台湾の人情食堂

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#72

漢字一文字で台湾料理を見分ける方法〈3〉

文・光瀬憲子 

 台湾料理を漢字1字で見分けるコツの第3回目。今回は調理法を表す漢字を掘り下げつつ、台湾の人たちの食事の習慣を紹介しよう。

 

=煮込む

 台湾料理の基本の調理方法を覚えておくと、メニューを見ながらおおよそどんな料理か察しがつく。台湾では料理をする、食事を作る、ということを「煮飯(ジューファン)」という。「煮」という字は、日本語と同様に「煮る」という意味があるのだが、「煮飯」で食事全般を作ることを指す。

 だが、煮込み料理に「煮」という文字が使われているかというと、そうでもない。台湾を代表する煮込み料理は醤油風味の「滷味(ルーウェイ)」だが、この「滷」という字がほぼ「煮込み」という意味で使われる。ちなみに、魯肉飯(ルーロウファン)の「魯」と滷味の「滷」はまったく同じ意味。このため、ルーロウファンを「滷肉飯」と書く店もある。

 

01たまごや揚げ豆腐など、さまざな食材を煮込んだ「滷味」。夜市の屋台や朝市で売られていることが多い

 

 滷味は醤油煮込みの総称だが、食堂などのメニューにある「滷白菜」「滷豆腐」「滷蛋」は醤油煮込みの白菜、豆腐、煮玉子を意味する。

 一方、台湾のコンビニで独特の香りを放っている電子鍋入りの玉子は「滷蛋」ではなく「茶葉蛋」。醤油ではなく茶葉で煮込まれている。

 

=炒める

 次に、台湾でもっとも一般的な調理法「炒」。日本でも「中華炒め」という言葉があるほど、「炒」は中華料理を代表する調理法だ。

 二十年ほど前、私が結婚して台湾の家庭に入ったとき、最初に姑(台湾では男も厨房に入る)に教わったのは「野菜炒め」だった。

 大きな中華鍋にたっぷりの油を入れ、煙が出るほど十分に熱したら、ネギやニンニクなどの薬味を入れて油に香りをつける。これは「爆香」という手法で、まさに香りを爆発させるようなイメージ。こうすると油に香りがついて、その後鍋に投入する食材にまんべんなく香りが行き渡るのだそうだ。

 このところ、台湾の若者や日本からの旅行者に人気の「熱炒」とは、炒めもの料理の専門店を指す。熱炒の店が炒める食材は実に豊富だ。今や大型ビアガーデンの代名詞ともなった熱炒店がもっとも得意とするのは海鮮料理。店頭には大きな生簀が並ぶ。新鮮な魚介類とビールで円卓を飾り、大勢で盛り上がる、というのが熱炒の基本スタイル。アサリや魚の炒めものはもちろん、魚をまるごと一匹使った姿揚げや、肉と野菜の炒めものなども豊富。ついついビールを飲みすぎてしまう。


02吉林路にある熱炒の人気店『紅翻天生猛海鮮』

 

=焼く

 台湾で案外少ないのが「燒」、つまり焼き物だ。中華圏独自の焼き物といえば、「燒餅(サオビン)」や「燒臘(サオラー)」が代表的。燒餅はパイ生地でできたパンをサクサクに焼いた定番朝ごはん。

 また、燒臘は中国の広東地方をルーツとするロースト料理。蜂蜜漬けにした豚肉や鶏肉をじっくり焼いてツヤツヤに仕上げたアレである。

 

03朝の豆漿店でよく見かける焼餅。間に油條を挟んだり、たまごやハムを挟んだりとバリエーション豊富

 

04中国広東地方の人気メニュー、燒臘(サオラー)。甘辛いタレが染みた豚肉や鶏肉はランチで食べられることが多い

 

 もはや日本語となった感のある「チャーシュー」も語源は「叉燒(ツァーサオ)」で、串刺しの豚肉をローストしたものを指す。

 意外だが、台湾では焼き物といえば日本料理を指すことが多い。焼き鳥、串焼き、焼き肉などは台湾の日本食レストランでは人気メニューだ。

 最近では「居酒屋」という言葉もかなり浸透しており、各種焼き物を揃えた居酒屋でビールや日本酒を飲ませる店が人気を博している。

 

