旅とメイハネと音楽と

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#65

ギリシャ・サントリーニ島滞在記〈4〉

文と写真・サラーム海上

 

『セレーヌ』のシェフによる料理レッスン

 前回からの続きで、サントリーニ島の人気ファインダイニング『Selene(セレーヌ)』の料理レッスン。女性マネージャーのジョージアさんによる地元食材の詳細なレクチャーの後、今度はお店の厨房に入り、シェフから実際に料理の手ほどきを受ける。その後、半野外テラスのテーブルに移り、それぞれの料理に合わせてペアリングされたワインとともにゴージャスなランチを楽しむのだ。

 

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セレーヌのシェフのヤニス

 

「セレーヌへようこそ。僕の名前はヤニス。今日はサラダ、前菜、メイン、デザートの四品、この店の人気料理を作ろう。まずはメインディッシュの鯛のフリカッセの下準備から」

 そう言って、彼は手際よく25cmほどの銀色の鯛を三枚におろした。贅沢なことに一人分フィレ一枚丸ごとを使う!

「おろした身の面には塩を、皮には隠し包丁を入れてから塩と砂糖を振って、30分置くんだ。塩が余分な水分を出してくれるし、砂糖をふると皮の表面がカリっと焼ける」

 

tabilistasantorini3銀色の立派な鯛を三枚におろす

 

tabilistasantorini3おろしたフィレの皮の面に塩と砂糖をふりかけておく

 

「さて、このままサントリーニ島の名物、セモリナ粉と牛乳のデザート、ガラクトブレコを作ろう」

 セモリナ粉と牛乳のデザートはトルコではヘルワ、アラビア語ではハルワと言われ、中東全土に存在する。セモリナ粉のプツプツの食感が特徴だが、味は生八ツ橋やウイロウ、落雁などの和菓子にもどこか通じる懐かしい味だ。ギリシャのガラクトブレコはどんなものだろうか?

「まず鍋に牛乳1.5リットル、砂糖400gとセモリナ粉100g強、卵2個を加えて、ダマにならないように泡立て器でかき混ぜ続けるんだ」

 なるほど。トルコのヘルワはセモリナ粉が1に対して砂糖は1.5、牛乳(と水)は2.5くらいの割合だが、ギリシャのガラクトブレコは砂糖の量が段違いに多い! そしてトルコでは、最初にセモリナ粉を大量のバターで焼き色が付くまで炒めて、焦がした香りと色を付けるのだが、ギリシャはその工程は端折ってしまうらしい。

 

tabilistasantorini3ガラクトブレコ。セモリナ粉、砂糖、牛乳を火にかけて溶かす。常にかき混ぜる

 

「セモリナ粉と砂糖が完全に溶けたら、これは僕の好みでチョコレートを100gとバター150gを足し、更にかき混ぜ続けて、固めのクリーム状になったら火を止める。冷めると少し固まるので熱いうちに扱うといいよ」

 

tabilistasantorini3隠し味のチョコレートも溶かす

 

tabilistasantorini3チョコとバターが溶けたガラクトブレコ

 

 ヤニスは熱々のガラクトブレコをクリームの絞り袋に入れた。そして小さなカップ状にオーブンで焼き固めたパートフィロ(春巻きの皮を更に薄くしたような小麦粉の薄い生地)をオレンジ、グレープフルーツ、ライムの皮、シナモン、ジンジャーパウダーを入れたフルーティーな砂糖シロップに軽く漬けてから、その上にガラクトブレコをムニュっと絞り出した。それを黒い火山岩のプレートに置き、仕上げに砕いたピスタチオをふりかけて完成。

「ガラクトブレコは温かくても、冷やしても美味しいんだ」

 

tabilistasantorini3事前にカップ状にしてオーブンで焼いておいたパートフィロをレモンやライムの皮を入れた砂糖シロップに一瞬漬けて取り出す

 

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パートフィロの器に絞り出したガラクトブレコ

 

