旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#95

トルコ・エーゲ海地方アラチャトゥの旅〈6〉

文と写真・サラーム海上

小さな町、ウルラのワイナリー訪問

  2019年6月22日火曜、アラチャトゥ滞在5日目。
 今回アラチャトゥに到着してから知ったのだが、イズミルとアラチャトゥの間にあるウルラという小さな町には近年になって始まった新たなワイナリーが8軒ほど立ち並び、トルコ人観光客の間で人気となっていた。
 僕たちもウルラ産のワインをいくつか飲んでみた。その中で「ウルラ・ワイナリー」と「ウスジャ・ワイナリー」のワインが気に入った。そこでこの日はタクシーをチャーターして、二軒のワイナリーを訪れることにした。
 調べると、ウルラは紀元前1000年頃に集落が出来、紀元前800年頃にはイオニア同盟の町、クラゾメナイとして栄えた歴史ある町だった。その後、紀元前383年にペルシャ帝国に併合され、後に古代ギリシャやローマ、中世にはビザンチンを経て、セルジュクとオスマンの両イスラーム帝国の支配下に置かれ、ヴォウルラと呼ばれるようになった。現代ではウルラと改名され、大都市イズミルの郊外にある風光明媚な港町として知られている。
 この町とワインの関係は紀元前まで遡れ、歴史を通じてウルラはワインの港としてされてきたが、世界中のぶどう種を取り入れたり、トルコの古いぶどう種を復興して、新たなワインを造り、町のブランディングを高めたのは21世紀に入ってからのことらしい。現在では年間、約8万人の観光客がウルラを訪れ、ワインと美食を楽しんでいる。
 アラチャトゥの宿からイズミルへと向かう高速道路に乗り、40分ほどでウルラの町に到着した。高速を降り、ぶどう畑が続く丘陵沿いの細い道をくねくねと進み、10分ほどで広大な敷地のウルラ・ワイナリーが見えてきた。
 タクシーを降りると、真夏のエーゲ海の太陽がジリジリと暑く肌を刺してくる。目の前には横長の白いコンクリートの建物があり、その奥にワイン畑がハート型に広がっていた。平屋の建物には左側に事務所と売店、右側にワイナリー、そして客室が二部屋だけのラグジャリーなホテルが入っていて、二匹の白い大型犬が迎えてくれた。

 

tabilistaalacati6

ウルラの町で最初に向かったウルラ・ワイナリー。ワインのエチケットにも描かれたハート型に広がるワイン畑

 

tabilistaalacati6
売店の入り口で二匹のおとなしい大型犬が迎えてくれた

 

 冷房の効いた売店で四種類のワインをテイスティング。まずウルラ・ワイナリーのハート型のぶどう畑がエチケットに描かれた「ウルラ・シャルドネ」。これはイスタンブルのメイハネでも飲んだことがあり、レモンや白い花の香りがする爽やかな白。
 続いてロゼの「ウルラ・セレンディアス・ロゼ」。カレスィク・カラスーというトルコ特有のぶどうを使い、クランベリージュースのような濃いピンク色で、ベリー系の香り。

 3本目の高級感あふれる黒と金のエチケットのボトルは「ウルラ・ネロ・ダヴォラ&ウルラ・カラスー」。シチリアの黒いぶどうネロ・ダヴォラと地元の黒いぶどうウルラ・カラスーのブレンドで濃いマゼンタ色。チョコレートとバニラの香りが特徴のフルボディー。真夏に飲むものではないけれど、これは美味い!帰国後にワインアプリのVivinoで調べると4.1点と結構な高得点が付いていた。
 そして四本目は「ウルラ・シンポジウム・セミドライ」。これも地元原産の古いぶどう種ボルノワ・マスカットを使った爽やかな甘さのデザートワインだ。
 ここまで四本テイスティングして、ロゼを除いた3本をお土産に買った。

 

tabilistaalacati6

とりあえずテイスティング

 

tabilistaalacati6

テイスティングした四種類のワイン。ロゼ以外の3本を買った

 

tabilistaalacati6
以前イスラエルのワイナリーでテイスティング用のワインを全部飲んでしまい、急性アルコール中毒となって以来、懲りて、一口ずつ舐めるだけにしてますww

 

 タクシーに戻り、ぶどう畑が延々と続く丘陵の道を10分ほど登り、今度はウスジャ・ワイナリーへ。こちらは閉店間際だったようで、誰も先客がおらず、呼び鈴を押して、店員を呼び出し、施錠されていた売店を開いてもらった。
 ロゼ、白、赤二本をテイスティングし、軽くてイチゴを感じるロゼと、ヴィオニエ種をフランスのオーク樽で寝かせた複雑な味の白を一本ずつ買った。

 

tabilistaalacati6

続いてはウスジャ・ワイナリーへ。ぶどう畑が広がる丘の細道を延々と進む。ウルラの8軒のワイナリー全部を巡ったら間違いなく酔っ払ってぶっ倒れるね

 

tabilistaalacati6
閉店間際で誰もいないウスジャ・ワイナリーの売店兼事務所兼カフェ

 

tabilistaalacati6
ウスジャのオススメの4本。真ん中の2本を買って帰った

 

