旅とメイハネと音楽と

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#71

ボルネオ島サラワク州の音楽フェス取材記〈2〉

文と写真・サラーム海上

サラワク州の都、「猫の街」クチン

 2018年7月14日、前回から続くマレーシア、Rainforest World Music Festival Kuching 2018の2日目、午前中はAirAsiaメディアFAMツアーの面々とクチン市内半日観光へ行くこととなった。メンバーは16名。クアラルンプールからのマレーシア人を中心に、シンガポール人、北京と上海からの中国人、そして日本からは僕である。全員20~30代の若者で、僕が一番年上。彼らは中国語で発信しているアルファブロガーやインスタグラマー、ウェブメディアの運営者、そしてマレーシア地元のウェブメディアばかりで、新聞や雑誌など旧来のメディアは一人もいなかった。そんな彼らとマイクロバスに乗り込み、英語ガイドの案内を聞きながら、約1時間かけてクチン市内へと戻る。

 

 クチンはサラワク川と南シナ海に面した河の港の町。古くからサラワク王国の首都として栄え、イバン族やビダユー族、オラン・ウルーをはじめとする25以上の先住民、マレー人、インド人、華人が暮らしている。少数言語が混在するため、公用語は英語とマレー語。西マレーシアではマレー語しか通じないことがあるが、クチンでは英語で困ることはない。

 クチンの語源は、最初に入植したインド人が「港」を意味する「コーチン」と呼んだことからとも、「マタ・クチン」という果物の木が自生していたためとも言われる。しかし、現在のマレー語でクチンとは「猫」を意味するため、近年は「猫の町」として観光誘致がなされ、町のいたる所に猫の彫像が立ち並び、猫の博物館まである。

 

 マイクロバスは町を南北に分けるサラワク川の北岸に建つサラワク州議会議事堂の横で停車した。サラワク州議会議事堂は2009年に建立され、蓮の花のようなシンメトリックなデザインと金色の屋根により、新たな町のシンボルとなっている。そして、その横からサラワク川南岸のウォーターフロント地区をつないで2017年に新たに建設されたのがゴールデン・アニバーサリー橋。

 橋は地上40mの高さで川を横切り、橋の途中には二箇所の見晴らし台がある。熱帯の太陽がジリジリと照りつけるお昼前なのでささっと渡ってしまったが、夕暮れ時に訪れたなら、川からの涼しい風とウォーターフロント地区の屋台街が見渡せて、風情あるに違いない。

 橋を渡ったウォーターフロント地区は屋台が立ち並ぶ、夜の観光名所。しかし、昼時には屋台は一軒も出ていなかった。それでも猫の彫像を幾つか見かけた。

 

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ゴールデン・アニバーサリー橋からサラワク州議会議事堂を見渡す

 

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クチン川南岸ウォーターフロントに面した旧市街

 

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公園の一角に猫の彫像発見。町全体に一体何体の彫像があるのだろう?野良猫より多いくらい?

 

 ウォーターフロント地区の東端から、今度は昔ながらの渡し船で川を渡る。20人ほどでいっぱいになる小さな屋形船に乗り込み、三分ほどで北岸に戻る。船を降りると、クアラルンプールから来た三人が大声をあげて目の前に建つお菓子屋「Mira Cake House」に飛び込んだ。聞くと、「層のケーキ」を意味する「ケキラピス」というローカルな名菓があり、クチンに行くなら買ってきてくれと周りに頼まれるのだそうだ。

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クチン川の渡し船

 

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渡し船の船頭さん。イイ顔!

 

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渡し船に乗ったFAMツアー一行

 

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河岸の眼の前にケキラピスの老舗Mira Cake Houseが!

 

 冷房が効いた店内には無骨なスチール棚が天井近くまで並び、そこにバームクーヘンがマルチカラーになったような薄いレイヤーのケーキが色合いごと、味付けごとに分類されて並べられていた。おお、これがケキラピスか!

 赤緑黄色のラスタカラーのもの、ピンクと白の可愛らしい色のものもあれば、鮮やかな青緑やセルリアンブルー、マゼンタや黄緑、ショッキングピンクなど毒々しい色のものもある。名前もアップルやジャスミン、アーモンドなどから、モダンアート、インターネットなんて味の想像がつかないもの、さらにはネス@フェやオ@オなんて明らかに商標権侵害のものまである。

 幸い、全種類試食が可能なので、最も毒々しい色のものから順番に口に入れると、これが美味い! 意外なことに甘さ控えめのやさしい味だ。生地はバター多めでしっとりしていて、しかも、パンダンやココナッツ、りんごやプルーン、椰子砂糖など、食材の味がしっかり伝わってくる。ただ、3つ、4つを続けて試食した後には、どれがどれだかわからなくなってしまうなあ……。

 ふと、目を上げると、クアラルンプールの三人は、一人で10本もケキラピスを抱えて、レジに並んでいる。シンガポール人や中国人はまったく興味がないらしく、既にお店の外に出てしまい、ガイドから渡されたアイスキャンディーを食べているというのに。よし、オレは当然KLガイズを信じよう! 取り急ぎ、一番色のどぎつそうなものを三本買った。

 

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この毒々しい色!と引かないで、全て天然由来の色素ですよ! ケキラピス

 

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こちらのケキラピスはチーズ入りで要冷蔵

 

 後に調べたところ、ケキラピスは、植民地時代のインドネシアでオランダから伝わった多層ケーキのラピスレギットが元となっているそうだ。1970~80年代にジャカルタでラピスレギットの作り方を学んだ菓子職人がサラワクに戻ってマルチカラーのケキラピスに発展させた。

 ラピスレギットはあくまでプルーンの茶色や卵の黄色など普通のケーキの色だが、ケキラピスはあらゆる食材や色素を用いてマルチカラーなのが最大の特徴だ。化学色素のような毒々しい色も天然由来の色素を使っているそうだ。現在、ケキラピスはマレーシア政府によって地理的表示製品として保護されている。

 

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旧市街の路上でもケキラピスが屋台販売されていた。この毒々しい色彩!

