旅とメイハネと音楽と

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#67

トルコ人シェフ訪日レポート

文と写真・サラーム海上

 

イスタンブルの人気店シェフ二人がやってきた!

「兄の友人のトルコ人シェフ二人が2月下旬から10日ほど東京を訪れることになったから、築地や居酒屋に案内してくれないかな?」
 2月中旬、イスタンブルの友人ハッカンからこんなメールが届いた。
「マクスットはカラキョイにある『Neolokal(ネオローカル)』というレストランのオーナーシェフで、レストラン業界ではちょっとした有名人。もう一人のユルマズも近頃人気のレストランのシェフなんだ。だからサラームと二人がつながると面白いと思ってね」
 ネオローカルは以前から行きたかったターキッシュ・フュージョンの店だった。こんな申し出は願ったり叶ったりだ。それにしても一体二人は何をしに東京に来るんだろう?
「3月上旬に東京の外で開かれる料理の展示会に呼ばれたんだよ。二人とも日本は初めてだから、その展示会の5日前から東京に行って日本料理を食べ尽くしたいそうだよ」
 3月上旬? 東京の外? それって幕張メッセで開かれる日本最大級の料理見本市FOODEX(『FOODEX JAPAN/国際食品・飲料展』)じゃ? トルコは毎年FOODEXに巨大なブースを出していて、たくさんの食品関係者が来日し、日本企業と商談を行ってきたから、そこで行われるトルコ食材のデモンストレーションのための来日かな? 

 2月26日、新宿御苑のホテルのロビーで二人と待ち合わせると、時間ぴったりに、ガタイの良い髭面の二人がエレベーターから降りてきた。
「サラーム、僕は君を知ってるよ! 一昨年くらいにカッパドキアのフェスティバル会場で何度も見かけたよ」と恰幅の良いマクスット。
「僕も君の店『ネオローカル』を知ってるよ。まだ行ったことないけど」
「じゃあ、次回イスタンブルに来る際はぜひ来てくれよ」
「ちょっと待った。イスタンブルに来るなら、僕の店『ミュルヴェル(Murver)』もぜひ寄ってくれよ。前菜からメインまで薪火で作った料理を楽しめるんだから」とヒョロっと背が高く、寡黙なユルマズ。
「二人は来週のFOODEXのために来たんですか?」
「そのとおり。FOODEXで四日間毎日、トルコ料理のデモンストレーションを行うんだ。それから来週トルコ大使公邸で行われるレセプション・パーティーでも来客のために大量の料理を作るんだ」
「両方とも招待状が届いているので、もちろん伺うよ。ところで東京の何を見たい?」
「まず築地市場を見たいね」
「それは残念、一年遅かったね! 築地は昨年、豊洲に移転したんだよ。今は移行期で、どちらを見に行っても面白くないかもしれないよ……」
「それでも見に行きたい。それからラーメン屋めぐり。実はラーメンに詳しい友達からいくつかおすすめの店を聞いているんだ。もちろん居酒屋も回りたいし、日本のお酒も知りたいね」
 その晩は新宿三丁目にある評判の良い居酒屋に行き、二人に日本各地の日本酒と居酒屋料理をたっぷり味わってもらった。

 

P_20190227_182615_vHDR_On_HP新宿の日本酒が美味い居酒屋へマクスットとユルマズを連れて行く。フグの白子焼きを味わい、「今、オレはフグのスペルマの味を知った!」と大喜び

 

 翌朝は三人で築地を訪れた。かつての場内市場は入り口が閉鎖され、残る場外市場も水曜定休で3分の2ほどのお店が閉まっていた。それでも、どうしてもマグロのセリを見たいという二人のため、さらにその翌日、早朝6時前に豊洲市場を訪れた。豊洲で間近にセリを見られる見学デッキに入るには、一月以上前に事前申し込みを行い、抽選に当たらないとならない。入場券を持たない僕たちは、だだっ広い建物に似つかわしくない、狭苦しい一般見学者ルートを通って、ガラス窓を通じてはるか階下にマグロのセリをのぞき見るだけだった。残念ながら、セリの声が聞こえてくるわけでも、魚の匂いが流れてくるわけでも、活気が伝わってくるわけでもない。時差ボケのまま眠らずに早くから遠出したのにねえ……。
 それでも二人は浅草のホッピー通りの居酒屋で昼間から路上飲みと、合羽橋商店街でのショッピングを楽しんだ。ユルマズは和包丁を見て回り、大小いくつものサイズを買いこんだ。

