ブーツの国の街角で

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#69

チェルヴィニア:ビギナーでも行けるマッターホルン周辺の絶景スポット4選

文と写真・田島麻美

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 マッターホルン周辺を2週間に渡って歩いてきた今年の夏のアルプス滞在記。今回は第一ベースのシャモワからいよいよマッターホルンの麓の村ブレイユ=チェルヴィニアへ。マッターホルンはイタリア語で「チェルヴィーノ(〝鹿の角〟の意味)」というが、ここチェルヴィニアはまさにチェルヴィーノの足元にあり、登山口となっている。冬季はアルペンスキーのメッカとして世界中のスキーマニアが集う場所として名高い。人口700人のこの村に毎冬12万人ものスキー客が訪れるのだそうだ。スキーのメッカと言われるだけあり、イタリア国内で唯一、夏スキーが楽しめる場所としても知られている。スイス国境にあるツェルマットのスキー場へは、チェルヴィニアから出ているロープウェイで簡単にアクセスできるのだ。夏季にチェルヴィニアに滞在する登山・スキー客は冬季の4分の1に過ぎない、と聞いて正直びっくりした。なぜなら、チェルヴィニア周辺には無数の登山・ハイキングルートがあり、夏だからこそアクセスできる絶景スポットが目白押しで、こんな素晴らしい景色が見られるチャンスを放っておくなんて勿体無いと思ったからだ。今回は数ある中から、山歩き初心者でも行けるマッターホルン周辺の4つの絶景スポットをご紹介しよう。

 

1.ロープウェイの終点はスイス国境
「プラトー・ローザ/ Plateau Rosà」

 

 

 初心者でもお年寄りでも子どもでも、誰でも簡単に行ける絶景スポットの代表が標高3480mのプラトー・ローザ。標高2050mのチェルヴィニアの村はずれから出ている『チェルヴィーノ・スキー・パラダイス』の3つのロープウェイを乗り継いで行くだけで、スイス国境の村ツェルマットのスキー場まで一気に登ることができる。

 

 村の中心のとんがり屋根の教会がある広場からロープウェイ乗り場まで、その名も「フニヴィア(=ロープウェイ)通り」をえっちらおっちら登って行くと、ロープウェイのチケット売り場がある。売り場には3つの中継ポイントそれぞれの天気予報が掲示されているので、降りたい場所の天気予報をチェックしてからチケットを買う。ロープウェイの始点と終点では1500mの標高差があり、出発地点が晴れていても頂上は大荒れ、ということも十分あり得るからだ。この日は朝早起きして出かけた甲斐あって、頂上も晴天マークが出ていた。チケット売り場のおばちゃんも、「上もお天気は上々だから大パノラマが楽しめるわよ」と太鼓判を押してくれた。ロープウェイの切符はA・B・Cそれぞれの区間ごとに購入できる。各乗り継ぎ駅を拠点にした登山ルートもたくさんあるので、途中までロープウェイで登って歩いて降りてくる人もたくさんいるが、雪山のパノラマを楽しむだけならロープウェイで往復するという楽チンコースがオススメ。終点のプラトー・ローザで降りると、すぐ目の前にマッターホルン山頂が大迫力でそびえているのが見える。プラットホームは直接ゲレンデに通じているので、隣の山小屋で大パノラマを眺めながらカフェを楽しみたい人は、雪の上を歩ける靴と防寒着の装備を忘れずに。

 

 

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マッターホルンの玄関口ブレイユ=チェルヴィニア(上)。第一中継地点プラン・メゾン(2500m)までは「テレカビーナ」と呼ばれる小型ロープウェイで(中上)。2つ目のロープウェイに乗り継ぎ、チーメ・ビアンケ駅(2880m)まで。真夏でもスキー客が結構いる(中下)。最後は大型のロープウェイで一気に3500m地点へ(下)。

 

 

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終点プラトー・ローザの駅はゲレンデと直結している(上)。イタリア・スイスの国境線と背後にそびえるマッターホルン山頂(中上)。イタリア側のアルプスの眺め。遠くにモンブラン、グラン・パラディーゾの山頂が見える(中下)。こちらはスイス・ツェルマット側のアルプス山脈。4000m級の山が連なる壮大なパノラマが広がる(下)

 

 

2.ハイキングでもバスでも行ける
「ラーゴ・ブルー(ブルー湖)/ Lago Blu」

 

