旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#79

ポーランド・クラクフ観光&グルメツアー〈1〉

文と写真・サラーム海上

ワルシャワから特急列車で古都クラクフへ

 9月2日、ワルシャワは今にも雨が振りそうな曇り空で、気温も肌寒いくらいに冷え込んでいた。前日までの真夏の気候が一日でガラッと変わってしまった。ついに秋が始まったのだ。

 今日はワルシャワから電車で約3時間南下し、古都クラクフへ一泊二日の旅に出かける。クラクフではワルシャワ同様に台所ツアーに参加し、そして翌日はクラクフに伝わるユダヤ文化を見て回るのが目的だ。

 クラクフはポーランド建国以前から地域の中心都市として栄え、11世紀から17世紀初頭までポーランド王国の首都とされた。ヴァヴェル城を中心に町はヴィスワ川の両岸に広がり、河川交易により発展した。

 14世紀、カジミェシュ大王は産業促進のため積極的にユダヤ人を招聘し、ヴィスワ川の中洲に自身の名前を付けたカジミェシュ地区を設立し、ユダヤ人に自治都市として提供した。そのためクラクフはユダヤ人人口の多い町となった。

 18世紀後半のポーランド分割により、クラクフはオーストリア領とされた。ポーランドが再び独立国家に返り咲くのは約150年後の1918年まで待たねばならなかった。

 1993年のスティーブン・スピルバーグの映画『シンドラーのリスト』は、ドイツ人実業家オスカー・シンドラーがこの町の工場で働いていた1100人以上のユダヤ人をナチスドイツから救った実話を元にしている。またこの映画は実際にこの町で撮影されてもいる。

 

 午前9時45分、小見アンナさんに連れられ、ワルシャワ中央駅から特急に乗った。電車は静かに発車し、5分ほどでワルシャワ西駅に停車し、次は終点クラクフまでノンストップで2時間40分。東海道新幹線で言うと、東京、品川、その次は京都という感じか。

 いったんワルシャワを離れると、窓の外には緑の農地がどこまでも広がっていた。ワルシャワの標高は海抜100m、そこから約300kmも内陸に入ったクラクフは海抜200m。ポーランドは「平らな土地」という意味の国名に偽りない真っ平らな国なのだ。

 

IMG_9823

ワルシャワからクラクフへと2時間50分で走る特急電車内

 

 12時20分、電車は15分遅れでクラクフ中央駅到着。現地ガイドのドミニカさんがプラットフォームで僕たちを迎えてくれた。ショッピングモールに直結した真新しい駅を出ると、外は雨が降っていた。ドミニカさんによると、その日は一日雨天とのことだ。

 ワルシャワのホテルから借りてきた傘をさして歩き出し、赤茶色の煉瓦の城壁をくぐって旧市街に入る。石畳の広い道の両側にはワルシャワと異なり、第二次世界大戦を無傷でくぐり抜けた町並みがそのまま残っている。

 旧市街のへそである中央市場広場に向かって道を進むと、通りに面した左手にその日宿泊する『Hotel Pod Różą(バラの下)』が見えてきた。宿にチェックインし、部屋に入ると、窓からは町のシンボルである聖マリア教会の尖塔が見える。荷物を置き、軽装でロビーに降りる。

 そこからはドミニカさんによるクラクフ一日観光&グルメツアーの始まりだ。さあ、今日も食べまくるぞ~!

 

IMG_9843

秋雨のクラクフ旧市街

 

 まず最初に訪れたのは町の胃袋クレパルズ市場。旧市街の北端にあるバルバカン(バービカン=城門)を出て、ほんの1ブロック歩いたところにある。既にお昼過ぎだったので、市場の屋台の半分以上は店じまいしていたが、開いていた屋台やお店だけでもクラクフ名物を十分に楽しめた。

 屋台に直置きされたハムやソーセージは南部の山地に暮らす農夫たちによる自家製。ハムもベーコンも肉はとてもフレッシュで味が濃く、燻したスモークの香りも良い。日本には持って帰れないが、とりあえず1kg買った。

