旅とメイハネと音楽と

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#91

トルコ・エーゲ海地方アラチャトゥの旅〈2〉

文と写真・サラーム海上

野外市場とレストラン『ファヴァ』

 2019年6月29日土曜正午、僕はトルコエーゲ海沿岸の町アラチャトゥの宿ヴィラ・タラチャ・アラチャトゥ・ロマンティック・オテルで最高の朝食(連載#90)をいただき、すっかり満足していた。このまま宿にとどまって、午後はプールで泳いで、夜まで敷地から出ずに過ごしてもいいかも? いや、ダメだ。毎週土曜の朝から午後まで、アラチャトゥ旧市街の路上で野外市場が開かれるのだ。週に一度のチャンスをみすみす逃す訳にいかない!
 3時間以上も居座った朝食の席から重い腰を上げ、宿の送迎車に乗せてもらい、アラチャトゥの野外市場へ向かった。5分ほどのドライブで旧市街の南側にあるだだっ広い駐車場で車から降ろされると、目の前には数十の屋台のテントが張り巡らされていた。いいぞ~! 野外市場ってワクワクするなあ!
 だが、眼の前の屋台に並んでいたのはTシャツや半ズボン、タンクトップ、ムスリムの女性用の全身を隠す黒服など、ダサくて庶民的な衣類ばかり。屋台の間の細道を北に進むと、今度はスーツケースや大型鞄など旅行用品の屋台、更にスマホの充電器や電化製品、オヤジが萌える工具類、名物のオリーブ石鹸や化粧品などの日用品の屋台が延々と続いていた。4~5分歩き進んでみたものの、僕のお目当ての野菜や食材の屋台がちっとも見当たらない。しかも気温は35℃以上、市場は行き交う人々の熱気でムンムンで、これ以上歩くと生命の危険が……、もしかしたらここは日用品だけの野外市場なのかも? いや、そんなはずはない?
「八百屋はどこですか?」屋台の間に建つチャイ屋のアニキに尋ねると「この道の奥」との返事。なるほど、アラチャトゥの旧市街自体は小さいのに、野外市場は意外と大規模らしい。駐車場から10分ほど歩いて、小さなモスクに面した広場を右に折れると、初めて色とりどりの野菜と果物が目に飛び込んできた。
 これですよ! 僕が観たかったのは!

 

tabilistaalacati2アラチャトゥ旧市街の南側にある公共駐車場で車を降りると、辺り一面屋台のテントが張られていた

 

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トルコのエーゲ海沿岸名物オリーブ石けんも近頃は様々な香り付きが人気

 

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5分ほど屋台街を進んだが、延々とダサい靴や日用品の屋台ばかり。食料品はどこ?

 

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やっと見えてきた野菜市場!

 

 そこからはしばらく生鮮食品の屋台が続いた。まずトルコに来て一番うれしいのは豊富な果物。アメリカンチェリーのように大きなさくらんぼは1kgで220円。当然買うでしょう! イチゴは日本のものよりも種が表面をびっしり覆っているが、切ると中まで真っ赤な品種。日本では高級品の黄桃や洋梨も安いし、スイカやメロンは10kgくらいありそうなほど大きい。
 野菜では枝が付いたままの真っ赤な中玉トマトは3kgで200円。普通のトマトなら2kgで100円ほど。ズッキーニも旬らしく、細長いものから丸いボール状のもの、花がついたままのもの、または花だけでも売られてる。オクラやサヤインゲンも1kgで300円前後。日本では雑草扱いのスベリヒユやオカヒジキもエーゲ海料理に欠かせない。アーティチョークは紫色の花が咲いたままのものと、花とガクを取った芯だけの状態でも水にさらして売られていた。
 イタリアンパセリやディル、青ネギ、ミントなどエーゲ海らしいハーブ類も売り場の一角を占めていた。そう言えば、毎年4月にはアラチャトゥの旧市街でハーブフェスティバルが開催され、国内外から料理関係者が集うとも聞いていた。いつかこの町のハーブフェスティバルを訪れたいものだ。

 

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大好物のさくらんぼも1kgで200円!

