旅とメイハネと音楽と

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#90

トルコ・エーゲ海地方アラチャトゥの旅〈1〉

文と写真・サラーム海上

エーゲ海のリゾート地アラチャトゥへ

 このところ毎年夏の恒例だったトルコ出張。今年は新型コロナウィルスの影響を受け、しばらくは行けそうもない。
 本来なら、この春からANAとターキッシュエアラインズがそれぞれ東京羽田空港とイスタンブル新空港を結ぶ直行便を新たに開通させ、日本とトルコへの行き来がますます便利になるはずだったのに。
 しかし、嘆いていても仕方ない。コロナは必ず収束する。再びトルコを訪れられる時まで、旅のイメージトレーニングを欠かさずに行っておこう。
 そんなわけで今回からは2019年6月下旬、ちょうど今から一年前に訪れたトルコ、エーゲ海地方のリゾート地アラチャトゥで食べた絶品のエーゲ海料理を取り上げよう。

 

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ヴィラ・タラチャ・アラチャトゥ・ロマンティック・オテルの朝食、美味い!美味すぎる!

 

 以前も書いたが、トルコは大きく7つの地域に分けられる。イスタンブル含むマルマラ海沿岸地方、エーゲ海沿岸地方、地中海沿岸地方、中央アナトリア地方、黒海沿岸地方、東アナトリア地方、東南アナトリア地方の7つである。国土の三方を海に囲まれているだけに、7つの区分のうち4つが海にちなんだ名前となっている。
 黒海はヨーロッパとアジアの間にある内海で、イスタンブルが位置するマルマラ海を経て、エーゲ海と地中海につながっている。地中海はユーラシア大陸とアフリカ大陸の間にある地中海盆地に位置し、西はモロッコとスペインから、東はレバノンやイスラエルまで、東西に広がる巨大な内海だ。ちなみにトルコ語で地中海は「白い海」を意味するアクデニズと呼ぶ。雨が多く、空も海も暗い色をした黒海との対比で名付けられたのだろう。そして、エーゲ海はその地中海の一海域で、ギリシャとトルコに挟まれた入り江状の海を指す。エーゲとは古いギリシャ語で「波」を意味し、転じてエーゲ海は「主要な海」との意味を持つ。
 地中海料理はイタリア料理やフランス料理、スペイン料理などの長年の健闘により、世界中に広く普及している。日本でも台所にオリーブオイルを置いていない家を探すほうが難しい。

 では、エーゲ海料理とはどんなものだろうか? イスタンブルのエーゲ海料理のメイハネやギリシャ料理店で出る料理を食べた限り、地中海料理との違いが僕にはわからないままだった。僕の十八番の言葉を用いれば、どちらも「レモン、にんにく、パセリ、オリーブオイル」をたっぷり用いているのだ。

 さて地中海料理とエーゲ海料理の違いはなんだろう?
 その疑問をイスタンブルの友人ハッカン&アイリン夫婦にチャットでぶつけたところ、ハッカンから意外な答えが返ってきた。
「どちらの地域もオリーブオイルやトマトを使うけれど、地中海沿岸地方は羊肉料理が中心だよ。地中海に面したトルコの南部の土地は山がちで、古くから放牧や牧畜が主な産業だった。それに宗教的に敬虔な人(イスラーム教徒)が多く、魚ではなく肉を食べるのが一般的だったんだ。それに対してエーゲ海沿岸地方を代表する食材は魚介とたくさんの種類のハーブだね。ギリシャ人(キリスト教徒)が多く暮らしていたからね」
 なるほど、どちらも海に面した地域だから、そこに暮らす人々は同じように魚介を食べるはずというのは短絡的な考えだったか。地形や気候によって、さらに人々の生活や職業、宗教によって好まれる食材は異なる。
 ではエーゲ海料理を食べ尽くすにはトルコのどこを訪れたら良いだろう?
「アラチャトゥをおすすめするよ。イズミルから車で一時間の距離にある町、チェシュメの半島の先にある小さな町で、かつてギリシャ人が暮らしていたため、今も当時の美しい街並みが残されているんだ。国内でも人気の高い観光地だから、夏は観光客があふれているけれど、その分、人気のレストランも多くて、エーゲ海料理を楽しめるはずだよ。あ、友人のイェトキンを覚えてる? 彼は夏の間はチェシュメの実家に滞在しているから、連絡すると良いよ。自動車で色々案内してくれるはずだよ」

 

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東京からのお土産のウルトラマン兄弟勢揃い人形に大喜びのハッカンとアイリン


 アラチャトゥをネット検索すると、「エーゲ海の可愛い町」、「色の魔術師の町」などと、女子ウケのしそうなワードが無数に出てきたww。そのまま画像検索をかけると、旧市街には白い壁の建物と細い石畳の道が続き、壁沿いに緑の木々が生い茂り、赤やピンクの花が咲き誇り、窓枠は青、路上に並ぶテーブルや椅子、テーブルクロスは黄色や緑、オレンジなど、鮮やかな色が満ち溢れている。2018年夏に訪れたギリシャのサントリーニ島やナクソス島にも負けず劣らず現実離れした町じゃないか! 勢い余ってそのままアラチャトゥの宿情報を調べると、Booking.comでなんと10点満点が付いていた(2020年6月現在は9.9点)宿、『Villa Taraça Alaçatı Romantik Otel (ヴィラ・タラチャ・アラチャトゥ・ロマンティック・オテル)』を見つけ、その場で予約を入れ、航空券を手配してしまった。
 
