旅とメイハネと音楽と

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#84

ワルシャワの人気ユダヤ料理店

文と写真・サラーム海上

ポーランドにおけるユダヤ料理の今昔

 2019年8月末から9月上旬にかけて訪れたポーランド。たったの7泊8日の滞在だったのに、気づくと既にTabilistaで11項目も記事を書いていた! 

 ポーランドには東ヨーロッパ、スラブ、旧共産主義、中世キリスト教、ユダヤ教、ホロコースト、そして21世紀のグローバリゼーションと様々な側面があり、その1つ1つが興味深いのだが、一回の短い取材旅行で全てを見渡すのは不可能だ。しかし、それでも、ここまで多くの収穫があった。毎日、朝から晩まで僕につきっきりでポーランド語を日本語に同時通訳してくれた通訳の小見アンナさんのおかげだ。この場を借りて、彼女にお礼を述べたい。(読んでてくれてるはず!)
 さて、今回はそんなポーランド編の最終回。若者の間で人気のユダヤのベジタリアン朝食ブッフェ、そして、一世紀前のレシピに沿ったユダヤ伝統料理、更に現在ポーランドでトレンドともなっているイスラエルのヴィーガン料理の3つ、ポーランドにおけるユダヤ料理の今昔を取り上げよう。


 9月1日日曜午前10時前、僕はアンナさんに連れられ、ワルシャワ中心地のセントラム地区を歩いていた。繁華街に面した通りから、細い路地を曲がると、急に静かな中庭のような場所が広がり、そこにこの日の最初の目的地、『JCC Warszawa(ユダヤコミュニティセンターの略)』があった。
 ポーランドにはユダヤ人の団体が数多く存在していて、中でもJCCは若者が多く、現代のユダヤ文化を外側に伝えるためのプログラムを数多く行っている団体とのこと。JCCの隣にはなんとドイツ文化を世界に広めるための文化施設ゲーテ・インスティテュートが建っていた。

 ユダヤとドイツは今も因縁の仲と思われがちだが、ドイツ政府は長年かけてユダヤ人に対してホロコーストの謝罪を行い続けてきた。その甲斐があって、僕の友人でもドイツに拠点を移して活動するイスラエル人アーティストたちは少なくない。日本でも人気のイスラエルの若手シンガーソングライター、Jラモッタ・すずめもベルリン在住だ。

 

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ワルシャワ・セントラム地区の静かな一角にあるJCC Warszawa(ユダヤコミュニティセンター)

 

 JCCは二階がイベントホール、そして一階はカフェになっていて、毎週日曜の午前中はユダヤの食事規律コシェルートに基づいたベジタリアン料理を幾品か並べ、ブッフェ形式で提供している。料金は25ズロチ(約750円)。
 10時からのスタートで、店内のテーブルにちょうど料理が並び始めていた。大皿にはビーツとブルグルと青ネギのサラダ。マゼンタとグリーンの鮮やかなコントラストはいかにもイスラエル料理だ。更に茹でた人参のサラダ、ポテトサラダ、グリーンサラダ、りんごやベリーのピュレ、オートミールやマフィンなどなど。ちょうどイスラエル料理とポーランド料理が半々だ。パンとコーヒーもおかわり出来る。
 テーブルにお皿が並ぶに連れ、カフェに次々と若者たちが集まってきた。隣のテーブルの若者二人に話しかけると、二人ともユダヤ人ではなく、ポーランド人だった。しかも一人はワルシャワではなく、ベルリンに住んでいると言う。ユダヤ料理については何も知らなかったが、他のお店と比べてヘルシーな野菜料理中心で、しかも値段も安いので、週末にワルシャワに遊びに来た時は必ずここで朝食を食べるのだそうだ。
 朝食ブッフェと言っても正午で終了するわけではなく、多くのお客さんたちはお店で友人と待ち合わせ、お腹いっぱいになって、友人たちが揃うまで、午後いっぱいゆったり過ごすそうだ。

 

IMG_9633JCC Warszawaのカフェでは日曜限定の朝食ブッフェが開催中

 

IMG_9629JCC Warszawaの朝食。各テーブルにこのように大皿料理が並び、お客はブッフェ形式で分け合っていただく

 

 正午に市内南部にあるワジェンキ公園で日曜定例のショパン・コンサートを見学した後、午後一時過ぎにシャルロット・メノラー近くのプロジュナ通りに戻る。ここは週末になると古本から手作りのアクセサリー、ハーブや蜂蜜、お手製のアクセサリーなどの屋台が並び、地元の人々でごった返す。

 

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ワジェンキ公園にて日曜定例のショパン・コンサート。芝生で聴くショパン!
 