 隣のチーズの屋台では珍しいスモークした羊のチーズやハーブ入りのチーズが濃厚で、ついつい2kg買い込んだ。チーズはグリルで焦げ目が付くまで焼くと更に美味そうだ。

 野菜や果物の屋台では椎茸のように大きなポルチーニや杏茸が良い香りを放っていた。直径3cmほどの大きなラズベリーも500gで360円だったので、これも1パック買ってしまった。

 

IMG_9901

クラクフ市民の胃袋、クレパルズ市場

 

IMG_9871

見るからに美味そうなチーズが山積み!

 

IMG_9878

南部の山岳地帯の農家が直販するベーコンやハムは僕にとっては宝石の輝きだ!

 

IMG_9891

この傘の大きなポルチーニ茸を見て!

 

IMG_9894

「そのブルーベリー、箱でくれ!」なんて一度で良いから言ってみたいよね!

 

 市場から再び旧市街に戻ると、ポーランド餃子のピエロギの専門店が目についた。そこで昼食はドミニカさんおすすめのピエロギ店『U Babci Maliny(ラズベリーお婆ちゃん)』へ行くことにした。

 通りに面した建物の小さな入口をくぐり、広い中庭から地下に下ると、そこにはチロル地方の家のような木造インテリアの広い店が広がっていた。共産主義時代の名残なのか、お店にウェイターはおらず、注文した料理が出来上がると、LEDに番号が表示され、自分で厨房のカウンターまで取りに行くセルフサービス形式だ。

 飲み物には、パン生地を発酵させる際に出来る微発泡飲料の「クワス」と、フルーツを砂糖で煮込む際に出た液体を水で薄めた、昔ながらのフルーツドリンク「コンポートを頼んだ。

 

IMG_9910小学校の同級生だった柳沢くん……じゃなくて、人気のピエロギ食堂「ラズベリーおばあちゃん」のキャラクターね


IMG_9922

パンの発酵で生じる副産物のクワスも、今ではクラフトビールのような様々な味付けのものが売られている

 

IMG_9924ラズベリーおばあちゃんの店の店内。午後一時を過ぎて、だんだんお客さんが埋まってきた

 

 名物のピエロギはキャベツのピクルスとキノコが入ったピエロギ、ブルーベリーの砂糖煮が入ったピエロギの2種類を、さらにメインディッシュには豚肉と野菜をキャベツのピクルスとともに長時間煮こんだ地元料理「ビゴス」を頼んだ。

 ピエロギはちょうど日本の中華料理屋で出る水餃子のポーランド版で、日本人には親しみ易い。バターで甘味が出るまで炒めたみじん切りの玉ねぎと一緒にいただく。具材はキャベツのピクルスやきのこだけでなく、豚ひき肉やチーズ、ジャガイモ、ほうれん草、蕎麦の実なども一般的だそうだ。

 そして近年人気なのがフルーツの砂糖煮を詰めたデザート版のピエロギ。サワークリームをかけていただく。ブルーベリー以外にはさくらんぼ、ラズベリー、イチゴのピエロギも季節によって登場するようだ。

 ビゴスは小さな西瓜ほどの球形のパンの中身をくり抜いた中に盛り付けられていた。キャベツのピクルスと豚肉の組み合わせは豚肉のキムチ炒めともどこか似ているが、こちらは豚の塊肉がとろとろになるまで1~2日以上煮込んでいるそうだ。胃袋には少々重いが、身体が温まる。北国の煮込み料理だ。

 

IMG_9933

ポーランドの餃子ことピエロギ。ここは水餃子タイプだが、油で揚げたり、フライパンで焼いたタイプも存在する

 

IMG_9928

キャベツのピクルスと豚肉と野菜を長時間煮込んだ酸っぱくて重い冬の料理ビゴス。カボチャ形のパンをくりぬいた器で供される

 

IMG_9934

左がクラクフのガイドのドミニカさん。右は小見アンナさん

 

 ピエロギとビゴスでお腹がいっぱいになってきたので、腹ごなしに旧市街を散歩する。クラクフ旧市街はワルシャワと並ぶ大観光地だけに、おしゃれなカフェや気の利いたお土産店が点在する。

 中央市場広場、広場の北西に建つ二つの尖塔を持つ聖マリア教会を歩いて周った後、ドミニカさんおすすめのカフェに入り、とびっきり濃いホットチョコレートをいただいた。スプーンで一杯ずつすくって飲むほどチョコが濃いのだ。これはダークチョコレート好きにはたまらん!

