東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#86

タイ・BTSシーロム線

文・写真  下川裕治

バンコクの高架電車 

 東南アジアの全鉄道を乗りつぶす旅からは都市交通をはずしている。というか、用事があって東南アジアの首都を訪ねることが多く、いつのまにか全路線に乗ってしまうことが多いのだ。東南アジアの都市の電車網は、それほど複雑ではない。

 バンコクの交通網はBTSと呼ばれる高架電車とMRTという地下鉄。ここ2、3年の間に、どちらも路線をのばしている。昨年(2018年)末には、BTSのスクムビット線がケーハまでのびた。今年(2019年)の9月には、MRTも延長される。これまで、ワット・プラケオやワット・ポーは、車か船でしか訪ねられなかったが、中心街から地下鉄で一本という時代になる。

 おそらくバンコクという街の発展が、そういう時期を迎えているのだろう。都市交通の整備が叫ばれ、やっとできあがった頃には、すでに国の経済は頂点をすぎ、くだり坂にさしかかっている。それは都市というものの宿命にも映る。

 昨年末に開通したスクムビット線の延長路線に乗るつもりだった。が、その前に、シーロム線の終点まで行ってみることにした。沿線にあるワット・パークナムという寺が、日本人の間で妙に人気なのだという。そこも寄ってみようと思った。

 バンコクの中心からシーロム線に乗った。サパーン・タークシン駅をすぎると、チャオプラヤー川を越える。高架電車は対岸のトンブリー地区を進んでいく。

 

BTSのホームにあがっていくシーンを。朝夕はすごく混む

 

 タラート・プルー駅で降りてみた。ここが一応、ワット・パークナムの最寄り駅になる。ソーンテオという中型トラックを改装したバスが走っているという話だったが、見当たらない。仕方なくタクシーに乗った。5分ほどの近さだった。

 土産物店が並ぶ参道のような道を、タイ人の後をついて進む。靴を抜き、寺の施設のなかで日本人を探した。しかしタイ人が仏像の前で手を合わせているばかりで、日本人の姿がない。日本人がアップしている写真を観ると、緑色のガラスを積んだパゴダが映っている。それもない。

「日本人? それだったら、ここを出て、向かいにあるパゴダだよ。こっち側はタイ人だけだよ」

 ローソク売りのおじさんにそういわれ。パゴダまで行ってみた。大きな白いパゴダの内部が5階構造になっていて、日本人が集まるのは最上階。そこに緑色のガラス板を重ねたパゴダ。天井画もライトアップされ、一緒に写すと幻想的な写真を撮ることができた。誰が撮ってもうまく映る。インスタブームのなかで生まれた観光地だった。

 しかしタイ人は少なかった。昔から思うのだが、タイ人はパゴダの写真をあまり撮らない。そういう対象ではないのだろう。

 

DSCN1857

誰が撮ってもこういう写真が撮れる。それがインスタ人気を支える?

 

 BTSに戻り、終点のバンワーまでの料金を見た。安かった。一律15バーツ、約58円になっていた。

 タイ人は頭がいいのか、その場しのぎなのか……ときどき悩む。BTSの運賃もそうだった。通常は乗った距離で運賃が決まるのだが、BTSは間の駅数で運賃を決めていった。乗った距離は関係ないのだ。たしかにこうすると、運賃に端数が出ない。日本の都市を走る電車の運賃は、端数を切りあげたりしているが、そんなことは考えなくてもすむ。この話を聞いたとき、「タイ人って、ひょっとして頭がいいのかも」と思ったものだった。

 しかしこの運賃設定には無理があった。BTSのモーチット駅とサーパンクワイ駅の間は距離が長かった。住民から、その間に、もうひとつ駅をつくってほしいという要望は最初からあった。BTS側も、本来、駅をつくる予定だったというが、予算の関係か、ひとつ駅を端折っていた。

 新駅をつくる──。運営がある程度、軌道に乗ったBTSにしたら、予算的な問題はあまりなくなっていた。ところが利用者は、新駅反対に動いていった。運賃が駅数で決められていることを理解したバンコクの人たちは当然、こう考える。

「新駅ができたら運賃があがる」

 運賃があがるのは、新駅周辺に住む人ではなかった。そこを通過する乗客である。

 その後、どういうやりとりがあったのかはわからないが、いまだ新駅はできていない。

 終点のバンワーに着いた。脇では新しい駅が建設されていた。MRTがここまで延長するのだという。

 バンコクの都市交通網は、不協和音を残しながら、どんどん広がっていく。そのやり方も、ときに強引に映る。彼らなりに考えてはいると思うのだが。

 

DSCN1843

BTSのバンワー駅脇にMRTの新駅。もうできあがっている様子

 

 

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 本連載の筆者・下川裕治氏は28年ほど、バングラデシュ南部のコックスバザールで学校の運営にかかわっています。校舎の老朽化が進み、修理のためのクラウドファンディングを5月7日から始めました。このプロジェクトに興味を持たれた方は、下記のサイトをご覧いただければ幸いです。

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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