旅とメイハネと音楽と

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#69

ギリシャ・ナクソス島の料理教室〈2〉

文と写真・サラーム海上

 

タコの煮込み料理、スティファドを教わる

 前回#68に続き、ナクソス島の家庭料理教室ヴィオマ(Vioma)のレポート。第二回はお待たせしました、タコ料理の登場!

「タコは生きたものをまとめて買って、そのまま冷凍保存しておくの。タコは夏になるとあまり市場に出回らないんだけれど、あなた達はラッキーね。たまたま冷凍庫に大きなのが一ぱい残っていたの! 今日はそれをまるごと使ってスティファドを作ります」とカテリーナ。

 スティファドは肉や魚介をたっぷりの玉ねぎとともに長時間煮込んだシチュー料理で、僕はサントリーニ島でも赤ワインとトマトで煮込んだタコのスティファドを口にしていた。

「ギリシャではシーフードは主に焼く料理が多いのですが、今日は煮込み料理のスティファドです。通常スティファドにはトマトやワインを使いますが、今日はマリア母さんの特別なレシピで蜂蜜とバルサミコ酢で煮込むんです」

 

 おお!蜂蜜とバルサミコ酢なんて味の想像がつかない! まさにこんな家庭料理を知りたくて料理教室に申し込んだのだ!

 

tabilistavioma2ナクソス島の集落ではタコを干す風景がよく見られる

 

tabilistavioma2ついにタコ料理を習える日が来た!

 

 カテリーナが解凍しておいたタコを大きなボウルから取り出した。すると、見事なまでに頭がデカイし、足もブットい。カテリーナは重さ2kg以上もあるタコをサクッと頭と足を切り離し、マリアさんと二人でタコの足を広げて、4~5cmのぶつ切りに刻んでいく。

 

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東京近郊なら三崎口まで行かないと地物のタコは手に入らないからねえ

 

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頭を切り離し、足もぶつ切りに

 

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マリアさんはタコの下準備も手慣れたもの

 

tabilistavioma2ぶつ切りにしたタコ

 

「スティファドはメインの具材と同じくらいの量の玉ねぎを使うのよ。ギリシャにはスティファド用の小さな玉ねぎがあるんだけど、今日は普通の玉ねぎを使います」

 大きな鍋に自家製のオリーブオイルを熱し、みじん切りのにんにくと、ぶつ切りにしたたっぷりの玉ねぎを炒め、玉ねぎが透明になってきたら、ぶつ切りのタコを投入。続いて蜂蜜とバルサミコ酢も1/2カップ強ずつと、塩、胡椒、月桂樹の葉を加え、タコの表面が白くなるまで炒める。するとタコと玉ねぎから水分がドバーっと出始める。

 

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玉ねぎとタコをオリーブオイルで炒める

 

「水分が出たら、弱火にして、蓋をして、焦がさないように時折水を足しながら2時間煮ます。時間はかかるけど、簡単でしょう? ナクソス島にはシンプルな料理しか存在しないの。素材がフレッシュで良いから、凝った調理法なんて必要なかったのね。このスティファドも島の食材だけを使ってシンプルに長時間煮込むだけなの」

 

 煮込んでいる間に残りの料理も作ってしまおう。前菜には「タラモ(サラタス)」。日本でもタラコとジャガイモを使い人気のペーストだが、元はと言えば「魚の卵」を意味するギリシャ語の「タラモ」から来ている。日本で魚の卵と言えば、タラコや明太子、イクラが手に入りやすいが、ギリシャではボラの卵を塩漬けにしたものを使う。

 そうそう、「タラモ」以上に日本語だと思われがちな「イクラ」という言葉は元々ロシア語で「魚の卵」を意味する。そして、ロシア系とギリシャ系住民が多いイスラエルでは「イクラ」と言うとギリシャ料理の「タラモ(サラタス)」が出てくるからややこしい。

 

