだろう。どれほどの高級店だか? 10日間、東京で馬鹿騒ぎして、一緒に飲み歩いたマクスットはそんなにすごいシェフだったのか! 本連載に何度か登場するイスラエルのユヴァルといい、マクスットといい、僕は中東の有名シェフたちとうれしい縁があるようだ。役得、役得。
 さて夜8時、いかにも歴史がありそうな大理石の階段を登ると、ネオローカルのダイニングサロンは建物の屋上の広いテラスと一部サンルームになっていて、ベイオウル地区に密集する中層階の建物の隙間からカラキョイの埠頭、さらに金角湾とガラタ橋、その向こうに旧市街が見渡せる最高のロケーションだった。
 そんなテラス席に案内され、メニューを開いていると、髭面のマクスットが満面の笑みを浮かべながら現れた。
「また会えてうれしいよ! 今夜は僕の料理を全て食べ尽くしてもらうよ。僕の料理を通じてトルコを旅してもらえるように」

 

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ネオローカルのサンルーム。天井が高い!

 

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食前酒にチャイとラクを使ったカクテル。グラスも大きなチャイ用グラスみたいだ

 

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Neolokalの料理メニュー。テイスティングメニューは一人なら5品、2人なら10品、3人なら15品を味わえる!

 

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そこで隣のテーブルに一人で座っていたマクスットの友人の超絶美女セムラさんが僕たちと同席を希望。3人なら全16品を食べ切れるかもしれない……


 テイスティングメニューは冷たいメゼ(前菜)、魚介のメゼ、温かいメゼとパスタ、メイン、デザートのカテゴリーからなる5つのコースだが、一つ一つのカテゴリーが3つの料理から出来上がっている。その上、前菜の更なるスターターとして、限定メニューの「庭のサラダ」まで含むとなんと全部で16皿。マクスットシェフによるトルコの食の旅、最後まで続けられるかな?
 最初は「庭のサラダ」。フレッシュなケール、ほうれん草、黄色いさくらんぼ、スベリヒユ、エディブルフラワーのサラダに、ズッキーニは衣を付けて油で揚げて日本の天ぷらにしてある。ドレッシングはニンニクとヨーグルトのタラトルソースだ。お、僕の東京案内が少しは役立っているじゃないか!
 地元の食材を活かした料理に合わせるペアリングのワインはもちろんトルコ産。ワインの歴史をたどると、紀元前8000年頃にトルコの隣国のジョージアやアルメニアで、紀元前5000年頃にはアナトリア(トルコ)や現在のイラクにあたるメソポタミアで飲まれていた。アナトリアからコーカサス地域にかけてはワインの故郷とされ、今も500~600種類以上のぶどうの種類が存在すると言う。ワインリストにはナリンジェ、ハサンデデ、エミール、スルターニエ、ヤプンジャク、ミスケットというトルコ原産のぶどう種のワインが載っていた。それらの中から、庭のサラダに合わせてもらったのはアナトリア中部のクルッカレという町で作られたハサンデデ種の白ワイン。カラフルなサラダに合わせた青りんごのような味がした。

 

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テイスティングメニューに含まれていない「庭のサラダ」。ケール、ほうれん草、さくらんぼ、スベリヒユ、エディブルフラワーにズッキーニの天ぷらを合わせている。見た目美しい!

 

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アナトリア中部産ハサンデデ種の白ワイン。ハサンデデとはハサン爺さんとの意味。ぶどうの名前に名付けられるほどの飲兵衛爺さんだったのだろう

 

 トルコの夏は日が長いと言え、さすがに午後9時を回ると、テラス席は真っ暗だ。撮影にはストロボが必要になっちゃうなあ、次回はもっと早い時間か昼間に再訪したいなあなどと思っていると、冷たいメゼ3品が運ばれてきた。

 その一つ目は「6つのトマト」。マクスットがニューヨークやギリシャ、トリノなどを訪れた時に手にいれた異なったトマトの種を元にしたサラダ。一昨年にサントリーニ島のレストランでも似たコンセプトのトマトサラダをいただいたが、トマトは土地が変わると味も色も甘さも大きさも異なり、それを数種類並べるだけで素晴らしいサラダになる。
 スライスされたトマトにはチーズや7種類のオリーブ。手前に振りかけたミックススパイスのザータルもタイムに似たザータルのドライにメロンとスイカの種、ピスタチオ、フェヌグリークなどをミクスした特製のものだ。右手にはベーグルの先祖と呼ばれるごま付きプレッツェルのスィミット、左側の赤いペーストはマクスットの故郷、シリアの国境に近い地中海に面した町イスケンデルンの定番料理で、赤パプリカを焼いて胡桃やニンニクとともにペーストにしたムハンマラ。トマトサラダとオリーブとチーズとスィミットとムハンマラが並ぶこの一皿はトルコの朝食を模しているのだそう。