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週末のプロジュナ通りに並ぶ屋台。蜂蜜もポーランド名産の一つ


 昼食は野外テラスに主にイスラエル人の観光客が集っていた『Cafe Prozna』で。かつてのユダヤ人ゲットー内に位置するこの店は、100年前、20世紀初頭のアシュケナジ(東ヨーロッパ系ユダヤ人)が食べていた伝統料理を売りにしている。そこで黒板のおすすめメニューから伝統的な料理ばかりを選んで注文した。

 

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プロジュナ通りのCafe Prozna。20世紀初頭のアシュケナジ伝統料理が食べられる

 

 まずは「サムエルのスープ」。サムエルとは旧約聖書に登場するユダヤの指導者で、古代イスラエルの二人目の王、ダビデに祝福を与えた。牛肉、豆、人参、玉ねぎなどをトマトで煮こんだスープ。ミネストローネやモロッコのショルバに近く、悪くはないが、ポーランドには他に美味しいスープが幾つもあるから、無理して頼む必要はないだろう。
 二品目は「チョップト・レバー」。これはポーランド語では「ユダヤ人のキャビア」と呼ばれている。鶏のレバーを炒めて、茹で卵とともにマッシュし、この店ではゴルフボール大に丸めてある。僕はイスラエルの友人、ヤルデンから習い(#19イスラエルヤルデンのホームパーティー、そのレシピは拙著『MEYHANE TABLE More!』に掲載しているが、香りづけにブランデーを使い、キャラメリゼした玉ねぎを添えている。しかし、この店はそれらを使わないもっともっと素朴な地味な味付けだった。彩りのためミニトマトとサラダ菜こそ添えられてはいたが、それがなければ本当に100年前の味だ。僕が作るほうが美味いような……。
 三品目は「ユダヤ風ニシン」。これは酢漬けのニシンときゅうりのピクルス、玉ねぎをサワークリームでマリネしたもので、ポーランド料理やオランダ料理にも同じものがあって、ユダヤ料理ならではの違いはわからない。しかし、単純なニシン酢漬けが美味くないわけがない。
 そして、四品目のメインディッシュ「ガチョウの腎臓とカシャ(雑穀)の煮込み」がヘビーだった。ガチョウの腎臓を香味野菜で煮て、カシャを加え、ドロドロになるまで煮込んだもの。現代的に乾燥プルーン、ミニトマト、そしてブルーベリーをアクセントに加えてはいるものの、全体にどどめ色で田舎臭いし、何より胃に重い! 申し訳ないけれど完食は無理……。他のお客さんたちはこんなの食べられるのだろうか? 

 ふと、周りのテーブルを見渡すと、どのテーブルの上にも並んでいるのはファラフェルやグリーンサラダなど、地中海〜中東系のユダヤ料理=要はヘルシーでライトなイスラエル料理ばかりだった。僕たちだけがアシュケナジの料理をフルコース頼んでいたのだった。100年前の伝統料理を残暑の厳しいワルシャワで食べる必要はなかったかもねえ……毎回勉強になります……。

 

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サムエルのスープ。なぜ彼の名前が付いているのかは聞き忘れた

 

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チョップト・レバー、ポーランドでは「ユダヤ人のキャビア」とも呼ばれている

 

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ユダヤ風ニシン。あまり見た目は美味そうではないなあ……

 

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ガチョウの腎臓とカシャ(雑穀)の煮込み。田舎料理である……


 午後はプロジュナ通りからすぐ近くのシナゴーグで、ジンガー・フェスティバルのプログラムであるポーリッシュ・ストリング・カルテット・ベルリンのコンサートを観た後、早い夕食にワルシャワ工科大学近くのポズナィンスカ通りへと向かった。

 

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午後はシナゴーグでPolish Strings Qtt. Berlinによる、ユダヤ人作曲家シモン・ラクスの演目公演。シモン・ラクスはアウシュビッツとダハウの2箇所の強制収容所を生き延び、戦後に作曲家として活躍した

 

 ポズナィンスカ通りはヴィーガン料理店や日本料理店、中東料理店などが並ぶ新たなグルメ通り。その一角にあるのがオシャレな超人気イスラエル・ヴィーガン料理店『Tel Aviv』。予約した夕方6時はまだ早い時間にも関わらず、野外テラスまで満員。
 肉料理の美味いポーランドまで来てなぜにヴィーガン?と思う人も多いだろう。だが、ヘルシー志向の高まりに伴い、現在、ワルシャワはベルリンに次ぐヨーロッパ第2のヴィーガン都市となっているそうだ。元々、ポーランドのカトリックには四旬節をはじめとする肉食禁止の日が多く、ポーランド人にとってベジタリアンやヴィーガンというアイディアは意外にも受け入れ易かったのだそうだ。
 それにしても連日の食べ過ぎのせいで、食欲がないまま来てしまったのがイタイ! だが、お洒落なレストランで「お待ちしてました。今日は貴方たちのためにシェフが特別な料理コースを用意しています」と言われては後に引けない!

 

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ポズナィンスカ通りの超人気イスラエル・ヴィーガン料理店「Tel Aviv」の野外テラス席。皮肉なことに道路を挟んだ正面にはレバノン料理店「ベイルート」が……。遠くヨーロッパの北まで来てもイスラエルとレバノンは喧嘩しあっているのかあ……

 

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Tel Avivはメニューもこんなにオシャレ!


