旅とメイハネと音楽と

旅とメイハネと音楽と

#70

ボルネオ島サラワク州の音楽フェス取材記〈1〉

文と写真・サラーム海上

東マレーシアのRainforest World Music Festivalへ

 2018年7月、マレーシアのLCC会社エアアジアから招待され、東マレーシア・ボルネオ島サラワク州で開催されるレインフォレスト・ワールド・ミュージック・フェスティバル(Rainforest World Music Festival)のFAMツアーに参加することなった。ギリシャとトルコの18日間の出張から日本に戻り、二週間も経っていないのに次の出張である。
 レインフォレスト・ワールド・ミュージック・フェスティバルはサラワク観光局が主催し、1998年にスタートし、毎年7月中旬に開催されているワールドミュージックのフェスティバル。会場は州都クチンから35km北にある南シナ海のダマイ・ビーチ沿いに建つサラワク文化村(Sarawak Cultural Village)。

 ここはサラワクに暮らす少数民族の文化遺産を保護するために設立された文化施設で、東京ドームの約1.4倍の熱帯雨林の敷地内に主要7民族(ビダユ族、イバン族、プナン族、オラン・ウル族、メラナウ族、マレー族、漢族)のロングハウスや高床式の伝統家屋が建てられ、約150人がそれぞれの生活様式を継承しながら暮らしている。一年を通じて、各民族の生活様式や伝統工芸品、料理、伝統楽器の演奏、伝統舞踊などを手軽に楽しめ、「生きた博物館」とも呼ばれている。
 このフェスティバル、実は僕は2006年に一度訪れていた。その年はサラワクを代表する楽器であるオラン・ウル族の弦楽器サペの演奏をはじめ、韓国、インド、マダガスカル、マリなど世界中から比較的伝統色の強い演奏家ばかりが出演していた。昼間は施設内の様々な場所で彼らによるワークショップが開かれ、夜は鬱蒼としたジャングルを背にした野外ステージで数千人のお客を前にコンサートが開かれた。全身に入れ墨を入れたオラン・ウル族のおっさんたちによるユルいサペ演奏も楽しかったが、赤道直下ならではのうだるような暑さと夜になると降り始める空からバケツをぶちまけたようなスコールが印象的だった。
 それから12年、僕はこのフェスだけでなく、マレーシア自体を再訪する機会がなかった。その間にこのフェスは僕が定期購読しているイギリスのワールドミュージック専門誌「Songline」で「世界の訪れるべき25の音楽フェスティバル」に選ばれ、マレーシアの経済は大きな成長を果たした。
 今年のラインナップを見ると、サラワクはもちろん、西マレーシアからロシア、韓国、ソロモン諸島、ポーランド、ブラジル、ギニア、エチオピア、アメリカ、チリ、インド、マリ、セルビア、フィリピン、スコットランド、そして日本と、以前よりも広い範囲から音楽アーティストたちが参加する。ちなみに日本からは僕の友人でもある親指ピアノ奏者サカキマンゴーの出演だ。再訪するにはいい機会だ。

 7月12日深夜、熱帯夜の東京羽田空港からクアラルンプール行きに乗り、一路マレーシアの首都クアラルンプールへ。7時間のフライトで明け方のKLIA2ターミナルに到着。KLIA2ターミナルはクアラルンプール国際空港内にあるLCC専門のターミナルで、本館のKLIAターミナルと比べると設備が少なく照明も薄暗い。
 クチン行きの便が出発するゲートで3時間待った後、2時間のフライトでクチン到着。空港からは送迎車で1時間弱のドライブ。13日の午前11時にはサラワク文化村の隣の老舗の四つ星リゾートホテル、ダマイ・ビーチ・リゾートに到着した。赤道直下のビーチだけに湿度も気温もそこそこ高いが、正直言って、連日35度近い気温が続いたコンクリートジャングルの東京よりは過ごしやすい。

 

tabilistarwmf1往路はエアアジアのプレミアムフラットベッド

 

tabilistarwmf1クチン空港の入口には少数民族のトーテムが並ぶ。右のオラン・ウルの紋様はまるでアイヌ!

 

 ロビーにレインフォレスト・ワールド・ミュージック・フェスティバルのブースがあり、名前を告げるとホテルの部屋の鍵と、トートバッグに入れたプレスキット、そしてスマホ用の4G SIMカードを渡された。今どきだなあ。
 山の斜面に沿って部屋が点在するため、ホテル内の移動は小型ワゴンを使う。ホテルの建物は古く、設備は簡素だが、部屋にはシングルベッドが3つ並び、そこそこ広く、バルコニーからは目の前に南シナ海と右にフェス会場のサラワク文化村が見える。初日は夕方のオープニングまでやることがないので、水泳パンツに着替え、ホテルの食堂で軽くランチをいただいてから、夕方まで海とプールで泳ぐことにした。

 

souq10tabilistarwmf1ダマイ・ビーチ・リゾートの部屋のバルコニーから。真正面が南シナ海、右がサラワク文化村

 

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ダマイ・ビーチ・リゾートのメインプール。これ以外にも高台にもプールあり!