 

P_20190228_053941_vHDR_On_HP早朝の東京メトロで豊洲へと向かう

 

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初めて訪れた豊洲の一般見学者ルート……


P_20190228_061836_vHDR_On_HP豊洲の一般見学者ルートの窓から見下ろしたマグロのセリ。遠すぎて……

 

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浅草浅草寺参道に立つユルマズ

 

 さらにその週末には吉祥寺まで来てもらい、大人気のカレー屋『Piwang』や西荻窪の広島風お好み焼き屋に案内した。日本で特殊発展したインドカレーや、お客の眼の前の鉄板の上でそばや卵焼きまでレイヤーに重ね合わせて調理する広島風お好み焼きなど、日本料理のバリエーションの幅は二人の想像をはるかに超えていたそうだ。

 

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吉祥寺ハモニカ横丁の超人気カレー店『Piwang』が奇跡的に空いていた! 石田徹シェフと。定番のチキンカレーと黒胡麻キーマカレーの二種盛りカレーを楽しむ。二人は日本風カレーを初めて口にした

 

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吉祥寺からタクシーに乗り、西荻窪のお好み焼き店カンランへ。喫煙可能の店内で床に直に座って、お好み焼きを初体験!

 

 FOODEX 2019は3月5日から8日まで四日間にわたり開催された。マクスットとユルマズはFOODEXのトルコ・ブースに設置されたオープンキッチンで、一日三~四回、全部で15種類のトルコ料理を一度に200人分も作り、来訪者に配り歩いた。

 

P_20190308_112938_vHDR_On_HP3月5日から8日に幕張メッセで開かれた日本最大級の料理見本市FOODEX。トルコの立て看板を発見!

 

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トルコ・ブースのオープンキッチンではマクスットとユルマズのトルコ料理デモンストレーションが行われていた

 

 タルハナ・チョルバス(乾燥ヨーグルトのスープ)、ナッツとドライフルーツをたっぷり入れたストラッチ(ライスプディング)、ザジキ(水切りヨーグルトときゅうり、ピクルスの前菜)、ハーブとお米を使ったカドンブドゥ(ミートボール)、ウンヘルワ(セモリナ粉と牛乳の焦がし菓子)などの典型的なトルコ料理の間に、鰹節や笹の葉のお皿など、連日の食べ歩きで見つけた日本の食材や食器を早速取り入れていた。

 

P_20190308_130343_vHDR_On_HP煮込んで出しを取った魚介にオリーブオイル、ドライトマト、ニンニクのソースをパスタに合わせて。仕上げにすりおろした胡桃をふりかけて、日本の笹の葉のお皿に盛り付けた。「トルコは穀物の国で、パスタはその代表的な食材」とマクスット

 

P_20190308_121207_vHDR_On_HP休憩時間には焼酎ブースを訪れ、焼酎利き酒コンテストにも参加

 

 3月7日の夜にはトルコ大使館内大使公邸でレセプション・パーティー「エーゲの夕べ」が開かれた。別件で来日中だったクラン・トルコ外務副大臣とメルジャン駐日大使の挨拶の後、マクスットとユルマズが作った20数種類のトルコ料理がブッフェ形式で振る舞われた。

 

IMG_29523月7日夜、トルコ大使公邸にて始まった「エーゲの夜」

 

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大臣や大使の挨拶の後、隣のサロンにて、ブッフェのスタート!


 冷たい前菜類やサラダには、チョバン・サラタス(羊飼いのサラダ)、クル・ファスリエ(いんげん豆の煮込み)、ヤプラク・サルマス(葡萄の葉のご飯巻)、チェルケス・タヴウ(鶏肉とパン粉と胡桃のペースト)、ターゼ・ファスリエ(さやいんげんのトマト煮)、イスパナク・サラタス(ほうれん草のヨーグルトあえ)アジュル・エズメ(トマトと赤唐辛子のペースト)、オリーブ入りのアジュル・エズメほか、オーセンティックなエーゲ海の料理ばかりだが、よく見ると、ヤーランジュ・チーキョフテ(ブルグルとトマトペーストの団子)は大根の桂むきでくるんであった。これは合羽橋に連れて行った成果が早速出た!?

