ブーツの国の街角で

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#74

トレント:トレンティーノのX’masマーケット巡り(前編)

文と写真・田島麻美

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 時の過ぎる速度が年々速くなっているように感じるが、今年もあっという間にクリスマスの季節がやってきてしまった。温暖化の影響で秋をじっくり楽しむこともできないまま、街は一気に年末の喧騒に突入。カレンダーは12月でも今年のローマはまだまだ気温が高く、クリスマスと言われてもピンと来ない。そこで、季節感をたっぷり満喫できる北イタリアまで足を伸ばすことにした。オーストリアとの国境にあるトレンティーノ・アルト・アディジェ州はイタリアにおけるクリスマス・マーケットのメッカで、11月末から1月初旬にかけては州内のどの街でもクリスマス・マーケットが開催されている。色とりどりのイルミネーションやにぎやかな露天商、郷土の味が楽しめる屋台が軒を連ね、街を歩くだけでもクリスマスムードをたっぷり満喫できる。

 今回は、ボルツァーノと並んでイタリア最大と謳われるトレントのクリスマス・マーケットと隣町ロヴェレートのクリスマス・マーケットをハシゴしてみることにした。それぞれの街の魅力とクリスマス・マーケットの楽しみ方を2回に渡ってご紹介しよう。

 

ルネッサンスの街並みが美しいトレントの旧市街
  

 トレンティーノ・アルト・アディジェ州の州都であるトレントの街は、ルネッサンスの時代にカトリック教会が開催した「トリエント公会議(宗教公会議)」が開催された街として有名である。1545年から1563年の間、数回に渡って開かれたこの会議は、マルティン・ルターの宗教改革運動の高まりを受けて当時の教皇パウロ3世によって開催された。その後のカトリック教会に大きな変革をもたらしたこの重要な会議の開催地としてトレント(ドイツ語でトリエント)の街が選ばれた理由は、ここが神聖ローマ帝国領の自由都市であったから。聖書の教義をもう一度見直し、カトリック教会のあるべき姿を模索するこの会議は、現在に至るまでカトリック・キリスト教に多大な影響をもたらしている。

 世界を揺るがす歴史的な会議が開催された街だけあり、トレントの旧市街には中世からルネッサンス、バロックの時代に至る素晴らしい建築群が残されている。中でも「街で一番美しい通り」として有名なのがドゥオーモ広場へと続くベレンツァーニ通りだ。フレスコ画で装飾された華麗なファサードを持つルネッサンス期の建物が並んでいる。バロック様式のサン・フランチェスコ・サヴェリオ(日本ではフランシスコ・ザビエルの名で知られる)教会を背に、ルネッサンスの美の結晶を鑑賞しながら歩く。ドゥオーモ広場に着くと、ここにも素晴らしい建築や彫刻が集っていた。背後に広がる雄大なドロミティの雪山とルネッサンス建築が見事に融け合い、心安らぐ優美な空間を作り出している。

 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA サヴェリオ教会からドゥオーモ広場へまっすぐ伸びたベレンツァーニ通り。両脇にルネッサンス期の美しい建築が軒を連ねている(上)。外壁に美しいフレスコ画が描かれた16世紀の建物。外気にさらされていることを考えると奇跡的な保存状態の良さ(中)。優雅なポーチを備えた建物もある(下)。

 

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ドゥオーモ広場にもルネッサンス期の芸術的な建築物が集っている(上)。18世紀の彫刻ネプチューンの噴水と大聖堂に隣接した中世時代のプレトリオ宮殿の時計塔(下)。

 

 

 

イタリア最大のクリスマス・マーケット

 

 