 2019年6月28日午前9時前、イスタンブル・サビハ・ギョクチェン空港からイズミル空港へは1時間15分のフライトで到着した。イズミル空港からはタクシーを飛ばして一時間ちょうど、午前10時すぎにアラチャトゥの宿ヴィラ・タラチャ・アラチャトゥ・ロマンティック・オテルにスルッと到着した。

 

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イスタンブル・サビハ・ギョクチェン空港からペガサス航空便でイズミルへ

 

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イズミルからアラチャトゥへはタクシーを飛ばしてちょうど1時間!

 

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アラチャトゥのメイン通りから丘への道に入る

 

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Booking.comで10点満点のヴィラ・タラチャ・アラチャトゥ・ロマンティック・オテル、やけにガーリーでしょうww


 宿の名前にある「タラチャ」とは「段々のテラス」という意味で、その名の通り、宿は丘の中腹に沿って段々に建っていた。丘の斜面の一番上には小さなプールとヨガや瞑想のための小さなステージがあり、モザイクで装飾された階段を下ると、3階建てのメインの建物がドーンと構えている。そこから庭の階段を下ると広い芝生とメインのプールがあり、その周りには独立したコテージが数軒、高低差を付けて並んでいた。僕の部屋はメインの建物の地階で、プールと芝生に面していて便利だが、あえて離れのコテージに滞在するのも良さそうだ。
 何よりもこの宿はフォトジェニックだ。緑の芝生と赤い花が咲き乱れる庭の間に建つ山吹色の建物、水色のプールと煉瓦色の階段、庭の至るところに古代ギリシャ〜ビザンチン帝国時代の彫刻のレプリカが打ち捨てられたように配置され、その隙間には真っ赤な日傘とカフェテーブルやソファが並べられている。
 アラチャトゥの旧市街までは徒歩20分弱と観光にこそやや不便だが、町やビーチには無料の送迎車を用意してくれるし、郊外の高台に位置する分、敷地は広大で、見晴らしも抜群。部屋の設備は三ツ星ホテル程度でシンプルだが、その分、値段もお手頃なのも良い。
 宿の敷地を一通り散策した後、お昼前にビーチまで行って泳ぎ、午後には旧市街に繰り出した。しかし、午後の日差しが強すぎて、旧市街は閑散としていた。こんな日射病や脱水症状になりそうな暑さでは、誰も歩かないよな。観光は翌日以降に友人のイェトキンと合流してから出直すとしよう。
 宿に戻り、水分補給した後は、丘の上のプールを一人で独占して夕暮れの空を楽しみ、夜は宿から一歩も出ずに過ごした。

 

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 二階のテラス席

 

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二階のテラスから芝生とプール、そして遠くアラチャトゥの町を見渡せる

 

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設備はシンプルだが、居心地は良い

 

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最寄りのウルジャビーチに来た。金曜の午後なのでそこそこ混んでる

 

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午後の暑さが去って、観光客で混み始めた夕方のアラチャトゥ旧市街

 

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高台の小プール。丘の斜面に沿っているので空に水が落ちて見えるインフィニットプール状態!

 

 翌朝、8時にプールでひと泳ぎして、お腹を空かしてから、朝食を取りにメイン建物の二階部分からつながるテラス席に着いた。するとすぐに若いイケメンのウェイターが大きなお盆にたっぷりの小皿をのせて朝食を運んできてくれた。
 トルコには豪華な朝食を売りにしている宿が多い。フレッシュサラダ、黒、紫、緑のオリーブ、卵料理、様々な種類のチーズ、パン、数種類の自家製のジャムに蜂蜜、ケーキに旬のフルーツ、ジュースにお茶にコーヒー、そして地元の名物料理など、何から何まで揃っているが、大抵はブッフェ形式で供される。好きなものを望むだけ取れるブッフェは合理的だろうけど、僕はやっぱり一人分ずつサーブしてもらいたい。

 

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時差ボケで朝5時に目が覚めた。ちょうど朝日が上ってきた

 

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イケメンのウェイターと女性マネージャーが一人分の朝食を運んできてくれた
 

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野外テラス席のテーブルに一人分の朝食が並んだ! オヤジ一人なのにやけにガーリーでしょうww


 ウェイターは赤白のタータンチェックのテーブルクロスの上にカラフルな小皿を一つひとつ丁寧に並べてくれた。まずトースト用の木製カッティングボードの上に、直径約7cmの丸い小さな薄水色のお椀を3つ並べ、それぞれに緑、黒、紫のオリーブが乗せられている。隣の藍色と白の格子の長方形平皿はカットしたトマトとピーマン、青唐辛子のサラダだ。

