旅とメイハネと音楽と

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#93

トルコ・エーゲ海地方アラチャトゥの旅〈4〉

文と写真・サラーム海上

アラチャトゥの隠れ家的名店『アスマ・ヤプラウー』

 2019年6月20日、日曜20時、アラチャトゥのエーゲ海料理レストラン『エンギナレ』での料理レッスン(という名前のお店の仕込み手伝い)を終えた僕たちは、別のレストラン『Asma Yaprağı(アスマ・ヤプラウー、ブドウの葉)』に到着した。
 夕暮れ時のアラチャトゥ旧市街はちょうど原宿の竹下通りのように、大勢の観光客で混み合っていた。しかし一本裏通りに足を踏み込むと、メイン通りの雑踏が嘘のように静かだ。アスマ・ヤプラウーはそんな裏通りにあった。入り口をくぐると、広いパティオに白いテーブルと水色の椅子が並び、大きないちじくの木が日陰を作り、その三方を白塗りの壁に水色の木枠で飾った平屋が囲んでいた。まさに絵に描いたようなエーゲ海らしい隠れ家レストランだ。
 そこでライターでイベントオーガナイザーの友人、イェトキンと再会した。イェトキンとはイスタンブルの友人ハッカン&アイリンを通じて知り合った。2018年1月には彼がハッカンたちと一緒に日本に遊びに来たので、毎晩のようにつるんで、下北沢のバーや高井戸の温泉にも案内した。彼は数ヶ月前からイスタンブルを離れ、アラチャトゥ近郊にある祖母から相続したリゾートマンションで暮らし始めていた。
 再会を祝して地元ワイナリー、ウルラの白ワインで乾杯!

 

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アラチャトゥ旧市街の裏通り

 

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アスマ・ヤプラウの中庭

 

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キッチンの建物の壁には今日のオススメメニューが手書きされている
 

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イェトキンと一年ぶりに再会

 

「シェレフェー! アルカダシュ(乾杯! 友達)。本当にアラチャトゥまで来てくれて嬉しいよ。明日は一日かけて、僕が大好きな場所を案内するから楽しみにしていて。その前にここは僕の一番のお気に入りの店なんだ」
「雰囲気が素晴らしいねえ」
「料理も本当に素晴らしいよ。今は観光シーズンで予約がなかなか取れないから、今日はラッキーさ。注文方法も変わっているんだよ。まず僕たちは今、注文の順番待ちをしているんだ。先に到着したお客さんから順番にキッチンに通されて、そこで目の前に並ぶ料理を見て、注文を決めるんだ。さあ、僕たちの番だよ!」
 到着が早かったおかげで僕たちは10分も待たずに右奥の平屋に案内された。そこは一言「天国!」としか形容出来ない場所だった!

 

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キッチンに入るとこんな夢の風景が待ち受けていた!

 

 12畳ほどのキッチンはエンギナレと同じく、三方の壁が上段が棚で、腰の高さにシンクやコンロ、オーブンなどが設置されていた。そしてキッチンの中央には大きな四角い作業台兼テーブルが陣取っていた。

 その中央テーブルには17種類のエーゲ海料理が大皿に美しく盛り付けられて並んでいた。お皿の下にはスペーサーをかませて、中央の大皿が一回り高く、高低差を付けて配置されている。
 そこに並んだ料理は、僕が今までの30回以上のトルコ取材を通じて一度も目にしたことのなかったようなエーゲ海料理ばかり!
 入り口側のテーブルの端の真ん中に一段高く鎮座していたのはハーブとチーズのかき揚げ、またはお焼きにあたる①ミュジュヴェルだ。午前中にエンギナレで、エーゲ海料理の基本は青ネギやイタリアンパセリなどのハーブを大量に刻むことから始まるのを身体で学んだ。このミュジュヴェルはまさにハーブたっぷりのエーゲ海料理だ。しかし、出来るたけ多くの種類の料理を食べたいので、お腹にたまる揚げ物はスキップしよう。
 ①ミュジュヴェルから時計回りに料理を紹介しよう。②セイヨウイラクサの葉を黒オリーブとともにオリーブオイルで炒めたサラダ。③続いてエーゲ海産の小さくて甘いキュウリとミント、ブルグルのサラダ。
 ④次はエンギナレのミライさんから習った栗カボチャのオーブン焼きのカバック・シンコンタ。⑤アッケシソウとアーティチョークと赤パプリカのオリーブオイル煮。そして、大きなテーブルの中央は⑥スベリヒユとイチゴと胡桃のサラダ。多肉植物のアッケシソウやスベリヒユは日本では雑草扱いされてきたが、最近は有機野菜の専門店や地方の農家直売店や道の駅などで目にする機会が増えた。
 ⑦続いてはナスの薄切りにチーズやハーブ、カボチャの種などをたっぷりのせたオーブン焼き。⑧ミニトマトのサラダ。そして、アラチャトゥではどのお店でも目にした⑨ズッキーニの花のご飯づめ、カバック・チチェイー・ドルマスも大皿いっぱいに盛り付けられている。