 

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桃だって1kgで180円!

 

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桑の実はジャムやジュースにしていただく

 

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完熟トマトは2kgで100円!安い!

 

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イタリアンパセリや葉物野菜も安い

 

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日本では雑草扱いのスベリヒユもサラダにしていただく

 

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ズッキーニは花だけでも買える

 


紫色の花が咲いたアーティチョーク

 

 野菜や果物の屋台通りから右折し、町の中心近くの駐車場に到着すると、冷蔵庫付きのバンを改装したチーズやオリーブの屋台、瓶詰めのジャムや乾燥ハーブの屋台が並んでいた。
 僕はトルコを訪れる度にオリーブを数キロまとめ買いし、日本に持ち帰り、冷凍保存している。今回も帰国する日にイスタンブル・カドゥキョイ地区の行きつけの店で買うつもりでいたが、アラチャトゥの屋台ではイスタンブルの7掛けくらいの値札が付いていた。取り急ぎ、レモン漬けの緑オリーブ1kg、塩漬けの黒オリーブ1kg、更に、種を抜いて、グリラーで重しをのせて焼くことで、表面にグリラーの焼き筋が付いたウズガラ・ゼイティン(焼き緑オリーブ)を1kg買いこんだ。これはほんの2~3年前にトルコの市場に並び始めたばかりの新製品だ。

 

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ピクルスやハーブ入りのオリーブオイルも色々と

 

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旧市街中央の駐車場は乾物やハーブ、チーズやオリーブの屋台が中心

 

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オリーブ屋台でとりあえず3kg買い込む。真ん中の黒い筋入りのオリーブがウズガラ・ゼイティン

 

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赤唐辛子粉や乾燥ハーブの屋台


 屋台は旧市街の中心まで続き、フツっと途切れた。荷物が重いし、午後2時の太陽は強すぎるし、もう宿には歩いては戻れない。こんな炎天下に歩いたら熱中症間違いなしだ。目の前にあった観光客向けのカフェで一涼みしてから、日陰の道を選んで目星をつけていたレストランに出向き、その晩のテーブルの予約をした。そして、宿に電話して、旧市街のランドマークとなっている巨大な風車の前まで車で迎えに来てもらった。

 

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午後の旧市街は日差しが強すぎて、歩いているのはお店の人だけ


 午後は宿のプールに飛び込んで、身体と頭を十分に冷やした後、少し日差しが落ちてきた午後7時に再び宿の車に乗って、予約したレストラン『Fava(ファヴァ)』に向かった。昼間は歩いている人が少なかった旧市街も、夕暮れには国内外の観光客で混み合っていた。
『Fava(ファヴァ)』はそんな旧市街の細い通りに面していて、一歩足を踏み入れると、表の建物の入り口からは想像出来ないほど広い中庭が広がっていた。2〜3百人規模の結婚式が出来そうだ。まだ午後7時過ぎでトルコ人の夕食タイムには随分早いのに、6月下旬は観光ハイシーズンなので、すでに1/3のテーブルが埋まっていた。
 外国人のお客も多いためか、渡されたメニューには文字だけのページだけでなく、前菜「メゼ」を美しくテーブルに並べ、上から俯瞰撮影したカラー写真のページがあった。白い長方形のメゼ皿を5列✗3行に整列させた写真が見開き2ページにドーンと掲載され、一つ一つのお皿の余白に料理名が載っている。
 僕はカラー写真入りメニューはあまり好きではないのだが、この店のメニューはプロのカメラマンの手によって美しく俯瞰撮影されていたので納得だ。それに合計30種類のメゼのうち、約2/3はこれまでの長年のメイハネ通いで判別出来たが、残りの1/3の料理は僕も初めて目にするものだった。

 

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夕方7時の旧市街、日が傾き、観光客がもどってきた

 

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ファヴァの中庭。偶然だがソーシャルディスタンシングできてる!

