旅とメイハネと音楽と

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#76

ポーランド・ワルシャワの台所ツアー〈2〉

文と写真・サラーム海上

コシキ市場の人気レストラン・バー『チマ』へ

 8月29日木曜、僕は通訳の小見アンナさんとともに、現地ガイドのアネシュカさんが引率するワルシャワ台所ツアーに参加していた。

 朝から揚げドーナツ「ポンチュキ」の老舗「ザゴジジニスキ家のポンチュキ屋」、ワルシャワ市民の台所「ミロフスカ市場」、共産主義時代から人気のストリートフード店「瓶入りのペーズィーとフラキ」を周り、その度に買い食いし、既にお腹は7分目を超えていた。しかし、これからがランチ本番だ。ふ~、食道楽はツライのだ!

 

tabilista warszawa culinary 2ジンガー・フェスティバルでは、市内のユダヤ劇場野外で行われた少女たちによる音楽劇『良い木の下で』を観劇

 

 目的地は最新のレストラン街「コシキ市場(Hala Koszyki)」。ワルシャワの東側のプラガ地区から、ヴィスワ川を渡り、中心部へと戻り、ワルシャワ工科大学の近くでアネシュカさんの車を停め、歩いてコシキ市場に向かう。

 コシキ市場は19世紀末に建てられたアールヌーヴォー建築の室内市場とその周辺を再開発し、2016年にインターナショナルな料理が並ぶレストランとデリカテッセンのフードコートとしてリニューアルオープンされた。その入口にある、年中無休24時間オープンのレストラン・バー『チマ(CMA)』でランチをいただく。

「チマとは蛾を意味し、夜中すぎまでバーにたむろっている人々を指します」とアネシュカさん。英語ではバーに溜まっている人を「バー・フライ=バーの蝿」と言うが、ポーランド語ではずばり「蛾」と表現するのか。確かに暗闇の中の灯りに集まってきそうだが……。しかし、チマはそんな退廃的な名前とは随分と異なり、全面ガラス張り、オープンキッチンと長いバーカウンター、さらに広い野外テラスのある今時仕様のお店だった。

 

tabilista warszawa culinary 2 tabilistapoland419世紀末のアールヌーヴォー建築の市場をリニューアルオープンしたコシキ食堂街

 

tabilista warszawa culinary 2コシキ食堂街にある24時間年中無休のレストランバー『チマ』。蛾のオブジェが飾られている

 

「ポーランドでは伝統的に昼食をたっぷり食べて、夕食は早い時間に軽目に済ませていました。でも、近年グローバル化が進み、他のヨーロッパの国のように夕食時間が遅くなり、深夜でも開いているレストランのニーズが高まっていたんです。この店はそんなニーズにフィットしたんですね」

 冷房の効いた長いバーカウンターに腰掛けると、次々にランチの料理が運ばれてきた。まず澄んだチキンコンソメスープの「ロスウ」。きしめんに似た幅広のパスタが浮かんでいる。胃腸にやさしい、シンプルなコンソメスープはいつだって歓迎だ。

 そして、前夜にいただき、すっかり気に入ったビーツの冷製スープ「フオドニク」。この店のフオドニクはサワークリームがたっぷりなのとキャベツの酢漬けも使われていて、前夜のものよりも濃厚だ。家庭料理なので使う食材などの厳密なレシピが存在するわけではないようだし、しかも地方によって味や見た目も随分異なるらしい。気に入った料理は色んな店で頼むことにしよう。

 

tabilista warszawa culinary 2お腹にやさしいチキンコンソメスープ「ロスウ」

 

tabilista warszawa culinary 2ポーランドの夏の名物、ビーツの冷製スープ「フオドニク」。18ズロチ=500円

 

 続いてポーランドの餃子と言われる「ピエロギ」。手打ちの厚めの皮の餃子を一旦茹でてから、油で軽く炒めてある。生地の中には山羊のチーズが詰められていて、フライドオニオンとサワークリームを付けていただく。トルコのマントゥ、チベットのモモなど、餃子類は世界中、いつどこで食べても落ち着くものだ。

「ピエロギにはいろんな詰め物があります。挽き肉やきのこ、チーズが主流ですが、最近ではブルーベリーやチェリー、ラズベリー、チョコレートを詰めた甘いピエロギも人気なんです」