 

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①ハーブとチーズのミュジュヴェル

 

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⑧ミニトマトのサラダ

 

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⑨夏のアラチャトゥの定番、ズッキーニの花のご飯づめ、カバック・チチェイー・ドルマス
 

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キッチンの奥から入り口方向に撮影

 

 ⑩イスタンブルのメイハネでおなじみのサヤインゲンのオリーブオイル煮、ターゼ・ファスリエ。⑪テーブルの一番奥の中央にはズッキーニの花にフレッシュチーズを詰めただけのものが並んでいた。聞くと注文を受けてから、衣を付けて油で揚げてフリットにすると言う。
 ⑫テーブルの一番奥の角にはほうれん草と玉ねぎにチーズをのせて焼いたグラタン。時計回りに手前に戻ると、⑬お店の名前にもなっているアスマ・ヤプラウ・サルマス。ハーブとお米を塩漬けのブドウの葉で巻いて、オリーブオイルとレモン汁で煮たもの。これも昼のエンギナレと同じく真っ赤なサワーチェリーと一緒に煮込んであり、緑と赤のコントラストが美しい。⑭その手前の白地に緑色のお皿は炒めたほうれん草と胡桃をヨーグルトと混ぜ込んだサラダ。⑮更にエーゲ海のハーブをたっぷり混ぜ込んだブルグルのピラフ。⑯これも初めて見る料理だが、小さなオクラと小さめのサワーチェリーのトマト煮込み。そして手前左角に戻り、⑰レンズ豆のペースト、ファヴァである。テーブルにはこの全17品が並んでいたが、キッチンの壁の作業台の上には更に⑱オーブンで焼いた小さな水餃子のマントゥも天パンに入ったまま置かれていた。この他、展示はないが、肉料理やスープなども作ってくれるそうだ。

 

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⑰レンズ豆のペースト、ファヴァ

 

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⑱茹でずに天パンに並べてオーブンで焼いたマントゥ、水切りヨーグルトがたっぷり

 

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君なら何を頼む?こんなの見ちゃったら、実際にこの店に来て、料理を口にするまで、アナタの心は二度と落ち着くことはないでしょう!


 とまあ、ここまで一気に説明したが、このときの僕は興奮しすぎて、何を注文すべきかわからなくなってしまった。そこでいったんキッチンから表に出て、深呼吸し、頭の中を整理してから、②、③、④、⑤、⑥、⑪、⑬、⑯、⑱の9品を頼んだ。3人で9品はさすがに多いかもしれないが、基本的に野菜中心なのでなんとかなるだろう。
 テーブルに戻り、イェトキンとお互いの近況を話していると、5分ほどでカクテルグラスを大きくして平たくつぶしたような脚付きのガラスの器に盛り付けられた料理が次々と運ばれてきた。器は脚の高さが長短あり、テーブルに並べると高低差が付き、ちょっと変わったプレゼンテーションとなる。揃ったエーゲ海料理を自分のお皿に取り分けてから、いただきま~す!
 ②はザクサクとした食感のセイヨウイラクサの葉にねっとりと濃い味の黒オリーブが初めての味わい。
 ③のキュウリは2018年に訪れたサントリーニ島でも食べたものと同じ種類らしく、メロンに似た甘みがある。ブルグルとスペアミントを合わせてレモン、オリーブオイルで味付けするだけなので、日本に戻ってから再現してみよう。
 ④カバック・シンコンタはカボチャが甘くトロトロで、デザートにもなりそうだ。これも秋にバターナッツカボチャが手に入ったら再現しよう。
 ⑤アッケシソウとアーティチョークはメイハネでおなじみのオリーブオイル煮込み。両方とも日本では手に入りにくい野菜なので、アラチャトゥやトルコにいるうちにリピートしよう。

 

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②セイヨウイラクサの葉と黒オリーブのオリーブオイルサラダ

 

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③ほんのり甘いキュウリとミント、ブルグルのサラダ

 

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④エンギナレで作り方を習ったカボチャのオーブン焼き、カバック・シンコンタ

 

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⑤アッケシソウとアーティチョークのオリーブオイル煮込み


 ⑥そして今回一番気に入ったのがスベリヒユとイチゴと胡桃のサラダ。スベリヒユの多肉質と胡桃の食感の違い、そしてイチゴの濃厚な甘さの組み合わせが最高! 中東料理は果物を使った料理がやっぱりうまい。しかし、これは日本では再現が難しいかも。というのも、スベリヒユが旬の夏には、イチゴが手に入らないからだ。イチゴの代わりになるフルーツはなんだろうか?

