旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#89

西アフリカ・コートジボワール取材記〈5〉

文と写真・サラーム海上

アビジャン滞在8日間で印象に残ったこと

 3月8日から8日間にわたり開催されたアビジャン舞台芸術見本市、通称「MASA」の取材、最初は8日ぶっつづけのアフリカ芸術見本市なんて気が遠くなりそう……と思ったが、いざ始まると毎日があっという間に過ぎていった。

 

tabilistamasa4真夜中の冷房効きすぎのホールで観たブルキナファソのMamadou Diabate & Percussion Mania

 

tabilistamasa4
揃いの民族衣装でバッチリきめたMASAの受付の女性たち

 

tabilistamasa4
MASAのスピードミーティング。アーティストはもちろん、マネージャーやアフリカ各地のプロモーター、さらに欧米からのプロモーターが揃い、それぞれに打ち合わせや商談を行っていた

 

tabilistamasa4
カメルーンの女性歌手クリスティアーヌ・ムコリー

 

 3月12日木曜は二日前の晩に見て、一発で好きになったトーゴのアフロ・デスメタル・バンドArka'nのメンバーにインタビューを行った。
 Arka'nのリーダーでギタリストのRock Ahaviは1980年にトーゴの田舎町アグーニョグボに生まれた。子供の頃から西洋クラシックのピアノを習っていたが、十代になってギターを弾き始め、ロックやブルース、同時にアフリカ音楽に傾倒した。そして、ジミ・ヘンドリクスやリンキン・パークを知り、次第にヘビーメタルに向かっていった。2010年頃にArka'nをスタートしたが、メンバーがなかなか固まらなかった。2016年になって、今のメンバーが揃い、バンドとして正式に活動を始めた。以来、トーゴを中心に西部、南部、東部アフリカまで演奏活動を行っているという。
「アフリカでヘビーメタルは人気がないのは、単純にヘビーメタルを聴く機会もなく、全く知られていないからだと思う。僕たちの演奏を聴いた人は、ヘビーメタルを好きになり、もっと知りたいと言ってくれるからね。
 今のところトーゴのヘビーメタルのバンドは僕たちだけだ。しかし、ヘビーメタルのバンドはアフリカ全土に存在していて、特に南アフリカはシーンが強い。僕たちはそうした横の繋がりを大切にしているんだ。
 Arka'nを始めた頃はアメリカのリンキン・パークのような音を目指していた。でも今のメンバーになり、次第にアフリカ色、ヴォドゥン=ヴードゥーの色を強めていったんだ。
 Arka'nというバンド名は「見えない世界」を意味する。僕たちは目に見えない世界、この世とは違う世界の音楽を目指しているんだよ。
 僕たちは、日本のテレビ番組(タモリ倶楽部)でアフリカのヘビーメタルのNo2に選ばれたことがある。あるとき日本人から「貴方達のバンドをNo.2に選びました」と突然メールが来たんだ。うれしかったよ。そして、日本にはヘビーメタルのぶ厚いファンベースが存在していることを初めて知った。いつか日本に行くのが僕たちの夢さ」
 音を通じて目に見えない世界を表現するというのは精霊信仰であるヴォドゥン=ヴードゥー的だ。それにしてもヘビーメタルには世界中どこに行っても、一種厨二病的とでも言いたいファンタジーの世界観が広まっている。北欧のヘビーメタルはバイキングや反キリスト教と、インドでは古代神話と、ブラジルでは民間信仰のカンドンブレ、モンゴルではシャーマニズムと結びつくことが多い。
 それでもこれまで普通の英米のヘビーメタルに全く興味を持てずにいた僕が、Arka'nは即座に好きになった。それはちょうど普通のアメリカや日本のジャズに長い間全く興味を持てなかった僕が、ブラジルやキューバやイスラエルやトルコやアルメニアやポーランドのジャズを知り、初めてジャズを好きになれたのと同じことだ。先入観による聞かず嫌いは良くない! メタルファンの間では「ペイガン(異教)メタル」というサブジャンル名で呼ばれるこうした世界の辺境のヘビーメタルを今後は注目していきたい。

 

tabilistamasa4

約束の時間を2時間遅れてやってきたArka'nのメンバー。中央がRock

 

 

