台湾の人情食堂

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#92

本場・香港の燒臘(サオラー)を体験!

文・光瀬憲子 

 このところ何かとニュースに登場する香港。中国本土からの距離感、本土との政治的関係、歴史や文化的側面など、なにかと台湾と比べられることが多い場所でもある。

 香港の政治的な情勢も気になるところだが、ここでは香港と台湾の食文化などを取り上げ、数回に渡って両者を比較してみたいと思う。

 台湾の人々は、香港を「小さな兄貴」のような存在として意識しているように思う。面積こそ狭いが、常に一歩先をゆくアジアのリーダーであり、ときに仲よく、ときにケンカしながら、これまで香港の背中を見て育ってきたのが台湾だ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA朝、九龍側から高層ビルが立ち並ぶ香港島を望む

 

燒臘や飲茶は香港が本場 

 台湾にいながらにして香港を意識できる場面はいろいろあるが、食べ物で言えば「燒臘(サオラー)」と呼ばれる肉の蜜漬けローストや飲茶はその筆頭だ。

 燒臘のなかでも豚肉をローストしたものを「叉焼(チャーシュー)」と呼ぶ。日本のラーメンにのっているのでピンとくるだろう。ほかにも鶏肉、鴨肉、ガチョウ肉などのローストが一般的だ。

 台湾では朝市や街なかの食堂などでよく見られ、燒臘のスライスを白いごはんの上にのせるワンプレートランチが人気。燒臘の食堂にはたいてい「三寶飯」というメニューがあり、ご飯の上に豚肉、鶏肉、鴨肉など、3種類の肉をのせて出している。台湾の燒臘ワンプレートランチは80元~120元(280円~350円)元程度が相場。お弁当が50~60元で買えることを考えると、燒臘ランチは台湾ではやや高級ということになる。

 

00台北、永康街の燒臘店で食べた三寶飯。鴨肉と叉焼(チャーシュー)と豚バラがのっている

 

燒臘は香港では庶民の食べ物 

 一方、香港は物価の上昇が目まぐるしい。ちょっと食事をするだけで100香港ドル(約1400円)」なんて当たり前だ。先月、香港を訪れたときは、都心部の小じゃれたカフェでブレンドコーヒー1杯が50香港ドル(700円)もして驚いてしまった。

 コンビニで買える最も安いミネラルウォーターが台湾では約40円だが、香港では約140円もする。そんな物価の高い香港だが、燒臘だけは特に安いという印象を受けた。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA香港の中心部にある燒臘店。おしゃれで洗練された雰囲気

 

 燒臘は香港では庶民的なグルメだが、高層ビルが立ち並ぶ香港島側(アップタウン)や、九龍側の尖沙咀(チムサーチョイ)エリアは、どこを見渡してもガラス張りのおしゃれなレストランばかりで、庶民的な燒臘の店は見当たらない。

 だが、ダウンタウンから地下鉄の駅を4駅分ほど北上すると、雑然とした下町風景に出合える。深水埗(サムスイポー)のあたりまで来ると、野菜や精肉が並ぶ伝統市場や金属店、雑貨店などが並んでいる。香港の都市部では、スーツに身を包んだビジネスマンが闊歩しているが、ここではランニングシャツで店番をするお年寄りの姿が目立つ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA香港のダウンタウンの大通り。大きなビルが立ち並び交通量も多い

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA台湾にも通じる生活感のある香港の下町、深水埗

 

 そんな下町には燒臘の食堂がよく似合う。店先にローストした豚肉や鶏肉がぶら下がり、その奥に半分見え隠れする店主らしき姿。Tシャツに短パンという姿の店主は、チャーシューのように赤らんだ艷のある頬をゆるませて笑い、広東語で「どれにする?」と並んだ客に声をかける。手元には切り株のように分厚くて丸いまな板。ここに載せたロースト肉を、四角い大きな包丁でドスン、ドスンと音を立ててスライスにしてゆく。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA活気ある伝統市場には平日の昼間から地元の人々が買い物に訪れている

 

 広東語のできない私が店の前でオドオドしていると、店員が「ひとり?」とたどたどしい英語で話しかけてくれた。さらに彼は「うまいよ」と笑顔を見せる。香港の燒臘店はテイクアウト客が9割を占めるので、店内の飲食スペースはごく小さい。私は厨房の隅っこにある小さなテーブルの前に腰掛けた。すると同じ店員が指を3本立ててニッコリ笑う。どうやら「30元」と言っているようだ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA深水埗の市場通りにある燒臘店には人だかりができていた

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA家族経営なのか、アットホームな雰囲気だ

 

 大盛ごはんに艶のあるチャーシューと鶏肉がどっさり盛られ、サービスのスープも付いて30香港ドル(410円)。これは物価の高い香港では破格だろう。コーヒーより安い。チャーシューも鶏肉もボリュームがあり、味付けもしっかりしている。ほどよく歯ごたえがあり、肉はジューシーだ。台湾で食べる燒臘よりもタレが甘くないので、その分、肉の風味が感じられる。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERAチャーシューと鶏肉の2色プレート。これで30香港ドル(約410円)

 

 叉焼と鶏肉と鴨肉のローストが暖簾のようにぶら下がる人気店の厨房の脇で、遅めのランチを頬張りながら、活気のある香港の下町風景を眺めて、私はなんだか幸せな気分になった。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA香港の下町では燒臘の店をよく見かけた。やはり香港人のソウルフードなのだ

 

(つづく)

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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