韓国の旅と酒場とグルメ横丁

韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#67

庶民の生活圏を走るマウルバスの旅〈1〉

korea00_writer.gif 

「マウル」とは、韓国の固有語(該当する漢字がない純ハングル)で、村や町を意味する。近い意味をもつ言葉に「トンネ」があるが、マウルはトンネよりひなびた印象だ。

 そのマウルという言葉を冠したマウルバスをご存じだろうか? 言葉にはなじみがなくても、韓国ドラマなどで緑色のマイクロバスは見たことがあるのではないだろうか? あれがマウルバスだ。じつは都市の交通手段で、大型車が走れない狭い道や急坂が続く住宅地と地下鉄駅などを結んでいる。ひとつの区のなかの短い区間を走るので、区ごとに路線番号が付けられている。韓国では通勤通学に自転車を使う人が日本ほど多くなく、ソウルや釜山は東京よりも勾配がきついところが多いので、マウルバスは重要な交通手段だ。

 外国人旅行者がマウルバスを利用する機会は少ないだろうが、私は日本からの旅行者と大衆酒場めぐりをする際、あえて利用したりする。ソウル庶民の生活感あふれる風景が楽しめるのに加え、乗り降りする人たちの生活感や喜怒哀楽まで感じられ、暮らすように旅するのが好きな人たちの琴線にふれるからだ。

 始点から終点まで乗っても所要20~30分ほど。料金は1000ウォン(交通カードを使えば900ウォン。今のレートで100円弱)なので気軽に乗れるし、気まぐれに乗ってもそれほど遠くへは連れて行かれないので、ちょっとした“びっくりバスツアー”が楽しめる。今回から数回に渡り、街歩きが大好きな私のとっておきのマウルバス路線を紹介しよう。

 

 

5号線西大門駅3番出口から、05番のマウルバスに乗る

01西大門駅3番出口の前で待機中の05番マウルバス

 

 9月上旬、夕方のソウル。日本よりひと足早くやってくる秋の気配を感じながら、西大門(ソデムン)駅3番出口前から橋南洞(キョナムドン)や杏村洞(ヘンチョンドン)を行き来する05番バスに乗る。乗客は4、5人しかいない。

 

02大通りから商店街に入る

 

 車内放送が「次の停留場は霊泉市場(ヨンチョン・シジャン)」と告げる。ここも数年前、きれいで明るい市場に生まれ変わったが、それでも生活感にあふれている。スンデ、チジミ、トッポッキ、マッタン(大学イモ)などの間食の店が多い。なかでも4個1000ウォンのクッァベギ(ツイストドーナツ)は霊泉市場の名物だ。

 ここでは、市場で買い物をしたらしいおばさんたちが乗り込んでくる。手にしたビニール袋の中に白菜が見える。キムチを漬けるんだろう。あっ、トウモロコシを茹でたにおいがする。家族のおやつかな? こんな体験ができるのも狭いマウルバスの車内ならでは。

 

03霊泉市場の路地裏風景

 

 独立門(トンニプムン)駅前の停留場を過ぎると、バスは右折して町の峠道をのぼる。これからがマウルバスの本領発揮だ。非力ながらも小型バスならでは軽快さで坂道を進む。車窓に2~3階建ての多世帯住宅が目立ってくる。シュポ(小さな食料雑貨店)の前のベンチに座っておばあさんたちがおしゃべりする風景は田舎町と変わらない。

 曲がりくねった道を通り過ぎると、「母岳現代アパート後門」「広いマダン(庭)」といった無味乾燥な名前の停留所が続く。さらにのぼっていくと、眼下にはいくつもの屋根。かなりのぼってきたようだ。市内から15分ほど乗っただけなのに、ずいぶん景色が変わった。

 この路線のハイライトは、かつてソウルの内と外を隔てた城郭沿いの道だ。右手に杏村洞の住宅街、左手に城壁を見ながらのぼったり降りたりしながら進む。この辺で降りて城郭散歩を楽しんでもいい。

 バスが南方向に坂道を下り始めた。鍾路(チョンノ)図書館や社稷(サジク)住民センター辺りで降り、ここ数年、若者受けするカフェやレストランが増えた西村(ソチョン)散策に出かけるのもよいだろう。

 

杏村洞の高台にある住宅街。再現された城壁に沿って進む

 

04

培花(ペファ)女子中学校の停留所は、始点の西大門駅からもっとも遠くに位置する

 

05web月岩近隣公園へ行く道

 

 バスは社稷トンネルを抜け、橋南洞(キョナムドン)のほへう南下していく。タルドンネと呼ばれる傾斜地にある住宅街を撤去して建てられた立派なマンションの間を走る。途中の月岩近隣公園(ウォルアムクンリンコンウォン)で降りるのもいい。

 

 

 城郭の外側にできた公園には年季の入った赤レンガの『洪蘭坡家屋(ホンナンパ・カオク)』がある。韓国の有名な作曲家、洪蘭坡が日本植民地時代に建てた邸宅だ。当時、ここにドイツ領事館があったため、西洋人の住宅が多かった。洪蘭坡家屋から大きなイチョウの木を目指して歩くと、住宅街の中にディルクシャと呼ばれる2階建ての洋館があるが、これもその名残りのひとつだ。

 バスは再び西大門駅に戻ってきた。30分弱の旅が終わり、バスは再び乗客を待つ。

(つづく)

 

07

西大門駅3番出口前発の05番マウルバス路線図 ※クリックすると大きくなります

 

 

*秋以降、首都圏で筆者のトークイベントがいくつか行われる予定です。具体化しましたら本コラムやTwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でお知らせします。

 

 

*本連載の一部に新取材&書き下ろしを加えた単行本、『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』が、双葉社より好評発売中です。ぜひお買い求め下さい!

 

kankoku_h1

『韓国ほろ酔い横丁 こだわりグルメ旅』

定価:本体1200円+税

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

korea00_writer

korea00_writer.gif

紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

紀行エッセイガイド好評発売中!!

korea00_book01

うまい、安い、あったかい 

韓国の人情食堂

korea00_book02

港町、ほろ酔い散歩

釜山の人情食堂

isbn978-4-575-31182-2

韓国ほろ酔い横丁 

こだわりグルメ旅

 

 

韓国の旅と酒場とグルメ横丁
バックナンバー

その他のアジアの人情グルメ

ページトップアンカー