 

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冷たいメゼの一つ目は「6つのトマト」。お店のシグニチャーディッシュらしく、ウェブサイトの一番上にも写真掲載されている


 冷たいメゼの二つ目は「坊さんの気絶」。最近では日本の料理サイトでも名前を見かけるようになった揚げ茄子のトロトロ煮込みである。しかし、マクスットのバージョンは主役の茄子とトマトの姿が見当たらないのだ。その代わりに薄いパンの上にまるで生ウニのような薄いオレンジ色のクリームがたっぷりのり、刻み海苔のような黒い物体がパラパラと振りかけられている。見た目は生ウニの寿司のようだ。
 スプーンで口に運ぶと、なんと坊さんの気絶の味がする! 薄いオレンジ色のクリームは揚げ茄子とトマトなどを元にした坊さんの気絶のエッセンスの部分。黒い海苔のようなものは焼き茄子の皮を乾燥させて刻んだ、いわば「茄子の刻み海苔」だった。見た目は全くの別のものだが、味は確かに坊さんの気絶。これは「脱構築坊さんの気絶」と呼びたい!すばらしい!

 

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冷たいメゼの二つ目は「坊さんの気絶」ただし脱構築版! 日本でも少しずつ知られてきたトルコ料理だが、イスタンブルのレストランではこんなに先を行っているのだ!

 

 冷たいメゼの3品目は「アーティチョークの蒸し煮」。アーティチョークのオリーブオイル煮は居酒屋メイハネの定番メゼである。通常はゴロンとした素材そのままの形でオリーブオイルで煮込む。しかし、ここでは一口サイズに切り分けられ、お皿の上でセロリと赤パプリカのピクルスをアクセントにモザイク状に美しく配置され、その隙間にピュレにした人参とジャガイモの煮込みをちょこんと盛り付けてある。
 緑色のソースはパセリオイル。ホッコリとしたアーティチョークは居酒屋メニューから味を損なうことなく、見た目をスタイリッシュに現代的に作り変えているのだ! これも技あり一本!

 

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冷たいメゼの3品目「アーティチョークの蒸し煮」。メイハネの定番メゼのアーティチョークのオリーブオイル煮を再構築!

 

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野外テラス席はいつのまにか満席に……

 

 続いて魚介のメゼの三品。まずはトルコではおやつの時間にいただくパイ「ス・ボレーイ」。通常はチーズやほうれん草やひき肉を詰めるが、ここではバターで炒めた海老、チーズ、パセリが具となっている。また、ユフカと呼ばれる薄い小麦粉の皮で包む代わりに、さらに薄いお菓子用のパートフィロで具を上下に挟み、表面には海老の殻を砕いた粉を溶かしたバターが塗られている。口に入れると、パートフィロがパリパリと砕け、中にはトロトロのチーズに包まれた海老だ。一口サイズの海老小宇宙だ!

 

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魚介のメゼの一品目は「ス・ボレーイ」。通常はたっぷりの具材をパイ生地で包んで焼いたものだが、こちらは調理した具材をサクサクのパートフィロでサンドイッチにしてある


 魚介のメゼの二品目は「鱒」。これもまたエディブルフラワーを使った美しい見た目だ。軽くスモークした黒海産の鱒のフィレにカニの身、リンゴのピクルス、パセリ、ケッパーの葉、エディブルフラワーを散らし、鱒の下には濃い赤紫色に染まったブルグルのピラフが敷いてある。これは黒人参の発酵飲料シャルガムで炊いたものだ。たまたま前夜にアラチャトゥのレストラン『エンギナレ』で同じものを食べたばかりだった(連載#95参照)。蛋白な白身魚にピクルスやシャルガムなどの酸っぱいものの組み合わせも絶妙!

