東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#73

インドネシア・ジャカルタの空港電車〈2〉

文・写真  下川裕治

空港電車はソフトオープンのまま

 ジャカルタの空港電車。運行は30分から1時間に1本という割合だった。乗車して間もなく電車は発車した。速度は速くない13分ほど走り、電車はバトゥーセパー駅に停車した。ここからドゥリとタンゲランを結ぶ路線に入っていく。

 以前、ドゥリからタンゲランまでの路線を紹介している。空港電車にも触れているが、その時点では正確な路線がわからなかった。開通した空港電車は、タンゲランの少し市街よりのバトゥーセパー駅が接続駅になった。

 派手にオープンした電車だったが、新しくつくった線路は、空港とバトゥーセパー駅を結ぶ短い区間だけだった。

 電車はすぐに発車した。やがてドゥリに到着した。この駅はジャカルタ環状線の駅でもある。空港駅で切符を買うとき、ドゥリまで買おうとした。ここで環状線に乗り換えるつもりだった。ところがタッチパネルに表示された駅名をいくら触れても反応しない。よく見ると、ほかの駅とは色が違った。その意味がわからず、終点まで買ったのだった。

 電車はドゥリに着いたが、ドアは開かなかった。そういうことだった。色の違いは停車しないことを意味していた。

 資料を見ると、やがてドゥリ駅も停車するようになるのだという。この電車は開通して1年近くがたっていた。開通直後はソフトオープンという形で、未完成のまま開通させることはアジアでは珍しくなかった。しかし1年近くたっても……。そもそもこの電車はマンガライまで行くことになっていた。しかしいまは、その手前のBNIシティ駅が終点なのだ。これもソフトオープンと考えたほうがいいのだろう。

 これもアジアの鉄道だった。日本の場合はオープンといったらオープンである。しかしアジアは違う。そんな融通が利くというか、アバウトな感覚が日本人にはうれしいのだが、アジアでなにかをしようとすると、ときに足を引っ張る。

 東南アジアの全鉄道制覇という旅も、そこで壁にぶつかった。日本では運行が停まると、かなりの確率で廃線になっていく。しかしアジアの鉄道マンはこういう。

「いつか列車が走るかもしれないので、廃線ではありません」

 この感覚に苦労するのだ。

 ドゥリ駅で電車は進行方向を変えて、ジャカルタ環状線を進んでいく。次の駅がBNIシティだった。

 この駅でも少し戸惑った。駅名がふたつあるのだ。BNIシティ駅のほかにスディルマンバル駅である。新スディルマン駅という意味だという。空港駅で切符を買いながら、これは違う駅かと思った。BNIシティ駅の駅員に訊いてみた。

「同じ駅です。近くに環状線にスディルマン駅があるので、それと区別しました」

 答えになっていなかった。BNIシティ駅に統一すればなんの問題もないではないか。

 まあインドネシア人が考えたことだ。なにかの理由があるのかもしれない。いろいろ考えてもしかたない。

 BNIシティ駅から、環状線のスディルマン駅はすぐ近くだった。ここもなぜつなぐことをしなかったのだろうか。次々に湧いてくる疑問……。最終的にオープンしたら、すべてが氷解するのかもしれないが。

 

DSCN1252BNIシティ駅。こんなに立派な駅をつくってどうするのだろう。今後、乗客の多くはこの駅で乗り換えることはないと思うのだが

 

 ジャカルタには2泊した。飛行機でバンコクに向かうことになっていた。再び空港電車に乗ることになる。

 空港から来たときと逆のコースを辿った。環状線でスディルマン駅に出、少し歩いてBNIシティ駅から乗ることにした。いや、スディルマンバル駅といったほうがいのか。

 発券機はここもクレジットカード専用だった。この空港電車は、すべての発券をクレジットカードで統一するつもりらしい。

 ホームで電車を待った。しばらくしてやってきた電車に乗り込むと、すでに乗客が座っていた。

「ん? BNIシティ駅が始発ではなかったのだろうか。この乗客はどこから乗ってきたのだろうか」

 電車は空港に着いた。駅員に訊いてみた。

「ブカシ駅が始発になりました。マンガライ駅も停まります。空港とブカシ駅の運賃は10万ルピアです」

「いつから?」

「今日からです」

「そ、そうですか」

 ブカシ駅とドゥリ駅の間は、以前に乗っていたから、乗りつぶすという面では問題はなかった。しかしもし、全鉄道制覇の旅の序盤だったら……と思う。ジャカルタの着いた日にBNIシティ駅まで乗ったとしても、その2日後には、BNIシティとブカシの間に未乗車区間が生まれてしまうのだ。

 いや……。以前、スマトラを訪ねたとき、パレンバンでも空港からの線路の建設が進んでいた。そちらも開通してしまうかもしれない。

 終わらない……。

 ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港の空港電車駅で、また、溜め息ひとつ。

 

DSCN1302BNIシティ駅に電車が入ってきた。始発駅なのに乗客が乗っていた理由? 本文で

 

空港に向かう電車の車窓から。建て込む家の間を進んでいく。ジャカルタを実感する眺め?

 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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