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続いてはタラモ。ボラの卵は日本やトルコでは塩漬けにした後、乾燥させてカラスミにしてしまうが、ギリシャでは日本のタラコと同じ塩漬けの状態で売られている

 

「タラモには茹でたジャガイモを使う人も多いけど、私の家ではパンね。古くなって乾燥したパンを水に浸して、それをギュっと水を切ってから使うのよ」

 マリアさんは水を張ったボウルに乾燥したフランスパンを漬けて、よく水で湿らせてから、ペティナイフでパンの耳をむき、中の白い部分だけを掴み、ギュッと絞って水を切った。

 

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硬いバゲット状のパンを水に漬け、柔らかくする

 

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パンは耳を包丁でむき落としてから、手で握って水分をギュッと絞る

 

 そして、フードプロセッサーにざく切りの玉ねぎ、レモンの皮、魚の卵を入れ、玉ねぎがペーストになるまで撹拌してから、水を切ったパンとオリーブオイル、レモン汁を足し、全体がペースト状になるまでさらに撹拌する。それを一口味見したマリアさん、何か満足いかなさそうな顔をして、さらにオリーブオイルをドボドボっと足した。

「オリーブオイルは常にたっぷり使うのがいいのよね。これが我が家の料理なの」

 なるほどオリーブオイルを用いることで、口当たりが軽くなり、同時にオリーブの青い香りが魚臭さを打ち消してくれる。やはりギリシャ料理は僕のよく知る中東料理と共通項が多い。

 

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タラモの材料。レモン、紫玉ねぎ、オリーブオイル、水を切ったパン、ボラの卵

 

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フードプロセッサーに紫玉ねぎを入れ、ペースト状に撹拌する。玉ねぎから余分な水分が出るので、いったん取り出して、布に包んで絞るのを忘れずに

 

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撹拌した後、仕上げにたっぷりオリーブオイルを注ぐ。「もっとたっぷりオリーブオイルを。オリーブオイルは身体にイイのよ」とマリアさん

 

 さて、弱火でじわじわと煮込み続けているスティファドだが、1時間半を超えたあたりで、煮汁が急激に赤褐色に変わり、それまで色が付いていなかったタコの白い身にも赤い色が付いてきた。

「タコが柔らかく煮えて、色が付いてきたら、スティファドはほぼ完成。でもその前にスティファドの付け合せを作るわ。スティファドにはスパゲッティーまたはフライドポテトを合わせるの。今はジャガイモの収穫時なので、フライドポテトにしましょう」

 メークイン系の長細くて大きなジャガイモは皮をむき、太さ1cmほどの箸状に切りわけ、たっぷりのこれまたオリーブオイルで二度揚げする。

 

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スティファドには付け合わせのフライドポテトを用意する。自家製オリーブオイルで揚げるなんて贅沢!

 

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タコのスティファドも2時間煮続けると突然赤褐色のタコの色が出てきた!

 

「さて、これで三種類のピッタ、タラモ、スティファドは完成よ。出来上がった料理を食べる前に、まずは我が家のぶどうを使った自家製のワインと、ナクソスのチーズを味わってもらいましょう」

 カテリーナは冷蔵庫からチーズの塊を大切そうに取り出してきて、一口ずつ切り出し、大きなチーズボードに美しく並べた。

「ナクソス島には独特のチーズが存在するの。まずはグラヴィエラという牛と山羊のチーズ。これはプレーンな味で、ナクソスのグリエールと呼ばれているものよ。そして二番目は羊のチーズでアルセニコ。これは男性のチーズという意味よ。3つ目はシノティリという山羊の酸っぱいチーズ。そして最後は新製品の牛と山羊のチーズににんにくとハーブを混ぜたもの。どれもギリシャの外には知られていないけれど、ナクソス島の特産品なの」

 カテリーナのお父さんが作った自家製ロゼワインで乾杯しながら、チーズに手を伸ばす。山羊や羊のチーズは独特の酸っぱさ、苦さがあり、フルーティーなロゼワインとよく合う。過疎化が進み、産業も少ないナクソス島かもしれないが、ローカルな食生活は本当に豊かに思える。

 

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ナクソスのチーズまで用意してくれた。左からアルセニコ、グラヴィエラ、シノティリ、にんにくハーブ入りチーズ

 

 さて、タコが赤茶色に染まりスティファドが完成した。お皿にフライドポテトを敷いた上にスティファドをたっぷりかけて、いただきま~す!