 

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魚介のメゼの二品目「鱒」。軽くスモークした黒海産の鱒のフィレにハーブなどを散らし、鱒の下には黒人参の乳酸発酵飲料シャルガムで炊いたブルグルのピラフが敷かれていた。シャルガム、日本で手に入らないかなあ?

 

 魚介のメゼの三品目は「鱸(スズキ)のマリネ」。鱸もメイハネで定番の魚である。通常はマスタードを効かせた、辛くて甘酸っぱいマリネ液に漬け込むが、ここではマリネ自体は薄味で、生やドライのミント、ディル、マジョラム、タラゴン、パセリ、バジル、紫バジル、チャイブなど、11種類のハーブが肝となっていた。

 

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魚介のメゼの三品目「鱸(スズキ)のマリネ」。ヨーグルト入のヴィネグレットソースでマリネした鱸に11種類のフレッシュ&ドライハーブ!


 ここまでで7品。全てが美しく、美味しく、チャーミングだ。今後、イスタンブルを訪れる友人がいたら、真っ先にこの店をオススメすることは間違いない。
 おっと、文字数は尽きたが、このあとも温かいメゼとパスタ、メイン、デザートの9品が控えているので、次回をお楽しみに!

 

ワルシャワで食べた豚バックリブのBBQの味を再現

 今日の料理は、昨年の夏にワルシャワのレストラン「赤い豚」で食べて以来、試行錯誤を繰り返した豚バックリブのBBQだ。
 BBQソースは今回は沖縄の黒糖とトマトケチャップやフルーツ酢などを使った甘酸っぱい味に作ったが、オレンジマーマレードをメインにしても美味い。なんなら市販のBBQソースを使っても良いだろう。ソースのレシピはあくまで参考程度に。
 僕の理想は飛び出たアバラ骨を掴んでひねるとスルッと抜け落ちるほどホロホロに柔らかく肉が焼けていること。そして、肉の中まできちんと下味が付いていることにある。いくらソースの味付けが良くとも、骨についた肉が噛み切れないような焼き方は駄目だ! 時間こそかかるが、手間はかからない。放っておくだけでホロホロに仕上がる焼き方を伝授しよう。

 

■豚バックリブのBBQ
【材料:2人分】
豚バックリブ:一本(約600g)

*ドライラブ用
塩:小さじ1
パプリカパウダー:大さじ1
カイエンヌペッパー:大さじ1
胡椒:大さじ1

*BBQソース
沖縄黒糖:30g
玉ねぎのすりおろし:1/2個分(100g)
鷹の爪:2本(ヘタと種を取り除く)
にんにくのすりおろし:1かけ分
トマトケチャップ:1カップ
リンゴ酢:大さじ1
オレンジ酢:大さじ1(なければ省略可)
バルサミコ酢:大さじ1
ウスターソース:大さじ1
ディジョンマスタード:大さじ2
塩:小さじ1

【作り方】
1.前日のうちに豚バックリブを解凍しておく。バックリブの内側の骨の隙間にナイフを入れ、膜をはぐ。塩、パプリカパウダー、カイエンヌペッパー、胡椒を肉にまんべんなく塗りたくり、ラップで包んでから一晩冷蔵庫に保存しておく。
2.アルミホイルやオーブンシートを敷いた天パンに焼き網をのせ、一晩置いたバックリブをのせ、120℃のオーブンで3時間焼く。ウォーターオーブンがあればなお良し。
3.鍋に沖縄黒糖と玉ねぎのすりおろし、鷹の爪、にんにくのすりおろしを入れ、日にかけ、玉ねぎに火が通り、黒糖が完全に溶けるまで炒める。トマトケチャップ、リンゴ酢、オレンジ酢、バルサミコ酢、ウスターソース、ディジョンマスタードを入れ、煮立ててから、最後に塩で調味する。ドライラブに塩してあるので、塩味はそれほど必要ない。少々甘すぎるくらいがちょうど良い。
4.バックリブを取り出し、3のBBQソースを刷毛を使ってたっぷり肉に塗りたくり、180℃に熱したオーブンで10分焼く。表面に軽く焦げ色が付いたら出来上がり。骨の間で切り分けて、平皿に盛り付ける。指で掴んでいただこう!
*付け合わせにはフライドポテトやサラダが合う。

 

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解凍したバックリブにドライラブを塗りたくり、冷蔵庫で一晩置く

 

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完成! 切り分けた豚バックリブのBBQ

 

(イスタンブル編、次回に続きます!)

 

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*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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