台湾の人情食堂

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#71

台北で宝塚観てきました!

文・光瀬憲子 

台湾と日本の熱心な宝塚ファンが一堂に集う

 台湾を訪れると、日本文化や日本語に対する台湾人の理解度が高いことに驚かされる。

 カラオケスナックでは美空ひばりを日本語で熱唱するお年寄りは珍しくないし、山奥で出会った先住民の子供は『進撃の巨人』にハマっていた。列車内では、若者に日本語を教える老人の姿も見かけた。

 そんな台湾だから、宝塚の公演となれば高い注目をあびるのも当然。日本が誇る歌と踊りの壮大なエンターテイメント、宝塚歌劇団(星組)は今年、台北と高雄で公演(10月20日~11月5日)を行っている。

 

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宝塚台北公が行われた国家戲劇院(左)。中正記念堂と同じ敷地内にある

 

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MRT中正記念堂駅の構内に貼られた巨大ポスター。この広告を掲げたバスも台北市内を走っている

 

 2014年に百周年を迎えた宝塚だが、ここ数年の盛り上がりには目を見張るものがある。恥ずかしながら、私自身も“ヅカファン”の友人を通して今年初めて宝塚の公演を体験し、度肝を抜かれた。演技と踊りのクオリティーの高さはもちろん、精巧な衣装やスターのスターっぷり、客席を照らすミラーボール、公演の最後に見せるトップスターの羽根の美しさに惚れてしまった。もちろん、一番惚れたのはトップスターの男前っぷり。一度生で観れば、宝塚にのめり込む人が多いことがよく理解できる。

 宝塚の台湾公演は今回で3度目。台北と高雄の2か所で公演をするのは初の試みだそうだ。宝塚初心者のためにちょっとだけおさらいしておくと、宝塚には花組、月組、雪組、星組、宙組とあり、それぞれ百名近い劇団員(タカラジェンヌ)を抱えているが、トップスターおよびその左右に立つ2番手と3番手がいわばピラミッドの頂点。男役のトップ3と娘役のトップである4人がその組の「顔」となる。

 また、宝塚公演は前半が芝居、後半が踊りと歌のパフォーマンスに分かれているものがほとんど。演目は多彩で、『ベルサイユのばら』などが特に有名だが、他にも少女漫画や時代劇などをもとにした芝居も数多い。変わり種では落語なんていうのもある。

 では台湾ではどんな公演が行われたのか? これがなかなか興味深い。なんと台湾独自の人形劇『布袋戲(プータイシー)』の物語が採用されたのだ。布袋戲は台湾の廟(お寺)で催し物として始まった人形劇で、胴体部分が空洞になっている人形に人が手を入れて動きをつけるもの。

 

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人形劇ドラマ『サンダーボルト・ファンタジー』で使われた人形。タカラヅカ映えする衣装に注目

 

 この台湾の伝統芸能を一気に若者向けエンターテイメントへと押し上げたのが台湾の霹靂(ピーリー)というテレビ局。独自にアレンジされた人形たちはどんどんクオリティーを上げ、やがて日本のゲームクリエーター虚淵玄(ニトロプラス社)の目にとまる。そして、台湾のテレビ局と日本のゲーム会社が合作で作った人形劇ドラマ『サンダーボルト・ファンタジー東離劍遊記(とうりけんゆうき)』が制作された。 日本の人気声優が声を担当し、独特のキャラクターを演じたこのドラマは日本と台湾で大人気となり、続編や映画も制作された。

 台湾発祥の人形劇文化、日台合作の人形劇ドラマ、そして今回の日本宝塚台湾公演。日台の絆を象徴するかのようなこの一大プロジェクトの集大成とあって、中正記念堂のお隣の国家戲劇院で行われた初日公演には多くの台湾人と日本人が詰めかけた。

 

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台湾限定グッズに行列を作るヅカファンたち。中国語で書かれたパンフレットは価値が高く、日本のファンにも人気

 

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台湾公演初日とあって、日本・台湾各界のセレブたちも集まった。豪華な内装に期待が高まる

 

 台湾公演と言っても、芝居も歌も日本語で行われるのだが、舞台の両端の電光掲示板には10文字2行の縦字幕が表示される。興味深かったのは、中国語は漢字1文字で多くを表現できるため、案外字幕が読みやすいということ。日本語を聞きながら中国語の字幕を追っていると、漢字表記が理解を促進してくれる効果がある。

 

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オペラハウスのような作りの劇場内。収容人数は1500名程度と案外小規模なので、スターとの距離が近い!

 

 おもしろかったのは、上演中、日本人と台湾人では笑いのツボが異なることだ。「これ、そこな旅の人」のようななんでもない台詞で大笑いしていたりする。あとから台湾人ファンに尋ねたところ、台湾では人形劇版の『サンダーボルト・ファンタジー』が好評なので、人形劇のキャラクターと宝塚で演じられているキャラクターのギャップに妙味があるのだとか。

 また、驚いたことに電光掲示板字幕は上演中も日々改善されており、台湾人スタッフがより観客受けがいい字幕を練り直しているという。そんなところにも台湾人の柔軟性が現れている。

 過去の台湾公演ではテレサ・テンの名曲『月は我が心』などが歌われたりしたが、今回は後半の歌と踊りの演目で『望春風』という戦前の台湾民謡が歌われた。これは台湾人なら誰でも耳になじみのある民謡で、歌詞はもちろん北京語ではなく台湾語。今回の台湾宝塚公演では、取り上げた内容やその楽曲が、外来ではない台湾独自の文化にこだわっていることがよく伝わってきた。中正記念堂という蒋介石のお膝元での上演だったものの、普段は京劇などが行われる場所で、台湾人形劇という庶民の伝統につながる演目が披露されたことも興味深かった。

 宝塚台湾公演は今後も行われると思うので、機会があったらぜひ観劇してもらいたい。

 

 

*今回は、予定を変更して『宝塚、台湾公演観劇記』をお送りしました。『漢字一文字で台湾料理を見分ける方法』の〈3〉は次回掲載いたします。

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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