 へえ、ベリー入りのピエロギはぜひ滞在中にいただきたいなあ。

 

tabilista warszawa culinary 2ポーランドの餃子と言われる「ピエロギ」。シンプルなチーズの具入りで下に敷かれているのはサワークリーム。20ズロチ=560円

 

 そして、メインの一つ目はすりおろしたジャガイモのパンケーキの上にスモークサーモンとサワークリームとディル。茶色くカリカリに焼かれたパンケーキはロシア料理のブリニに似ている。

 スモークサーモンはホテルの朝食ブッフェにも登場するが、調べると、世界最大のスモークサーモン製造業者はポーランドの会社だそうだ。

 

tabilista warszawa culinary 2ジャガイモのパンケーキの上にスモークサーモンとサワークリームとディル。20ズロチ=560円

 

 そしてメインもう一つは輪切りにした血のソーセージ「カシャンカ」の下にとうもろこしのポレンタ、林檎の輪切りを三段に重ねてオーブンで焼いたもの。上にキャラメリゼした玉ねぎ、周りに林檎のピュレとピクルス、マスタードが飾られている。

 血のソーセージはフランスのブーダンノワールとほぼ同じだが、ポーランドのもののほうが軽めだ。血の苦味と林檎や玉ねぎ、マスタードの相性が最高だ。やはりポーランド料理は胃腸に優しく、シンプルで美味しいなあ!

 

tabilista warszawa culinary 2血のソーセージ「カシャンカ」の三段重ね! フランスのブーダンノワールよりフワッとした味。こちらも20ズロチ=560円

 

 このお店はポーランド料理のレストランにしてはポーションが小さめで、美味しくペロっと食べきってしまった。しかし、デザートのティラミス、ベリーをのせたメレンゲは日本の二倍サイズだったことは記しておこう……。

 

tabilista warszawa culinary 2今日のメレンゲ。メレンゲに生クリームとブルーベリーとイチゴ。18ズロチ=500円

 

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ティラミスもデカイ!18ズロチ=500円

 

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2階からコシキ食堂街を見渡す。オシャレなフードコートだ

 

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チマの野外テラス席。オフィスの近くにこんなレストランがあったら毎日ランチに通いたくなる!

 

 食後に腹ごなしにコシキ食堂街を歩く。2階まで吹き抜けの倉庫を改装し、ちょっと高級そうな寿司屋、タパス屋、メキシコ料理店、ピザ屋、レバノン料理のデリカテッセン、おしゃれなセレクトショップなどが並んでいる。平日の昼間から賑わっている様は、ロンドンが誇るオーガニックフードのマーケット「バラ・マーケット」を思い出す(本連載#12参照)。かつてのお台場などはこういうことをやりたかったのだろうけどねえ……。

 僕は近年、日本の地方の道の駅や野菜直売所を訪れる機会が激増した。そうした場所をもっと幅広いお客やインバウンド客にまでアピールする方法はバラ・マーケットやコシキ食堂街のような世界のマーケットの成功例を研究するしかないと思うんだ。

 コシキ食堂街を出て、アネシュカさんの車まで5分ほど歩く。その界隈はオフィス街と近く、オフィスワーカーたちのための多国籍なレストラン街として近年人気らしい。いくつかの通りではイタリア料理店やメキシコ料理店、ハンバーガー店、そして寿司屋やラーメン屋が目立つが、中でもヴィーガン料理を謳っている店の多さに驚いた。寿司屋やラーメン屋さえヴィーガンのメニューを取り入れているのだ! 

 狭い通りにテラス席をたっぷり並べている『テル・アビブ』という名前のイスラエルのヴィーガン料理の店があるかと思えば、その通りを挟んだ正面には『ベイルート』という名前のレバノン料理の店が陣取っている! ははは、中東を遠く離れたワルシャワでも中東紛争が勃発しているのか? 

 約70年も続いた旧共産党時代を懐かしむような黒と赤を中心にしたシャビーシック(レトロでオンボロでキッチュ)な内装の店も目立つ。

 

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コシキ食堂街の近くのイケてるレストラン街の現在のトレンドはヴィーガン。こんなに肉料理だらけのポーランドで⁉ しかし、多様性こそが人間性である!

