台湾の人情食堂

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#82

西台北の輝き再び〈2〉大稲埕編

文・光瀬憲子

「1泊2日で初めて台湾に行くんだけでど、絶対に行くべきエリアはどこ?」

 友人からそう聞かれて私が答えたのは大稲埕(ダーダオチェン)エリア・迪化街(ディホァジエ)だ。迪化街はすでに台湾リピーターのあいだでおなじみの乾物街。迪化街というのは1本の長い通りの名前で、この迪化街を含む南京西路以北、重慶北路以西のエリアをざっくりと大稲埕と呼ぶ。

 前回紹介した艋舺(萬華)は、淡水河をへだてて板橋(バンチャオ)という台北郊外の街と橋でつながっていたが、この大稲埕はそれよりも北側にあり、淡水河の向こうは三重(サンチョン)という街だ。三重と台北市内とをつなぐ台北橋や大稲埕港があることで知られ、艋舺と並んでかつては大いに栄えた。その最たる証が一大観光名所の迪化街というわけだ。

 

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西台北と三重・板橋を隔てる淡水河には何本もの橋がかかっている。60~70年代に栄えた西台北に憧れをいだき、みなこの橋を渡った。写真はこの辺りを舞台にした映画『台北暮色』の一場面。同作品はユーロスペース/元町映画館で5月4日から上映される。

写真提供:A PEOPLE CINEMA http://apeople.world/taipeiboshoku/

 

これまでの迪化街 

 迪化街は南京西路から民権西路まで続く一本道で、そのなかでも南京西路から北へ向かうエリアには日本時代のバロック式建築や清朝の閩南式建築が数多く残されている。

 老舗の食堂や乾物店、漢方薬局などがずらりと立ち並び、1軒1軒を物色しながら歩くだけでとても楽しい。初めて台湾を訪れるなら絶対に体験してほしい、日本と台湾の歴史を感じさせてくれる風景だ。

 

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迪化街にはレンガ造りの古い建物が多く、漢方薬局や乾物店が軒を連ねている

 

 また、日本では高価なからすみや干ししいたけといった食材が手に入りやすいので、お土産ショッピングも楽しい。

 迪化街がもっとも賑わうのは旧正月前の一週間。年越しに必要な菓子や乾物、帰省時の土産物などを買うために台北近郊から大勢の買い物客が押し寄せて、まるでお祭りのような騒ぎになる。

 ふだんの迪化街なら、早朝は永楽市場付近の食堂に足を運んでみてほしい。地元の人が愛してやまないビーフンスープなどは朝限定だ。永楽市場では生鮮野菜や肉類などが売られて、台湾の日常を垣間見ることができる。11時頃になると乾物店や土産店がオープンして旅行者も増え、さらににぎわいを増す。

 

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大稲埕の迪化街はリノベーションブーム。古い建物がおしゃれな雑貨店やカフェに

 

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台湾のカフェ人口はうなぎのぼり。伝統的な迪化街にもカフェを楽しむ若者が集う

 

 

新しい迪化街 

 迪化街ではこんなふうに台湾独特の文化や風情を楽しめる一方で、最近リノベーションが進んでおり、大正ロマンのようなレトロな一面も楽しめる。

 迪化街と平行する延北北路と南京西路の交差点に構える重厚な雰囲気の『森高砂咖啡館』は台湾原産のコーヒー豆を使うことにこだわったカフェ。洗練された店内は落ち着いた大人の空間が広がっている。

 オープンして数年だが、店主の董(ドン)さんはすでに十数年にわたり台湾コーヒー豆プロジェクトをけん引してきた人物だ。台湾原産のコーヒー豆の多くは日本時代の名残だと言われている。日本人が烏龍茶を作る茶畑のそばにコーヒー豆の栽植を始めたのがきっかけだ。

 その後、日本時代が終わると同時に畑は放置され、コーヒー豆の木が台湾の自然の中で独自の成長を遂げたという。そんなコーヒー畑を新たに管理し、育て、商品化したのが森高砂のオーナー董さんなのだ。

 台湾産の珈琲は産地によって味も風味も異なる。董さんが淹れた深みのある台湾珈琲をゆったりとした空間のなかで味わってみたい。

 

