韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#68

庶民の生活圏を走るマウルバスの旅〈2〉

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3号線弘済駅前から、07番バスに乗る

 仁寺洞のある安国駅から地下鉄3号線に揺られて15分。弘済(ホンジェ)駅で降り、1番から地上に出て歩道を逆方向に20メートルほど歩いたところにマウルバスの乗り場がある。ここでは常にいくつかの路線のマウルバスが客を待っている。弘済洞には急坂が多いので、マウルバスが必要不可欠なのだ。

 

0107番の乗り場は、歩道にあるエレベーターのすぐ裏

 

02乗っている人と人の距離が近いのがマウルバスらしさ。日常の足なので、顔なじみの運転手さんにあいさつする乗客も珍しくない

 

 目当ての西大門07番は、弘済駅とケミマウル(アリの村)を往復するマウルバス。大通り(統一路)をすぐに右折したバスは、仁王市場とユジン果物卸売商店街のビルの間を抜けて行く。ユジン果物卸売商店街はソウルでもっとも横に長いビルとして知られている。

 

ユジン果物卸売商店街ビルの前身は、1970年に建てられたユジン・マンション。マンションという言葉は当時、高級な集合団地に使われた

 

04夕暮れどき、ユジン果物卸売商店街のビルを後にして

 

 車内放送が「次は文化村現代アパート入口です」と告げる。この辺りには文化工作所、文化公園など、“文化”の二文字が冠された施設名が多い。朝鮮戦争休戦4年後の1957年、この地にできた大規模な新興住宅街が文化村と呼ばれていた名残りだ。

 左手に高架路を見ながら走っていたバスが大きく右に曲がると、そこは急に坂の街になる。2、3階建ての多世帯住宅が多いが、ところどころに年季の入ったキワチプ(瓦屋根の家屋)が見られる。釜山の甘川文化マウルの家々のようにカラフルではないが、同じようなタルドンネ(傾斜地にびっしり建てられた庶民の住宅街)であることがわかる。

 

05バスが急坂をのぼり始めると、そこはもうタルドンネ

 

 弘済駅前から10分ほど走ってきただけなのに、タイムスリップしたような、田舎の山村に来たような錯覚に陥る。「新と旧、洗練と野暮がまだらになっているところがソウルの魅力」と常々言っているが、まさにそれが実感できる風景変化だ。

 タルドンネの中央に位置する道をバスはさらに登っていく。まもなく終点の「ケミマウル」。クルマが入れるところとしてはもっとも標高が高い場所だ。ここからさらに歩いて登りたければ、仁王山の登山道を行くしかない。

 

06終点のケミマウルで来た道を戻るために向きを変えるマウルバス。ここには公衆トイレもある

 

07終点のケミマウルから07番バスを見送る。向こうに北漢山とマンション群が見える

 

 終点で降りて、つかのまの散歩。遠くには高層マンション群、目の前にはタルドンネ。経済に関心のある人なら、“格差社会”という言葉が思い浮かぶかもしれない。ケミマウルの山の中腹に突き出た岩の上にも家が建っている。そこに至る急階段を歩く人がいる。この村は遺跡ではない。生活の場として現役なのだ。

 

08終点のケミマウルから来た道を歩いて下る。左手はタルドンネの風景

 

 ここは50年代、朝鮮戦争の避難民や、地方からソウルへ上京してきた人たちが、不便を承知で住み始めたところだ。当時はこの辺りに仮住まいする人たちのテントが無数にあったため、インディアン村と呼ばれたりした。ケミマウルと呼ばれ始めたのは1983年。ケミ(アリ)のように地道に働く人たちの村という意味で名づけられた。そういえば、2013年に大ヒットした映画『7番房の奇跡』の不遇な主人公とその娘はこの町に住んでいるという設定だった。

 

 十年ほど前、韓国各地のタルドンネに壁画が描かれ始めたが、ケミマウルもそのひとつだ。終点で降りたら、今バスで登ってきた道を歩いて下りながら壁画を眺めるのもいいだろう。

 

09ケミマウルを歩いて下りながら、終点のほうを振り返る

 

 帰りもバスを利用するなら、終点で少し待てば次の07番バスがやってくる。ケミマウルを下り、少し行くと、バスは往路とは違う道に入る。車窓の右手には個人経営のさまざまな飲食店が、左手には更地になって今まさに再開発が始ろうとしているタルドンネを見ることができる。これがケミマウルの未来の姿かもしれない。

 

帰りも07番バスを利用したときの車窓風景(進行方向左手)

 

 バスはあっというまに弘済駅に着く。短い旅の余韻にひたりながら、さっき通り過ぎた仁王市場の屋台でマッコリを一杯やって帰るのもいいだろう。

 

11仁王市場は、弘済駅1番を出て歩道をそのまま進み、バーガーキングの角を右に回ったところにある

 

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仁王市場は広場型(体育館型)の市場。屋台街は北側にある。おすすめはスンデクッ(腸詰スープ)で、スープの中の肉片をつまみにマッコリを飲み、残った汁にごはんを投入してかきこむのが最高

 

(つづく)

 

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弘済駅1番出口前発の07番マウルバス路線図 ※クリックすると大きくなります

 

 

*来る11月10日(土)、東京・大塚のホテル『星野リゾート OMO5 東京大塚』で、筆者のトークイベントを行います。詳細は近日中に本コラムやTwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でお知らせします。

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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