韓国の旅と酒場とグルメ横丁

韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#75

東京・大塚滞在記 도쿄 오츠카체재기〈4〉

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 東京滞在記の最終回は、大塚駅前の風景や20年ぶりに訪れた江の島のこと、初めて行った淡路町の大衆酒場のことについて書きたいと思う。

 

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路面電車は大塚駅のJR線の下をくぐり、今回お世話になったホテル『星野リゾート OMO5 東京大塚』の真裏を抜けて行く

 

今のソウルに足りないのは路面電車かもしれない 

 大塚駅前で5日間ほど過ごして、私は親しいチング(親友)を得たような気持ちになっていた。チングは鉄のかたまりなのだが、情に厚く人にも街にもやさしい。そして、大変な働き者だ。

 チングの名は路面電車。1968年までソウルでも走っていたが、1967年に江原道で生まれた私は乗ったことがない。路面電車に初めて乗ったのは2010年、旧満州の取材で訪れた中国の大連だった。車内では体格のいいおじさんがなにやら北京語で親し気に話しかけてきて、周りの中国人たちもそれを笑顔で見つめていた。

 

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中国、大連の魯迅路を走る路面電車

 

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大連の路面電車の車内は薄暗かったが、どこかあたたかく懐かしかった

 

 日本では2012年、三ノ輪にホルモン焼きを食べに行くため大塚から乗ったことがある。庶民の生活圏を走るという点で、韓国のマウルバス(本連載#67#68#69参照)と同じ匂いを感じた。

 チングは時速30キロメートルほどで走るので、人を圧迫しない。本当はいけないのだが、踏切で直前直後の横断をする人もけっこういる。でもチングは怒らない。腰が低いのだ。

 

路面電車の直前直後の横断はやめましょう(大塚駅南口駅前)

 

 我がソウルにも路面電車を復活させてほしい。西大門~清凉里を再現するのは難しいだろうが、せめて世宗路~東大門だけでも。土日だけの運行でもいい。乙支路3街にある労働者のための小さなビアホールに“未来遺産”の称号を与える今のソウル市ならできるのではないだろうか。

 

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ソウル歴史博物館の前に展示されている路面電車(ソウル市電)。チャン・ドンゴンとウォンビン主演の映画『ブラザーフッド』に、これと似たタイプの市電がソウル市内を走る場面があった

 

 

20年ぶりの江の島 

 私のように90年代に首都圏で生活した韓国人留学生は、今、新大久保辺りで見かける留学生と比べると、ずいぶん質素だった気がする。この20年で韓国もだいぶ豊かになったが、私たちの頃はバイトしながら学校に通う者が多かった。

 そんな私たちに手の届く行楽地が、鎌倉、江の島、箱根だった。箱根は泊まり前提なので学生にはハードルが高かっため、鎌倉見物のあと江の島に行くのが楽しみだった。

 

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長い橋を渡って江の島に向かう

 

 今回は地元のかたの案内で江の島を再訪する機会に恵まれた。

 長い橋を歩いて島に渡り、鳥居の前まで行くのは20年前と同じだったが、私の好みをよく知る案内人さんは「江の島は観光産業が基盤ですが、漁師町としても現役です」と言いながら、鳥居に向かって左手の路地に進んで行った。

 

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晴天の日曜日、江の島は大にぎわいだった。あちこちから中国語、そして我が国の言葉が聞こえてくる

 

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江島神社に続く参道は大混雑していたが、漁師たちの生活圏は静かだった

 

 そこは民宿や釣り道具屋などがぽつぽつとあるものの、完全な生活圏だった。崖の斜面にも家が建っていて洗濯物が風に揺られている。仙遊島(ソニュド)、黒山島(フクサンド)、飛禽島(ピグムド)、蓋島(ケド)……。過去に旅した韓国の西側、全羅道の島々を思い出す。

 

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小さな旅館に出合うと、大好きな日本映画『男はつらいよ』の寅さんを思い出す

 

 住宅街を抜けて海辺に近づくと、見慣れない小屋のようなものが並んでいる。

 窓から顔を出した住民に正体を聞くと、

「倉庫よ、倉庫」

 という上機嫌でも不機嫌でもない、ふだん着の言葉が返ってきた。

 こんなのんびりしたところも島らしい。海を見るより、ここが島であることを実感する瞬間だ。

 