=グツグツ煮込む、=油で蒸し焼き、=湯がく

 日本語と少し違う漢字を使った調理法としては、「煲(バオ)」「煎(ジェン)」「燙(タン)」などがある。

「煲」という日本ではなじみのない字は、グツグツ煮込んだシチューのような料理を指す。テーブルに小さなコンロが出され、卓上で煮込む場合も多い。「牛腩煲」は牛バラ肉のシチューという意味で、デミグラスソースを使った西洋風のシチューも、醤油煮込みの中華風あんかけスープもこの名前で呼ばれる。

 

05シチューのようにグツグツ煮込んだ「煲」料理。写真は海鮮をカレー風味で煮込んだもの

 

 また、「蒸包」が蒸した肉まんなら、「煎包」は蒸し焼きの肉まんを差す。「煎」はフライパンに油を敷いて蒸し焼きにするという意味で、羽根がついた餃子や肉まんなどがこれに当たる。「蒸」は油を使わず水蒸気だけで蒸すが、「煎」は下に油を敷き、後から水を入れて蒸し焼きにするわけだ。

 

06水餃子が主流の台湾ではあまりお目にかかれない蒸し餃子。水餃子よりも皮が薄く上品な味

 

「燙」は湯がく、という意味。「燙」も「湯」も同じ「タン」と読むのだが、「燙青菜」は青野菜をさっと湯がき、醤油ダレをかけた大衆食堂の定番メニューになる。

 

07青菜をさっと湯がいて滷味ソースをかけた燙青菜。炒めたものは炒青菜と呼ばれる。食堂の定番サイドメニュー

 

 一方で「湯」はスープのこと。台湾の食堂では「排骨湯」(骨付き豚肉スープ)や「香菇湯」(シイタケスープ)などがおなじみだ。ちなみに味噌汁は「味噌湯」となる。

 中華料理には三菜一湯という言葉がある。おかず3品、スープ1品という意味だ。これが中華料理の基本のメニュー構成で、たとえば肉料理1つ、野菜料理2つ、スープ1つ、という食べ方がもっともバランスがよいとされている。

 だが、台湾の小さな食堂や屋台の場合、一菜一湯が基本構成となっている。外食が盛んな台湾では一人メシも当たり前。一人で食べるときに「三菜一湯」などと言っていては食べきれない。台湾の食堂では、その店の名物料理1品とスープ1品ぐらいがちょうどいい。

 それでもかならずスープを付けるのが中華料理だ。食事をするときはかならずと言っていいほどスープで水分を摂るというのが漢方ならではの考え方でもある。

 おかず1品と白米だけを頼むと、食堂のおばちゃんが「スープはいらないの?」とよく聞いてくる。

「蒸包」と「煎包」の例でもあるように、台湾には同じ食材や料理でも、北と南で調理法が異なることがよくある。

 たとえばチマキを例に取ると北部は「蒸」、南部は「煮」の調理法が好まれる。蒸しチマキは米の歯ごたえが残り、食材の味が際立つ。煮チマキは水分をたっぷり含むので柔らかく、甘みが増す。

 

08台湾の北と南で調理方法が異なるチマキ。写真は南の煮込みチマキ。ピーナッツの粉をかけるのも南部風

 

 また、台湾独自の屋台料理「肉圓」は台湾中部の彰化発祥だと言われているが、北は揚げ肉圓、南は煮込み肉圓だ。揚げたものは皮の部分が透明で、弾力がある。煮たものは皮が白くなり、全体的に柔らかく、味が染みている。

 

09台南の『福記肉圓』で食べた煮込み肉圓

 

 メニューの漢字が読めるようになったところで、さっそく台湾グルメ旅行の計画を立ててみててはいかがだろうか。漢字で補えない部分は、身振りと笑顔で乗り切ろう。

 

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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