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重鎮な雰囲気の森高砂咖啡館では台湾原産のコーヒー豆だけを使った奥深いコーヒーが味わえる

 

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店長の董さんのアイスティーはドリップしたコーヒーを即座に氷に触れさせることで旨味を閉じ込めるのだとか

 

 昼の部でコーヒーを楽しんだら、夜の部はおしゃれなバーに足を運んでみてはどうだろう。迪化街にはここ数年でリノベーションされたバーやレストランが点在している。そのなかでも比較的早くにオープンした、地元台湾人御用達のカフェバー『Le Zinc洛』は、西洋風の店構えだが台湾の素材を取り入れたメニューが楽しめる。

 台湾と日本が融合するレトロな空間で台湾産の濃厚なからすみで白ワインを傾けるのも乙なものだ。カジュアルなバーなので適度なにぎわいはあるが、大人がゆっくりとおしゃべりをするのに適している。

 午前10時から営業しているので、カフェとしても利用できる。エスプレットやサンドイッチといったメニューも豊富だ。

 

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迪化街にいち早くオープンしたカフェバー『Le Zinc洛』。カジュアルで過ごしやすい店内

 

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カラスミとワインという組み合わせが楽しめるのも台湾の迪化街らしい。濃厚なカラスミがさっぱりした白ワインに合う

 

 

慈聖宮の境内で神様との酒宴 

 おしゃれな迪化街をご紹介したところで、大稲埕の本命でもあるローカル色の濃厚な世界に足を運んでみよう。

 大稲埕には台北きっての昼飲み天国が存在する。なぜ天国かと言えば、神様と一緒にお酒が飲めるからだ。慈聖宮という大稲埕の中心に位置する廟前には昼飲み屋台がずらりと並ぶ。屋台で食べ物を選んだら廟の境内に並べられた簡易テーブルで宴を楽しめるというしくみ。午前中から午後3時くらいまでしか営業していない、ホンモノの昼飲み酒場だ。

 週末は混み合うので平日に利用したい。すべてのテーブルでお酒が飲めるわけではないので、まずは屋台群の中でオーダーする店を決め、そこでお酒も頼む。するとその店の専用席に案内してくれる。お酒の有無は注文時に確認するとよい。廟の目の前に陣取り、生い茂るガジュマルの木の下で味わうビールは格別だ。

 

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慈聖宮の境内では、ガジュマルの木の下で地元の人達に混じって午前中から酒宴を楽しめる

 

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殻付きエビをパリッと唐揚げにした定番の酒肴。海鮮料理は150~200元くらいが相場

 

 

本当は教えたくない人気麺店 

 この昼飲み天国から徒歩2分ほどのところに、あまり人には教えたくない老舗麺店『賣麵炎仔・金泉小吃店』がある。12時前に行列ができ、午後3時には売り切れてしまうので早めに訪問したい。しかし、いつ行っても行列は免れない。

 人気は秘伝のスープを守り続けた切仔麺。先々代が屋台からスタートし、のちに大稲埕に店を構えるようになったとか。切仔麺はスープが美味しいので乾麺ではなく、ぜひ汁ありを。

 また、麺とセットで頼みたいのが焼肉スライスだ。赤身と脂身の2種類があるが、お勧めは「綜合焼肉」というミックス。豚バラ肉に衣をつけてカリッと揚げ、薄切りにしたもので、ほどよい脂と衣の食感が絶妙。これがシンプルな切仔麺によく合う。

 

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午後3時には売り切れてしまう焼肉。赤身と脂身のミックスがおすすめ。これで50元

 

 今と昔、日本と台湾が織り交ざった観光スポット、大稲埕は半日あれば見て回れる。迪化街散策で身体を動かしながら、食べ歩きにチャレンジしてみてほしい。

 

 次回は同じく台北西側に含まれる雙連エリアを取り上げる。

(つづく)

 

 

*本コラムの筆者・光瀬憲子が、7月から名古屋の『栄中日文化センター』で台湾旅行入門講座を行います。日程は7月17日、8月21日、9月18日、10月16日(いずれも第3水曜の15:30~17:00で)。内容やお申し込み方法など詳細は追ってお知らせします。

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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