旅とメイハネと音楽と

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#72

マレーシアの街歩き&食べ歩き旅〈1〉

文と写真・サラーム海上

マレーシア・ロスで再び現地へ

 2018年7月に『レインフォレストワールドミュージックフェスティバル』の取材のため、12年ぶりに3日間マレーシアを訪れた僕は、日本に帰った途端、マレーシア・ロスと呼びたい症状に襲われた。
 ラーメンではなくラクサ、炊き込みご飯ではなくナシレマッやチキンライス、チキンカレーではなくフィッシュヘッドカレー、かき氷ではなくアイスカチャンが食べたくてたまらないのだ。幸い僕の住む中央線にはマレーシア料理や東南アジア、南アジア料理のレストランが多いので、マレーシア・ロスを一時的に緩和させることは出来る。しかし、応急処置は根本的な解決には至らない。
 そこで二ヶ月後の9月の三連休に夏休みを兼ねてマレーシアの首都、クアラルンプール(以下KL)を訪れることにした。日頃から貯めていたANAのマイルを使ってプレミアムエコノミークラスの航空券は無料ゲットしたものの、時間を有効に使えるため人気の高い羽田発深夜便は既に満席で、空いていたのは成田発の午後便だった。
 9月20日の午後5時半に成田を出発し、7時間のフライトの後、23時半にKL空港に到着。そこからタクシーに乗って45分、KLの中心地ブキッビンタンの北側に位置するパーク・ロイヤル・ホテルにチェックインしたのは21日の午前1時過ぎだった。
 一人では広すぎる部屋に荷物を置いて、深夜のブキッビンタンを散歩に繰り出すと、直前に雨が降っていたようで道路は濡れ、空気はジメッとしていた。気温は28度くらいか。屋台街アロー通りから炭火や肉の焦げる匂いが漂ってきて、更にトロピカルフルーツや花の匂い、そして雨の匂いが混ざりあっている。これぞマレーシアの空気だ!

 

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真夜中のアロー通り。KLを代表する屋台街だが、よく見ると観光客ばかり……

 

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ホテルの部屋の窓からの風景。嬉しくない!

 

 翌日は特別な予定を入れず、KLの街歩き、食べ歩きをするつもりでいたが、日本から断りきれなかった仕事を一つ持ちこんでしまっていた。残念だが、宿にこもって仕事をするとして、その前に少しだけ遊ばせてくれ! 水泳パンツに着替え、ホテルの屋上、地上31階にあるプールにザバーンと飛び込んだ。
 プールからはKL中心部が一望出来た。地上421mの高さを持つKLタワーは間近にそびえていたが、KLのランドマークとして知られる地上451mの高さを誇るKLCCペドロナスツインタワーのほうは、宿から徒歩15分ほどの距離のはずなのに、いくつもの高層ビルに挟まれて一番上のタワー部分しか見えなかった。一時期ほどではないが、KLは今も建築ラッシュが続いているのだ。

 プールにプカプカと浮かび、ジャクージでリラックスした後は、部屋に籠もって午後まで原稿書きの仕事だ。部屋が広くて快適で、ネット回線も速かったためか、それとも火事場の馬鹿力が働いたか、仕事はススっとスムーズに進んだ。

 

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パーク・ロイヤル・ホテルの屋上プールとKLタワー

 

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屋上プールからの風景。ご覧の通り建設ラッシュ!

 

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一人には広すぎる快適な部屋で仕事が進む! なんとアイランドキッチンまで付いてる!

 

 午後2時前に、部屋にルームサービスが現れたので、一旦仕事を中断し、昼飯を食べに宿の近くにある最新のショッピングモール「Pavilion」に出かけることにした。実は、宿に籠もって1日原稿書きをすると決めた時点で、KLのグルメ情報サイトを検索し、宿の近くでアッサムラクサやチリクラブが食べられる店を調べておいたのだ。
 前回#71の記事で、サラワク名物のサラワクラクサについて熱い思いを綴ったが、ラクサは日本のラーメンと同じように地域によってスープや具や麺の種類などが異なる。この7月に刊行されたばかりの古川音さんの新刊『マレーシア 地元で愛される名物食堂』にはサラワクラクサやカレーラクサをはじめ、なんと7種類のご当地ラクサが掲載されているのだ。

 7つの町で食べられている7種類のラクサ! 映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』のインフィニティストーンはたった5つを集めるだけで良かったが、ラクサは7つ! コンプリートするのは「ドラゴンボール」を7つ集めるのと同じくらい難しいということだ!
 ともあれ、僕の知るラクサのうち最も刺激的なのがペナン州の名物料理アッサムラクサだ。アッサムとは酸っぱいという意味で、インド料理にも用いられるマメ科の植物タマリンドの果実がたっぷり使われている。しかもサバやイワシやアジなど、青魚を骨ごとタマリンドや赤唐辛子などで煮て、グズグズになった魚の身をそのままスープに用いている。鮮やかな赤〜オレンジ色の辛くて酸っぱい濃厚な潮汁に、ベトナム料理のブンとほぼ同じ、ツルっとした感触の米粉の太丸麺を入れ、トッピングはパイナップル、オイルサーディン、細切の青いパパイヤ、スペアミント、香菜などなど!
 サラワクラクサやカレーラクサは一口目こそ辛くとも、ココナッツミルクが使われているため、トータルではマイルドで落ち着く味である。それに対してアッサムラクサは、タマリンドと青魚の出汁、スペアミントなどが胃袋の中でも別々に、酸っぱい! 辛い! 美味い! とギラギラに主張し続けるのだ。冷房の当たりすぎなどで体調を崩した時には食べないほうが無難かもしれない。美味いアッサムラクサにはそのくらいの爆発力/破壊力がある。
 ところが、アッサムラクサはペナンの料理であって、KLの料理ではない。KLでラクサと言えば、ココナッツミルクたっぷりのカレーラクサが一般的だ。そんなわけでKLのグルメ情報サイトをチェックし、「パビリオン」地階の巨大フードコートを抜けた先に、一軒でマレーシア各地の料理を提供している軽食カフェがあり、そこでアッサムラクサが人気メニューとなっていることを知った。