 

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FAMツアー一行でおやつタイム!

 

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自由時間に僕はもちろん、干しエビや干し魚を大量に買い込んだ!

 

 買い物を済ませ、河岸の近くで再びマイクロバスに乗り込み、町を縦断してパドゥンガン通りにある巨大な白猫の像を見た後は、クチンのもう一つの名所、猫博物館へ向かう!

 猫博物館は町の北部の丘陵に建つ市役所内にあり、入り口は、日本人から見たら化け猫にしか見えない巨大な猫が鎮座するゲートをくぐる。ここには世界中の猫に関する諸々が何から何までありがたそうに陳列されていた。と言っても、展示品のほとんど全てには、猫への生物学的な視点や興味は存在せず、人間から猫に対する偏愛のみがただただ垂れ流し状態なのだ! 

 

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パドゥンガン通りのロータリーに見えてきた巨大な白猫像

 

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もう一つの町のシンボル、クチンの招き猫。堅いアホ毛がチャームポイントらしい……

 

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これが猫博物館の入り口ゲートを護る猫。日本なら化け猫でしょう!

 

 例えば、入り口近くに目立つのは愛猫を描いた絵画、猫をモデルにした置物。そして世界中から集められた猫のぬいぐるみやオモチャ。日本からは当然ハローキティやドラえもん、招き猫、さらには懐かしのなめ猫も大々的に写真が飾られている!

 アメリカからはミュージカル「Cats」や映画「Cat People」のポスター類、中世ヨーロッパからは猫に関する版画入りの稀覯本もある。1980年代後半に一発屋ヒットしたUKのロックバンド「Curiosity Killed The Cat(意味は「好奇心は身を滅ぼす」)」のポスターまであったのは驚いた。まさに「好奇心は身を滅ぼす」とは言わないけれど、いやはや「猫も杓子も」………。

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猫博物館に入っていきなり目に入るのが、こんな猫偏愛ACID絵画!

 

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日本の招き猫やハローキティも。しかし、最近の招き猫ってこんなに眼がデカイのかあ……

 

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なめんなよ! ちなみに又吉はメス猫。ブーム後に4匹の子供を産んで16歳でその生涯を終えたそうです、南無~!!

 

 トドメに出口付近には世界のキャットフードまで展示されていた。愛猫へのお土産品として販売しているのかと思ったら、れっきとした展示品とのこと。この偏愛は度が過ぎている……いや、度が過ぎているからこそ、市役所の一部を公的な博物館にできるのだろう。一応、古代エジプトの猫のミイラや猫の剥製などの、博物館に展示されて然るべき品も並べられていたらしいが、僕には全く目に入らなかった。

 

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お土産にこれ買いたい!と思った世界中の猫の餌、売り物ではなく、展示品とのこと

 

 時計を見ると午後2時。そろそろ宿に戻り、フェスティバルが始まる夜まで、プールでひと泳ぎして身体を冷やそう!

 

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ダマイ・ビーチ・リゾートのヒルトップにあるインフィニティプール

 

サラクワ名物の汁麺、サラワクラクサ

 さて今回の料理はサラワク名物の汁麺で僕の大好物「サラワクラクサ」だ。ラクサとはマレーシアやシンガポールの麺料理を指す。サンスクリット語で「無数」を意味する「Lakh」が語源と言われる。各地で味付けや薬味が大きく異なり、麺は米麺や玉子麺、中にはスパゲッティを使うものまである。スープは基本的に魚介出汁が多いが、鶏出汁のものもある。ココナッツミルクで甘くまろやかなものから、唐辛子や胡椒をたっぷり使って辛いもの、タマリンドやハーブにより強烈な酸っぱさや香りが付いたものもある。

 近年、日本のカップヌードルにも選ばれたシンガポール・ラクサは海老出汁とココナッツミルク味。ペナンのアサムラクサは、タマリンドと赤唐辛子と鰹や鰯などの青魚出汁のスープで酸っぱい潮汁と言ったところだ。

 そしてサラワクのラクサも独特で、サラワクの外では見たことない。サラワク名物の黒胡椒と赤唐辛子、山椒、そして発酵した海老味噌のブラチャン、ココナッツミルクなどを元にしたペーストを鶏出汁のスープで薄めて、具材は極細の米麺、生のもやし、トッピングに錦糸卵、海老、つみれ。そして辛いサンバルソースと生のライムが添えられる。これがなんとも美味いのだ。辛すぎず、クリーミーで、海老と鶏の出汁が効いていて!

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これが、かの元祖旅する料理人、故アンソニー・ボーディンが「神の朝飯」と絶賛したサラワクラクサだ!

 

 なんと泊まっていた宿ダマイ・ビーチ・リゾートの朝食ブッフェの一角にはヌードルバーがあり、係のアニキが目の前でサラワクラクサと、もう一つのサラワク独自の麺料理「コロミー」を作ってくれた! もう、3日間、毎朝食べるでしょう! 1日二食サラワクラクサでもイイよ。

 

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朝食ブッフェのヌードルバーサラワクラクサを発見! その場で作ってもらう!

 

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これがサラワクラクサのスープ! もはや札幌の海老味噌ラーメンなんかで満足してる場合じゃない!

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宿の朝食のサラワクラクサ、お待たせしました~!

 

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ついでにこれはつけ麺のコロミー。透明なスープの中に柔らかく煮込んだ牛肉のスライスがたっぷり。朝から食べ過ぎた!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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