ブーツの国の街角で

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#75

ロヴェレート:トレンティーノのX’masマーケット巡り(後編)

文と写真・田島麻美

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 クリスマスムードをたっぷり満喫できるトレンティーノのクリスマス・マーケットはしご旅。イタリア最大のクリスマス・マーケットが開催されているトレントを訪れた後は、隣街のロヴェレートへ。イルミネーションに彩られた夜の旧市街散歩から前衛アート鑑賞まで、意外な発見に出会える北イタリアの小都市をご紹介しよう。

 

 

小さな旧市街にあふれるクリスマス・イルミネーション
   

 トレントから各駅電車で一駅、ロヴェレートに着くと日はとっぷりと暮れていた。ホテルに荷物を置いて旧市街へ繰り出すと、小さな通りも広場も、色とりどりのイルミネーションに輝いている。マイケル・ブーブレが歌うクリスマス・ソングがBGMに流れる街角は、早くもクリスマスがやってきたよう。地図も持たず、ライトアップに惹かれるまま通りを歩いて行くと、黒山の人だかりができている広場に出た。どうやら飲食の屋台が集まっているらしい。夜になって体も冷えてきたので、名物のホットワイン「ヴィン・ブリュレ」を飲んであったまることにした。重厚な赤ワインにシナモンや丁子、オレンジピールなどのスパイスと砂糖をたっぷり入れたヴィン・ブリュレは冬には欠かせない飲み物。火を通しているのでアルコール度は低く、体の芯から温まるため風邪の予防薬としても重宝されている。この一杯で元気を回復し、再び通りを歩き出す。

 トレントに比べ街の規模が小さいロヴェレートでは、旧市街全体がクリスマス・マーケットになっていた。通りや広場にはさまざまな屋台が出ていて、食べ歩きをしながらショッピングも楽しめるようになっている。屋台やショップをのぞいて見ると、工芸品やギフト用品、デコレーション用品など売られているアイテムの種類は他の街と同じだが、品物は一つ一つ異なっている。ハンドメイドの品が大半で、出店している職人さんの個性が光る品々をじっくりと見比べながら、

自分好みの一点物を探し歩く。大型チェーン店では絶対に見つからない味のあるギフト用品が格安で買えるのだから、財布の紐が自然と緩んでしまうのは仕方がないことだろう。

 

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 旧市街の至る所に施されたイルミネーションがクリスマス気分を盛り上げる(上)。デコレーション用品や飲食の屋台が軒を連ねるローマ通り(中・下)。
 

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旧市街の中心にあるエルベ広場のイルミネーション(上)。エルベ広場と向かい合ったキエーザ広場は飲食専門の屋台が集まっている(下)。

 

 

雪山を眺めながら爽快な朝の散歩
  

 翌朝、再び旧市街を歩き出すと、昨夜とは一変した爽快な自然風景が目に飛び込んで来た。この日は朝市が開かれていて、クリスマス・マーケットとは全く違う日用品や衣料品を売る露天商が通りを埋め尽くしている。客と店主との元気な掛け合いを聞きながら露天商をひやかして歩くうち、ツリーとプレゼピオが置かれた広場に出た。ロヴェレートの旧市街の入り口であるロズミーニ広場には、ヴェネツィア風のバルコニーと繊細なフレスコ画が美しいベン宮殿がある。元々は16世紀の貴族の館であったらしいが、その後何世紀にも渡って改築され、現在の姿になったのだそうだ。背後の雪山のパノラマと赤煉瓦のコントラストも素晴らしいこの宮殿を筆頭に、ロヴェレート旧市街にはさまざまな時代の粋を感じる印象的な建築物がたくさん残っている。

 ロズミーニ広場からネプチューンの噴水があるバッティスティ広場を抜け、まっすぐ進んで行くと、突き当たりに中世時代の建築であるプレトーリオ宮殿が見えた。現在は市庁舎として利用されているこの宮殿の先、旧市街南端の高台にロヴェレート城がそびえている。中世時代に築かれた堅固な城は、今は第一次世界大戦の傷跡を物語る戦争博物館となっている。国境の要所であったトレンティーノ地方は、第一次大戦時には過酷な運命にさらされてきた。ロヴェレートも例外ではなく、アルプス国境の激しい攻防戦に巻き込まれた市民達の生々しい記録がこの博物館に残されている。華やかなクリスマスのイルミネーションと朝市の活気で忘れていたが、私が今享受しているこの平和でのどかな時間は、命がけでこの地を守ってきた人々が多大な犠牲を払って手にしたものだということを思い出し、平和のありがたさを今一度かみしめた。

 

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旧市街で開かれていた朝市。格安の衣料品や靴、バッグ、日用雑貨などを求める人々で賑わっていた(上)。クリスマス用にアレンジされた花々(中上)。ルネサンスの華麗な建築、ロズミーニ広場のベン宮殿。現在は銀行になっている。(中下)。中世時代に起源を持つプレトーリオ宮殿はロヴェレートの市庁舎として利用されている(下)
 

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旧市街南端の高台に位置する中世の要塞ロヴェレート城。内部は第一次世界大戦の資料を展示した重要な戦争博物館となっている(上)。お城前の広場から旧市街とアルプスの雪山のパノラマを望む(下)

 

 

未来派&前衛アートが一堂に集う街
  

 

