旅とメイハネと音楽と

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#75

ポーランド・ワルシャワの台所ツアー〈1〉

文と写真・サラーム海上

地元で人気の個人商店や市場を巡る

 8月29日ワルシャワ二日目。今日は楽しみにしていたワルシャワの台所ツアー。

 待ち合わせの10分前、9時50分にホテルのサロンに降りると、既に通訳のアンナさんに加えて、現地ガイドのアネシュカさんが待っていてくれた。

「私はワルシャワの町を様々な観点から案内するのが仕事ですが、特に台所ツアーの仕事は大好きなんです! 今日は古い個人商店から最新の人気レストランまで案内しますよ!」とアネシュカさん。彼女の小型車に乗って台所ツアーのスタートだ!

「まずは町のやや西側、工業地帯のヴォラ地区にある老舗のポンチュキ屋に行きましょう。『ポンチュキ』はキリスト教徒が謝肉祭の時に食べる揚げドーナツです。ユダヤ人がお祭りの時期に食べる揚げドーナツ、『スフガニヤ』とほぼ同じものです。でも、ポンチュキは豚の脂のラードで揚げているのがスフガニヤとの違いです」

 なるほど。11月下旬にイスラエルの市場を訪ねると、ユダヤ教の祭ハヌカーを祝って食べる様々な種類の揚げドーナツのスフガニヤが並んでいる。ジャム入りのものもあれば、チョコレートでコーティングされたものもあり、どれも美味しそうなのだが、なんせ直径が10cm以上もあるので、僕はこれまで一度も口にしたことはなかった。

 スフガニヤは当然ユダヤ教徒の食事規定であるカシェルートに基づき、植物油で揚げている。ユダヤ教徒は豚食がタブーのため、ラードで揚げたポンチュキを口には出来ない。お祭りの時に体力を付けるため炭水化物をたっぷり食べるのは世界の多くの宗教/文化に共通して見られるが、同じ揚げドーナツであってもこうした絶対に相容れない相違もある。

 

IMG_5935エルサレムのマハネイエフダ市場で見かけたスフガニヤ


 9時半に『ザゴジジニスキ家のポンチュキ屋(Pracownia Cukiernicza Zagoździński)』に到着。9時開店なのに店の前にはすでに長蛇の列が出来ていて、先客がポンチュキがたっぷり詰まった紙パックを両手に提げて、ニコニコしながら次々とお店から出てくる。そんなに大量に買って食べ切れるのだろうか?

 僕たちも10分ほど並んで直径10cmほどの通常サイズと4cmほどのミニサイズを買う。ガブリと食いつくと、中にはアンズとイチゴのミックスジャムが少量入っていた。甘すぎることなく美味しいが、全部食べたら、台所ツアーが無駄になってしまうので、一口で止めておこう。

 

IMG_8928ワルシャワ中心部にある古くからの工業地帯ヴォラ地区

 

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ヴォラ地区にある「ザゴジジニスキ家のポンチュキ屋」。開店直後なのに長蛇の列。

 

IMG_8864同店のポンチュキ

 

IMG_8867 (1)ポンチュキの中には赤いフルーツのジャム

 

 アネシュカさんの車に戻り、来た道を戻り、町の中心へと向かう。

「今度はワルシャワ市民の台所と言われる『ミロフスカ市場(Hala Mirowska)』です。20世紀初頭、不衛生だった路上の市場を一掃するために建てられたモダンな室内市場です。今日は木曜ですが、金土は午前中でも近くに駐車場が見つからないほど混みあうんですよ」

 幸い、市場のすぐ目の前に車を停められたので、アネシュカさんに先導されて市場に足を踏み入れた。2階建ての市場の建物の西側にはプレハブ造りの生花店が並び、バラやユリなど日本では高価な花も10本で900円前後と安い。

 

IMG_892220世紀初頭に建てられたミロフスカ市場

 

IMG_8873ミロフスカ市場の花屋にて、一番手前のマゼンタ色のマーガレットは1束420円!

