東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#84

台湾・集集線〈1〉

文・写真  下川裕治

台湾の未乗車路線は2路線だった 

 東南アジアの全鉄道を乗りつぶす──。残ってしまった路線を前に足踏みが続いている。ミャンマーの未乗車路線はふたつあるのだが、そのひとつがマグウェイからカンパヤまでの大学線だった。しかしミャンマーの大学は5月末まで休暇。1年のなかでいちばん暑い時期。日本でいったら夏休みにあたる。

 以前、この路線に乗ろうとマグェイ駅まで行った。しかし大学がはじまらないと運行されないといわれ、未乗車のままになっていた。ミャンマーのことだから、その後、状況が変わっているかもしれないが、まだマグウェイまで行って乗れなかった、ということは避けたかった。

 カンボジアのプノンペンとポペトを結ぶ路線も乗れずにいる。すでに線路の修復は終わり、運行がはじまっているのだが、その本数が少ない。週1本あるかどうか。そしてその運行日がはっきりしない。

 カンボジアには、プノンペンとシアヌークビルをつなぐ路線もあり、運行がはじまっている。この路線はすでに乗っていた。当時は週末だけの運行だった。カンボジアの国鉄は、

「これは試運転。間もなく毎日運転になります」

 と説明していた。ところがそれから1年以上がたち、プノンペンの空港線に乗るためにプノンペン駅のホームに立つと、反対側にシアヌークビル行きが停車していた。その日は日曜日だった。もう毎日運行になったと思い、駅員に確認すると、相変わらず週末運行だった。1年以上も試運転を行っていることになる。

「やる気があるんだろうか」

 一瞬、そう思ったものだった。そんなカンボジアの国鉄である。プノンペンとポイペトを結ぶ路線も、気長に待つしかない。

 この連載は、曲がりなりにも、月2回のペースで進んできた。未掲載の時期ができてしまう。

 そのとき台湾にいた。台湾は東南アジアから外していたのだが、ほぼ全線を乗っていた。未乗車路線は2路線だった。乗りつぶし旅を続けてきた身には、こういう少し残った状態の居心地が悪い。この性格が深みにはまっていくことになることはわかっているのだが、やはり気になるのだ。

 結局、台北駅に向かってしまった。内心、忸怩たる思いがあるのだが、やはり気になってしまうのだ。困ったものである。

 台湾の鉄道路線は単純だ。台湾の西海岸を走る西部幹線、東海岸の東部幹線、そして南廻り線を乗り継いでいけば一周できる。支線は6路線ある。そのうち沙崙線と六家線は台湾の新幹線への乗り継ぎ用の支線だ。それ以外に平渓線、深奥線、内湾線、集集線、阿里山森林鉄路という支線がある。その多くが、海岸線の都市から中央の山間部に向けて走る行き止まり線。盲腸線と呼ばれるものだ。

 そのうち、集集線と阿里山森林鉄道が残っていた。

 集集線に乗ってみることにした。

 午前中、用事があったので、昼すぎに台北駅に向かった。集集線は西部幹線の二水という駅から山間部に向かってのびている。まず二水駅に向かわなくてはならない。

 台北駅の案内は充実している。二水まで行きたいと伝えると、いちばん早い組み合わせを教えてくれた。自強号という特急で彰化まで行き、そこから區間車と呼ばれる普通列車で二水まで。メモの漢字と数字で駅名や列車番号、時刻などを書き込んでくれ、それを発券窓口にもっていく。簡単に二水までの切符が手に入った。運賃は462元、約1617円だった。

 その足で鉄路便當を買う。日本でいう駅弁である。台湾をかつて統治した日本は、多くのひずみを残したが、日本の食文化も根づかせた。そのひとつが駅弁文化だと思う。

 台北駅には鉄路便當の専門店があり、いつも列ができている。僕もそこに並び、チキン弁当を手にホームに向かった。

 

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台北駅。なんの不安もなく列車の切符を買うことができるのは、アジアでは台北駅だけ?

 

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鉄路便當。肉類がドーンと載るのが特徴。これで100元、約350円

 

 乗ったのは、彰化行きの普悠瑪だった。プユマと読む。正式には普悠瑪自強号というようだ。台湾の列車は、電化が着実に進んでいる。自強号は特急という意味になるが、そのなかの電車に普悠瑪という名称をつけていた。

 駅弁を食べ、少し寝ると彰化という距離だった。2時間ほどである。そこから區間車で二水に着いたのが午後4時。次の集集線は5時半発だった。

 二水は典型的な地方都市だった。ここから日月潭に行く人がいるようで、タクシーの運転手が声をかけてくる。

 集集線の終点は東埕。自動販売機で切符を買った。45元、約158円。2番ホームに向かった。

 

二水駅。1番ホームから集集線の列車が停車する2番ホームへ。地下道を渡る

 

(台湾編、続く)

 

*バングラデッシュの「小学校校舎修繕プロジェクト支援」について

 本連載の筆者・下川裕治氏は28年ほど、バングラデシュ南部のコックスバザールで学校の運営にかかわっています。校舎の老朽化が進み、修理のためのクラウドファンディングを5月7日から始めました。このプロジェクトに興味を持たれた方は、下記のサイトをご覧いただければ幸いです。

https://a-port.asahi.com/projects/sazanpen/ 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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