 ロヴェレート城に登って初めて気づいたのだが、ロヴェレートの旧市街は高低二つのエリアに分岐した二重構造になっていた。私が今まで歩いてきたのは下の旧市街で、お城前の広場から伸びた上の旧市街はまだ足を踏み入れていない。所々、建物の間に狭い階段があり、住民達はその階段で上下の通りを行き来しているようだった。小さな階段の踊り場には隠れ家レストランがあったり、若者達が座り込んで話し込んでいたり。この行き来がとても面白く、ジグザグ歩行で上下の通りを渡り歩いていた時、古めかしい旧市街にはちょっと不似合いなモダンな看板が目についた。読むと、『Casa d'Arte Futurista Depero (デペーロ・未来派アート・ハウス)』と書かれている。未来派(=フトゥリズモ)は20世紀初頭にイタリアで起こった近代化社会を称える前衛芸術運動で、フォルトゥナート・デペーロはその運動の中心的アーティストである。デペーロがロヴェレートの出身だったことを全く知らなかった私は、こんなに静かでのどかな山の麓で、後にファシズムのプロパガンダとなる未来派の運動が起こったことにショックを覚えた。

 興味をそそられて入ったデペーロ美術館には、20世紀前半にモダンなデザインやイラスト、ポスター、彫刻などを次々と発表していった彼の珠玉の作品が展示されている。そのカラフルでポップな作品と、展示された資料に記されているファシズムのプロパガンダとのギャプに衝撃を受けつつ、広い美術館を無言で見て歩いた。

 デペーロの家を出てから旧市街を歩くと、モダンでポップなアート作品を並べたウィンドウや芸術関係の本を並べた書店がたくさんあることに改めて気づかされた。ロヴェレートにはこの他、欧州屈指の芸術作品を所蔵するモダンアートの美術館『MaRT(トレント・ロヴェレート近代美術館)』もある。中世・ルネサンスの街並みと好対照を成す前衛芸術の群れ。モダンアート好きにはたまらない魅力的な光景が、街角の随所に見られた。

 

 

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20世紀初頭、芸術・文学・建築など幅広い分野で革命を起こした未来派の全容がわかる『Casa d'Arte Futurista Depero (デペーロ・未来派アート・ハウス)』のエントランス(上)。カンパリ・ソーダの瓶のデザインでも知られる未来派の中心的アーティスト、フォルトゥナート・デペーロの作品が一堂に集う美術館(下)

 

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旧市街の高台、ロヴェレート城からまっすぐ伸びたテッラ通りには、アーティストの工房やショップ、モダンアートの本を揃えたおしゃれな書店などが軒を連ねている。            

 

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15〜16世紀にはヴェネツィア共和国の支配下にあったロヴェレート。街にはルネサンス時代のヴェネツィアの面影が今も残っている(上)15世紀中頃、ヴェネツィア共和国の統治時に建築が始まったバロック様式のサン・マルコ大司教教会(下)

 

 

モダンと伝統が融合した創作料理との出会い
  

 クリスマス・マーケットと煌びやかなライトアップ、中世の街並み、前衛アートなどなど、盛りだくさんの発見があったロヴェレートで、もう一つ嬉しい出会いがあった。宿でおすすめされたレストラン『ペッティロッソ』は、私が知っているトレンティーノの郷土料理の概念を覆す斬新なお店で、古い街並みと前衛芸術が融合したこの街の特徴が凝縮されたような料理を味わった。

 旧市街の中心、ロズミーニ広場と近代美術館MaRTの間にある小さな店の看板には「オステリア」と書かれていたが、店内にはパリのビストロを思わせるおしゃれな空間が広がっていた。薄暗い照明と壁にずらりと並んだボトルの数々、店の中央に据えられた大きな木のカウンターテーブルが、落ち着いた居心地の良い雰囲気を演出している。隣のテーブルでは若い男女がビールやワインを片手に芸術論で盛り上がっている。この店が提供してくれる「伝統料理」とはいったいどんなものなのか、だんだん興味が湧いてきた。前菜にはポレンタ、プリモにはクネーデルというトレンティーノの郷土料理を注文し、地元のクラフトビールを飲みながら皿を待った。

 運ばれてきた皿は、見た目も味も伝統をベースにしたモダンで革新的な料理。土地の素材だけを使っているが、その調理法やサーブ方法はオリジナリティに溢れている。ポレンタを固めて焼いた器にラディッキオのフランを入れ、チーズフォンデュと共にいただく前菜のスフレは、優しさの中にハッとするような驚きがある味。クネーデルはティーポットに入った熱々のブロードをその場でサーブしてくれる。デザートのフォンダン・ショコラも甘さとほろ苦さ、ラズベリーソースの酸味が絶妙なハーモニーを紡ぎ出していた。伝統的でありながら、新しい。ロヴェレートの街そのものを彷彿させる意外性に満ちた料理を、お手頃価格でたっぷり味わうことができた。

 

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トレンティーノといえばビール。地元産のクラフトビールは絶対に外せない美味しさ(上)。パリのビストロを思わせる居心地の良いお店『Osteria del Pettirosso(オステリア・デル・ペッティロッソ)』(下)。

 

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地元産の食材だけを使い、伝統レシピをベースにオリジナリティを加えた創作料理が楽しめる。上から、「Sformatino di polenta ripieno di radicchio (ラディッキオのスフレ/ 前菜)」、「Il Canederlo del Pettirosso(ペッティロッソのクネーデル/プリモ)」、「Tortino di cioccolato con cuore fondente(フォンダンショコラ)」

 

 

 

★ MAP ★

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<アクセス>

ローマからフレッチャアルジェントで直通約3時間40分。もしくはヴェローナ・ポルタ・ヌオーヴァから各駅電車で約1時間10分。トレントーロヴェレート間は各駅電車で一駅、約15分。

 

<参考サイト>

ロヴェレート観光情報(英語)

https://www.visitrovereto.it/en/

 

ロヴェレート美術館情報(英語)

http://www.mart.trento.it/

 

オステリア・デル・ペッティロッソ(伊語)

http://www.osteriadelpettirosso.it/

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2020年1月9日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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