 二つ目の絶景スポットは、湖面に映る「逆さマッターホルン」が望めるラーゴ・ブルー(ブルー湖)。ブレイユ=チェルヴィニアの村はずれにあるピクニック・エリアを抜け、隣村の「ヴァルトゥルナンシュ/Valtournenche」方面へ続く森の中のハイキングコースを30分ほど歩けばたどり着ける。森林浴がたっぷり楽しめるハイキングコースは道も整備されていてアップダウンも少ないので、小さな子ども連れの家族、年配者のグループなどもたくさん歩いていた。どうしても歩くのはイヤ、という人には、チェルヴィニア=シャティヨン間を往復しているバスがある。チェルヴィニアのバスターミナルから2つ目の停留所で降りれば目の前に湖の入口が見えるはずだ。

 

 朝から気持ちのいい森林浴を楽しみながらのんびりとハイキングコースを歩いて行くと、緑の草木の隙間に美しいコバルトブルーの湖面が見えてきた。遊歩道は湖よりも小高い場所にあるため、森を抜けて視界が開けると足元に広がる美しい湖が一望できる。実は、この湖には「ラーゴ・レイエット」という正式な名前があるのだが、この湖を正式名で呼ぶ人は地元でもほとんどいないようだ。一般には「ラーゴ・ブルー(ブルー湖)」、「スペッキオ・ディ・チェルヴィーノ(マッターホルンの鏡)」と呼ばれている。面積は小さいが、透明な湧き水を湛えた湖の湖底に茂る様々な植物の緑が光線によって青から緑へと美しいグラデーションを織り成す様は、神秘的でとても美しい。周囲を取り囲む樹齢100年のカラマツ、色とりどりに咲き乱れる野の花、晴れた日にはマッターホルンの雄姿が湖面の鏡にくっきりと映り出される。湖を一周する湖畔の散歩道を歩くと、光の角度によって多彩に変化する湖面の風景を楽しむことができる。

 

 

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チェルヴィニアとヴァルトゥルナンシュの間にあるトンネルの脇道を通って行くとピクニックエリアの入り口に着く(上)。エリアを突っ切って行くと、再奥にヴァルトゥルナンシュに向かう森のハイキングコースが見えてくる(中)。30分程森林浴を楽しみながら歩いていくと、眼下にターコイズブルーの湖が出現する(下)。

 

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「マッターホルンの鏡」と呼ばれる透明な湖。晴天無風に恵まれれば奇跡のような風景を堪能できる(上)。アルプスの澄んだ湧き水と湖底の植物が美しいブルーのグラデーションを作る(中)。湖面に映る様々な周囲の景色を足元に見ながら湖畔を一周。カルガモや魚など、湖に生息する野生動物もたくさんいる(下)。


 

 

 

3.大自然が生み出した奇跡の洞窟
「グフレ・デ・ブッセレイユ/ Gouffre des Busserailles」

 

 

 ブレイユ=チェルヴィニアの隣村ヴァルトゥルナンシュ周辺にも見逃せない絶景スポットがたくさんある。中でも必見は「グフレ・デ・ブッセレイユ」(イタリア語では「グロッテ・デイ・ジガンティ=巨人達の洞窟」)と呼ばれる巨大洞窟である。

 

 1800年代の半ば、世界中の登山家達がマッターホルン制覇を目指して競い合った「アルプス黄金時代」があった。イタリア側からのアタックに初めて成功したのは1865年、ジャン・アントン・カレル率いる登山隊が制覇を成し遂げた。この登山隊に山岳ガイドとして参加していたのがヴァルトルナンシェ出身のヴィクトル・マキグナスで、彼らがマッターホルン登頂ルートを探りながら渓谷を歩いていた時、偶然発見されたのが「グフレ・デ・ブッセレイユ」だった。発見者である山岳ガイドのマキグナスの子孫が、現在もこの洞窟を管理しているのだそうだ。

 

 渓谷を流れるマルモレ川と地下からの湧き水の浸食によってできた長さ104m、深さ35mの巨大洞窟の入り口は、ヴァルトゥルナンシェの村から3kmのところにある。チェルヴィニア・ヴァルトゥルナンシェ双方の村からハイキングルートを歩いて行くか、州道46号線を通るバスでもアクセスできる。洞窟前には美しい渓谷の大自然を眺めながらランチが楽しめるバールもある。

