東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#88

ミャンマー・モンユワ~ボディタタウン〈1〉

文・写真  下川裕治

歴史のある街、モンユワ 

『東南アジア 全鉄道制覇の旅』が発刊された時点で、いくつかの乗り残し路線があった。ミャンマーでは4路線が残っていた。そのうち2路線は、発刊後に乗り、残っているのは、モンユワ~ボディタタウン、マグウェ~カンバヤだった。後者は大学路線で、大学が休みの期間と土曜、日曜は運休になる。ミャンマーの大学がはじまるのは6月。それを待ち、平日に向かうことになる。

 はじめにモンユワ~ボディタタウン間を乗りつぶすことにした。

 この徒労感満載の企画をはじめる前、ヤンゴンに住む知人に頼み、ミャンマー国鉄の本部から全国の路線を教えてもらうことにした。ミャンマー国鉄の中枢に訊けば、全路線がわかると思っていたからだ。これがそもそも、ミャンマーの全路線制覇という迷路の入り口だった。ミャンマー国鉄の本部は、全国の路線をすべて把握していなかったのだ。それでも大筋はつかむことができた。それをもとに進め、あとは地方の駅で訊いていくという作戦を立てた。

 モンユワは、ミャンマーのなかでは歴史のある街だった。ミャンマーでいちばん暑い街としても知られていたが、集まる路線は何本かある。何回かこの駅で乗り降りしたが、ボディタタウンへ向かう路線は駅員も教えてくれなかった。ヤンゴンの本部の資料にもなかった。1年以上の年月をかけ、なんとか一冊の本にまとまりかけた頃、この路線があることを知った。「どうして誰も口にしてくれなかったのだろうか」と唇を噛んだが、本の刊行前に乗りつぶす時間はもうなかった。

 バンコクから飛行機でマンダレーに向かった。そこから乗り合いバンでモンユワまで3時間ほど。まずモンユワ駅に向かった。以前、いろいろと世話になった駅長さんはもういなかった。配属替えがあったらしい。40歳代に映る新駅長さんが、時刻表を棚から引っ張り出して教えてくれた。それを見ると、1日2往復の列車があった。

「でもいまは1往復だけです。朝7時13分にモンユワを発車して、ボディタタウンに8時20分着。その列車が午後の16時57分に向こうを出発して戻ってきます」

「その間、運転手とか車掌は?」

「現地で待機ですね」

「……そうですか」

 運転手や車掌は、ボディタタウン駅で8時間以上も休憩をとる。なんといったらいいのかわからないスケジュールだった。

 

DSCN2102

モンユワ駅。何回も、何回もお世話になりました

 

 翌朝、6時半に駅に出向いた。切符を買った。駅長さんが手書きの切符をつくってくれる。運賃は100チャット、約7円──。

 ミャンマーの列車代が安いことは知っていた。毎日のように列車に乗っていた時期は、この安さが助かったが、今回はバンコクから飛行機でやってきた。利用したのはLCCとはいえ、片道1万円ほど。そして乗る列車が7円……。めげそうになってしまう。

 この列車はモンユワのひとつ先のアロンという駅が始発になる。モンユワ~アロン間はすでに乗っていたので無視し、モンユワ駅から乗ることにした。

 列車は5分ほど遅れてモンユワ駅に現れた。かつて日本を走っていたディーゼルカーが1両、ホームの中央に停車した。

 すでに10人以上の客が乗っていた。おばさんが多い。竹で編んだ籠や大きな袋のなかに野菜が入っている。市場のおばさん風情だ。モンユワ駅で学生風のふたりが乗った。途中には大学の駅がある。そこに通う学生かもしれなかった。

 列車はのろのろと発車した。5分ほど走っただろうか。線路に沿って市場が広がりはじめた。と、列車はゆっくりと停まった。ひとりのおばさんが、野菜籠をずりずりと動かす。市場の人がそれを受けとり、おばさんも降りていった。

 そこから10メートルほど進んだ。するとまた別のおばさんが、野菜と一緒に降りていく。そしてまた数メートル進むと……。

 列車はおばさんが店を広げる場所に丁寧の停まってくれるのだ。もちろん駅などない。そういうことになっていた。各駅停車ならぬ、各場所停車だった。ある場所では車掌が降り、そこに店を開くおばさんから野菜を買った。

 好きなところで停まってくれるバスはあるが、ミャンマーでは列車がその役割を担っていた。では駅とはなんなのか……という話になるのだが、妙にしっくりときてしまう。ミャンマーの地方を走る列車はこういうことになっていた。

 列車は市場が続く一帯を、停車しては数メートル移動し……といったペースで進んでいった。これでいいのかもしれない。ぼんやり市場を眺めていた。

 

DSCN2110ボディタタウン行き列車の運転席。客席と一体型になってしまった

 

市場で各場所停車していく。車掌が野菜を買いに列車を降りていく

 

 

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 本連載の筆者・下川裕治氏は28年ほど、バングラデシュ南部のコックスバザールで学校の運営にかかわっています。校舎の老朽化が進み、修理のためのクラウドファンディングを5月7日から始めました。このプロジェクトに興味を持たれた方は、下記のサイトをご覧いただければ幸いです。

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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