 

IMG_9959

中央市場広場の一角に建つ町のシンボル、聖マリア教会

IMG_9969ドミニカさんお気に入りのホットチョコレート。店名失念! 6月に再訪するのでそれまで待って!

 

 続いてはお土産に最適な、果実や花、コーヒーなどを砂糖とともにウォッカやスピリタスに漬け込んだ「ナレフカ」の専門店『Szambelan(シャンベラン)』へ。ナレフカはアルコール度数は30~45%ほどで、日本の梅酒や果実酒と同じものだが、バリエーションが圧倒的に豊富。

 お店の棚には小さなバケツほどのサイズの透明なガラスの瓶に入れられたイチゴ、レモン、ブルーベリー、ラズベリー、オレンジ、蜂蜜、チョコレート、コーヒー、バラの花、エルダーベリーの花など、様々な味のナレフカが陳列されている。欲しいサイズのガラス瓶を買って、秤売りしてもらう。幾つか試飲してから、蜂蜜ナレフカ一本とエルダーベリーの花ナレフカを2本買った。

 

IMG_0034

果実酒ナレフカを試飲。左からエルダーベリーの花、ラズベリー、バラの花のナレフカ。どれもアルコール度数高い!

 

IMG_0051

ナレフカの専門店、シャンベランにて量り売り

 

 夕方になって再び雨脚が強くなってきたので、共産主義時代の労働者向け安食堂「ミルキーバー」を改装した、ファミレス風のお店『Polakowski(ポラコウスキー)』に逃げ込む。店の奥にその日の料理が十種類ほどガラス張りの保温器で温められているのはトルコの安食堂「ロカンタ」と同じスタイルだ。

 しかし、トルコのロカンタではヒゲのオヤジが保温器の奥に立つが、ここでは民族衣装姿の若いポーランド美人が立ち、注文を受けると目の前で料理をお皿に盛り付けてくれるのがうれしい。ポーランドの『アンナミラーズ』と言ったら怒られるだろうか? 

 

IMG_0082

大雨なので共産主義時代の労働者向け安食堂ミルキーバーを改装した、ファミレス風のお店ポラコウスキーで、軽く夕食

 

IMG_0077

民族衣装姿の若いポーランド美人が料理をお皿に盛り付けてくれる!

 

 ここではきゅうりのピクルスのスープ「オグルコヴァ」(連載#76参照)、ポーランドのボルシチこと「バルシチ」、豚の膝肉煮込み「ゴロンカ」、牛と豚のメンチカツ「コトレット・ミエロヌィ」、付け合わせ野菜の「スルフカ」を頼んだ。

 オグルコヴァはピクルスの酸っぱさと牛肉の出汁の組み合わせが抜群。バルシチはワルシャワでいただいた澄んだ透明なルビー色のものと異なり、ビーツがドロドロに溶けた不透明なマゼンタ色。ゆで卵や茹でジャガイモを浮かべていただく。ビーツの土臭さがいかにも田舎料理だ。

 コトレット・ミエロヌィは日本のメンチカツとそっくりな懐かしくもやさしい味。

 ゴロンカはブットい豚の膝の骨の周りに皮付きの肉が付いていて、長時間煮こんであるので、肉はホロホロで美味い! プリプリの豚の皮も美味そうだが、ドミニカさんによると、皮はお腹にもたれるので、基本的に食べないと言う。

