台湾の人情食堂

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#81

西台北の輝き再び〈1〉艋舺(萬華)編

文・光瀬憲子

 雨の似合う街というのがある。

 旅先で雨に遭うとがっかりしてしまう人は多いだろう。写真は撮りづらいし、移動も何かと不便だ。でも雨だからこその出会いもある。私にとって西台北の艋舺(バンカ)はそんなところだ。

 そろそろ傘をさそうか、と思うぐらいの霧雨の中、霞がかかったような景色に浮かび上がるくすんだ橙色。清水厳祖師廟という古い廟だ。

 

01雨の夜。艋舺、清水厳祖師廟

 

 ここは映画『モンガに散る』(原題『艋舺』)という70年代の台北を舞台にしたヤクザ映画のロケ地にもなったことがある。あまり目立たない、観光客などほとんど訪れない廟だが、散歩がてらお参りをする地元の人や、境内の居酒屋で1杯引っ掛けようとやってくる飲ん兵衛たちの憩いの場だ。

 

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日中、清水厳祖師廟の前で手を合わせる人。右手の「祖師廟口自助餐」は地元の飲兵衛が集まる風情ある大衆酒場だったのだが、2年前に閉店してしまった

 

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「祖師廟口自助餐」では雨を眺めながら保力達(パオリータ)をなめるのが楽しみだった。隣の「牛肉大王」は健在なので最近はそっちで飲んでいる

 

 現在、日本で上映中の映画『台北暮色』にも艋舺辺りの風景が写り込んでいる。台湾映画界の巨匠と言われるホウ・シャオシェンの弟子(女性)の監督デビュー作だ。大都会台北を舞台にしつつもどこかせつなく、懐かしい景色が印象的なのは、艋舺の西側を流れる淡水河のせいかもしれない。

 

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キネマ旬報シアター(~4月19日)、シアターセブン(~4月26日)、K's cinema(4月22日、27日、28日)、ユーロスペース/元町映画館(5月4日~)で上映される映画『台北暮色』の一場面。艋舺の西側を流れる淡水側沿いの環河快速道路から中興橋を渡り板橋方向へ向かう車群

写真提供:A PEOPLE CINEMA http://apeople.world/taipeiboshoku/

 

 台北の東側にデパートやシネコンが続々とオープンし、いっときは時代遅れの街のように見られた西側だが、ここ数年は台北市観光局による働きかけや、若手アーティストたちによるリノベーションが進み、魅力的な街として再び脚光を浴びている。

 

東三水街市場 

 雨が似合う街と書いたが、艋舺には天気に恵まれなくても楽しめる絶好のスポットがある。東三水街市場だ。台北市内にはたくさんの朝市があるが、なかでも青空市場の雙連朝市は人気がある。しかし、雨が降っていては楽しみが半減してしまう。その点、東三水街市場ならアーケードの下にあるので雨に濡れることなく市場散歩ができる。

 

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東三水街市場の西側(艋舺公園側)入口

 

 ここは台北市内でもっとも古い歴史をもつ市場のひとつ。日本統治時代には新富町市場と呼ばれ、中央に井戸がある大規模な市場だった。その後、新富町市場の周辺に東三水街市場ができ、その2つが合体して現在はアーケードとなっている。

 午前7時頃からすでに賑わいを見せる朝市を歩いていると、両脇の店から試食のお誘いがある。『大豐魚丸店』はアーケードの中央あたりに店を構える練り物の老舗。アツアツのゴボウ揚げやさつま揚げを60年以上も提供している。量り売りで好きなものを袋に入れてもらい、食べ歩きできる。試食もさせてもらえる。

 

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練り物の老舗『大豐魚丸店』

 

 この市場にはもうひとつ、意外な一面がある。歴史ある新富町市場を後世に伝えようと建設された『新富町文化市場』は、肉や野菜が売られている通りから一歩入ったところにある。しゃれた白い建物の中には、1935年創業の新富町市場の歴史を伝えるジオラマなどの展示があり、のんびりコーヒーを楽しめるカフェもある。