「つづいてはサントリーニ・サラダに移ろう。先ほどのジョージアのレクチャーにも出てきたと思うけど、サントリーニ産のミニトマト、キュウリとメロンの両方の特徴を持つ野菜カツーニ、紫玉ねぎ、この島産の小さな緑オリーブ、ケイパー、大麦のパン、EXVオリーブオイル、そして、普通のハードチーズの代わりに、三種のチーズをヨーグルトとともにムースにしたものを使うんだ。ケイパーもサントリーニの誇る加工食品の一つだから、要はこの島の特産物を盛り合わせたサラダだね」

 作り方は簡単。中東のサラダと同じく、野菜を一口サイズに切り分け、ボウルに入れる。大麦パンはジョージアに聞いたとおり、いったん水に浸した後に、水分を絞ってからボウルに加える。そしてEXVオリーブオイルをふりかけ、軽く混ぜ合わせる。

 トマトやオリーブやケイパーから酸味が出るので、酢やレモン汁は必要ない。お皿に盛り付けたら、上にチーズのムースをのせ、ケイパーの葉の塩漬けを散らす。

 

tabilistasantorini3サラームもサントリーニ・サラダ用にカツーニを切る

 

tabilistasantorini3切った野菜と浸水させて砕いた大麦パン、オリーブオイルをボウルに入れ、トスする(混ぜ合わせる)

 

tabilistasantorini3トスしたボウルの中身

 

「前菜は、ヤリイカのソテー、焼きなすの瞬間薫製だ。焼きなすは茄子を焼いたあと、皮をむき、実だけをほぐして、にんにく、赤パプリカ、りんご酢、塩であえて、包丁で叩いておくんだ。用意するものは他にイタリアンパセリとザクロの実を少々。イカは開いて、皮をむき、表面に格子状に隠し包丁を入れて、塩をふっておく」

 焼きなすのサラダはトルコでもレバノン、イスラエルでもポピュラーな前菜だが、それをイカのソテーと組み合わせるとはナイス。新鮮な野菜と魚介類の組み合わせは魚の好きな日本人にはいつだって嬉しい!

 

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ヤリイカのソテー、焼きなすの瞬間薫製の材料。焼きなすのサラダは一日分を作り置いているそうだ

 

 ステーキ用のグリルパンを熱し、十分に温まったところでイカを乗せ、火が均等に入るように、ステンレスのスパチュラで押さえつけながら焼いていく。火が通ると、イカはくるりと筒状に丸まるので、表面にバーナーを使って焼き色を付けていく。

「イカは幅2cmほどに筒状に切り分けよう。蓋のできる小さなガラスの器の底に焼きなすのサラダを敷いて、イタリアンパセリのみじん切りとザクロの実を散らす。この2つは見た目のためだけではなく、ビタミンも足してくれる。それに茄子の苦味をザクロの甘さがカバーしてくれる」

 

tabilistasantorini3ヤリイカの表面に格子状に隠し包丁を入れる

 

tabilistasantorini3グリルパンで焼いたヤリイカの表面にバーナーで焼き色を付ける

 

tabilistasantorini3ガラスの器の底に焼きなすのサラダを敷き、ザクロの実とイタリアンパセリを散らす

 

「瞬間燻製は世界的な流行で、ウチの店でもいくつかの料理に取り入れているんだ。今回はヒッコリーを使うけど、お好みの香りを使えば良い」

 茄子、パセリ、ザクロの上にクルクルっと丸まったイカをのせ、器に蓋をかぶせて、瞬間燻製器のホースの先をふたの隙間から差し込む。本体の受け皿にヒッコリーのチップを乗せ、ライターで火をつけると、ホースから白煙がモクモクと出てくるのだ。ガラスの器に白煙がこもったら、ホースを外し、1分ほど煙を充満させてから、いったんふたを開け、煙を逃がす。たったこれだけの作業で、燻製の香りが染み込む。

