ブーツの国の街角で

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#77

サンマリノ共和国:欧州唯一の神社:『サンマリノ神社』参拝記(後編)

文と写真・田島麻美

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欧州で唯一、神社本庁に承認された『サンマリノ神社』の参拝記。今回は神社を拠点に広がっていく日本とサンマリノ共和国の交友の輪を支える人々についてご紹介したい。
 

 

5世代に渡って守り抜かれてきた豊かな大地

   

  サンマリノ神社に参拝するにあたり、神社がある敷地を所有するアグリツーリズモ『Podere Lesignano/ポデーレ・レジニャーノ』に宿泊させていただいた。 サンマリノ共和国の首都サンマリノ市の北に位置するセラヴァッレは、同国内で最も大きく、人口も多い行政区。ポデーレ・レジニャーノはそのエリア内に7ヘクタール以上の葡萄畑、オリーブ畑を所有している農場で、ステファノ・ヴァレンティーニ氏とそのご家族が経営している。サンマリノ初日、アグリツーリズモにチェックインした後、ご一家のマンマであるガブリエッラさんから夕食に招かれた。ありがたくご招待を受け、一家団欒のテーブルでこの土地と神社に関するお話を色々と聞かせていただいた。農場主であるステファノさんはバイオ農業の専門家で、5世代に渡って受け継いできたこの土地で主としてワインとオリーヴオイルを生産している。サンマリノで農業に従事する人口は決して多くはないが、国土の約20%は農地であり、ブドウや小麦、オリーヴ、野菜、葉タバコなどが作られている。1800年代の館があるステファノさん一家のアグリツーリズモでは、農業を通じ、教育、農村観光、異文化交流を目的とした様々なイベントを開催しているという。
 

 

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セラヴァッレの穏やかな自然の中にあるアグリツーリズモ『ポデーレ・レジニャーノ/ Podere Lesignano』。B&Bはもちろん、希望者には農業体験やワインの試飲会なども行う。広い敷地内には5つの客室の他、プール、大ホールも備えている。
 

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夕食でご馳走になったサンマリノの郷土料理『テッラ・エ・マーレ(大地と海)』。特産のひよこ豆とアドリア海のアサリを四角いパスタと一緒に煮込んだマンマの絶品手料理(上)。アグリツーリズモから庭を通り、池を目指していくと神社の鳥居が見えた(下)
 

 

 夕食の席で「御先祖代々の土地に、なぜ神道の神社を建立することになったのですか」と私が尋ねると、ステファノさんは、「話を聞いたのは本当に偶然だった」とその経緯を語ってくれた。
「人づてに、“カデロ大使が神社を建てるための土地を探している”と聞いたんだ。神道がどういうものか知らなかったけれど、話を聞くと“宗教を問わず、全ての人を受け入れる祈りの場”として神社を建てたいということだった。うちには広い土地があるし、畑として使っていない敷地もあるから、そこで良ければ自由にお使いください、と申し出たんだよ」。
 なんとも寛大な申し出である。ステファノ氏が提供してくれた土地は、神社建立にあたって神社本庁から下見に来た専門家、ブリガンテ宮司など、誰もが一目で「ここだ!」と思った場所だったそうだ。静かで穏やかな空気が流れる葡萄畑とオリーヴの木々に囲まれた小高い丘の上に立つ神社。伝統的な日本の建築方法で建てられた本殿は、地中海ならではの自然風景の中にしっくりと溶け込んでいる。
 

 

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神社の入り口脇にあるアグリツーリズモの大ホール。結婚式やパーティ、ワインの試飲会などがここで催される。この農場で生産されたワインやオリーヴ・オイル、手作りのジャムや蜂蜜などの特産品を始め、サンマリノ神社参拝記念の品もここで購入できる。
 

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農場のオーナーであるステファノ・ヴァレンティーニ氏(上)。サンマリノの大地の恵みを使用して作られた美味しいワインや芳醇なオリーヴオイルが農場内で直接購入できる(中)。サンマリノ神社の名前がついた特産の赤ワイン。干支の猪がついた2019年の限定ボトル(下)。
 

 

誰もが幸せになれる「オリーヴの木の養子縁組」
  

 ところで、神社の境内を散策している時、とても気になるものを見つけた。境内にある大小様々なオリーヴの木に、寄贈者らしき人々の名前のプレートが付けられていたのだ。日本では神社にお酒の樽やお米、灯籠や鳥居などを奉納するが、もしかするとここではオリーヴの木が奉納品なのだろうか? ステファノさんにそのことを尋ねると、「いやいや。あのオリーヴの木は“養子縁組”をしたものですよ」と教えてくれた。
 年間100€を払ってオリーヴの木を一本「養子」に迎えると、年に一度、その木から採れた実を絞ったオイルを届けてくれるのだそうだ。オイルとともに木の成長ぶりやその年に木が受けたダメージなど、詳細な成長記録も届けてくれる。さらに、アプリを使ってWebカメラで木の様子がリアルタイムで見られるシステムもある。養子縁組費用の100€は神社の維持費として使われるという。命ある木の成長を見守る楽しみが得られるだけでなく、美味しいオリーヴ・オイルも届き、その上神社の維持にも協力できる。まさに一石三鳥、誰もが幸せになれる素晴らしいアイデアだと感心し、私もぜひオリーヴの木を養子に迎えようと決めた。
 