 ドゥオーモ広場に着くと、一角にクリスマス・マーケットを目当てにやってきたツーリストのためのインフォメーションスタンドが用意されていた。ボルツァーノと並び、『イタリア最大のクリスマス・マーケット』と謳われるトレントには、この時期、イタリアはもちろんのことヨーロッパ各地からも家族連れやカップルのツーリストが押し寄せてくるのだそうだ。初めてこの地を訪れる人たちが迷子にならないよう、旧市街の随所に「クリスマス・スポット・マップ」が設置されていた。マップを見ると、『Mercatino di Natale(メルカティーノ・ディ・ナターレ)=クリスマス・マーケット』があるのはフィエラ広場とバッティスティ広場。案内のお姉さんによると、一番大きい会場はフィエラ広場とのことだったので、まずはそちらを見に行くことにした。

 ドゥオーモ広場の脇道にあたるヴィジリオ通りからマッツィーニ通りを通り、中世時代の城壁を越えてフィエラ広場に着いた。会場入り口には大きなツリーが飾られ、色とりどりのギフト商品や地元の特産食材、クリスマス飾りなどを売る屋台がぎっしりと軒を連ねている。この光景を見ただけで、一気にテンションが跳ね上がった。平日の午前中だというのに早くも大混雑している広場の中へ、私も突進していった。

 

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA ドゥオーモ広場のインフォメーション・ポイントに設置されたトレントの「クリスマス・スポット・マップ」(上)。旧市街のクリスマス・スポットを巡るトレニーノ(ミニ機関車)は老若男女に大人気(中上)。中世時代の城壁を超えるとフィエラ広場に出る(中下)。広場中央に置かれたツリーを取り囲むように60を超える屋台が軒を連ねている(下)

 

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トレンティーノの特産食材からギフト用品まで、クリスマス・ムードを盛り上げる露店がひしめくマーケット(上)。チロル風のモチーフが可愛い手作りのスリッパやアクセサリーはプレゼントに最適(中上)。地元の職人さんによる木彫りのプレゼピオ実演販売も見られる(中下)。自然の素材を使ったデコレーション用品もたくさん売られていた(下)

 

 

 

屋台メシで嬉しい食い倒れ

 

 目に付くものはどれもこれも欲しくなってしまう衝動と闘いながらマーケットを練り歩き、そろそろお腹も空いてきた。クリスマス・マーケットの会場には、郷土の味が手軽に楽しめる屋台もたくさん出ているので、食事の心配は無用。広場の中央には焼き立てのブレッツェルやシュトゥルーデル、スパイスの効いたホットワイン、チロルやバイエルン地方の郷土料理やビールなど、目移りしそうな程バラエティに富んだメニューが集まっている。ランチは立ち食いで軽く済ませようと思っていたのだが、この中から一品だけに絞り込むのはかなり難しい。悩みに悩んだ末、今が旬のフレッシュなポルチーニ茸と鹿肉の煮込みのポレンタ添えをまず味わってみることにした。長時間かけて赤ワインでトロトロに煮込んだ鹿肉はハーブの香りととろける様な柔らかさで自然と笑みがこぼれてくる。そして旬の生のポルチーニ茸は、もう言葉に尽くせないほど芳醇な味わいで、思わず目を閉じてその滑らかな舌触りと口中に広がる森の香りに酔いしれた。

 お腹も心もあったかくなったところでマーケット散策を再開し、クリスマスのショッピングを楽しんだ後は再び屋台の味巡り。果汁たっぷりのホット・アップルジュースで体を温め、さらに本場のウィンナー・ソーセジとクラウト、マスタードたっぷりのホットドッグを平らげた。屋台グルメの数々に嬉しい悲鳴をあげながら、マーケット巡りを存分に満喫した。

 

 

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ブレッツェルやビール、ホットワイン、ザッハトルテにシュトゥルーデルなど、ドイツ風の郷土の味がたくさん集まっている(上)。昼間からビールやワインを片手に屋台メシを楽しむ人々で賑わっていた(中上)。レストランも顔負けの本格グルメ「ポルチーニ茸と鹿肉の煮込み、ポレンタ添え」。10ユーロちょっとで大満足の食事が楽しめる(中下)。手作りウィンナー・ソーセージとクラウトのホットドッグも絶品だった(下)