 

 南側は肉屋や魚屋の通り。肉屋で目立つのは豚肉。日本では薄切りにされるロース肉が円筒型の塊のままドーンと置かれ、三枚肉もマグロのサクのような状態で冷蔵ケースの中に重ねられている。薄切りや小間切りなんてものはない。赤身の牛や羊の肉も並んでいたが、やはり主役は鮮やかなピンク色の豚肉だ。ハムやベーコンや血のソーセージなどの豚の加工肉も大きく場所を占めている。

 

IMG_8880肉屋の冷蔵庫には豚肉が目立つ

 

 肉屋と比べると、魚屋はイマイチ地味だった。生魚はサバ、タラ、マス、イワシくらいで、ポリバケツに入った酢漬けのニシンと、冷凍物のオヒョウやカレイ、ティラピアのフィレが並んでいるくらいだ。季節が異なれば、もっと別の種類の魚が並ぶのかもしれない。バルト海地方や湖水地方に行く時間もないので、ポーランドの魚料理については次回の訪問時に取材しよう。

 

IMG_8879魚屋の冷凍庫。タラにオヒョウ、カレイなど白身魚のフィレばかり

 

 八百屋に並ぶ色とりどりの野菜を見ると、8月下旬のポーランドが恵みの季節であることを実感する。きゅうり、トマト、人参、セルリアック、リーク、オレンジ色のかぼちゃ、じゃがいも、キャベツ、ラディッシュ、ビーツ、ケール、カリフラワーなどなど。ハーブ類はディルやミントやイタリアンパセリ、チャービルが紐でくくられて大きな束のまま並んでいる。

 キノコは秋が旬のため、まだあまり出回っていなかったが、それでも松茸のような香りを放つポルチーニと黄色いラッパ型の杏茸が一部の店に並び始めていた。

 

IMG_8911旬は9月以降だが、アンズタケも出始めていた! 出汁が出るんだよね〜!

 

 もっとワクワクするのは果物屋。ラズベリーやブルーベリー、ブラックベリー、クロスグリ、桑の実など、僕の大好きなベリー類が主役の座を占めているのだ! しかも大好物のラズベリーが500gで約240円〜と日本では考えられない安さだ! 日本まで持って帰れないのが悔しい〜! りんごも大きくて赤いものから小さくて黄色いもの、赤と黄色がまだらになっているものまでいくつもの種類がある。

 

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果物屋の店頭には森のベリー類が!

 

IMG_8901ラズベリーが500gで270円!

 

 ミロフスカ市場の後、スターリン時代の遺物で、今も町のランドマークとなっている禍々しい高層ビルの文化科学会館を観光し、今度は町を東西に二分するヴィスワ川を渡り、プラガ地区へ。

「プラガ地区は第二次世界大戦時にあまり被害を受けずにすみました。そのためか戦後は再開発されることなく、長い間放置されてしまい、治安の悪い地域だったんです。でも、都心よりも物価が安いため多くのアーティストたちが住み始め、近年、カフェやバーなどが開き、再開発も始まり、今では注目される地域になっています。

 ランチの前に、ここで共産主義時代のストリートフードを食べましょう。今から行く店の特徴は、寒い日でも温かいまま保存出来るように、お皿ではなく、ガラス瓶に入れてサーブしていることです」

 

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左がスターリンのお土産と呼ばれる文化科学会館。高さ234.5m、部屋数3288もある37階建ての高層ビルで、30階の展望台からはワルシャワの町中が見渡せる

 

IMG_8968プラガ地区にある共産主義時代ノスタルジーなバー

 

IMG_8974プラガ地区で覗き込んだ共産主義時代の労働者向け安食堂ミルキーバーにて。当時はお皿が盗まれないようにテーブルに釘打ちされ、スプーンも鎖で繋がれていたそうだ。どうやって洗っていたのだろう?

 

 プラガ地区のルジスキ青空市場の裏にある『瓶入りのペーゼーとフラキ(Pyzy Flaki Gorące)』という店に並ぶと、開店時間の11時半になってもお店は開かない。中を覗くと、おばちゃんがゆっくりと開店準備を続けていた。お店が開いたのは15分後、その頃には僕たちの後には、普段着姿の地元客が10人以上も並んでいた。共産主義の名残で開店時間は守れないのだろうけれど、それでも人気あるんだなあ。

 

IMG_899820分以上並んで入った『瓶入りのペーゼーとフラキ』

 

 お店の名前になっている「ペーゼー」と「フラキ」の2つを注文すると、5分も待たないうちに、2つともいわゆるメイソンジャーに入って運ばれてきた。メイソンジャー料理は2010年代のニューヨークで始まり、瞬く間に世界に広がったが、ポーランドでは共産主義時代から庶民の間で流行していたとは偶然の一致とはいえ驚きだ。あ、ここだけ読むと、ポートランド(21世紀アメリカを代表するグルメの町)の話かと勘違いする人がいそうだけど、僕が訪れたのは東欧のポーランドね。

 

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共産党時代のストリートフードが21世紀ニューヨーク生まれのメイソンジャー料理そっくりとは、なんという歴史の皮肉!?