アラチャトウの家庭料理レストラン『エンギナレ』へ

 さて、ウルラには地産地消の食材だけを使った高級レストランもあるとのことだが、この晩はすでに先約があった。二日前に料理を習った、と言うか、お店の仕込みを手伝わされた家庭料理レストラン『エンギナレ』(連載#92)でのディナーを予約しておいたのだ。
 タクシーを飛ばして、宿に戻り、夕暮れにプールでひと泳ぎして身体を冷やしてから、午後7時半にアラチャトゥ旧市街まで宿の車で運んでもらった。

 

tabilistaalacati6

夕方7時半のアラチャトゥの旧市街。観光客でいっぱい!

 

tabilistaalacati6
どのお店もカラフルに飾り付けている!

 

 観光客で賑わう旧市街の石畳の道を南下し、夜8時前に町外れにあるエンギナレに到着すると、テラス席はすでに1/3ほど埋まっていた。席に腰掛けると、店主のミライさんとミネさん姉妹がニコニコしながら顔を出してくれた。
「イイ・ギュンレル(こんばんは)。アラチャトゥでは楽しい時間を過ごせましたか?」とミネさん。
「ええ、もちろんです。今日はウルラの町でウルラとウスジャのワイナリーに行ってきました」
「それは良かった。今日はお客さんが多いから、ちょっと時間がかかりますよ」
 この店も、二日前にイェトキンとともに訪れた店『アスマ・ヤプラウー』と同様に、料理の注文方法が独特のアラチャトゥ式だ。お客は一組ずつ順番にキッチンに通され、目の前に並ぶ今日の料理を選ぶのだ。

 

tabilistaalacati6中心地からちょっと外れたエンギナレもお客さんで1/3は埋まっていた!

 

tabilistaalacati6
2日ぶりにミライさん(左)と再会。キッチンのテーブルの上には16種類のエーゲ海前菜が並ぶ! 2日前に食べそこねたエンギナレの料理をやっと食べられる!


 3組の先客に続き、僕たちの順番がやっと回ってきた。清潔な白いキッチンの中央のテーブルの上には16種類の今日の料理が! 

 1.トマトとピーマンのサラダ、2.アーティチョークのサラダ、3.焼き茄子とヨーグルトのサラダ、4.ほうれん草とヨーグルトのサラダ、5.アッケシソウのサラダ、6.アトム(水切りヨーグルトの赤唐辛子オイルかけ)、7.さやいんげんのトマト煮込み、8.ファヴァ(レンズ豆のペースト)、9.シャルガム(黒人参と赤唐辛子の発酵飲料)で炊いたブルグルピラフ、10.ムジュヴェル(ズッキーニと白チーズのお焼き)、11.カバックシンコンタ(カボチャと玉ねぎのオーブン焼き)、12.カルシュク・オトゥ・カヴルマ(フダンソウとほうれん草、ディルのトマト煮)、13.ヤプラク・サルマス(ぶどうの葉のご飯巻)、14.ズッキーニの花のご飯詰め。

 情けないことに、残り二品がなんだったか、ついメモし忘れていたのをお許し下さい! 
「これら以外、メインディッシュのオススメはタコのグリルとサチ・カヴルマ(牛肉と野菜の鉄鍋煮込み)です」とミライさん。
「では2、9、12と、今日のオススメ2品を下さい」
「良いチョイスよ!」

 

tabilistaalacati6

2日前に一番最初にミライさんがこねていた、祖父の代から受け継ぐパン酵母をつかったパン。もっちりとしていて美味い!


 アナトリア地方の白ワインで乾杯していると、ミネさんが前菜3品を運んできてくれた。
 まずは2のアーティチョークを塩とレモン汁とオリーブオイルを足したお湯で柔らかく茹でてから冷ましたサラダ。前々日に習ったとおり、大量のディルと青ネギのみじん切りが和えてある。これぞエーゲ海料理だ。
 9のシャルガムで炊いたブルグルピラフ。シャルガムは黒人参を塩と赤唐辛子などと漬け込み、乳酸発酵させたドリンクで、不透明な紫色をしている。味は塩辛く、酸っぱ辛い。トルコのキオスクやコンビニでは冷蔵庫の中にジュースと並んで置かれているので、まさか辛くて酸っぱくて塩っぱいものとは知らず、初めて飲んだ時は衝撃を受けた。しかし、発酵飲料なので癖になり、見かけるとついつい飲んでしまう。そんなシャルガムでブルグルを炊くので仕上がりは紫色になる。そこにキュウリのピクルスや大量のハーブを和えてある。シャルガムが手に入らないため、これは日本では再現は不可能だ。現地だけの味としてしっかり舌に覚えさせよう!
 そして12のカルシュク・オトゥ・カヴルマはフダンソウとほうれん草、ディルをトマトペーストで煮込み、室温に冷ましたのち、水切りヨーグルトをたっぷりのせてある。これは日本でも簡単に作れる。

 

tabilistaalacati6

アーティチョークのサラダ。日本ではまだまだ見かけない野菜だけど、僕は大好き。来年は自宅の庭で育ててみようかな

 

tabilistaalacati6

この鮮やかな紫色はシャルガムで炊いたブルグルピラフ。シャルガムはさすがに新大久保のハラルフード店でも売ってない!