 

tabilistasantorini3一口大に切ったヤリイカをのせ、瞬間燻製器のホースをのせる

 

tabilistasantorini3瞬間燻製器に火を点ける

 

tabilistasantorini3煙を閉じ込めたガラスの器。一分後に蓋をあけて煙を出す

 

tabilistasantorini3ヒッコリーのチップ

 

「最後にメインディッシュの鯛のポワレ、青野菜とアウゴレモノ・ソースを仕上げるよ。アウゴレモノ・ソースはギリシャ語で『アウゴ=卵』と『レモノ=レモン』を意味するギリシャ料理では定番のソースだけど、セレーヌではさすがに特別な作り方をするから、ぜひ見ていてくれよ」

 まず野沢菜に似た青菜とアスパラガスをオリーブオイルで軽く炒め、野菜ブイヨン(長ねぎ、玉ねぎ、人参で取ったスープ)とレモン汁、ルー(小麦粉をバターで炒めたフランス料理の食材)を足し、基本的なソースが完成。そこにモラキュラー料理の定番と言えるエスプーマ器具(亜酸化窒素を使って液体を泡にする道具)を使って、卵とレモン汁のエスプーマ(泡)をブシュっと吹き込み、とろみのついたソースにざっくり混ぜ合わせた。

「アウゴレモノ・ソースをエスプーマにしているんだ。泡の食感がアウゴレモノ・ソースを次のレベルに押し上げてくれるんだ」

 

tabilistasantorini3野沢菜に似た青菜とアスパラガスをオリーブオイルで軽く炒める

 

tabilistasantorini3自家製の野菜ブイヨンとルーを注ぐ

 

tabilistasantorini3とろみの付いた薄黄緑色のソース

 

tabilistasantorini3アウゴレモノ(卵とレモン)のエスプーマを注ぎ入れ、軽くざっくり混ぜ合わせる

 

 見た目もスペシャルなアウゴレモノソースを仕上げてから、次は鯛のポワレ。EXVオリーブオイルを入れたフライパンを熱し、水でさっと塩と砂糖を洗い流して、水気をしっかり拭き取った鯛を皮を下にして並べる。ステンレスのスパチュラで押さえつけ、均等に火を通してから、ひっくり返すと、砂糖の効果で皮がクリスピーに焼けている。身の面も軽く火を通して出来上がり。

 

tabilistasantorini3皮に美しい焼き色が付いた鯛

 

 お皿にアウゴレモノソース、さらにアウゴレモノソースのエスプーマを1スクープ、その上にカリカリに焼けた鯛のポワレをのせ、上にシーソルトを散らす。

「これで僕の料理レッスンは終了。実は僕は日本料理にものすごく興味があるんだ。いつか東京に行くからその時は案内してくれないか? それからギリシャ料理に質問があったら、いつでも連絡してくれよ」

 これにて料理レッスンも終了。テラス席に移り、作ったものをそれぞれにペアリングされた地産のワインとともにいただきまーす! 

 

tabilistasantorini3アシルティコ・ワインを青空に透かして

 

 まずはヤリイカのソテー、焼きなすの瞬間薫製。スモークの香りが柔らかいイカにほんのり沁みている。にんにくの効いた焼き茄子のペースト、さらに石榴の甘味、この組み合わせが素晴らしい。しかも、新鮮なヤリイカさえ手に入れたら、日本でも再現するのは簡単だ! よく冷えたサントリーニ産の白ワインとの相性も良い。

 

tabilistasantorini3ヤリイカのソテー、焼きなすの瞬間薫製。美しい!