 

 

歴史の現場を体感できる博物館と初期キリスト教聖堂

 

 マーケットでショッピングと食い倒れを堪能した後は、きらびやかなデコレーションで飾られた旧市街を散策する。絶好の散歩日和にも恵まれ、背後にそびえる山々の風景の中に溶け込んだルネッサンスの美しい街並みの中を歩くのはとても心地よく、飽きることがない。本当はここからトレントが誇る中世のブオンコンシーリオ城へ行くつもりだったのだが、あいにく休館日とあって断念し、代わりに街の歴史がわかる司教区博物館を見学することにした。

 ドゥオーモ広場のサン・ヴィジリオ大聖堂に隣接したプレトリオ宮殿の一角にある司教区博物館には、16世紀の宗教公会議の貴重な資料を始め、11世紀から19世紀に及ぶトレントと周辺地域の芸術・文化遺産が収蔵されている。歴史の教科書で見た記憶がある宗教公会議の絵画や歴代司教の法衣、宝物、タペストリーなど、見応えのある展示を見学しながらコースを進むと、突然、古い石造りの通路に出た。トンネル状の通路からは、隣接したサン・ヴィジリオ大聖堂の主祭壇を真下に見ることができる。一瞬、さっき見たばかりの「宗教公会議」の絵画の中に入り込んだような気分に陥った。カトリック教会にとって重要な転機となった歴史的な宗教公会議は、まさにここで開かれたのだ。歴史の生々しい記憶に触れ、自然と厳粛な気持ちになる。

 博物館のチケット売り場で、「隣接する大聖堂の地下にある初期キリスト教の聖堂もぜひお見逃しなく」と言われたので、そちらも行ってみることにした。トレントのドゥオーモであるサン・ヴィジリオ大聖堂は、12〜13世紀にかけて建造されたロマネスク・ゴシック様式の重厚な教会で、その地下にローマ帝国末期の初期キリスト教聖堂が残っている。階段を降りて地下に行くと、そこには4世紀のキリスト教聖堂の祭壇とクリプタが残されていた。古代ローマ時代のモザイクや大理石彫刻が残る聖堂内には最新のVRゴーグルがセットされていて、これを着けて聖堂内を見渡すとまるで古代にタイムスリップしたかのような感覚に陥る。世界史に刻まれた歴史の現場に立ち、さらには最新テクノロジーで古代へのタイムスリップも体験できる機会にも恵まれ、予想以上に充実した1日を過ごすことができた。 

 

 

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9世紀から13世紀にかけて、トレントの司教の住居であったプレトリオ宮殿。現在は司教区博物館となっている。カトリック教会において非常に重要な会議が行われたこの場所には、先の教皇ヨハネ・パウロ2世も公式訪問した(上)。歴史の教科書で見たような記憶がある「宗教公会議」の絵画(下)

 

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博物館のコース内にある古いトンネルの通路(上)。この通路の右手にサン・ヴィジリオ大聖堂の主祭壇が見下ろせる(中)。荘厳な大聖堂の内部を上から見下ろすという貴重な体験ができる(下)。

 

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博物館を出て、隣接する大聖堂へ。二重構造になっている聖堂内の一角に、地下の初期キリスト教聖堂への入口がある(上)。4世紀、古代ローマ帝国末期に建設された聖堂に足を踏み入れる。見学ルートには最新式VRゴーグルも置かれている(中)。古代ローマのモザイクが残る床(下)

 

 

★ MAP ★

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<アクセス>

ローマからフレッチャアルジェントで直通約4時間。もしくはヴェローナ・ポルタ・ヌオーヴァから各駅電車で約1時間半。

 

<参考サイト>

トレント観光情報(英語)

https://www.discovertrento.it/home

 

トレンティーノ周辺観光情報(英語)

https://www.visittrentino.info/en

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年12月26日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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