 食前酒に林檎の国ポーランドらしいシードルを飲んでいると、早速運ばれてきた前菜は前回にレシピを紹介した、すりおろしたじゃがいもののパンケーキ「プラツキ・ジェムニアチャネ」。ユダヤのイディッシュ語では「ラプケス」と呼ぶそうだ。イスラエル料理の要素として、にんにくヨーグルトのソース、ざくろとイチジクが添えられている。水色のお皿も焦がした料理の色とマッチングしている。
 続いては「ヴィーガンのクッベスープ」。クッベとはアラビア語やヘブライ語で団子を指す。イスラエルでは通常、ひき肉を詰めた小麦粉生地のクッベを浮かべるが、ここではヴィーガン料理だけにキノコを詰めたクッベが浮かんでいる。ポーランド名物のポルチーニを使ったスープは野菜だけとは思えないほど濃厚だ。これは美味い! 食器も和食器のようなボウルが用いられ、どこか日本のすいとんを思い出した。
 そしてメインはお皿の右側に豆、玉ねぎ、茄子のトマト炒め、左側にはビーツとパールクスクスときゅうりのサラダが盛り付けられ、上にはザータルで味付けた細い人参のソテー。サラダの上にかかっているフェタチーズのように見えるのはなんと豆腐! 水をしっかり切った堅い豆腐に塩を降り、ポロポロにほぐしてある。ビーツとパールクスクスのサラダはやはり「MEYHANE TABLE More!」にもレシピを掲載しているが、イスラエルやトルコのフュージョン系のお店では新定番となっている。ラタトゥイユに似た野菜のトマト煮とさっぱりしたサラダ、そして甘い人参がそれぞれに異なる食感や味を寄せ合い、ビビッドに弾けるような一品だ。美味い! 
 それにしても、先ほどまで腹一杯で何も食べられない!と言っていたのに、どの料理もするりと胃袋に入ってしまった。いやあ、これまでヴィーガン料理には愛憎入り混じる思いがあったけど、これだけハードな食べ歩きが長期間続くと、身体のためにヴィーガン料理で休息するのは悪くない。いやはや反省しました!

 

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ポーランド人のソウルフード、ジャガイモのパンケーキ、プラツキ・ジェムニアチャネも少しだけイスラエル風

 

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ヴィーガンのクッベスープは「ポルチーニ出汁のすいとん」とでも呼びたい!

 

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メインは「ヴィーガン・シャクシューカ」とでも呼ぼうか。食感の異なる野菜料理が並び、それぞれを際立たせる!

 

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食後にシェフのミハルに挨拶した。「肉料理を作るのに飽きてしまった時に、この店のオーナーのマルカに声をかけられたんだ。メニューはマルカとほかのシェフ達と話し合い、中東とポーランドの料理を元に新しいヴィーガンの料理を作っています。日本料理からの影響も入っていますよ」

 

イスラエルの魚料理、ハライメ

 

 今回のレシピはモロッコ起源のイスラエルの魚料理「ハライメ」を作ろう。白身魚の切り身を、クミン、パプリカ、ニンニク、砂糖、レモン、そしてアニス酒のラクを効かせたトマトソースで煮込んだスパイシーな魚料理だ。

 トマトソースの部分はイスラエルのポーチドエッグ「シャクシューカ」から卵を抜いたのとほぼ同じ。スパイスを効かせて甘じょっぱく作ろう。イスラエルではボラが人気だが、日本では鮭や鱒、鱈、鯛が美味しい。

 

■ハライメ:白身魚のスパイシートマトソース煮

【材料:2人分】
鮭や鱒、鱈、鯛など(写真では鱈を使った):切り身2枚
塩:少々
EXVオリーブオイル:大さじ2
鷹の爪:1本(種とヘタを取っておく)
赤パプリカ:2~3個(種とヘタを取り、ざく切り)
にんにくすり下ろし:2かけ分
パプリカパウダー:小さじ2
クミンパウダー:小さじ1/2
7スパイスまたはバハラット、なければオールスパイスとナツメグ:小さじ1/2
ラク、またはウゾ、ペルノー:大さじ2
ハリッサ:小さじ1
カットトマトの水煮:200g(1/2缶)
砂糖:小さじ2
水:1カップ
塩:小さじ1/2
レモン汁:大さじ1
香菜のみじん切り:1袋分

【作り方】
1.魚の切り身に塩をふっておく。
2.底の厚い鍋にEXVオリーブオイルを入れ火にかける。温まったら、鷹の爪、赤パプリカを足し、10分炒める。
3.弱火にして、にんにくのすり下ろし、パプリカパウダー、クミンパウダー、7スパイス、ラクを足し、アルコールが飛ぶまでよく混ぜる。
4.ハリッサ、カットトマトの水煮、砂糖、水を加え、15分煮る。塩で調味する。
5.魚は水分を拭き取ってから、鍋に並べ、魚の身に火が通るまで蓋をして5分煮る。
6.レモン汁を振りかけてから、魚の身が崩れないようにお皿に盛り付け、香菜のみじん切りをたっぷり散らして出来上がり。

*温かいうちに召し上がれ!

 

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イスラエルで人気の魚料理「ハライメ」。モロッコ起源とは言うものの、僕はまだモロッコでは見たことない……。まあ魚のタジンのバリエーションでしょう
 

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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