 

tabilistaalacati6

カルシュク・オトゥ・カヴルマ。これはほうれん草と小松菜、ディルを使って、日本でも再現簡単そうだ

 

 前菜を食べ終わり、辺りが暗くなる頃、メインのタコのグリルが運ばれてきた。やわらかく下拵えしたタコの足をぶつ切りにして、オリーブオイルとともに耐熱皿にのせ、オーブンで無造作に焼いてあるだけ。タコ料理は毎食食べても飽きないなあ。
 そして、もうひとつのメインディッシュは今回のアラチャトゥ滞在中、初めての牛肉料理であるサチ・カヴルマ。牛や羊肉を食べやすい大きさに切り、トマトと玉ねぎと一緒にサチと呼ばれる両手持ちの小型フライパンで炒め煮込みにしたもの。シンプルだが、牛肉が柔らかく煮込まれ、ケキッキ(タイムの亜種)で風味を付けてある。

 

tabilistaalacati6

タコのグリル。トルコやギリシャではタコを頼もう。それぞれ秘密の下ごしらえ方法があり、身は柔らかい!

 

tabilistaalacati6
サチ・カヴルマ。典型的なトルコ田舎料理。トルコでは肉料理を頼めば失敗はない!

 

 しかし、連日の食べすぎですでにお腹いっぱいだ。とてもじゃないけどデザートまでは辿り着けそうにない。ミライさん、ミネさん、続きはまた次回! 
「また来年、料理を習いに来なさいよ。アラチャトゥで待ってるから!」とミネさん。
「ええ、お二人のおかげでエーゲ海料理を大好きになりました。近いうちに帰ってきます!」
 夜がふけないうちに夜道を歩いて宿に戻ろう。さあ、翌日は5泊したアラチャトゥを出て、友人たちが待つイスタンブルに戻るのだ!

 

tabilistaalacati6

夜に宿に戻ると誰もいないプールの底で、ルンバに似た掃除ロボットが蠢いていた

 

スベリヒユとキウイフルーツと白チーズのサラダ

 今日のレシピは多肉植物スベリヒユとキウイフルーツと白チーズのサラダ。スベリヒユは日本では畑を荒らす雑草として嫌われているが、トルコやイスラエルでは立派な野菜とされる。第93回にもスベリヒユとイチゴと胡桃のサラダが登場するが、僕は日本では季節が限られるイチゴの代わりにキウイフルーツで代用した。
 ニゲラやポピーシード、シェーブルチーズや白チーズを合わせると食感も味も色合いも美しい。ドレッシングにもレモン汁ではなく、リンゴ酢やオレンジ酢などフルーツ酢を合わせるとフルーツの味が引き立つ。畑の脇や道端でスベリヒユを見かけたら、ぜひトライして!

 

■スベリヒユとキウイフルーツと白チーズのサラダ
【材料:2人分】
スベリヒユ:100g
キウイフルーツ:1個
白チーズ:50g
オレンジ酢:小さじ2
EXVオリーブオイル:大さじ1強
塩:少々
胡椒:少々
ニゲラ:小さじ1(なければポピーシードや黒胡麻でも)
【作り方】
1.スベリヒユとキウイフルーツは冷蔵庫でよく冷やしておく。スベリヒユは良く洗い、水を切ってから、食べやすい大きさにちぎっておく。キウイフルーツは皮をむき、厚さ2mmに輪切りにし、半月に切る。白チーズはサイコロ状に切り分ける。
2.ボウルにオレンジ酢、塩、胡椒、EXVオリーブオイルを入れ、よく混ぜ合わせる。
3.2のボウルにスベリヒユとキウイフルーツを入れ、トスしてドレッシングを和えてから、白チーズを加える。
4.お皿に盛り付けて、ニゲラを振りかけて出来上がり。

 

IMG_9080

サラームが作ったスベリヒユとキウイフルーツと白チーズのサラダ

 

(次回はイスタンブル編です!)

 

*新刊『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』好評発売中!!

 この連載の一部をまとめた単行本『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』(サラーム海上・著、双葉社・刊)が好評発売中です。世界各地の旅先で出合った、「美味すぎる!」グルメ紀行。旅先で食べた美味いもの、何度でも訪れて食べたいものを、テキストと写真でたっぷり紹介しています。日本の家庭で再現できるレシピも多数収録した1冊。ぜひお手に取ってみてください!!

 

『世界グルメ巡礼』書影

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

orient00_writer01

サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

紀行エッセイガイド好評発売中!!

orient00_book01

イスタンブルで朝食を
オリエントグルメ旅

orient00_book02

おいしい中東
オリエントグルメ旅

   

 

旅とメイハネと音楽と
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー