東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#89

ミャンマー・モンユワ~ボディタタウン〈2〉

文・写真  下川裕治

終点、ボディタタウン駅 

 ミャンマーのモンユワからボディタタウンに向かう列車に乗っていた。

『東南アジア 全鉄道制覇の旅』が発刊されたが、いくつかの乗り残し路線があった。ミャンマーでは4路線。そのうち2路線は乗り、3路線目の列車だった。

モンユワ駅に姿を見せたのは、日本の中古車両のディーゼルカーだった。1両だけの列車は、モンユワ市内を抜け、乾いた土くれが目立つ農村地帯を進んでいった。

 この路線ははじめ、モンユワからマンダレーに向かう線路の上を走る。途中から分岐し、ボディタタウンをめざす。モンユワからマンダレーに向かう線路も、波打ち、左右にゆがんだひどい線路だったが、分岐した後は、目を覆うほどの線路になった。というより、草に覆われ、線路が見えなくなった。そうこうしているうちに、開け放されていた僕の席の窓が、バタンと音を立てて落ち、閉まってしまった。

 近くに座っていた乗客や車掌が慌ててやってきた。そして通路側に座るようにいわれた。おそらく偶然だったと思うが、そこから先、沿線の木々がガリガリとボディにあたるようになった。窓が開いていたら、確実に枝パンチである。

 枝パンチというのは、列車に押しのけられた木の枝が、開いた窓の間から勢いよく迫ってくることだ。これにあたるとかなり痛い。これまでのミャンマーの列車では何回か経験していた。

 車両は左右にゆっさゆっさと揺れ、時速20キロにも達しない速度で進んでいく。典型的なローカル路線になっていった。

 午前8時、技術大学という駅に停まった。青年がふたり降りていった。大学らしき建物はどこにも見あたらなかったが。もし、この大学が終点だったら、大学の休みと土曜日、日曜日は運休になっていた気がする。しかしこの路線は、その先のボディタタウンまで行く。そのおかげで、1日1往復だが、通年の運行が保たれていた。

 午前8時半、列車はボディタタウンに着いた。ここには1万体を超える仏像があるという寺があることで知られていた。ある意味、観光路線でもあるのだ。しかし終点で降りたのは数人で、寺に向かう客はひとりもいなかった。

「寺はどっちなんだろう」

 道を探した。すると運転手や車掌が、車内から電気式の鍋やまな板、包丁などを駅舎のなかの待合室に運び込んでいた。ゴザも用意されている。車掌は上着を脱いでそこに座り、市場で買った野菜を手でちぎりはじめた。

 朝食? 訊くと車掌は笑いながらうなずいた。モンユワに戻る列車は、午後4時57分発だった。それまで8時間以上ある。運転手や車掌は、待合室で煮炊きし、食事をつくり、そして昼寝をするのに違いなかった。いや、昼食も待合室でつくるのだろう。日本のJRの職員が見たら、天を仰ぐのに違いない。国は違えど、同じ国鉄の職員なのだ。

 

DSCN2122毎日、車掌と運転手は、その日のメニューを相談してるんだろうなぁ

 

 運転手に教えてもらい、林のなかの小径を進んだ。10分ほど歩いただろうか。灌木が植えられた林のなかに、かなりの数の仏像が見えてきた。これが1万体を超える仏像がある寺なのかもしれない。

 入口がどれなのかわからず、仏像の間から敷地に入ってみた。座像が並んだ列が40~50列。1列には30体以上の仏像がある。このエリアだけで1000体を軽く超える。よく見ると、仏像の顔がひとつひとつ違う。見たことはないが、中国の兵馬俑を巨大にしたような一帯だった。通路を挟んだ反対側にも、仏像が同じように1000体以上並んでいる。1万体というのは、さばを読んでいるわけではないようだった。

 しだいに暑くなってきた。すでに35度を超えているのかもしれない。はじめは仏像の多さに、戸惑いつつ、その間を歩いていた。しかしいくら歩いても仏像だらけなのだ。食傷気味になってくる。

 汗を拭い、水を一気に飲んで、高さが30メートルほどの塔にのぼってみた。そこでこの寺の構造がやっとわかった。正面の丘の頂に立像があった。その前に涅槃仏が横たわっている。調べると、立像の高さは130メートル、涅槃仏は111メートルだという。その両脇に巨大な座像が2体。そして丘の斜面から平地にかけて、僕が見た座像が、立像に向けてずらーと並んでいる。いってみれば、仏像だらけのテーマパークだった。

「こんなものをつくってしまったのか……」

 なんだか眩暈を覚えてしまった。

 寺の参道脇からバイクタクシーに乗って国道に出た。そこからバスでモンユワに戻った。

 実は前日、モンユワからマグウェまでのバス切符を買っていた。7時間ほどで着くという。そのバスは夕方の5時半発。列車を待っていたら間に合わなかった。

 ついにミャンマーの最後の路線に乗ることになる。

 

丘の周りを埋める仏像たち。これだけあるとありがた味も薄れる?

 

DSCN2140

塔の上から見た寺の全容。世界遺産とは無縁です。ただ大きく、広いだけですから

 

 

*バングラデッシュの「小学校校舎修繕プロジェクト支援」について

 本連載の筆者・下川裕治氏は28年ほど、バングラデシュ南部のコックスバザールで学校の運営にかかわっています。校舎の老朽化が進み、修理のためのクラウドファンディングを5月7日から始めました。このプロジェクトに興味を持たれた方は、下記のサイトをご覧いただければ幸いです。

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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