ブーツの国の街角で

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#72

番外編:ハイテクイルミネーションに彩られたローマの夜

文と写真・田島麻美

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 夜の闇の中に遺跡や噴水、大理石の彫刻が浮かび上がるローマ旧市街のライトアップは、観光客のみならず地元ローマっ子にも愛されている風景の一つ。最近では、さらにバージョンアップした「プロジェクション・マッピング」を目にする機会も増えている。壮大な古代遺跡をバックに、ハイテクノロジーを駆使した映像と音楽で観客を別世界に連れて行ってくれるプロジェクション・マッピングは、有料・無料さまざまなイベントで体験できるようになった。

 夏のバカンスの大混雑が一段落したこの時期、9月下旬から12月にかけて、ローマでは『ヴィデオチッタ2019』というヴィジョン・フェスティヴァルが開かれている。これは視聴覚技術や最新の動画像を広く多面的に発信することを目的としたイベントで、期間中は視覚とイマジネーションを刺激するライブパフォーマンス、マルチヴィジョン、バーチャルリアリティー、ビデオマッピング、ビデオアートなどを市内の随所で体験できる(イベントプログラムは下記HPを参照)。

 10月最後の週末、このフェスティヴァルの一環としてビデオ・マッピングの無料イベントがあると聞いたので見に行くことにした。普段見慣れた旧市街のモニュメントがハイテク・イルミネーションでどのように変身するのか。期待を胸に夜のローマに繰り出した。

 

ピンクに染まったティベリーナ島
 

 

 夜のライトアップ散策のスタート地点に選んだのは、下町トラステヴェレのベッリ広場。手早くピッツァで腹ごしらえをしてから、食後のウォーキングを兼ねて歩き出した。ガリバルディ橋を渡りながらティベリーナ島に目をやると、なんと病院の建物がショッキングピンクに染まっているではないか。ティベリーナ島は夏の間は野外映画やライブミュージック、屋台でにぎわうのだが、実は島の大半は病院の建物である。ここを通るたびに、「入院している患者さん達はゆっくり休めるのだろうか?」と私は心配になるのだが、実際ここに入院していたイタリア人の友達は、「窓から外を見るのが楽しくて退屈しなかった」と言っていた。これもまた、お国柄というものなのかもしれない。そんな病院が、今夜はショッキングピンクに染まっている。ライトアップは外観だけだから、中の患者さん達には支障がないことを願いつつ、いつもはどこか寂しげな病院のキッチュなライトアップに見入った。

 

 

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下町トラステヴェレのベッリ広場にある詩人ジョアッキーノ・ベッリの銅像(上)。薄焼きのローマ風ピッツァで手早く腹ごしらえ(中上)。島の中心にあるファーテベーネフラテッリ病院(中下)。ガリバルディ橋からピンク色に染まったティベリーナ島を眺める(下)。

 

 

 

 

 

 

3D映像と音楽でゴシック様式の教会がハイテク・モダンに大変身

 

 

 

 10月25〜27日の三日間に渡って、エウル地区とパンテオン周辺で行われた「ソリッド・ライト/Solid Light」は、昨年からスタートしたこのヴィデオチッタ・フェスティヴァルのプログラムの中でも人気のイベントの一つである。ローマの歴史的中心地区をデジタルアートの野外美術館に変貌させるこのイベントは、誰でも無料で楽しめる。ネットで下調べした情報を頼りに、まずはパンテオンの隣にあるサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会の広場を目指した。

 ベルニーニの像の彫刻とオベリスクが目印の広場に着くと、暗闇の中でたくさんの人々がうごめいていた。真っ白な教会のファサードには、赤青レンズの3Dメガネの映像が映っている。このメガネはどこかで売っているのだろうかと周囲を眺め回すと、広場の一角のスタンドで配布していた。メガネは無料だが、「このプロジェクトに賛同する方から寄付を募っています」と言うことだったので、心ばかりの募金をしてプログラムとメガネを受け取った。

 教会のファサードに映ったカウトダウンのデジタル時計がゼロになると、突然大音響の音楽が鳴り響き、教会のバラ窓から水しぶきが吹き出した。3Dメガネをかけて観ていると、映像が広場の闇空間に飛び出してきて思わず歓声が上がる。流れる水、直線的な幾何学模様、前衛的なモチーフなど次々に現れる立体映像と音楽に浸っているうち、異次元にトランスしたような気分になり、10分足らずのショーはあっという間に終わってしまった。

 

 

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ヴィジョンファクトリーという映像会社によって制作された3Dビデオ・マッピングのショー。ローマ唯一のゴシック様式の教会として知られるサンタ・マリア・ソプラ・ミネルヴァ教会も、この夜はハイテク・モダンなモニュメントに変貌した。

 


 

 

古代遺跡パンテオンも近未来建築に早変わり

 

 

 

 広場でのショーの余韻に浸りながら、メガネを取って振り向くと、夜空を突き刺す巨大なライトセーバーのような光の柱が目に飛び込んできた。古代ローマ遺跡パンテオンはドームの中央に穴が開いていることで有名だが、そのドームの穴の下からブルーの光の柱が天高くそびえている。こんな光景は今まで見たことがない。興奮しながら急ぎ足でパンテオンに向かった。

 旧市街に数ある古代ローマ遺跡の中でも一番好きな遺跡であるパンテオンには、もう数え切れないほど通っているが、こんな近未来的なパンテオンの姿を見るのは初めてである。見慣れた大理石の巨大建築は、まるでSF映画のセットのように変身を遂げていた。隣では、私と同じように、パンテオンを見慣れているローマ市民の御一行も口を開けて巨大ドームを見上げている。ここでは映像も音響効果もなかったが、ライトアップ一つでこんなにも空間を劇的に変えられることを目の当たりにし、ひたすら感服した。

 

 

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 118〜128年にローマ皇帝ハドリアヌスによって再建された巨大建築パンテオン。直径43.2mのドームの中央から、青い光の柱が夜空にそびえていた(上)。近未来建築を思わせるライトアップは、Solid Lightのクリエイティヴ・チームの作品(中上)。見慣れた遺跡をライト一つで斬新に生まれ変わらせた技術は見事(中下)。通常のパンテオンのライトアップ。上の照明と比較して見ると印象の違いがよくわかる(下)

 

 

いつもは通り過ぎるだけの広場も魅力的な野外劇場に

 

 

 この夜最後の目的地となったのは、ナヴォーナ広場の近くにあるサンタゴスティーノ広場。パンテオンからナヴォーナ広場に向かう裏通りにある小さな広場は、いつも何の気なしに素通りしている場所である。こんなところでハイテク・イルミネーションのショーがあるとは思ってもみなかったのだが、行ってみると、正面にサンタゴスティーノ教会のファサード、三方は建物で囲まれた広場は、こじんまりとした居心地の良い野外劇場に変身していた。

 教会の向かいにある建物の窓から映像を投影し、四方の建物の壁を利用した抜群の音響効果で臨場感もたっぷり。ダークライトスタジオ社の制作による『神聖な幾何学』と題された3D映像の作品が上映された。14〜15世紀に建築されたサンタゴスティーノ教会のファサードをスクリーンにして、古代ローマから現代に至る生活環境の遍歴をダイナミックな演出で見せてくれた。終わった後、居合わせた観客からは大きな拍手がわき起こり、広場は不思議な一体感に包まれた。スクリーンに次の上映時間までのカウントダウン時計が現れると、広場の観衆は三々五々、夜のローマの街へと散っていった。私はお隣のナヴォーナ広場まで足を伸ばし、普段よりも三割増でライトアップされた噴水の彫刻を眺めながら、深夜のジェラート・タイムを心ゆくまで楽しんだ。

 

 

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ナヴォーナ広場の近くにある小さなサンタゴスティーノ広場。四方を囲む建物が、野外でありながら室内にいるかのような居心地の良さを作り出していた。建物の壁に音が反響し、サウンドの臨場感もたっぷり。
 

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古代ローマ建築から現代のアマゾンの森林破壊問題に至るまで、環境をテーマにした歴史の動きがわかる作品。15世紀の教会の建物がまるで動いているかのように見えるダイナミックな演出が好評だった。

 

 

 

 

★ MAP ★

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<参考サイト>

 ビデオチッタ公式サイト(伊語)

https://www.videocitta.com/

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年11月28日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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