韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#85

古くて新しい鍾路3街の歩き方〈4〉

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 旅の楽しみといえば、景色を愛でたり、美味しいものを食べたり飲んだりすることだが、50歳を過ぎると、絵葉書のような風景を見たり、素材や作り方などを考えたりしながら飲み食いするより、その景色の中にいる人や、食堂の隣席で食べている人を眺めているほうが楽しかったりする。

 

 ソウルの鍾路3街(チョンノサムガ)は韓国でもっとも人間観察が楽しいエリエだ。

 人生経験を重ねた高齢者が多く、80年代から韓国を旅している日本人が魅力を感じたであろうアジア的な荒々しい人間模様が健在だ。十年ほど前から目立ってきたLGBTの人たちが人目を気にせず飲酒やおしゃべりを大らかに楽しむ風景も、鍾路3街のおなじみの風景となった。

 

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鍾路3街駅4番出口の向かい側から見た屋台通り。右手奥が楽園商街ビル

 

 さらにここ数年、鍾路3街駅の3~8番出口沿いの屋台通りや、その北側の益善洞(イクソンドン)に若いカップルや女子会風のクループが集まるようになったため、その風景はさらに重層的になっている。

 

02益善洞のにぎわいは鍾路3街の新しい風景

 

灰色のヘジャンクッ屋さんで 

 仁寺洞(インサドン)のメインストリートから楽園商街ビルのトンネルを抜けて鍾路3街エリアに入ると、すぐ右手に楽園洞(ナグォンドン)の象徴といえるヘジャンクッ屋さん『ソムンナンチプ』がある。

 牛肉でダシをとり、ダイコンの干し葉や豆腐といっしょに煮込んだスープ(ごはんとカクトゥギ付き)が2000ウォンで食べられることで有名な店だ。

 

03最近は「安いからではなく、美味しいから通う」と言う日本の旅行者も多い

 

 スープはもちろん安くて旨いのだが、この店ではなにより人間観察が楽しい。

「オレは一生この2000ウォンのクッパを食い続けるんだろうか?」

 とでも思っていそうな中年男性の丸い背中。

 占い師なのか、放浪者なのか、それともファッションなのか、派手な韓服に両班風の帽子までかぶってこの庶民空間に現われるご老人。この店は相席がふつうなのだが、この場違いな時代劇老人に突っ込むこともできず、苦笑いしながらスープをすする隣席の男性の顔を見ているのも愉快だ。私の隣りに座ってくれれば、絶対に老人に話しかけ、この微妙に気まずい空気を解放するのに……。

 

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ほとんどが一人客なので、日本の旅行者のひとりメシハードルがもっとも低い店ともいえる

 

 私がこの店を初めて著作で取り上げたのは、2001年だったと記憶している。当時は食堂というより、恵まれない人たちに安く食事を提供する炊き出しのような雰囲気だった。そのため日本の若者には強くおすすめできなかったが、最近はSNSなどでたびたび紹介されたこともあり、これまた場違いな一人旅らしき日本女性がこの灰色の世界にベージュのコートとスーツケースで現れたりする。そのとき隣席になったおじさんの顔を見るのもまた一興である。

 

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不景気ということもあり、安く食事がすませられる店として広く知られるようになった

 

 ソジュやマッコリも出しているが、大人数で宴会するような店ではない。酔って大声をあげたりする人もほとんどいないので、日本の旅行者も臆せず入店してみてほしい。

(つづく)

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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