 

 ペーゼーは小さめの肉まんほどの大きさのセモリナ粉の団子を茹でたもので、炒めた角切りベーコンがたっぷりトッピングされていた。トッピングはキノコのペースト、レバーのりんごとラズベリーソース、ケールのペーストなどが選べるようだ。

 瓶に入ったままでは食べにくいので、お皿に取り出し、団子の皮を割ると、中にたっぷりの牛ひき肉のミートソースが詰まっていた。要は巨大な水餃子や小籠包、もしくは茹で肉まん。団子の中にも外にも肉、いかにもお腹に溜まりそうなストリートフードだ。柔らかい生地とスパイシーなミートソース、そしてベーコンの塩辛さの組み合わせが絶妙だ。

 

IMG_8997ペーゼーはスパイシーな挽き肉が詰まった肉まん。たっぷりのベーコンでトッピング

 

 そして、もう一品のフラキはいわゆるモツ煮のたぐいだ。牛の胃袋やミンチボールを人参、セロリ、玉ねぎ、ショウガやパプリカパウダーとともにトロトロになるまで煮て、パルメジャーノチーズをふりかけている。胃袋のトマト煮込みはイタリア料理に、肉のパプリカ煮込みはハンガリーに存在するが、そこにさらにショウガとパルメジャーノチーズの組み合わせは他に聞いたことがない。

 こちらも美味しいが、全部食べたらその場で撃沈してしまいそうだ。既にお腹は7分目……だが、この後、正式なランチが待っているのだ。まだまだギブアップするわけにはいかない……。

 

IMG_8994こちらはフラキ。牛の胃袋と肉団子のシチュー。臓物料理好きにはたまらん!

 

ポーランド料理の野菜の付け合わせ、スルフカ

 前回に続き、今回も地味目で、主役ではなくあくまで脇役のポーランド料理のレシピを紹介しよう。野菜の付け合わせ「スルフカ」の、一つはキャベツのスルフカ、もう一つはビーツのスルフカの2種類だ。

 ポーランドではメインディッシュを頼むと、お皿の脇に1〜3種類のスルフカがたっぷり盛り付けられていることがよくある。重たい肉料理でもスルフカと一緒に食べるとさっぱりと食べられるようになるからだろう。

 2回にわたって脇役料理のレシピを紹介した。いよいよ次回は脇役料理を使って主役料理を作る!

 

■キャベツのスルフカ

【材料:作りやすい分量】

キャベツ:1/4個

塩:小さじ1/2

人参:1本

リンゴ:1/2個

ワインビネガー:大さじ1

砂糖:小さじ1/2

EXVオリーブオイル:大さじ2

【作り方】

1.キャベツはスライサーで千切りにしてから、ボウルに入れ、塩をふって、手でよく揉み込む。15分ほどで水が出てきたら、絞って水気をしっかり切る。

2.人参、リンゴは皮とへた、芯を取り、スライサーで千切りにし、1のボウルに加えて、ワインビネガー、砂糖を足し、よく揉み込む。

3.全体がしんなりしたら、EXVオリーブオイルを混ぜ合わせる。

*キャベツの代わりにザアークラウト300gを用いるとさらに本格的な味になる。

 

■ビーツのスルフカ

【材料:作りやすい分量】

ビーツ:1個(250g)

レモン汁:大さじ1

砂糖:小さじ1~2

塩:小さじ1/2

ホースラディッシュ(チューブ入り):小さじ1

【作り方】

1.ビーツはアルミホイルで包み、200度のオーブンで金串がスッと刺さるまで

1時間〜90分焼く。室温に冷ましてから皮をむき、チーズおろしなどですりおろす。

2.ボウルに1を入れ、レモン汁、砂糖、塩、ホースラディッシュで味付ける。

 

tabilistapoland3左がビーツのスルフカ、右がキャベツのスルフカ

 

(ワルシャワ台所ツアー、次回に続きます!)

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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