 

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境内にある養子縁組をしたオリーヴの木。ステファノさんが大切に育ててくれる上、収穫された実から採れたオイルは郵送で自宅まで届けてくれる。
 

 

 

アートを通じて広がっていく日本とサンマリノの友好の輪
  

 

  サンマリノ神社を取り巻く環境と、神社を守り、支えてくれる優しい人々と知り合ううち、今までよく知らなかったサンマリノ共和国という国にとても親近感を抱くようになった。この神社の建立には日本サンマリノ友好協会の方々が大きく貢献されているそうだが、同協会の国際本部はブリガンテ宮司が経営するホテルの中にあるのだそうだ。神社の宮司さんが経営するホテルとはいったいどんなものなのか想像もつかなかったが、行ってみて心底驚いた。
 サンマリノ旧市街の城壁の下にある『Hotel San Marino Idesign/ホテル・サンマリノ・アイ・デザイン』は、真っ白な内装の超モダンなホテルだった。さらにびっくりしたことに、レセプションからダイニング・ルーム、エレベーターの中に至るまで、ホテル内の随所にモダン・アートの作品が展示されている。ホテル全体が美術館というより、むしろ美術館の中に客室があるような印象を受ける。ホテル内に展示されている作品は購入もでき、ホテルのサイトを見ると、アーティストと直接触れ合えるパーティなどのイベントも随時催されているようだ。
 私がホテルを訪れた時、ブリガンテ宮司が「気鋭のアーティストをご紹介しますよ」と言って、一人の男性を紹介してくれた。エントランスの大きなテーブルで黙々と制作に没頭していた彼の名前は、ロッサーノ・フェラーリ。ホテル内のレストランにある世界の古代文化をモチーフにして描かれたダイナミックな壁画も彼が制作したのだそうだ。とても気さくなロッサーノ氏と楽しいお喋りをするうち、彼が「近々、日本に行くんだよ」と言った。話を聞くと彼は今、ミュージシャンの高見沢俊彦氏とのコラボで、高見沢氏がプロデュースしているワインのラベルデザインを手掛けているという。日本への旅も仕事がらみで、「きっといろいろ、新しい体験ができると思う。すごく楽しみにしているんだ」と嬉しそうに破顔した。
 神社の建立をきっかけに、特産のワイン、オリーヴ・オイルからモダン・アートまで、様々な分野に従事する人々が日本と縁を結んでいる。私が神社を通じてサンマリノという国をとても身近に感じるようになったように、サンマリノの人々もまた、神社を通じて日本という国を身近に感じ、日本の人々との友好の輪がどんどん広がっているのを肌で感じた。1万キロも離れた二つの国と人々の間に流れる優しさと友愛の情。それを体現しているのがサンマリノ神社なのだ。

 

 

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ブリガンテ宮司が経営するホテル「サンマリノ・アイ・デザイン」のダイニング・ルーム(上)。ホテル内の一角に、日本の団体から贈られた表彰状が飾られていた(中)。レストランの壁一面に描かれたロッサーノ氏の作品(下)

 

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モデナ出身の気鋭のアーティスト、ロッサーノ・フェラーリ/ Rossano Ferrari 氏。「アイ・デザイン」ホテル内の各所で彼の作品が見られる(上)。壁画の一部には、日本とサンマリノ神社のモチーフも描かれている(中)。日本に寄贈される予定だというロッサーノ氏の作品(下)
 

 

 


 

 

★ MAP ★

Map-Sanmarino

 

<アクセス>

ローマから高速鉄道でボローニャまで約2時間、ボローニャから各駅もしくは高速鉄道に乗り換えリミニまで約50分〜1時間半。リミニからサンマリノまでは、リミニ駅前から発着するサンマリノ行きバスを利用。サンマリノ旧市街まで50分。サンマリノ神社へは途中のバス停Fiorina Hotel Gasperoni/フィオリーナ・ホテル・ガスペローニで降り、徒歩約10分。
 

<参考サイト>

サンマリノ観光情報(英語)

http://www.sanmarino.sm/on-line/en/home.html

 

サンマリノ神社(日本語)

https://www.sanmarinojinja.com/ja/

 

アグリツーリズモ『Podere Lesignano/ポデーレ・レジニャーノ』(伊語) 

https://www.poderelesignano.com/
 

ホテルサンマリノ・アイ・デザイン『Hotel San Marino i Design』(伊語・英語・日本語) 

https://www.hotelsanmarinoidesign.com/
 

ロッサーノ・フェラーリFacebook

https://www.facebook.com/RossanoFerrariArtist/

 

高見沢俊彦氏とロッサーノ氏のコラボ・ワインが購入できるサイト(日本語)

https://www.sammarinese.org/
 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2020年2月13日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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