 

 夕暮れ時、メインのジャングルステージの前の芝生には、フェスの始まりを待ち構える千人ほどの観客が座り込んでいた。
 夜7時になるとカラフルな少数民族の民族衣装を身に着けた十数名の男女が観客の間に割り込むように入場し、ステージには長い羽飾りを頭に付けた少数民族の長老たち、ミュージシャン、踊り子たちが現れ、「オ~ハ~」という掛け声とともにゆったりしたゴングの演奏が始まった。するとバリ島の伝統舞踊を思いっきり素朴でスローにしたような伝統舞踊が、ステージ上と芝生の上で同時に進行していく。
 12年前も同様だったが、のべ2万人規模の大型フェスのスタートとしてはずいぶんとユルい。しかし、このユルさがサラワクなのだろう。

 

souq10tabilistarwmf1サラワク文化村のメイン入り口

 

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フジロックフェスティバルよりも何倍も広いボードウォークを歩きメインステージへ向かう

 

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サラワク文化村の施設。昼間はワークショップなどが行われる

 

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歩いていると12年前にも見かけたイバン族の民族衣装でキメたガイと再会。名前はジャクソンさん

 

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オープニングはサラワク文化村オールスターズ。イバン族の民族衣装のおっさんたち

 

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サラワク文化村オールスターズによるオープニング

 

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ステージ前の芝生で踊る女性たち。左はオラン・ウル、右はビダユー族の民族衣装


 サラワク先住民の舞踊は10分ほどで終了し、その後は韓国の農楽の若手集団Naedrum、ギニアのDjeli Moussa Conde、ソロモン諸島のWarato'o、チュニジアのYallah Bye!、ブラジル人女性歌手Dona Oneteがそれぞれ一時間ほどの演奏を行っていく。
 中でもYallah Bye!というチュニジア人男性歌手がベルギーで結成したバンドが気に入った。北アフリカのダンス音楽「シャアビ」をエレクトロ化し、盛り上がることなくジワジワと繰り返し、そこにアラブ~北アフリカらしいコブシを効かせた陰鬱な歌がのる。「アシッド・シャアビ」とでも呼びたい音はとても万人受けするはずがないのだが、マレーシア人の観客はステージ最前列で踊りまくっていた。ギニアやブラジルの音楽が盛り上がるのは当然だが、北アフリカの砂漠のリズムなんて熱帯雨林に暮らすマレーシア人には最も縁のないものではないか?

 

tabilistarwmf1韓国農楽の若手集団Naedrum

 

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ギニアのDjeli Moussa Conde。80年代風のわかりやすいアフリカン・ポップを演奏していた

 

tabilistarwmf1初めて聴くであろう音楽をこんなに熱心に聴くマレーシアの観客!

 

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オセアニアのソロモン諸島のWarato'o。竹のパンパンプを小さいものから、ジェゴグのような大きなものまで揃えて、同時に演奏し、ボブ・マーリーやマイケル・ジャクソン風の自作曲を演奏する。見た目こそ民俗音楽だが、中身はスタバやイケア的

 

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この冴えない薄毛のアニキはベルギー在住のチュニジア人シャアビ歌手ジョウハル。彼が率いるYallah Bye!はAmmar808やSoufiane Saidiに通じる今時のシャアビやライだ。ジワジワとシビレル音!

 

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初日のトリは80歳を超えた今も歌うテーマはセックスか料理の二種類しかないというブラジル人女性歌手Dona Onete

 

 実を言うとこの晩、登場した五組、普段からワールドミュージックのトレンドに目を配っている僕も一組も知らなかった。一般のマレーシア人の観客が知るはずはないのだが、それでも多くの観客が演奏を楽しみ、最前列で踊っている。
 独立以来、常に多文化共存が行われてきたマレーシアだけに、どんな音楽にもオープンなのかもしれない。夜中過ぎの芝生でビールを飲みながら、マレーシア人の音楽を楽しむ姿に感心し、残り二日間がますます楽しみになった。

 

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Yallah Bye!のジワジワ砂漠の音に踊り狂う人たちでいっぱい!

 

tabilistarwmf1時差ボケで明け方に目が覚めた。南シナ海でひと泳ぎしよう! 赤道直下だけに海水がぬるい風呂みたいなのがちょっと難

 

 

マレーシアのかき氷

 マレーシア料理は僕にはさすがに作れないので、今回はレシピは省いて、僕のお気に入りの料理を紹介しよう。まずは暑い昼に食べたくなるチェンドルとアイスカチャン。
 ともにかき氷を指すが、パンダンの葉で緑色に染めた米粉の麺状のゼリーとヤシ砂糖シロップ、ココナッツミルクをかけたものをチェンドルと呼ぶ。一方アイス・カチャンのカチャンは豆を意味し、小豆や金時豆などの煮豆を入れたかき氷全般を指す。
 材料が重複していることもよくあるので、僕には違いがよくわからないのだが、とりあえず緑、褐色、白の3色のものがチェンドルと覚えておこう。

 

tabilistarwmf1こちらはチェンドル。パンダンの葉で緑色に染めた米粉の麺状のゼリーとヤシ砂糖シロップ、ココナッツミルクが特徴

 

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こちらがアイス・カチャン。中央に小豆の煮豆が見える

 

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かき氷とシロップをかける前のアイス・カチャン。ライチの実やナタデココ、コーン、仙草のゼリーなど、チェンドルよりも具だくさんなのも特徴だ。ちなみにダマイ・ビーチ・リゾートのブッフェにて

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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