 

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緑、黒、紫のオリーブ。緑と紫はレモンでマリネしてある

 

 長さ20cmほどの薄水色のオーバルの平皿には二種類のハードチーズのスライスとストリングチーズ、さらに干しぶどうと干し杏。約7cmの正八角形の白い器には赤唐辛子粉とともに丸めてオリーブオイルでマリネしたチーズがちょこんと。その隣の直径約8cmの白の丸平皿には白チーズ、同じサイズの薄水色オーバル皿にはアジューカ(パプリカペーストとトマトペーストと胡桃、クミン、フェヌグリークのペースト)だ。

 

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二種類のハードチーズのスライスとストリングチーズに干しぶどうと干し杏、甘さとしょっぱさ、フルーツのみずみずしさとクリーミーなチーズの組み合わせ!

 

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自家製のアジューカ。チェックアウト時にお土産に一瓶購入した


 手前の白い長方形の2つ仕切り皿にはカイマック(沸騰した牛乳の膜を集めたクリーム)と蜂の巣がたっぷり。白い無地の長方形平皿の上にはトルコのレース編み物であるオヤが敷かれ、その上にやはり直径約7cmの丸い小さなお椀を4つ並べ、それぞれに自家製のりんご、人参、カリン、ビーツ、四種類のジャムが盛られている。

 

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クロテッドクリームに似たカイマックと蜂の巣はデブの元!しかし止められない!

 

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四種類の自家製ジャム。左手前から自家製のりんご、人参、中央奥がカリン、ビーツ


 銀メッキされた真鍮のオーバルプレートには花形の素焼きの小鉢が3つ並び、イタリアンパセリとザータルのざくろ果汁濃縮ソース&オリーブオイル和え、塩漬けぶどうの葉のざくろ果汁濃縮ソース&オリーブオイル和え、カッテージチーズとイタリアンパセリとスマック和えという地元のハーブを使った和え物だ。前の2つは僕も初めて見るものだ。

 

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左から塩漬けぶどうの葉のざくろ果汁濃縮ソース&オリーブオイル和え、カッテージチーズとイタリアンパセリとスマック和え、イタリアンパセリとザータルのざくろ果汁濃縮ソース&オリーブオイル和え。赤いのはオヤ


 この他、よく冷えたスイカのスライス、自家製のオレンジジュースや冷たい水、淹れたてのチャイが運ばれてきた。
 パンは三種類あり、まずはトルコの定番、フランスパン状のエキメッキがカゴにいっぱい。全粒粉のパンは一切れだけ薄くスライスされて上に発酵バターの切れ端がドーンとのっている。そして、これも初めて見たが、正方形に切ったユフカ(小麦粉の薄い皮状の生地)を三角形に閉じて、油で揚げてある。アツアツのユフカの中には白チーズとパセリ。シガラ・ボレイ、トルコのチーズ揚げ春巻きのバリエーションだろうか。これで一人前。一つ一つのお皿は小さいのに、ここまで種類が多いと広いテーブルが埋まってしまった。

 

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全粒粉のパン・コンプレのスライスに発酵バター!

 

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ユフカで白チーズを閉じて油で揚げたスナック


 午前中なのに強すぎる日光をなんとか遮断して、写真撮影を済ませる。これまでトルコ各地で無数の宿に泊まり、自慢の朝食をいただいてきたが、プレゼンテーションからしても、この宿の朝食がナンバーワンかもしれない。
 そしていよいよ朝食を口にすると、美味い! 美味すぎる! 野菜サラダもチーズもジャムもアジューカも、ほぼ全てが大量生産品ではなく手作りの地元産、もしくはトルコ各地からの名産品ではないか! 別に宿のシェフが特別な腕の持ち主というわけではない。近くの青空市場の信用のおける屋台やお店から美味しいものを厳選して買ってきて、毎朝手間を惜しまずに小皿に一人分ずつ盛り付け、並べているだけだ。なのに、この宿の朝食はなぜこれほど美しく宿と風景に調和しているのだろうか? Booking.com10点満点に嘘はない! 

 チャイをちびちび飲みながら、一つ一つの味を噛み締めていると、不思議なことにチャイが全く減っていないのに気がついた。グラスの半分ほどチャイを飲むと、ウェイターがささっと近づき、後ろから淹れたてのチャイを次々と継ぎ足していてくれたのだ。おかげで9時前にテーブルについても、なかなか立ち上がることが出来ず、気づくと正午過ぎまで朝食の席にいた。
 30年にわたり、30回以上もトルコに通い、延べ一年間も滞在してきた僕のNo.1トルコ朝食はこの宿に決定だ!
 さて、アラチャトゥのエーゲ海料理編しばらく続きます!

 

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この宿、停まってる車の色も含めて素晴らしい。
 

(次回に続く)

 

*この連載の一部をまとめた単行本『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』を、今夏7月下旬に刊行予定です。現在、鋭意制作中。お楽しみに!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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