 2時間煮たタコは柔らかくて、それでいてしっかり食べごたえあり。玉ねぎにはタコの出汁が染み渡り、蜂蜜のバルサミコ酢のソースは甘酸っぱくて、お好み焼きのオタフクソースにもどこか似ている。ギリシャの中の広島料理的な? そんな濃厚な味を吸い込んだフライドポテトも甘じょっぱさがジャンクフード的な不思議な美味さで、ポリポリと止められなくなるほど美味い! 

 

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本日の料理がテーブルに並んだ。壮観!

 

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タコのスティファドも完成。レシピは僕の新刊『MEYHANE TABLE More!』を

 

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茹でたジャガイモを使ったサラダも

 

「マリア母さんの料理は美味しいでしょう? この味を覚えて、日本にも広めて下さい。たくさんの日本からのお客さんを待ってます!」

 ヴィオマの料理教室、自然に囲まれた静かな村の素晴らしい環境で、地元食材を使った家庭料理をたっぷり習えた。またいつか訪れて、今度は肉の料理を習いたいなあ。

エウハリストー(ギリシャ語でありがとう)、カテリーナとマリア。また会いましょう!

 

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ヴィオマを主催するマリアさんとカテリーナ親娘

 

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ナクソス島のビーチはどこも人がほとんどいない

 

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ナクソス島のアポロン神殿に来たら、ボリウッド映画『Tiger Zinda Hai』のサルマーン・カーンのポーズを真似るでしょう! ヒロインのカトリーナ・カイフの代わりにカテリーナちゃんと出会えたしねえ

 

 

タラモの作り方

 

 

 タコのスティファドは、僕の新刊『MEYHANE TABLE More!』に掲載したので、今回はタラモのレシピを紹介しよう。ギリシャではボラの卵の塩漬けが手に入りやすいが、日本では生のタラコ、または手に入りやすい明太子を使えば簡単だ。

 

■タラモ 

【作りやすい分量】

バタール:1/2本

生たらこまたは明太子:100g(皮をむいておく)

紫玉ねぎ:1/2個(皮をむき、ざく切り)

国産レモン:1/2個(皮は薄く削ぎ、ざく切り、実は1mmの薄切り)

レモン汁:大さじ2

EXVオリーブオイル:150cc

乾燥タイム:少々

【作り方】

1.バタールは3cm幅に切り、たっぷりの水(分量外)を張ったボウルに入れ、浸水させてから、皮をむく。皮は捨て、身は掌で握り、水気をしっかり抜いておく。

2.フードプロセッサーまたはブレンダーに紫玉ねぎ、国産レモンの皮を入れ、なめらかなペースト状になるまで攪拌する。サラシの布を敷いたボウルに移し、布を絞り、余分な水分を切る。

3.2と1のフランスパン、生たらこまたは明太子、レモン汁をフードプロセッサー/ブレンダーに入れ、なめらかなペースト状になるまで3~4分攪拌する。途中、EXVオリーブオイルを数回に分けて加える。

4.お椀状の皿に盛り付け、スプーンを使って表面にくぼみを作り、残ったEXVオリーブオイルと国産レモンの薄切り、乾燥タイムで飾る。

 

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写真は、ナクソス島の料理教室のタラモ。レモンと玉ねぎ、オリーブオイルが効いていて美味い!

 

 

 

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*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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