東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#72

インドネシア・ジャカルタの空港電車〈1〉

文・写真  下川裕治

スカルノ・ハッタ空港駅からBNIシティ駅へ

『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』、『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』をまとめた。読んでいただいた方はわかっているのだが、東南アジア全鉄道制覇の旅は終わっていない。さまざまな事情があり、インドネシア、ミャンマー、ベトナム、カンボジアに未乗車区間が残っている。

 そのなかには、原稿をまとめる段階で、開通情報が入ってきたものもある。その路線を乗りに出かける時間もなく、未乗車のまま発刊になってしまった。

 そのひとつが、ジャカルタの空港と市街を結ぶ電車だった。

 インドネシアはいま、空港と市街を結ぶ列車が次々に開通している。LCCがシェアをのばし、飛行機に乗る人が急増しているのだ。加えて高度成長である。アジアの国々は、空港と市街を結ぶ鉄道が走っている街が増えている。インドネシアも当然……という流れである。

 先鞭を切ったのはスマトラ島のメダンだった。クアラナム国際空港とメダンを結ぶ鉄道である。非電化区間なので電車ではない。この鉄道は事前に情報を得ていたので、乗車し、本に掲載することができた。

 やはりスマトラ島。パダンのミナンカバウ国際空港と市街を結ぶ鉄道は、パタンに向かう直前にわかった。メダン同様、非電化区間を走る。開通して間もない時期で、これも乗ることができた。

 空港鉄道がうまくいっているのか。詳細はわからない。

 メダンの空港鉄道はとにかく高い。片道10万ルピア、約940円もする。後日、メダンに向かう機会があった。そのときは空港から相乗りタクシーでトバ湖に向かった。4時間ほどかかったが、運賃はひとり10万ルピアだった。空港鉄道は40分ほど乗るだけだ。べらぼうに高いのだ。

 その高さのために利用客は少ないのかもしれない。それで自らを戒めたのか、その後、開通したパダンの空港鉄道の運賃は1万ルピア、約94円になった。所要時間はあまり変わらない。

 しかし一気に10分の1。このあたりがインドネシアのわからないところだ。それぞれが独立して運行しているとはいえ、同じインドネシアの国鉄である。運賃情報はわかっているはずだ。これだけの差をつけていいのだろうか。

 首都のジャカルタ。大変な渋滞都市である。「空港行きのバスに乗ったら空港まで5時間かかった」などという話を耳にするほどだ。僕も3時間ぐらいの余裕をもってバスに乗っていた。

 時間が読める電車への要望は大きかったのだろう。昨年末に空港電車が開通した。ちょうど本をまとめているときだった。はたして運賃はいくらに設定するのか。それも気になった。

 本にまとまったのだから、もう列車に乗る必要はなかった。しかし収まりのつかない思いがある。10月下旬、空港電車に乗ることにした。

 たまたま、LCCのライオンエアーでジャカルタに向かった。出発が1時間遅れた。理由はその日の朝に起きた墜落事故だった。同じライオンエアーである。混乱しているようだった。

 ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港に、やはり1時間遅れで着いた。第2ターミナルだった。空港電車の案内を探したがどこにも見あたらない。困って空港職員に訊くと、スカイトレインに乗り、空港駅で降りるようにいわれた。スカイトレインは、第1から第3まである3ターミナルを結ぶ無料高架電車である。その乗り場に向かい、スカイトレインの路線図を見ると、隣が空港駅だった。空港電車開通に合わせて、スカイトレインにも駅ができたようだった。

 空港駅は眩しいほどに立派だった。スカイトレインの空港駅から入ると、一瞬、ホテルのロビーかと思うほどだった。中央にインフォメーションの大きなカウンターがあった。

 券売機の前に立った。終点だというBNIシティ駅まで買うことにした。タッチパネルで目的地を押し、運賃を入れようとした。ところが、紙幣を入れる口がない。どこを探してもないのだ。

 近くにいた職員に訊いてみた。すると、こんな言葉が返ってきたのだった。

「チケットの支払いはクレジットカードのみです」

「はッ?」

 空港電車の切符はクレジットカードでしか買うことができないシステムになっていた。乗る人は全員、カードを持参しているという前提になっていた。カードがない人はどうするのだろう。あまりに大胆な発想に、機械の前で固まってしまった。

 運賃は7万ルピア、約658円。乗り込むと、メダンやパダンの空港鉄道に似た特急型車両だった。     

 

DSCN1244

高級ホテルのエントランスのような入口。そう思うでしょ

 

DSCN1245

この客のひとり前の人は、クレジットカードで固まり、インフォメーションに訊きにいった

 

空港電車に乗りこんだ。全席指定。新しい電車に戸惑う乗客が多い。車両はインドネシア製だ

 

(次回に続く)

 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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