 

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ファヴァのメニューからメゼの俯瞰写真ページ。1/3は知らない料理だ

 

 野菜のメゼではムハンマラ(焼いた赤パプリカと胡桃のペースト)、ババガヌーシュ(焼き茄子と練胡麻のペースト)、アトム(水切りヨーグルトに赤唐辛子オイルかけ)、ファヴァ(空豆のペースト)、村の焼き茄子サラダ、ジャジュック(水切りヨーグルトとおろしキュウリのペースト)、ズッキーニの花のドルマ(ご飯づめ)アッケシソウやオカヒジキのオリーブオイルマリネなど。
 魚介なら、スモークサーモン、スズキのマヨネーズ和え、塩漬けカツオ、カタクチイワシのスモーク、蛸のサラダ、茹で海老のサラダ、蛸のカルパッチョ、茹でムール貝のマヨネーズ和えなどは食べたことがある。
 しかし、アタトゥルクのメゼ、将軍のペースト、1850年のメゼ、アラチャトゥの風などは初めて聞く名前だ。スーパーお婆ちゃん(!?)に至っては一体どんな味の料理なのか検討もつかない……。
 そこで前菜はファヴァ、ズッキーニの花のドルマ、蛸のサラダ、そしてアラチャトゥの風を頼むことにした。ワインはアラチャトゥとイズミルの間にあるワイナリー「ウルラ」のシャルドネ、さらにグリーンサラダとメインに蛸足の炭火焼きを注文した。
 お店の名前にもなっているファヴァとは乾燥空豆を戻してから柔らかく煮たペーストを指す。前年に訪れたギリシャ・サントリーニ島では地元の固有品種の乾燥ガラス豆を使ったペーストだったが、トルコ語でもアラビア語でもファヴァと言えば、あくまで乾燥空豆のペーストである。空豆は独特の臭みがあり、ひよこ豆から作ったホモスよりも旨味が強いのが特徴。上に振りかけられた紫玉ねぎとディルのみじん切りがまったりしたファヴァの味を引き立たせていた。

 

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店名にもなっているファヴァ。前年にはサントリーニ島でもいただいた。トルコのエーゲ海沿岸地方料理はギリシャ料理とよく似ている


 ズッキーニの花のドルマは、一年のうちにズッキーニの花が旬の短い季節にしか食べられないので、お店で見かけたら必ず注文している。薄い花びらの中にトルコ料理のドルマに用いられるかやくご飯、ディルと乾燥黒スグリと松の実、みじん切りの玉ねぎ、お米が詰められ、オリーブオイルとレモン汁と塩、砂糖を加えたお湯で茹で、最後に冷蔵庫で冷たく冷やしてある。ズッキーニの花びらから出るとろみときな粉のようにホロホロとした花粉が他のドルマとは一線を画している。美味い!

 

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ズッキーニの花のドルマ。花びらのトロトロの食感と花粉のきな粉に似た味が特別


 蛸のサラダ、蛸に対するオブセッションを持つ僕は避けては通れない。吸盤が自然に落ちるほど柔らかく下ごしらえした蛸の足をぶつ切りにして、イタリアンパセリ、紫玉ねぎ、青唐辛子、キュウリのピクルスとともにワインビネガーとオリーブオイルでマリネしただけだが、やはりエーゲ海の蛸は美味い! ミネラルの強い白ワインによくマッチする!

 

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蛸のサラダ。蛸は香味野菜とともに圧力鍋または低温のオーブンなどでじっくり柔らかく下ごしらえしてある


 そして謎のメゼ、アラチャトゥの風は、茹でたアーティチョークの芯、青リンゴ、スペアミントのペーストだった。モソモソしたアーティチョークにシャキシャキの青リンゴ、そして爽やかなスペアミント。確かに口の中に風が通るような、風の町アラチャトゥらしい料理だ。これは美味い!美味すぎる! 自分で作るのも簡単そうだが、日本ではアーティチョークがなかなか安くは手に入らない。試しに菊芋あたりで代用してみようか?