 3月13日金曜の午前中、僕とドミニクさん、同じ宿に滞在しているフランス人女性のイザベルさんと三人で町の南にあるCAVA (Centre Artisanat de la Ville Abidjan アビジャン民芸品センター)へ出かけた。せっかく8日間もアビジャンに滞在しているのだから、一つくらい気の利いたお土産を買って帰りたくなったのだ。
 宿からタクシーを飛ばして20分、市内から空港へと続く幹線道路から一本横道に入った所に「CAVA Akwaba(ようこそCAVAへ)」と書かれた看板が立っていた。タクシーを降りると区画整理された野原のような場所に掘っ立て小屋が数十軒立ち並び、お土産屋とレストランが集まっていた。午前10時でまだお店の多くは閉まっていたが、一歩足を踏み入れた途端、どこからともなくお店のアニキたちが現れ、まとわりついてきた。しかし、モロッコやエジプト、そしてインドのどこまでもついてくる土産物屋のアニキたちと比べたらユルイユルイ! 
「今日は13日の金曜日で貴方は最初のお客だから、この布は通常価格は15,000CFA(2,700円)ですが、貴方には特別に10,000CFA(1,800円)にしましょう」
「いやそれは高い。7,000CFA(1,260円)以上は払えない」
「待ってください。いくらなら払えますか?9,000CFA(1,620円)ですか?」
とまあオールドスタイルな商売トークだ。アニキたちはこの駆け引きを楽しんでいるが、そんなんじゃこのグローバル化の時代をサバイバルできないよ!URLを送ってくれ、ネット通販で買うから。

 

tabilistamasa4

CAVAの入り口。「AKWABA」とは地元の言葉で「ようこそ」の意味

 

tabilistamasa4
観光客の姿はなく、開店休業状態の土産物屋

 

tabilistamasa4
早速土産物屋のアニキがドミニクさんに話しかけてきた

 

IMG_7960
セネガルの大型仮面

 

 実は前日の夕方、ドミニクさんに誘われプラトー地区にある老舗のアートギャラリーを訪れて、本物のアフリカンアートをじっくり楽しんでいたので、CAVAに並んでいるものは観光客向けのチープなお土産品にしか見えなくなっていたのだ。それでも僕はナッツや前菜を並べるのに良さそうな木製のお盆と、そしてパンを入れる編みかごを幾つか買いこんだ。
 あまり見るべきものこそないが、様々なルーツを持つ店主たちとの会話は楽しかった。仮面や木彫りのコロン人形(コロニアル時代のお土産)を売っていた背の高いアニキはセネガル人。聞くと、故郷にはほとんど帰らないという。ドミニクさん曰く「セネガル人はアフリカにおけるレバノン人みたいなものだ。商売さえあれば、世界のどこにでも住み着いてしまうんだ」とのこと。

 

tabilistamasa4

アビジャンで最も権威のある老舗ギャラリーRotonde des Arts入口

 

tabilistamasa4
アフリカの現代美術のアーティストたちの展覧会が開かれていた

 

tabilistamasa4
都会のギャラリーにいながらも、アフリカの精霊たちが話しかけてくる

 

tabilistamasa4
彫刻家クリスティアン・ラティエによるイエス・キリスト像

 

tabilistamasa4
植民地時代に作られた西洋人向けのお土産、コロン人形。女性が豊満!

 

tabilistamasa4
コロン人形を売っていたアニキはセネガル人

 

tabilistamasa4
何も欲しいものがないので、とりあえず麦わら帽子を買うイザベルさん

 

 別の土産物屋の店主、膝丈の長い白シャツと帽子を被り、額に礼拝のしすぎによる胼胝(タコ)が出来たイスラーム教徒のおじいさんはギニア人だった。
「ワシはギニア人じゃ。でも、生まれてすぐにコートジボワールに来て、以来コートジボワールに住んでいる」
――ギニアに行くことはあるんですか?
「親戚がギニア北東部のシギリという町に住んでいるので、一年に一度は里帰りしてるぞ」
――アビジャンからどうやって帰るのですか?
「バスに乗って一晩じゃ。アビジャンから国境を越え、まずマリの首都のバマコへ、それから再び国境を越え、ギニアのシギリへ。その後バスはギニアの首都のコナクリまで行くんじゃよ」
――なるほど日常的に国境を越えて行き来されているんですね。
「もちろんじゃ」
 日本ではアフリカ大陸が50以上もの国から成り立っていることを知らない人が意外と多い。中にはアフリカが一つの国だと思っている人までいる。そういう人に会う度に「アフリカは56ヶ国もあって、無数の民族や文化が存在している。なんでも十把一絡げにするのは良くないです」と僕はいつも答えてきた。
 しかし、実際に西アフリカに来ると、マリ、セネガル、ガンビア、ギニアビサウ、ギニア、シェラレオネ、リベリア、マリ、コートジボワール、ブルキナファソ、ガーナ、トーゴ、ベナン、ナイジェリア、ニジェールくらいまで国境を越えて人が比較的自由に行き来していることを初めて知った。十把一絡げも良くないが、人為的な国境にこだわりすぎても見えなくなるものもある。

 3月14日土曜のお昼過ぎにドミニクさんとともにプラトー地区にある高級フランス料理店「Abidjan Cafe」で昼食を取った。一度くらいは屋台ではなく、きちんとしたレストランで高級アフリカ料理を食べたくなったのだ。
 メニューは牛ステーキや鶏ロースト、鴨背肉のコンフィなど定番のフランス料理が中心だが、アフリカ料理のおすすめを尋ねると、ハタの茄子ソースを勧められた。
 ポワレにしたハタの切り身を小さなピーマンのような形の唐辛子のソースで軽く煮込んであった。茄子なんてどこにも入ってないけど? もしかしたら日本でチコリとエンダイブが反対の名前で呼ばれるのと同じように、コートジボワールでは茄子と唐辛子が反対の名前で呼ばれるのかもしれない。ともあれ、屋台のアオティラピア焼き定食と比べると洗練されてはいるものの、特別なものではないなあ。その上、料理とスペイン産の安ワイン一杯とデザートのショコラフォンダンで21,000CFA(3,800円)は随分高いような。

 

IMG_8168

tabilistamasa4
ハタの茄子ソース、12,500CFA(2,250円)

 

 さて、ここまででアビジャン舞台芸術見本市「MASA」のレポートはいったん終わりにしよう。
 今回は僕にとって初めての西アフリカ。行く前は、日本の常識が全く通用しない遠い地球の反対側と心のどこかで思っていた。しかし、実際に訪れると、出会った人たちは礼儀正しくて伝統文化を大切にするなど、まるで戦前くらいの日本人を見ているような気分がした。でも、日本人よりもはるかに肉体派で、底抜けに明るく、陽気なのだから素晴らしい。今回、コートジボワールだけでなく、マリやナイジェリアやセネガル、タンザニアにも良い縁が出来た。MASAの次回は2022年3月。僕はもちろん再訪するつもりである。

 

tabilistamasa4

MASAの子供向けプログラムに集まった地元の小学生たち

 

tabilistamasa4
最終日の夜は嵐と落雷によりホテルは停電。真っ暗な部屋で荷物をまとめることになった

 

モロッコ料理の前菜、ケミア

 さて今回の料理は、今が旬の空豆を使って、久々にモロッコ料理。
 モロッコの中部に位置する古都フェズは、東西南北の地中海、大西洋、リフ山脈、アトラス山脈の中継地点としての地の利を活かし、モロッコ中から食材が集まるため、モロッコ一の食の都でもある。旬の野菜を軽く炒め煮にしてオリーブオイルとレモン汁、にんにく、香菜、そしてクミンパウダーやシナモンなどで味付けした「ケミア」と呼ばれる前菜がフェズを代表する料理の一つだ。ちょうどレバノン料理やトルコ料理のメゼのように、小さなお皿に盛り付けたケミアを十数種類ほどもテーブルに並べていただくのがフェズ・スタイル。生の空豆が手に入らなければ、冷凍もので作ってみても良いだろう。

■空豆と塩レモンのケミア
【材料:作りやすい量】
空豆:500g(約15房)(冷凍空豆50粒で代用可)
オリーブオイル:大さじ3
にんにく:1かけ
玉ねぎ:1/2個
塩レモン:1/2個分
クミンパウダー:小さじ1/2
水:大さじ3
香菜:30g
レモン汁:大さじ1
【作り方】
1.空豆は房から取り出し、薄皮に隠し包丁を入れておく。鍋にたっぷりの湯を沸かし、塩ひとつかみ(ともに分量外)を入れ、沸騰したら、空豆を加え、3分茹でてから、ザルに上げ、冷水にさらし、変色をふせぐ。扱いやすい温度まで冷ましてから、薄皮をむいておく。
2.フライパンにオリーブオイルを熱し、にんにく、玉ねぎを入れ、玉ねぎが透明になるまで炒める。みじん切りにした塩レモンとクミンパウダーを加え、軽く混ぜ合わせる。次に薄皮をむいた空豆を加え、軽く混ぜ合わせてから、水を足し、水分が飛ぶまで5分ほど炒め煮にする。
3.火を止めて、ボウルやお皿に移し、室温まで冷ましてからみじん切りにした香菜、レモン汁を混ぜ合わせ、出来上がり。
4.冷蔵庫で冷たく冷やすとさらに美味い。

 

tabilistamasa4

空豆と塩レモンのケミア。写真では薄皮をむいていないが、薄皮をむくとさらに中東っぽくなる
 

 

*この連載の一部をまとめた単行本『美味すぎる! 世界グルメ巡礼』を、今夏7月下旬に刊行予定です。現在、鋭意制作中。お楽しみに!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

orient00_writer01

サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

紀行エッセイガイド好評発売中!!

orient00_book01

イスタンブルで朝食を
オリエントグルメ旅

orient00_book02

おいしい中東
オリエントグルメ旅

   

 

旅とメイハネと音楽と
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー