韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#71

空からソウルを観てみたら

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生きたソウル地図

 ある日の仁川(インチョン)発成田行き午前便。たまたま窓側に座ったのだが、その日は快晴で視界がクリアだった。

 飛行機は西から東へ飛んでいるようだ。離陸してまもなく、ソウルを横断する漢江(ハンガン)が目に入る。空から見る大河は蛇行する巨大な龍のようだ。太陽が真上にあるのだろうか、橋や建物のひとつとつが確認できる。まるで生きたソウルの地図を観ているようだ。窓におでこを押し付けるようにしてスマホのシャッターを何度も押す。

 

写真

仁川空港を飛び立って10数分後、進行方向左側の窓からの景色

 

 漢江の南側の中州、アーモンドのような形の汝矣島(ヨイド)には、金色に輝く63ビルが見える。高さ264メートルで、かつてはソウルのシンボルと言っていいくらい存在感があったが、昨春、蚕室(チャムシル)に555メートルのロッテワールドタワーが登場してからはだいぶ影が薄い。

 

永登浦(ヨンドゥンポ)の光

 汝矣島の北側、漢江を挟んで少し上辺りが、“ソウルの原宿”と化した弘大入口(ホンデイプク)だ。でも、私の視点は汝矣島の下(南)の永登浦に向く。

 現在、江南(カンナム)というエリア名でひとくくりにされている狎鴎亭洞・新沙洞・草瑞洞・論峴洞・駅三洞・方背洞辺りは、かつては永東(ヨンドン)と呼ばれていた。永東とは何かの東を指しているようだが、「永」とは? そう永登浦のことだ。

 今の江南エリアが漢江の南側の中心地になったのは、ソウルが五輪招致に成功した80年代に入ってからのこと。それ以前は永登浦こそが江南だった。ソウルドリームを夢見て地方からやってきた者たちの多くがこの街を目指した。

 今の永登浦は西洋的洗練を追い求める江南とは正反対の鈍い輝きを放っている。庶民の生活感と新旧建築物のカオス。そのエネルギーは巨大ショッピングモール『タイムズスクエア』と紅灯街、永登浦市場を歩けば感じられるだろう。とくに市場は都会にいながらにして地方都市のような熱が感じられる場所としてはソウルでも指折りだ。

 

南山(ナムサン)の向こう、鍾路3街(チョンノサムガ)

 Nソウルタワーをいただく南山が視界に入ってきた。ここを基点にソウル旧市街の位置関係がわかる。南山の手前が梨泰院(イテウォン)、向こう側が日本人観光客の登竜門である明洞(ミョンドン)、そのさらに北方向に最近私がよく通っている下町・弘済洞(ホンジェドン)がある。若者や観光客の手垢が着いていないソウル庶民の生活圏だ。

 明洞から視線を少し右に向ける。緑地のように北にのびているのが宗廟(ジョンミョ)・昌徳宮(チャンドックン)・昌慶宮(チャンギョングン)だ。

 我らが鍾路3街は宗廟のすぐ左手にある。時刻は11時にさしかかろうとしている。宗廟脇にある2軒の立ち飲み屋では、ハラボジたちがマッコリのジャンスル(1杯売り)を飲み始める頃だろう。人気居酒屋番組に登場した『ソウル食品』(零細工場街のよろずや兼酒場)のお姉さんは元気だろうか?

 鍾路3街の北側に位置するのが韓屋が連なる北村(プクチョン)。『次の朝は他人』『自由が丘で』『ソニはご機嫌ななめ』など多くのホン・サンス監督作品に登場したところだ。

 

我が町、千戸洞(チョノドン)

 生きたソウル地図の右方向(東側)に視線を移すと、漢江にかかる多くの橋が目に入る。いちばん目立つのが、夜になると聖火を模したモニュメントが光るオリンピック大橋。その手前にある蚕室鉄橋(地下鉄2号線)の北側には、韓国各地を往復するバスが出入りする東ソウルバスターミナルがある。20年がかりで韓国の地方を回ってきた私にはなじみ深い場所だ。

 秋夕(中秋節)やソルラル(旧正月)の時期になると、故郷の母親からタッパに入れたミッパンチャン(作り置きの総菜)を持たされた若者たちが吐き出される。そして、ターミナル前の歩道に幌張り屋台が並ぶ姿は30年以上も変わらない。

 漢江には多くの橋がかかっている。そのひとつひとつに1キロメートルほどの間隔があるが、東の端に200メートルも離れていない2本の橋がある。私の地元、千戸洞と川向こうの広壮洞(クァンジャンドン)を結ぶ千戸大橋(チョノデギョ)と広津橋(カンジンギョ)だ。

 まさか空から地元まで俯瞰できるとは思わなかった。大好きな日本映画『男はつらいよ  寅次郎春の夢』(1979年)で、とらやに居候していたアメリカの行商人マイケルが故郷に帰る飛行機の窓から江戸川を確認し、感慨にふける場面を思い出した。

 気分がくさくさしたとき、私は漢江を歩いて渡る。行きは千戸大橋、帰りは広津橋。地元に戻り、千戸市場の屋台でマッコリの1本も飲めば気分は上々だ。

 

*著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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