台湾の人情食堂

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#73

台湾の選挙と政治、初歩の初歩

文・光瀬憲子 

 先月の24日に台湾で「統一地方選挙」が行われた。台湾には全部で22の県があり、さらに細かく市や区に分かれているのだが、その県庁や市長、市議員などが一斉に選出される4年に一度の選挙だ。

 

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2018年の台湾統一地方選挙のポスター。顔若芳という印象的な名前に加え、タレント並みのルックスを誇る民進党の台北市議候補だったが、当選ならず

 

 台湾の政治は「国民党」と「民進党」の二大勢力によって成り立っている。ざっくり分けると、国民党は「親中国派(イメージカラーは青)」で民進党は「台湾独立派(イメージカラーは緑)」。現在の女性総統、蔡英文は民進党なので、彼女が就任したときは中国がこれをけん制するなど台湾海峡には緊張が走った。(今回の選挙惨敗を受けて祭英文は民進党党首を辞任している)

 

政治は市民のすぐ近くにある

 台湾人は日本人よりもずっと政治に敏感だ。誰が当選するかによって中国との関係に変化が起こり、それがダイレクトに暮らしや経済に影響するからだ。

たとえば2009年、国民党の馬英九氏が総統となって中国と友好関係が一気に進んだとき、もっとも顕著な変化は中国人観光客の増加だった。台湾には中国からの旅行者があふれ、夜市や観光地を埋め尽くした。台北市内の夜市や九份、台南の寺院などを訪れたとき、中国からの団体客に圧倒された日本人旅行者は少なくないだろう。言葉が通じる上、物価が安く食べ物が美味しい台湾は中国人に人気の渡航先となったが、台湾では中国人観光客のマナーを問題視する声があちこちであがった。

 しかし、爆買いや高級ホテルでの宿泊など、大量のチャイナマネーが台湾に流入したのも事実で、観光地の土産店や飲食店はうれしい悲鳴をあげた。

 ところが、台湾独立派の民進党代表、蔡英文氏が2016年に総統に就任すると、中国からの旅行者は突然途絶え、観光地には閑古鳥が鳴いた。

 これは対中国政策に関する一例だが、ほかにもいろいろな面で台湾の政治は市民の生活に影響するので、台湾人の政治への感心は高い。

 

カジュアルな選挙運動

 選挙を目前に控えた11月半ばに台湾を訪れたときは、街なかの目立つところに候補者たちの特大ポスターが貼られていて、街は選挙一色だった。テレビでも選挙特番が組まれ、職場でも政治の話題が多くなる。

 候補者たちはスーツにネクタイという姿ではなく、あえてジャージやハッピという庶民的な姿で街宣車に乗り込み、「近所のおばさん風」や「優しいお父さん風」を売りにして親しみやすさをアピールする。

 

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選挙前に台北市内の道路に集う人々。台湾独立を唱える人たちのバンドにひとだかりができている

 

 一方で容姿に自信のある女性候補者がお色気や清楚さをアピールする例もあって、ポスターを眺めているだけでもなかなか楽しい。

 

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可愛らしいポスターが目を引く国民党の台北市議候補者、林亮君氏。“島国の女神”との異名を持つ彼女だが、2018年の統一地方選挙は落選

 

 2016年、蔡英文氏が当選を果たした総統選の直前に高雄の港町を訪れたときも、台湾人の選挙への関心の深さを感じた。

 明け方の港で仕事終わりのビールや保力達(労働酒)を飲みながら、海の男たちは、「俺たちのことなんか誰も考えていない」と語った。誰が総統になったって生活は苦しいままなのだ、と自称「船長」のおじさんが言う。それでも選挙権のない外国人の私に「あんただって緑がいいだろ?」と台湾独立を熱く説くのだから笑ってしまう。

 

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高雄の港で、選挙の話題をツマミに仕事終わりの一杯を楽しむ漁師たち。2018年の統一地方選挙で、高雄はかろうじて民進党が勝利した

 

政治の話でもめても、あとくされがない

 台湾人は酒を飲みながらあからさまに政治や選挙を語る。政治はタブーではないのだ。そして挙げ句、意見が割れてケンカになっても、根に持たずにサッパリしているようなところがある。外国の統治を受け入れながら文化を築いてきた台湾人だからこそ、そして、民族の多様性と向き合っている台湾人だからこそ、意見の違う相手に対しておおらかなのかもしれない。

 

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高雄のパン屋さんは地元候補者の写真を店に飾っていた。庶民派が売りの陳菊氏は高雄市長を2期務め、現在は総統府秘書長

 

 かつてのように「中国派」「独立派」と白黒つけるような感覚は現実的ではなく、独立派でも中国との良好な関係を保ちたい、と考える人も多い。

 だが、台北を除く地方では北京語ではなく台湾語が共通語であるように、台湾人の心はやっぱり「緑」なのだと私は思う。

 

東京オリンピックの年には新しい総統が誕生

 先月の選挙直前、忠孝東路という台北の目抜き通りで大規模なデモを見かけた。緑色のハッピを着た老若男女が楽しそうに歌ったり喋ったりしていて、デモというよりはお祭りのようだったが、台湾人の地元愛のようなものが伝わってきた。言葉や食文化は似ていても、やはり自分たちは大陸の中国人とは違うと思っている人が多いのだ。

 先月の統一選挙では民進党が大敗し、親中国派の国民党が躍進した。2020年、東京オリンピック開催の年には、新しい台湾の総統が生まれることになる。日本がオリンピックに燃える年、台湾でも熱い選挙戦が繰り広げられることだろう。青でも緑でも赤でも、アジアのみんなの心が虹色でハッピーになれることを願いたい。

 

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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