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家々の前に並んでいたのは倉庫だった

 

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江の島の生活圏内にあった小さな食堂では、エビフライやアジフライ、サザエのつぼ焼きをいただいた

 

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江の島を出た後は、電車で数駅行った街のおしゃれなカレー屋さん『ミナミカレー』のイベントでクラフトビールを飲み、ライブを聴いた。こぢんまりとした店で美味しいお酒と音楽を楽しむ。ひとつの場所に休日の楽しみがコンパクトにまとまっているところに、日本らしさを感じる

 

 

初めての淡路町、百年酒場とミラーボール 

 帰国日の前日、親しくさせていただいている読者さんたちと飲む機会があった。場所は淡路町。地下鉄駅から地上に出ると、そこは無機質なオフィス街のように見えたが、この辺りはソウルでいえば乙支路(ウルチロ)のようなところだという。う~ん、乙支路にしては背が高くて新しいビルが多いなあ。

 

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淡路町の百年酒場と筆者

 

 だが、表通りに建つオフィスビル群の裏側に入ると、あるある! 大好きな居酒屋街が。一軒目は百年以上の歴史がある店だった。外観は映画のセットのようで少々入りにくいが、中に入った瞬間いい店だと確信した。

 日本では主(あるじ)が文化人になってしまっている老舗酒場に遭遇したことも何度かあったが、この店は圧倒的にお客が主役だ。老若男女が飲んで語る口調や表情からそれが伝わってくる。年季の入った建物ももちろん魅力的だが、この店では隣りで飲んでいる人の笑顔や嬌声がなによりのごちそうだ。

 

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きんぴらごぼうと里芋。家庭的な料理を少量ずつ、いろいろなものを楽しめるのが日本の酒場の魅力

 

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勤め先の同僚グループ、中年男性の一人客、カップル、シニア夫婦、外国人というだけで向かい合わせの相席にされたが、自然と言葉を交わす旅慣れた感じの男性2人。多様な客層に店のふところの深さを感じる

 

 二軒目は百年酒場に隣接するキャッシュオンディリバリーの店。酒がすべて200円というソウルのシュポ(角打ち)も顔負けの価格設定だ。オフィス街らしく清潔感のある髪型にスーツ姿の男性が多いが、この店の主役は天井でカクテル光線を放っているミラーボール! そして、流れる音楽はソウルミュージック!

 ♪♪ Do you remember ?

 懐かしいアース・ウィンド&ファイアーの曲に踊りたくなる気持ちをおさえつつ(週末は踊ってもいいらしい)、1杯200円の甘露な水を流し込む。

 

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テーブルはビールケースに板をのせたもの、酒やつまみは受け取りも返却もセルフ、余白を埋めるようにベタベタ貼られたポスター……。なのにしみったれた感じがしないのは、ミラーボールとソウルミュージックのせいかもしれない

 

 百年酒場とミラーボール酒場が並び立っている愉快さ。次回は韓国の仲間たちを連れて来たい。

 

17神田の路地裏酒場に興味津々の筆者

 

 2018年は1月に名古屋、4月に東京、7月に大阪、そして11月にふたたび東京にお招きいただいた。2019年は変わらず韓国の情緒を日本に伝えるとともに、日本の魅力を韓国に伝える仕事にも注力したいと思う。

 

協力:星野リゾート OMO5 東京大塚

https://omo-hotels.com/otsuka/

 

 

*2月2日(土)のトークイベント、チケット発売中!

 本コラムの筆者(チョン・ウンスク)が2月2日(土)午後、東京大山の焼肉店でトークイベントを行います。当日はソウルのDEEPエリアに関するトーク、板橋区の酒都・大山散歩、新年会を行う予定です。

 イベントの詳細はこちら→http://apeople.world/ja/culture/event_017.html

 

*著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

 

*本連載の一部に新取材&書き下ろしを加えた単行本、『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』が、双葉社より好評発売中です。ぜひお買い求め下さい!

 

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*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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