 

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イスラエル料理のヴィーガン専門店「テルアビブ」の野外テラス。通りを挟んだ正面にはレバノン料理店「ベイルート」。外国に来て、そこまで張り合わなくても……

 

tabilista warszawa culinary 2シャビーシックな共産主義ノスタルジー・レストランは大抵建物の地下にある

 

 車に乗り込み、台所ツアーの最後に向かったのはワルシャワ大劇場とサスキ庭園の間にあるポーランド・ウォッカ博物館。ポーランドのウォッカは2008年にヨーロッパの原産地名称保護制度に登録されたため、定められたレシピによって作られたもののみを「ポーリッシュ・ウォッカ」と呼ぶ。

 展示品はウォッカの空き瓶はもちろんのこと、そのラベルのみ、半世紀以上昔の飲みかけのボトル、さらにはアメリカの禁酒法時代をすりぬけたウォッカなどなどなど、ある飲んべえが残した膨大な資料(要は飲み過ぎってことね)を通じてポーリッシュ・ウォッカの歴史を一望出来るようになっている。

 そして展示の後には当然ウォッカの試飲コーナーもある。

 シンプルだが高級なポーリッシュ・ウォッカ、リトアニアのウォッカ、胡椒で味付けたウォッカ、ホースラディッシュで味付けたウォッカ、卵黄のリキュール、ヘーゼルナッツのウォッカを試飲させてもらった。

 

tabilista warszawa culinary 2ウォッカ博物館とは、要はとある飲兵衛一家のプライベートコレクションだ

 

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禁酒法時代のアメリカ向けの輸出ラベル。当時はアメリカから船に乗り、ポーランドウォッカ飲み放題のクルーズ旅があったらしい。いったん、陸を離れればそこはアメリカの法律が及ばないということで。ポーランド人しっかりしてます!

 

 僕が気に入ったのは胡椒やホースラディッシュで辛い味の付けられたウォッカだ。しかし、普段からワインばかり飲んでいる僕にはウォッカはアルコール度数が強すぎる。

 そこで、フルーツで味を付けたウォッカで、度数が低めの「ナレフカ」を二種類と、ポーランド史上初めてというポーランド料理とウォッカのペアリングを試みた料理レシピ本を買う。その本はもちろんポーランド語で書かれているが、今どき、Google翻訳を使えば良いのだ。好奇心と食欲さえあれば、超えられない壁はない!

 

tabilista warszawa culinary 2僕もウォッカ五種類をテイスティング!

 

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ポーランド史上初、ウォッカとポーランド料理のペアリングを取り上げた本、Aleksander Baron、Lukasz Klesyk著『Miedzy wodka a zakaska ウォッカとオードブルの間で』

 

ポーランド料理、きゅうりのピクルスのスープ

 さて、前々回#74前回#75と料理の付け合せの地味なレシピが続いたので、今回と次回はそれらを使った主役級の料理を作ろう!

 前々回#74に作った砂糖を使わないキュウリのピクルスのスープ「オグルコヴァ」だ。ポーランドではチキンのダシを使ったものを食べたが、このレシピはもっと簡単に、ソーセージとベーコンと香味野菜でダシを取ろう。

 いったんダシが取れたら、すりおろしたピクルスを「コレでもか!」というくらいたっぷり加え、サワークリームで仕上げる。主役のピクルスの味が出ればOK! 台湾の酸っぱい白菜の鍋のスープを思い出す発酵野菜の旨味たっぷりのスープだ。

 

■オグルコヴァ

【材料:4人分】

ソーセージ:4本(1cmの輪切り)

ベーコン:100g(1cmの角切り)

玉ねぎ:1個(皮をむいて縦薄切り)

水:1.2リットル

ローリエ:2枚

黒胡椒:大さじ1

キュウリのピクルス:4本分(チーズおろしですりおろす)

じゃがいも:2~3個:皮をむき、1cmの角切り

人参:1本(皮をむいてチーズおろしですりおろす)

サワークリーム:100g

ディル:1パック分:みじん切り

青ネギ:3本:みじん切り

【作り方】

1.鍋にソーセージ、ベーコン、玉ねぎ、水、ローリエ、黒胡椒を入れ、火にかけ、沸騰したら弱火で10分煮る。

2.じゃがいもと人参を加え、時々アクを取りながら、じゃがいもが柔らかくなるまでさらに10分煮る。

3.すりおろしたキュウリのピクルスを加え、数分煮て、味が馴染んだら、サワークリームを溶かす。

4.お皿に盛り付け、ディルと青ネギのみじん切りをたっぷり散らして出来上がり。

 

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キュウリのピクルスを使ったスープ「オグルコヴァ」の完成! 発酵野菜のスープがマズイわけない!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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