 

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アラチャトゥの風。アーティチョークが安く手に入ったら作ってみよう

 

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4つの前菜と、トマトとルッコラのサラダを一皿によそったところ

 

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アラチャトゥから30km離れたウルラという村のシャルドネとともにいただきます!


 メゼとサラダをゆっくりいただき、8時を過ぎてから、蛸足の炭火焼きが運ばれてきた。蛸を前菜と同じように柔らかく下ごしらえしてから、炭火で焼いて旨味を閉じ込めただけ。そこにマスタードとバルサミコ酢の甘酸っぱいソースと溶かしバター。たったそれだけなのにやはり美味い! 蛸は表面は炭火でカリカリだが、身はスッとナイフが入るほど柔らかい。日本に帰ったら、三崎港まで行って活きタコを仕入れて、丁寧に下ごしらえしてから、庭で七輪を使って炭火焼きにして再現したいなあ。

 

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メインディッシュの蛸足の炭火焼き。甘酢っぱいソースとバターが蛸に絡み合って美味い!


 食後にお店からのサービスでイチゴをのせたタヒーニのアイスクリームにざくろ果汁濃縮ソースかけとチャイをいただいた。
 人気店ファヴァでいただいたトルコのエーゲ海沿岸料理は、イスタンブルの料理よりも野菜やハーブを活かしたものが多く、シンプルでギリシャ料理に近いように思えた。
 お店を出ると午後9時。この時間になってはじめて夕日が沈み、辺りが暗くなり始めた。腹ごなしに宿まで20分歩いて帰るとしよう。翌朝は別の人気レストラン『エンギナレ』でエーゲ海料理を習うことになっている。

 

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帰り道21時15分、ちょうど日が暮れてきた。細い路地の人気店には観光客が集まり、トルコのイケイケのポップスが大音量で流れていた

 

スイカとアボカドとハルーミチーズのサラダ

 今回のレシピはポーランド・ワルシャワのレストラン『ボルタ』でいただいた中東系フュージョン料理のスイカとアボカドとハルーミチーズのサラダ。
 ハルーミチーズは焼いても溶けない塩味の強いチーズ。最近は都内の輸入食材店でもよく目にするようになったが、トルコやアラブ、ギリシャなどが起源。
 シャキシャキで甘いスイカとトロトロのアボカド、塩っぱくてクリーミーなハルーミチーズ、ザクロ果汁濃縮ソースのドレッシングの組み合わせが簡単ながら斬新!

 

■スイカとアボカドとハルーミチーズのサラダ
【材料:作りやすい量】
スイカ:1/6~1/8切り400g
アボカド:1個
ハルーミチーズ:200g
ベビーリーフ:1袋(40~50g)
ディル、イタリアンパセリ、バジルなど、好みのハーブ:少々
ざくろ果汁濃縮ソース:大さじ2
EXVオリーブオイル:大さじ2
黒胡椒:少々

【作り方】

1.スイカはよく冷やしてから、皮をむき、厚さ1cmにスライスし、食べやすい大きさに切り分ける。アボカドは皮と種を取り、厚さ5mmにスライスする。ベビーリーフとハーブ類は洗ってからサラダスピナーで水を切る。
2.ハルーミチーズは厚さ1cmにスライスする。グリラーを熱し、表面にオリーブオイル(分量外)を塗り、十分に温まったら、ハルーミチーズを並べ、表面に焼き筋が付いたら裏返し、同様に焼き筋を付ける。火を止めて、ハルーミチーズを取り出し、室温に冷ます。
3.お皿にベビーリーフを敷き、スイカ、アボカド、ハルーミチーズを美しく並べ、ハーブを散らす。
4.食べる直前にザクロ果汁濃縮ソース、EXVオリーブオイル、黒胡椒をふりかける。

 

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スイカとアボカドとハルーミチーズのサラダ。甘さとしょっぱさと酸っぱさ、クリーミーさの絶妙なバランス! ぜひ作ってみて!
 

(次回に続く)

 

*この連載の一部をまとめた単行本『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』を、今夏7月下旬に刊行予定です。現在、鋭意制作中。お楽しみに!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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