 

 

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チェルヴィニア=ヴァルトゥルナンシェのハイキングコース上にあるバールが洞窟の入り口(上)。山岳ガイドだったマキグナスの一族が現在も管理している。洞窟の入場料は2€(中)。長さ104m、深さ35mの洞窟内は手すり付きの見学ルートが整備されている(下)。

 


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マルモレ川の水圧によって侵食された洞窟。内部は高低差があり、再奥には滝もある(上)。大自然が作り出した奇観に圧倒される(中)。洞窟内には登山隊による洞窟発見の経緯がわかる解説板も置かれている(下)。

 

 

4.荒涼とした景色の中で一際輝く
「チーメ・ビアンケの湖群/ Cime Bianche Laghi」

 

 

 最後にご紹介する絶景スポットは、ロープウェイの中間駅・標高2812mのチーメ・ビアンケから高地トレッキングで巡る湖群。チェルヴィニアからロープウェイで2つ目のチーメ・ビアンケ(白い頂の意)まで登り、そこから「アルタヴィア/ Alta via」と呼ばれる山岳コースを歩く。アルタヴィアとはヴァッレ・ダオスタ州を一周する山岳トレイルの総称で、全長330kmを制限時間以内150時間以内に走り抜ける山岳レースが行われることでも有名だ。マッターホルン、モンブラン、グラン・パラディーゾなど、4000m級の山の間を区間で区切って歩けるようにコースが作られていて、チーメ・ビアンケの湖群はその中のTMR (ツール・モンテ・ローザ)のコース上にある。道幅は広く、アップダウンは緩やかでそれほど厳しいコースではない。初心者でも十分歩けるが、標高2800m地点の高地なので身体に負担がかからないよう十分注意することを忘れてはならない。

ロープウェイを降りて歩き始めると周囲の景色が一気に変わる。山の裾野を彩っていた草木の緑や花々のカラフルな色彩は、氷河の白と岩のグレーに取って代わる。時々足元に見えるミニチュアのような高山植物のピンクや緑を除けば、あたり一面は黒から白へのグラデーションの世界だ。まるで月面を歩いているかのような荒涼とした景色の中、砂利や万年雪を踏みしめながら歩いて行くと、目の前に突然眩しいほどに輝く小さなブルーの湖が出現する。さらに歩を進めると、その真下にもう一つ、さらに青く大きな湖「グランド・ラック/ Grand Lac」が現れる。周囲の荒涼とした景色と輝く青い湖の対比が素晴らしく、別世界にいるような気分が味わえる。

 

 

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ロープウェイ駅から山岳ルートへ足を踏み出す。スイス側から見ると鋭く切り立った山頂が特徴的なマッターホルンだが、イタリア側から見る姿はもう少し穏やかだ(上)。歩き始めるとすぐ、眼下に人工湖のゴイレット湖が見えてくる(中)。歩を進めるにつれ、辺りの景色が荒涼としてくる(下)

 

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ヴァルトゥルナンシェからアルタヴィアを登ってきた人もたくさんいた。彼らはここからさらに高みを目指して行った(上)。緩やかではあるが、高低差があるコースでは、一寸先の風景が全くわからない(中)。道の際まで足を進めて初めて、目の前に素晴らしい2段の湖が見えた(下)。

 

 

★ MAP ★

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<アクセス>

ローマから高速鉄道でトリノ・ポルタスーザ駅まで約4時間。ポルタスーザ駅前のバス・ターミナルからSavda社のバスでシャティヨン/Chatillonまで1時間25分、シャティヨンでチェルヴィニア/Cerivinia行きに乗り換え約1時間、終点ブレイユ=チェルヴィニア下車。ラーゴ・ブルー、グフレ・デ・ブッセレイユの停留所もこの運行区間にある。

 

<参考サイト>

ヴァッレ・ダオスタ州観光局モンテ・チェルヴィーノ周辺情報(日本語)

http://valledaosta.jp/areaguide/montecervino.html

 

チェルヴィーノ・スキー・パラダイス/ ロープウェイその他エリア情報(英語)

*2019年夏季運行は終了。冬季は10月26日〜2020年3月3日の期間運行。

https://www.cervinia.it/en/inverno/home-breuil-cervinia

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年10月9日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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