 

 2品目はサントリーニ・サラダ。塩や酢は使われていないにもかかわらず、ケイパーの葉、ケイパー、オリーブ、そしてチーズのムースからしっかり塩味が出ている。

 チーズのムースには、ギリシャ北部、サントリーニ島、クレタ島と三ヶ所からの異なる山羊チーズをミックスしてムースに仕上げている。濃厚な山羊のチーズだが、ムースにすると軽くて食べやすい。この料理にはサントリーニ特産の葡萄であるアシルティコ種の白ワインがペアリングされた。

 

tabilistasantorini3サントリーニ・サラダ。上のケイパーの葉の塩漬けも近年になって生産され始めた島の特産食材らしい。通常のケイパーの実の塩漬けよりもマイルド

 

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内陸にあるエステート・アルギロス産のアシルティコ。フルーティー!

 

 メインの鯛のポワレ、青野菜とアウゴレモノ・ソース。鯛は火の通し方が絶妙。そしてバターや卵系のソースは重く単調になりやすいが、青野菜のテクスチャー、エスプーマにしたアウゴレモノ・ソースは芸術的! こちらにも異なるワイナリーからのアシルティコ種の白ワイン。

 

tabilistasantorini3鯛のポワレ、青野菜とアウゴレモノ・ソース。エスプーマと野菜のソールが2層に分かれてるのがいいね!

 

 ガラクトブレコはトルコのヘルワと同じようにモソモソで、生八ツ橋やウイロウを思わせる素朴な小麦粉菓子。しかし、パリパリのパートフィロ、カリカリのピスタチオ、柑橘系の香りが付いたシロップにより、おしゃれな一品になっていた。こちらにはサントリーニ特産の甘いデザートワイン、ヴィンサントをペアリング。

 

tabilistasantorini3パートフィロの器で包んだガラクトブレコ

 

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サントリーニ島の誇るデザートワイン、ヴィンサント

 

 サントリーニ島のファインダイニング、セレーヌの食材レクチャー、料理教室、そしてペアリングワイン付きのランチコース、半日たっぷり大満足の内容だった。しかし、次回は夜に再訪して、フルコースをいただきたいなあ。次はいつこの島を訪れるだろうか?

 時計を見ると午後2時40分、そろそろ港に向かわねば。この後は3時30分出発の大型フェリーでナクソス島に渡るのだ。

 

tabilistasantorini3食後、そのままタクシーに乗り、島の港へ直行!

 

tabilistasantorini3さらばサントリーニ島。また来ます!

 

サントリーニ島の名物菓子、ガラクトブレコの作り方

■ガラクトブレコ

【材料:作りやすい分量】

牛乳:2カップ

砂糖:100g

セモリナ粉(細挽き):30g

卵:1/2個

チョコレート:25g

バター:40g

パートフィロ:数枚:オーブンで焼いてカリカリにしておく

*砂糖シロップ

砂糖:300g

水:200g

オレンジ、グレープフルーツの皮:少々

シナモンパウダー:少々

ジンジャーパウダー:少々

*飾り用

ピスタチオ(好みのナッツ):適宜

【作り方】

1.小さな鍋に砂糖シロップ用の砂糖と水を入れ、火にかけ、砂糖を溶かす。火を止めて、オレンジ、グレープフループの皮、シナモンパウダー、ジンジャーパウダーを入れ、室温に冷ましておく。

2.底の厚い鍋に牛乳、砂糖、セモリナ粉、卵を入れ、火にかける。ダマを作らないように、泡立て器でかき混ぜながら、よく混ぜ合わせる。

3.火を止めて、チョコとバターを加え、予熱で溶かしながらかき混ぜる。室温に冷ましてから、冷蔵庫でよく冷やす。

4.パートフィロを1の砂糖シロップに一瞬漬けてから取りだし、食べやすい大きさに砕く。

5.3をクリーム絞り袋に入れ、4を敷き詰めた平皿の上にしぼり出す。上からピスタチオをふりかけ完成。

 

IMG_5431サラームの出張メイハネで作った30人分のガラクトブレコ。表面が見えなくなるほどナッツを散らしてますww

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。最新刊『MEYHANE TABLE More! 人がつながる中東料理』好評発売中。『Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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