台湾の人情食堂

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#75

西側の離島で台湾の兵役を思う〈前編〉

文・光瀬憲子 

 台湾に観光旅行に行くだけではあまり実感できないが、私が台湾に暮らしていた当時、同世代の男の子たちが直面していたのが台湾の兵役だ。

 私は大学を卒業した直後に台湾に渡ったため、現地でも同世代の大学生の友人が多かったのだが、学業を終えた男子たちを待ち受けていたのが「当兵」と呼ばれる台湾の兵役だった。

 台湾人男子は18歳になると兵役につく。この避けようのない制度が若者に重くのしかかっていた。

 兵役は女子にとっても他人ごとではない。ボーイフレンドが軍隊に行ってしまい、離れ離れになるからだ。そして、母親となれば、かわいい息子を兵役に取られることになる。

 

01

台湾の街なかでは韓国ほど軍服姿の若者を見かけないが、大陸に面した西側の島に行くと……

 

 

2018年12月から完全志願制に

 満18歳、または大学や大学院などの学業を終えると、すぐにやってくる2年間の兵役は、2013年から4カ月間に短縮された。

 そして2018年12月からはついに全面的に「募集性」となり、志願した人だけが入隊することになった。

 台湾が兵士を必要とするのは中国との戦争に備えるためだ。中国と戦争に発展する可能性が高いとはいえない今、たくさんの兵を募る必要がなくなったのである。

 私が台湾に住み始めた90年代半ば、当時の男友達のなかで、自ら進んで2年間の兵役につきたいと願う人は皆無だったから、当然、ほとんどの人が行かずに済むならそれに越したことはない、と思うはず。

 ただ、これには反論もあって、2年間の兵役が台湾のひ弱な男子たちを「漢(おとこ)」に叩き上げるのだという声もある。

 また、志願兵があまりに少なくなることが危惧され、「やはり2年間の徴兵制を復活すべき」という声も聞こえてくる。

 

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台湾本土と大陸に面した離島の東引を往来する兵士たち。東引には軍事基地があり、基隆からは8時間ほどの船旅

 

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馬祖島に到着すると一番先に目に飛び込んでくる「枕戈待旦」の大きな文字。「枕元に戈(ほこ)を置き、夜明けを待て」という兵士たちを激励する蒋介石の言葉。日本で言う“常在戦場”に近い意味だろう

 

 

敬遠される“金馬賞”

 私がアメリカの大学を卒業して台湾に渡った頃のこと。アメリカで留学中に知り合った男友達に「徴集令」が送られてきて、兵役へ行くことになった。新兵たちは一斉に苗栗県の「頭份」という場所に集められる。新兵訓練所だ。

 ここへは家族や友達が見送りに来てもいいことになっていて、大きな公園のようなところでピクニックでもするように弁当を食べたりしながら徴集された彼を激励し、送り出した。

 といっても、目前に戦争が迫っているわけでもなく、単なる訓練で終わることはみんなわかっていたので気楽な雰囲気だったが、これから2年間の訓練を受ける彼だけは、ちょっとこわばった表情をしていたのを覚えている。

 2年間の兵役中、家族や恋人とまったく会えなくなるわけではなく、休みになれば帰省できる。

 しかし、派遣される場所が台北や地元ならいいが、台湾各地に飛ばされ、運が悪ければ離島に配置される。そうなると、しょっちゅう帰省するわけにはいかない。

 新兵訓練所に集められた時点ではまだ派遣先がわからないので、誰もがビクビクしている。

「金馬賞だったら最悪」

 と冗談を言い合う。「金馬賞」というのは中華圏を代表する映画賞なのだが、兵役男子にとっては「金門島か馬祖に配置される」ことを意味する。

 金門島と馬祖は中国大陸に近い離島で、戦争が勃発すればまっさきに戦闘地になる場所だ。この2島への兵役が決まることは、ババを引き当てるに等しい。

 写真を見ていただくとわかると思うが、実際、馬祖など西側の島に行くと、台湾も戦争に対する備えのある国だということがよくわかる。

 

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本土ではあまり目にすることのない軍事車両も馬祖や金門島ではよく見かける。物々しさはあまりなく、兵士たちはリラックスモード

 

 だが結果、3カ月ほどの新兵訓練を経て私の友達が配置されたのは台北郊外の比較的楽な勤務地だった。毎週末実家に帰ったり、彼女とデートしたりできたようで、あまり苦労しているようには見えなかったのだが、本人に聞くとやはり「兵役は大変だった」と言う。

 

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馬祖や金門島では兵士たちは優遇される。平和な時代でも「お国のために尽くしている」と感謝されるようだ

 

(次回につづく)

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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