 共産主義時代に起源を持つミルキーバーと聞いて、学食や社食で出てくるような安かろう悪かろう料理を想像していたが、いやはや、現代のミルキーバーは企業努力してるよ。どれも田舎暮らしの友人宅で出てくるようなやさしい家庭料理で、大満足だった。しかも、お会計は合計71ズロチ=2100円。どうやらクラクフはワルシャワよりもさらに物価が安いようだ。

 

IMG_0091

バルシチもワルシャワの澄んだスープとは異なり、クラクフではこんなに濃くドロドロだ

 

IMG_0097

豚の膝肉煮込み、ゴロンカにビーツのスルフカをのせて。コラーゲンたっぷり!

 

IMG_0103

牛肉と豚肉のメンチカツ。スルフカを二種類添えて

 

 夜になっても雨脚は弱まらず、急激に気温が下がってしまった。夜の旧市街観光は諦めるしかない。仕方ないのでミルキーバーから居酒屋へとハシゴしよう。

 今度はヴァヴェル城の麓にあるオーストリア系ポーランド料理店『Pod Wawelem(ヴァヴェルの下)』に入る。

 ここはオーストリア系の店だけにクラフトビールが売りで、天井の高さと広さがドイツのビアホールを思わせる。前の店で既にお腹一杯になっていたので、とりあえずビールと、シャルキュトリーの盛り合わせ、タタールだけを頼んだ。

 ビールで乾杯していると、運ばれてきたシャルキュトリーの盛り合わせが猛烈だった。大きな木のお盆に、煮豚にハムにベーコン、ソーセージ、チョリソのような唐辛子入りソーセージ、血のソーセージ、ラードにマスタード、ビーツのスルフカ、ホースラディッシュ、きゅうりの浅漬けピクルスまでがズラズラズラっと乗っているのだ。そして、その一つ一つがどれもニクい(肉い?憎い?)ほど美味い!お腹いっぱいだとしても、全て味見せずにはいられないほどなのだ。

 オーストリア系ポーランド料理なんてこれまでの人生において全くのノーマークだったが、うかつだった! 次回はお腹を空かせてこのお店を再訪しよう!

 

IMG_0121続いては「ヴァヴェル城の下」というオーストリア系ポーランド料理店へ。ドイツのビアホールみたい!

 

IMG_0136ビールを頼むとお通しとして、浅漬けのキュウリのピクルスとザウワークラウツ、黒パンと白パンが付いてきた

 

IMG_01372人分のシャルキュテリー盛り合わせ。どんだけ量が多いんだ! ベーコンもソーセージも血のソーセージもラードも美味い!

 

 そしてタタールはワルシャワの『赤い豚』でいただいたのとは見た目が異なり、真ん中に真っ赤なひき肉をお玉一杯分ドーンと置き、その周りに玉ねぎやピクルス、ケイパー、アンチョビのピクルス、生卵などを円形に配置していた。

 ドミニカさんは肉にオリーブオイルをたっぷりふりかけ、フォークとナイフを使って一つ一つの具材を丁寧に混ぜ込んでくれた。そして、にんにくをすりつけた薄切りの揚げパンに、混ぜ合わせたタタールをたっぷり塗りたくって頬張る。

 美味い! 美味すぎる! すっきりしたタタールと揚げパンの相性が最高。揚げパンは元々は古くなったパンの再利用方法だったそうだが、クラクフではタタールの付け合せとして愛されているそうだ。

 

IMG_0140

大好物のタタール! この店では付け合わせを肉の周りにきれいに並べている

 

IMG_0162

ドミニカさんに混ぜてもらった。彼女はレモン汁を用いず、オリーブオイルをかけていた

 

IMG_0164

にんにくをすりつけた薄切りの揚げパンにタタールを塗りたくってサクっとかぶりつく! 至福!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

orient00_writer01

サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

紀行エッセイガイド好評発売中!!

orient00_book01

イスタンブルで朝食を
オリエントグルメ旅

orient00_book02

おいしい中東
オリエントグルメ旅

   

 

旅とメイハネと音楽と
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー