旅とメイハネと音楽と

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#94

トルコ・エーゲ海地方アラチャトゥの旅〈5〉

文と写真・サラーム海上

アラチャトゥのビーチクラブと野外温水プール

 2019年6月21日月曜午前10時半、宿で朝食をすませた僕たちのところに、アラチャトゥに暮らす友人イェトキンが若い友人のアフメトを連れて現れた。
「ギュナイドゥン(おはよう)。今日は僕が子供の頃から親しんでいるアラチャトゥとチェシュメの名所をいくつか案内するよ。水着とタオルとスマホを持ったら僕の車に乗り込んで!」
 アラチャトゥとチェシュメはトルコのアナトリア半島の西部の大都市イズミルからエーゲ海に向けて西に突き出したカラブラン半島と、そこから更に北へと突き出したチェシュメ半島に位置する。海岸は複雑に入り組み、それぞれの入り江ごとに景色も波の高さも水温も異なるビーチが点在しているそうだ。
 僕が初日に一人で訪れたウルジャ・ビーチは幅1kmにわたって砂浜が広がる公共のビーチだった。この日、イェトキンが最初に案内してくれたのはチェシュメ半島の北西部のアヤヨルギ・ビーチにあるプライベートのビーチクラブ、その名も『Paparazzi(パパラッチ)』!
「物騒な名前だろ? 実際にこの地域はパパラッチの巣窟だったんだよ。アラチャトゥは昔からトルコの芸能人やスポーツ選手、セレブたちが夏の別荘を持っていて、秘密のパーティーなんかを開いていたんだ。そこに彼ら目当てのパパラッチたちも押し寄せていたんだ」
 月曜の午前中のためガラガラの駐車場から海岸に向かうと、だだっ広い半野外のレストランとBBQスペースがあり、海岸には浮き式の埠頭が突き出していて、その上に数十台のソファベッドとパラソルが並んでいた。
 先客の家族連れは一番海に突き出した場所のソファベッドを占拠し、若い男女カップルはお昼前にも関わらずビールやワインを飲みながらスマホをいじっていた。BGMには小さめの音量でトルコのポップスが流れている。なるほど、ここなら荷物も置きっぱなしでも安心だし、一日中でもゆったり滞在出来そうだ。

 

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アラチャトゥのビーチクラブ、パパラッチ

 

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浮き式の埠頭に並ぶソファーベッドとパラソル。この日はお客さんが少なくて快適!

 

「アラチャトゥでは公共のビーチよりも、ファシリティやセキュリティがしっかりしたプライベートのビーチクラブを利用する人が多いんだよ。小さな湾ごとに別のビーチクラブがあって、それぞれ客層も違うんだ。この店はアヤヨルギでは最も古くからあって、年齢層は高め、週末はとても混雑している。今日は月曜なので人が少ないのはうれしいけれど、週末の直後なので水があまり澄んでいないね……」
 真ん中のソファベッド四つに陣取り、パラソルで日陰を確保してから海を見ると、色こそ明るいスカイブルーだが、確かに透明度は低い。スマホをソファベッドに置き、シャツを脱いで頭から海に飛び込むと、水温は高めだ。波もほとんどないので、プカプカと浮かんでいるのがちょうど良い。日本から持ってきた大型の浮き輪を膨らませると、アフメトがそれに乗って海に浮かんで、隣のビーチクラブまで漂っていった。
「隣のビーチクラブは若者に人気で、週末にはDJパーティーも盛んだよ。僕も若い頃は週末になるとビーチクラブをホッピングしたものだよ」とイェトキン。

 

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湾の反対側にはいくつものビーチクラブが見える

 

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波もなく、浅瀬なので、チルアウトに最高!

 

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アフメトが浮き輪に乗って隣のビーチクラブまで漂っていった

 

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お昼時につまんだムール貝のご飯詰め、ミディエ・ドルマス。たっぷりレモンをしぼっていただく。美味い!

 

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地元のロゼワイン2本を開けてしまった……

 

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駐車場前にあったパパラッチの看板には、週末に出演するライブ歌手たちのプログラムが

 

 よく冷えたロゼワインを2本開け、のんびりした時間を過ごしているといつの間にか午後3時半になっていた。
「次は地元の人間にしか知られていない隠れた野外温水プールに案内するよ。その前に見晴らしの良い所をゆっくりドライブしようか」
 車に戻り、チェシュメ半島の最北端サクズルキョイに向かう。海の正面には半径100mもなさそうな小さな無人島と、その奥に大きな島が見える。たったの7kmしか離れていないが、そこはトルコではなくギリシャの島。古代ギリシャの詩人ホメロスが生まれたことで知られるキオス島だ。

 

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チェシュメ半島の北端にあるサクズルキョイの高台で、キオス島をバックにポートレート撮影するバカップルのイェトキンとアフメト

 

 再び車に乗り込み、今度はエーゲ海を左に見ながらアラチャトゥまで戻り、ウルジャ・ビーチを東に進むと、北に伸びる小さな半島が見えてきた。国立のタナイ自然公園だ。そこからは未舗装の道を進むと、砂浜に面した森の中にバンガローやキャンプ場があり、そのさらに奥に目的地『Aquante Warmpool(アクアンテ温水プール)』が見えてきた。
 車から降りると、目の前は岩場の海辺となっていて、その陸地側に長さ25mほどのプールがあり、その両サイドには白いソファベッドが並んでいる。奥にはドリンクバーとDJブースが並び、大音量でディスクロージャーなどの今時のイギリスのハウスミュージックが流れていた。月曜の午後でお客は十数人しかいない。ここは良さそうだ!
「ここは知る人ぞ知る場所なんだ。水は海水で、しかも天然の温水なんだよ。要はトルコの温泉だよ! 僕は日本人をここに連れてきたかったんだよ!」
 2018年の1月、初めて東京を訪れたイェトキンを、僕は高井戸にある温泉『美しの湯』に案内した。真冬の都心で露天風呂に浸かったことで、彼はすっかり日本の温泉が気に入り、その後も一人で美しの湯を再訪したほどだった。
 プールに入ると、水温は38℃くらいあり、温水プールと言うよりも本当に温泉気分だ。これならいつまででもお湯に浸かっていられるし、のぼせてきたら、目の前の海に飛び込んで身体を冷やせば良い。昼間のパパラッチも悪くなかったが、また来るならアクアンテ温水プールだなあ。

 

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イェトキンのお気に入りの隠れ家、天然温泉海水のプールAquante Pool

 

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アクアンテプールを陸側から見ると、水面が海に向かって落ちていくインフィニティプール仕様!

 

ビーチに面した食堂『Starhouse Fish Restaurant』

 6時半を過ぎると、ゆっくりと日が傾き始め、涼しい風が吹き始めた。そろそろ夕飯へと向かおう!
 イェトキンが案内してくれたのはウルジャ・ビーチの西外れの海に面した掘っ立て小屋の食堂、その名も『Starhouse Fish Restaurant(スターハウス・フィッシュ・レストラン)』だった。
「アラチャトゥでシーフードを食べるならこの店が一番だよ。見た目こそオンボロだけど、新鮮なシーフードは保証するよ。
 まずは掘っ立て小屋の入り口にある大きな鮮魚ショーケースを見せてもらった。並んでいた大型の魚は鯛と鱸(スズキ)、小型の魚はバルブンというヒメジの種類。3種ともトルコらしい食材だ。更にタイガー海老は6尾ずつ竹串に刺されて並べられていた。僕は大好物のバルブンのフライを頼んだ。
 隣のショーケースには全部で12種類のメゼが平たいステンレスの料理バットに入って並んでいた。魚介系では鰹の塩漬け、タコ足やイカゲソのオリーブオイル漬け、ムール貝とディルのマヨネーズ和え。野菜ではビーツのサラダ、アッケシソウやさやいんげんのオリーブオイル漬け、焼きなすのヨーグルトあえのパトゥルジャンサラタス、トマトと唐辛子のペーストのアジュルエズメスィ、その他、ブドウの葉のサルマなどである。そこからメゼ四種類とグリーンサラダを頼み、あとはイェトキンに任せよう。

 

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夕飯はアラチャトゥに戻り、Starhouse Fish Restaurantへ

 

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半野外レストランのゲートをくぐると目の前は海!

 

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鮮魚ショーケースには鯛と鱸、バルブン(ヒメジ)とタイガー海老

 

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鱸のマリネ。食べていないけど美味そう!

 

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茹でたムール貝のマヨネーズとディル和え

 

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アッケシソウのオリーブオイル漬け


 海からほんの1mの距離のテーブルに陣取り、地酒「ラク」で乾杯する。BGMは風の町アラチャトゥらしい海風の音と波の音、そしてお店が放し飼いにしているアヒルの群れが夕食の魚を求めて海から発する「ガーガー」という鳴き声だけ。夜8時を過ぎ、夕日が沈む頃、ウェイターがメゼとサラダを運んできた。

 

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テーブルの横は本当に海!

 

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お店のBGMは海風と波の音、そしてアヒルの鳴き声

 

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アニキたちが前菜を運んできた

 

 一皿目はシーフードサラダ。ボイルした蛸、烏賊、ムール貝、海老をレモン汁とオリーブオイルでマリネして、たっぷりイタリアンパセリをかけてある。ムール貝も海老も新鮮で美味い!
 もう一品のシーフードのメゼは茹でたムール貝をマヨネーズとたっぷりのディルと和えたもの。ムール貝の泥臭さをディルがしゃっきりと消している。これは日本に帰ったら再現しよう。
 野菜系は日本のトルコ料理店でもおなじみのアジュルエズメスィとパトゥルジャンサラタス、そしてグリーンサラダを頼んだ。アジュルエズメスィは塩気が強く、唐辛子も効いていて、メゼというより魚のソースとしても合いそうだ。グリーンサラダはトマトやキュウリの味が濃いし、多分地元産のオリーブオイルも濃厚だ。日本のトマトで作ってもこんな濃い味にはなかなかならないなあ。

 

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シーフードサラダ。茹でた蛸やムール貝が見るからに新鮮!

