韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#84

映画『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』のこと

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 連載中の『古くて新しい鍾路3街の歩き方』は1回お休みさせていただき、今回は6月8日(土)から日本で公開される映画『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(チャン・リュル監督)についてふれたいと思う。

 

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『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』は6月8日(土)、ユーロスペース(渋谷)ほか全国で順次公開

映画公式サイト→https://apeople.world/gyeongju/ ©2014, LU FILM & INVENT STONE

 

 同作は北京の大学に勤める韓国人大学教授チェ・ヒョン(パク・ヘイル)が、慶州で2日間を過ごし、伝統茶屋の主人コン・ユニ(シン・ミナ)など訳ありな人々と出会う物語だ。

 

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『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』の主人公、チェ・ヒョン(パク・ヘイル)とヒロイン、コン・ユニ(シン・ミナ) 

©2014, LU FILM & INVENT STONE

 

散漫な鑑賞者 

 『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』(以下、『慶州』)の登場人物のなかで、この世の者ではないのは誰か?

 そんな謎解きが話題になっているようだが、私はどんな映画を観ても、主題よりキャスティングや撮影地のほうが気になってしまう。つまり、見方が散漫なのである。その意味で、『慶州』は私のような散漫な鑑賞者をじゅうぶん満足させてくれる。

 チャン・リュル監督はいたずら好きなのか、ストーリーに整合性を求める人をせせら笑っているような気配がある。ふつう映画監督というものは、俳優の過去の出演作の人物像や、他の映画のセリフを観客が思い出したりしないよう演出すると思うのだが、この作品はそうしたことをいちいち想起させるのだ。

 その例をいくつか挙げてみよう。

 

『殺人の追憶』の少女 

 日本で韓国映画やドラマが話題になる直前の2003年に公開された映画『殺人の追憶』(ポン・ジュノ監督)。同作でパク・ヘイルは連続強姦殺人事件の容疑者(聡明そうな技術者)を演じたが、そのラストシーンの田園風景の中で元刑事役のソン・ガンホに話しかけた少女(チョン・インソン)を覚えているだろうか。

 彼女の十年後の姿が『慶州』の高速バスターミナル脇の観光案内所(実在)でヒョン(パク・ヘイル)に話しかけた若い案内員である。

『殺人の追憶』の少女は、事件の数年後、死体が発見された現場を再び訪れた容疑者らしき男を見たと元刑事に伝える。同作で田んぼから飛び出してくる男が女子を襲う場面をスローモーション再生するとわかるが、明らかにパク・ヘイルの顔が確認できるので、私は彼が犯人だと思っている。

 捜査の手から逃がれた犯人はやがて大学教授となり、大人になった少女と再会した。そんな妄想をしてしまう。観光案内員となった少女は無邪気だが、ヒョンにどこか異常性を感じている。なお、パク・ヘイルの『殺人の追憶』での役名はヒョンギュ(현규)で、『慶州』のヒョン(현)と一文字重複している。

 

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陰のあるチェ・ヒョンは、『殺人の追憶』の容疑者、パク・ヒョンギュとどこか重なる ©2014, LU FILM & INVENT STONE

 

ホン・サンス監督『次の朝は他人』のあの男 

 ホン・サンス監督の2011年の作品『次の朝は他人』の終盤、ソウルの北村をさまよい歩く主人公(ユ・ジュンサン)と偶然再会する人のよさそうな作曲家(ペク・ヒョンジン)は、『慶州』の酒席でヒョンにこびへつらった挙句、酔って暴言を吐く大学教授だった。

 

『八月のクリスマス』のタリム(シム・ウナ)のセリフ 

 さらに終盤、ユニ(シン・ミナ)が古墳に語りかけるセリフ「トゥロガド テヨ?」(入ってもいいですか?)と「トゥロガド テニャゴヨ」(入ってもいいですかって聞いているんです)は、日本の韓国映画ファンなら知らない人はいないであろう名作『八月のクリスマス』(1998年、ホ・ジノ監督)で、恋心をいだき始めたヒロイン(シム・ウナ)が、ガラス越しに主人公(ハン・ソッキュ)話しかけたときのセリフとまったく同じである。

 

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同作では慶州の陵(ヌン=古墳)が美しく描かれる ©2014, LU FILM & INVENT STONE

 

ホン・サンス監督『気まぐれな唇』のあの男 

 ヒョンが勤務先の北京から韓国に行ったのは、先輩の葬儀に出るためだった。本作の終盤、7年前にまだ健在だった先輩とともに慶州の伝統茶屋で春画を観る場面でハッとした。

 先輩役の俳優は、春川や慶州で撮影された『気まぐれな唇』(2002年、ホン・サンス監督)で、主人公の先輩を演じたキム・ハクソンだったのだ。同作で彼は春川を立つ主人公に、「人に人以上のことを求めるな」という言葉を投げる。主人公は気まずさをかかえたまま釜山に向かうが、ひょんなことから慶州で途中下車する。

 

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ハイライトシーンは慶州の陵の隣りに位置するゲストハウスで撮影された ©2014, LU FILM & INVENT STONE

 

 誰がこの世の者で、誰がこの世の者でないのか? それだけでも悩ましい映画なのに、どこかで見たような役者が、どこか同じ匂いのする役柄で登場する。どこかで聞いたようなセリフもちりばめられている。

 あ~、もやもやする。

 記憶はおろか、目に見えるもの、耳に聞こえるもの、なにひとつ確かなものなどない。チャン・リュル監督は観る者にそんなメッセージを送って、いや送っていない。未整理のまま投げつけてくる。

 しかし、それが不快でないどころか、何度も観たくなってしまう。じつにやっかいな映画なのだ。

 

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劇中、ユニの住まいとして撮影に使われたゲストハウスの目の前に広がる古墳群

 

*8月30日(金)~9月1日(日)の2泊3日、本コラムの筆者・鄭銀淑が同行する慶州ツアー(成田発、大阪発)を催行予定です。映画のハイライトシーンが撮影されたゲストハウスに宿泊しますので、『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』の世界にどっぷりつかれます。日本~韓国の飛行機を自己手配すれば、現地集合・現地解散も可能です。詳しくは下記で。

http://web.suntravel.co.jp/page/tour/tour002.aspx?RT_CD=RT52&S_CD=01&GOODS_CD=201912019KJTOUR

 

 

*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でご覧いただけます。

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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