 

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 ⑬サワーチェリーを使ったアスマ・ヤプラウ・サルマス、そして同じく⑯サワーチェリーと小さなオクラのトマト煮込みもチェリー好きなら大興奮だ。オクラのトロトロの粘りとサワーチェリーの甘酸っぱさがこれまた未知の味わい。

 

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⑬これもエンギナレで習ったサワーチェリーを使ったブドウの葉ご飯巻、アスマ・ヤプラウ・サルマス

 

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⑯サワーチェリーと小さなオクラのトマト煮込み

 

 ⑱のマントゥは小ささを競うカイセリマントゥとは異なり、日本の焼売の1/4くらいの直径でそこそこの大きさがある。しかも天パンに縦横マトリックスに並べて、一旦カリカリに焼いたものの上に水切りヨーグルトをかけてある。肉たっぷりのシュウマイや餃子といった風情で、これはちょっとお腹に重かった。

 

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 ⑱小皿にとりわけたマントゥは、さらにヨーグルトと赤とうがらしオリーブオイルをかけてサーブされた

 

 そして最後に出てきたのが⑪熱々の揚げたてズッキーニの花のフリット。中に詰まっているのはカッテージチーズに似たチーズとハーブ。美味しいが、フランス料理のベニエのような分厚い衣が油っぽくてちょっと胃に重そうだ。

 

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遅れて運ばれてきた熱々の揚げたてズッキーニの花のフリット

 

 最後の2品が少し重たかったが、残りは僕が普段から言っている「レモン、にんにく、パセリ、オリーブオイル」という中東料理のキーワードにバッチリ当てはまった。しかも肉を使っているのも⑱だけで、それ以外はベジタリアン料理だ。
「そうなんだよ! 僕は肉料理も大好きだけど、この店の料理を食べると、いつベジタリアンになってもいいと思えるんだよね」とイェトキン。
 アスマ・ヤプラウーのエーゲ海料理は地元の旬の野菜とフルーツとハーブとオリーブオイルの無限の組み合わせだ。何も難しいテクニックは使ってないのに、どれも本当に美味かった!
 お会計を頼むと地元の白とロゼワインのボトルをあけて、これだけ食べて(一部持ち帰り)650TL=13,000円。全てが観光地プライスのアラチャトゥにおいてかなり良心的なお値段だ。なかなか予約が取れないのは当然だろう。
 僕は料理の仕事で行き詰まった時、新しいインスピレーションが欲しい時、この店を再訪することに決めた。イェトキンありがとう!

 

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僕のSNS投稿を見て、夏休みでチェシュメに帰省していたアメリカ在住のトルコ人の友人ララちゃんがお店に現れた!

 

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アスマ・ヤプラウの中庭側の裏口。まさに隠れ家でしょう!

 

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日曜夜10時すぎのアラチャトゥ旧市街メイン通りはこんなに混み合ってる!

 

 

自家製チーズのサラダ、ロル・ペイニル・サラタス

 さて今回のレシピは、トルコ最南端の地中海の町アナムルで2016年夏に滞在した際に習った、自家製チーズのサラダ、「ロル・ペイニル・サラタス」。コロナ禍で牛乳が市場に有り余っているというニュースを見た。そこで牛乳を余分に買ってきて、鍋に入れ、沸騰させ、レモン汁を絞り入れたら、あっという間にフレッシュチーズ(カード)が出来上がった。その瞬間、アナムルで習ったまま四年間忘れていたレシピを思い出した次第。余った液体は乳清なので、飲んでもいいし、植物の肥料にしても良い。とにかく簡単なのでぜひトライして。

■ロル・ペイニル・サラタス
【材料:作りやすい分量】
牛乳:1.5リットル
レモン汁:一個分(50ml)
塩:小さじ1/2
赤パプリカ:1/2個
イタリアンパセリ:40g(2パック)
塩:少々
EXVオリーブオイル:大さじ1
プルビベール:小さじ1(トルコ産の赤唐辛子フレーク、なければ韓国産の赤唐辛子フレークで代用可)
ニゲラ:小さじ1~2(なければ黒ごまで代用可)

【作り方】
1.鍋に牛乳を入れ、火にかける。沸騰し始めたら、レモン汁を注ぐ。牛乳が分離し始めたら、固形物を細網のかす揚げ/あく取りですくい取り、ボウルに入れた細網のザルで受ける。火を止め、カードに塩を振り、室温に冷ます。残った液体は乳清なので捨てないように。
2.カードをペーパータオルで包み、冷蔵庫で冷やし、余分な水分を切る。
3.赤パプリカは5mmほどの細かいみじん切り、イタリアンパセリもそぎ切りにして、ボウルに入れ、塩少々を揉み込む。
4.よく冷えたカードとニゲラを3のボウルに加え、カードをポロポロと崩しながら軽く混ぜ合わせる。お皿に山状に盛りつけ、EXVオリーブオイルとプルビベールをふりかけて出来上がり。パンですくっていただく。

 

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ロル・ペイニル・サラタス。冷蔵庫に牛乳が余っていたらぜひ!

 

(次回に続く)

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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