 

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アジュルエズメスィもしょっぱ辛い!

 

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焼き茄子のペーストをヨーグルトで和えたパトゥルジャンサラタス

 

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グリーンサラダも野菜の味が濃い!

 

 ラクのボトルが一本空になる頃、運ばれてきたのは蛸足のガーリック&発酵バター焼き。蛸足は丁寧に下ごしらえされていて、テーブルナイフで簡単に切れるほど柔らかく、そして、発酵バターとガーリックだけのシンプルな味付けが美味い!美味すぎる! もちろん一瞬で食べ終えてしまった!
 温かい料理の二皿目は小烏賊のフライ、カラマリタヴァ。
「小烏賊はチェシュメの名物なんだ。食べずに帰さないよ!」とイェトキン。
 少々粉を振って軽くフライにした小烏賊、やっぱり柔らかくて旨味もたっぷり!
 辺りがすっかり暗くなる頃、僕の好物のバルブンタヴァ、ヒメジのフライがたっぷり500g運ばれてきた。小さなヒメジのフライは骨ごと食べられる。レモンを絞って、ルッコラの葉と一緒に一口で食べるのが最高だ。

 

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見事な蛸足の発酵バター焼き。一瞬で食べ終えました!

 

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だんだんと日が暮れてきたが、アヒルたちはまだ海遊び中

 

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バルブンタヴァ。昼からずっと外出していたので、カメラのフラッシュを持ってくるのを忘れて、きちんとした写真が撮れなかった

 

「アラチャトゥには観光客向けの高級レストランがたくさんあるけど、海を見ながら食べられるこの店も悪くないだろ? ところでアラチャトゥで良い思い出が出来たかな? いつでも大歓迎だから来年にでもまた帰って来いよ」
 ありがとう、イェトキン。おかげで一見様では絶対たどり着けないような場所をいくつも訪れることが出来た。また日本にもいつでも帰って来いよ!

 

カボチャと玉ねぎのオーブン焼き、カバク・シンコンタ

 さて今回のレシピは前々回の記事、エンギナレのミライさんから習ったカボチャと玉ねぎのオーブン焼き、カバク・シンコンタ。日本ではお盆を過ぎて、バターナッツカボチャが出まわり始めた。バターナッツカボチャは普通のカボチャよりも皮をむくのも簡単だし、甘くクリーミーなので、今後もっともっと人気が出そうな野菜だ。

 

■カバク・シンコンタ

【材料:作りやすい分量】
バターナッツカボチャ:小1個(500g)
玉ねぎ:1個(200g)
塩:小さじ1/2
乾燥スペアミント:大さじ1
EXVオリーブオイル:1/2カップ
水:2カップ
小麦粉:小さじ2
穀物酢:大さじ1
トマトペースト:大さじ1
プレーンヨーグルト:300g
プルビベール(トルコの赤唐辛子フレーク、韓国の赤唐辛子フレークで代用可):少々
乾燥スペアミント:少々
【作り方】
1.プレーンヨーグルトはボウルに金属ざるを重ね、晒しの布を敷いた上に開け、そのまま冷蔵庫で6時間または一晩置き、半量まで水を切る。
2.バターナッツカボチャは縦横半分に切り、スプーンで種を取る。ピーラーで皮をむき、厚さ5mmのいちょう切りにする。EXVオリーブオイル(分量外)を塗った耐熱皿に敷き詰め、塩小さじ1/4と乾燥スペアミント小さじ1をふりかける。
3.玉ねぎは皮をむき、ヘタを取り、縦半分に切ってから、横方向に薄切りにし、塩小さじ1/4をふりかけ、よく揉んでおく。
4.ボウルにEXVオリーブオイル、水、小麦粉、穀物酢、トマトペースト、残りの乾燥スペアミントを入れ、フォークで撹拌し、トマトペーストをしっかり溶かす。
5.1の耐熱皿に2の玉ねぎをのせ、上から3を回しかける。
6.180℃に予熱したオーブンに4の耐熱皿を入れ、30分焼き、続いて160℃に温度を下げて、50~60分焼く。
7.カボチャと玉ねぎの表面に焼き色が付いたらオーブンから取り出し、室温に冷ます。
8.水を切ったヨーグルトをのせ、プルビベールと乾燥スペアミントを回しかけて完成。

 

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カバク・シンコンタ完成。バターナッツカボチャを手に入れたらぜひ作ってみて!

 

(次回に続く)

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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