 

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クル・ファスリエ(いんげん豆の煮込み)

 

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こちらはターゼ・ファスリエ(さやいんげんのトマト煮)

 

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ヤプラク・サルマス(葡萄の葉のご飯巻)。中のかやくご飯には松の実とカランツ

 

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チェルケス・タヴウ(鶏肉とパン粉と胡桃のペースト)。鶏肉、胡桃、ヨーグルト、ニンニクが上品だ

 

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白チーズたっぷりのチョバン・サラタス(羊飼いのサラダ)

 

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通常のアジュル・エズメ(トマトと赤唐辛子のペースト)

 

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エーゲ海名物のオリーブをたっぷり混ぜ込んだアジュル・エズメ!

 

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見て! 大根の桂むきでくるんだヤーランジュ・チーキョフテ(ブルグルとトマトペーストの団子)。トルコ料理と日本のテクニック!

 

 メインディッシュには僕の大好物のイチリ・キョフテ(ブルグル生地の揚げ肉団子)やムサカ(ひき肉と野菜の重ね焼き)、バルック・タワ(白身魚のフライ)ほか。
 そんな中、無造作に並んだステーキが絶品だった。和牛肉を使っていて、脂身が口の中でとろけるほど美味いんだ! これもトルコと日本の友情から生まれた料理と言っていいかも。

 

IMG_2996二人の料理が美味すぎて、お代わりも止まらない!

 

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大好物のイチリ・キョフテ(ブルグル生地の揚げ肉団子)。作り方は僕の新刊『MEYHANE TABLE More!』を参照下さい

 

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何気なく並んだステーキ! 和牛だけに口の中でトロトロと溶ける。美味すぎて一人で四枚もいただいてしまった!

 

「イスタンブルやヨーロッパ、アメリカで何回も食べていたので、日本料理についてそこそこ知っているつもりでいた。でも、今回東京で過ごして、僕たちが知っていたのはほんの一部だったことに初めて気づいたよ。お好み焼きも焼酎も知らずにいたのだからね。
 10日間では全然足りなかった。来年以降、ユルマズと一緒に必ず日本に戻ってくるから、今度はみんなで沖縄や北海道にも行こう!」
 日本のグルメ旅ならいつでも喜んで! でも、その前に僕がイスタンブルを再訪し、彼らの店を訪れるほうが早そうだ。

 

IMG_3022メルジャン駐日大使を囲んで、ニコニコ顔のユルマズ(左)とマクスット

 

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マクスットとユルマズとサラーム。また近いうちに再会しよう!

 

シェフ直伝!トルコの菓子ヘルワを作ろう

 今回はマクスットとユルマズが残していったセモリナ粉とピスタチオパウダーを使って、二人がFOODEX最終日に披露した料理を再現しよう。
 

■セモリナ粉のヘルワ、バニラアイスといちご添え 
【材料:5人分(作りやすい分量)】
*ウンヘルワ
セモリナ粉:100g
砂糖:80g
バター:40g
松の実:20g
水:1/2カップ
牛乳:1カップ
ローズウォーター:大さじ2
クローブ:1本
シナモンパウダー:少々
塩:少々
*添えるもの
バニラアイス…300g
いちご…1パック
ピスタチオパウダー…1/2カップ(なければ省略可)
ざくろ濃縮果汁:75cc(なければ省略可)
胡椒:適宜

【作り方】
1.底の厚い鍋にバターを入れ、弱火にかける。溶け始めたら、松の実を加え、松の実をじっくり揚げる。
2.もう1つの鍋に砂糖、水、牛乳を入れ、弱火にかけ、砂糖を溶かし、沸騰したらローズウォーターを加え、火をごく弱火にしておく。
3.松の実に焼き色が付き始めたら、セモリナ粉を加えて、焦がさないようによくかき混ぜながら、セモリナ粉が薄い焼き色が付くまで炒める。
4.セモリナ粉に焼き色が付いてきたら、クローブを手でつぶして加え、さらに2の鍋から1カップを加える。ジャッと水分が蒸発したら、よく混ぜ合わせながら、再び液体を足す。この作業を三回繰り返す。残りを鍋に入れ、シナモンパウダーと塩を加え、ダマにならないようによく混ぜ合わせる。
5.焦がさないようにかき混ぜながら、水分が飛び、ウンヘルワの表面が透明になってきたら、火を止めて、プリンの型などに5つにとりわけ、室温に冷ます。
6.いちごはヘタを取り、縦半分に切る。お皿にバニラアイスを盛り付け、隣に5のウンヘルワを並べ、いちごを散らし、ざくろ濃縮果汁を振りかける。
*好みで黒胡椒を振りかける。
 

ヘルワ

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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