 ホテルからラジャ・チュラン通りを東に歩き、古の高級ホテル、イスタナKLを通り過ぎ、モノレールの高架下を渡ると、右手に巨大な広告ディスプレイが現れ、パビリオンのCMが流れている。豊洲のららぽーとほどの巨大なショッピングモールだが、現在の東南アジアやインドにおいてはごくごく標準的なサイズである。

 

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ホテルから徒歩三分のKLモノレールのラジャ・チュラン駅。モノレールはイスマイル・スルタン通りの上を通る

 

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こちらがパビリオン。アラブ系資本で建てられた最新ショッピングモール


 一階に入ると、まず高級スーパーマーケットがあり、その奥が巨大なフードコートになっていた。2ヶ月前に訪れたクチンのフードコートと比べると、並んでいる料理は同じでも、最新の照明のせいか、全ての料理が光り輝いて見える。まるで新宿のデパ地下食品街みたいだ。 
 インドネシアのパダン料理や中華系のおでんであるヨントーフーなどは、元々薄汚れた店内で、ヨレヨレの店主によって提供されるのが基本とされてきたが、ここでは清潔で明るい環境に随分恩恵を受け、まるで別の料理のように見える。黄色や茶色ばかりの料理が並ぶ南インド料理店も周りのカラフルな料理に影響を受け、オレンジに緑や赤のハーブや野菜を添えるなど、現代のマレーシア仕様に生まれ変わっている。

 

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tabilistakl1地階にある巨大フードコートのFood Republic。マレー、インド、中華、洋食、日本食まで揃ってる!

 

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tabilistakl1ここでは南インド料理も本国以上にカラフル! 緑のバナナの葉の上に盛り付けられているのもナイス!

 

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souq10tabilistakl1インドネシアのパダン料理店も清潔で色が鮮やか。本国だとハエが飛んでるし、悪くならないようにガチガチに油で揚げて全部が褐色なのに
 

tabilistakl1マレー風おでんのヨントーフーもいつになくフィーバーしてる!


 そんないかにも美味そうな料理の屋台十数軒を素通りしてまで、僕が目指すのはアッサムラクサを提供している軽食カフェである。フードコートを抜け、しばらく東に進み、パビリオン地階の一番奥に目当てのお店があった。お店の前に飾られたカラー写真満載のメニューを見ると、確かにアッサムラクサがある!
 テラス席に腰掛け、レギュラーサイズのアッサムラクサを頼むと、5分ほどで白いお椀が運ばれてきた。うん? メニューの写真と比べて随分見た目が粗雑だなあ。写真では茶色のスープを際立たせるために赤唐辛子のスライスやスペアミントの葉、もやしやグリーンレタスが色良く飾られていたが、実際の薬味はメニュー写真の1/3量。その上、白いお椀の縁にスープが飛び散っているのを全く拭き取っていない。これじゃinstagram映えしないじゃないか! まあ、専門の屋台ではなく、ショッピングモール内のチェーン店だから仕方ない。味さえ良ければ全て許すよ。
 レンゲでスープを口に入れると、う〜ん、青魚の出汁が濃厚! タマリンドが酸味、レモングラスと生姜に似たハーブが奥行きを与えている。ベトナムのブンとよく似た米粉の丸麺もツルツルでスープとよく合う。スープの底に沈んでいるボロボロに崩れた魚の身も悪くない。なるほど、及第点だな。

 しかし、以前、ペナンの小汚いフードコートで食べたような、もっと強烈に味の主張があって、酸っぱくて、辛くて、魚出汁がギラギラのアッサムラクサをオレは食べたかったのだ。そんなラクサをどうやって探せばいいだろう? やはりペナンに行かないと無理なのか?

 

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たどり着いたマレーシア全国料理カフェのメニュー。お目当てのアッサムラクサは右下

 

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で、これが届いたアッサムラクサ。ムムム、写真に偽りあり!

 

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パビリオンを一通り歩いた

 

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最上階には噂のCool Japanの亡霊「東京ストリート」が! KLで最も地代の高いテナントなのに、100円ショップ以外はほぼ無人地帯。それはさておき、自分で自分のことをCoolと言うの、恥ずかしくない?

 

 食後、パピリオンを一周、見て歩き、宿に戻り、再び机に向かい、夜7時過ぎには仕事を終わらせることが出来た。一人の寂しい夕飯はブキッビンタンの老舗デパートLot10の地下にある100%地元仕様のフードコートに行き、小さめのチリクラブをいただくことにした。チリクラブならハズレはないだろう。いずれにせよ一人の食事はここまでだ。翌日からはKL在住の強力な助っ人が町案内してくれることになっているのだ………。

 

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夜のブキッビンタン中心地、老舗デパートLot 10前

 

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Lot 10地下のフードコートはローカル仕様。KL子に人気の銘店ばかりが並ぶ!

 

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シンガポール生まれのご馳走、チリクラブはKLでも人気。一人前がなんと45RM=1227円と、シンガポールの1/3以下の値段で食べられるのだ! チリソースと溶き卵に蟹の旨味が加わって激美味! 三倍デカいサイズを頼むべきだった、、、
 

(マレーシア編、次回に続きます!)

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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