 

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西側の入口から東三水街市場をしばらく歩き、右側の路地に入ると『新富町文化市場』が見えてくる

 

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台湾もレトロブーム。『新富町文化市場』には古いものを新しがる若者たちの姿が目立つ

 

 『新富町文化市場』のすぐそばには『合興八十八亭』という中国茶のカフェもある。古い日本家屋を改装した落ち着いた佇まいで、中国茶とお菓子のセットを楽しむことができる。

 

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『合興八十八亭』の菓子は45元~55元。ショーケースの中のサンプルには「こしあん」「黒ごま」など、品名が日本語で書かれている

 

艋舺夜市の表と裏 

 夜の艋舺を訪れたら艋舺夜市にも足を運んでほしい。台北きっての観光名所、龍山寺の向かいからのびる市場には台湾のB級グルメが揃っている。ここは客層もおもしろい。艋舺は高齢者の多い街だ。そのため、若者の遊び場という印象が強い夜市にも中高年が目立つ。古い映画のDVDや演歌のCDなどがカゴで売られているのもそのためだ。

 

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雨の艋舺夜市

 

 艋舺一帯はかつて赤線地帯だったため、夜市から一歩脇道にそれると今でものその名残りがうかがえる。看板のない怪しげな店の前に立つミニスカートのお姉さんたち(お姉さんと呼べる年齢かどうか微妙だ)にドキドキする。1990年代まではまだ艋舺にはピンクのネオンが怪しく灯る店があったが、当時の陳水扁市長がこのエリアを浄化してしまった。それでも未だにひっそりと商売を続ける店は多い。

 艋舺にはそうした風俗店のほかに、純粋にお茶を楽しむだけの“キャバクラ風喫茶”がある。チャージを払って中で烏龍茶を飲むシステムで、カラオケを歌うこともでき、人生経験豊富なお姉さんたちがテーブルについてくれたりする。世間話をしながら烏龍茶をすすり、日本の演歌を歌っていると、いったいここはどこだろう? 今って何時代だっけ? と思ってしまう。

 

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お化粧濃い目のお姉さんたちが目立つ艋舺夜市の路地裏

 

お気に入りの食堂兼酒場 

 艋舺にお気に入りの食堂(飲み屋)がある。美味しいものが点在する廣州街に面した『龍城號』という老舗だ。看板は新しいが実は百年を越える老舗で、もともとは麺の店。今も黄金スープの切子麺は健在だが、ここは飲み屋としても魅力的だ。店はこぎれいで女性だけでも気兼ねなく入れる清潔感と親近感がある。おばちゃん店員さんはみな気さくで、日本語メニューもある。

 

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『龍城號』の外観。左手の路地付近には魅力的な飲食店が多い

 

 日本ではなかなか食べられないサメの燻製やゆがいたコブクロは酒のつまみに最高だ。いずいれも小皿で、1皿50元とリーズナブルなので一人でも食べ切れるサイズ。

 

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『龍城號』ではホルモンをつまみにビールを飲むのが楽しみ

 

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『龍城號』で筆者がかならず頼むコブクロ。ゆがかれていても鮮度のよさが伝わってくる

 

 ただ、夜7時には閉店してしまうので早めに訪れよう。艋舺という場所はお年寄りと同様、朝が早いが夜も早いのだ。

 次回は同じく台北西側で注目のエリア、大稲埕(ダーダオチェン)を取り上げる。

 

 

*本コラムの筆者・光瀬憲子が、7月から名古屋の『栄中日文化センター』で台湾旅行入門講座を行います。日程は7月17日、8月21日、9月18日、10月16日(いずれも第3水曜の15:30~17:00で)。内容やお申し込み方法など詳細は追ってお知らせします。

 

 

 

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*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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