旅とメイハネと音楽と

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#63

ギリシャ・サントリーニ島滞在記〈2〉

文と写真・サラーム海上

 

ビーチでタコ料理を堪能

 

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イメロヴィグリから見た夕暮れのエーゲ海。これぞサントリーニらしい絶景!

 

 ギリシャ滞在中は出来る限りタコ料理を食べることにした。だが、滞在していたサントリーニ島内最大の集落フィラではすべてが観光地プライスで、アルコール一杯が10ユーロ=1250円近くもする。まるでロンドンやテルアビブなみの物価高だ。そこでビーチ沿いに安めのシーフードレストランが並んでいるという集落カマーリに足を伸ばした。

 フィラからバスに乗って20分、島の東海岸に向かって道を下ると、到着したカマーリは世界中どこの国にもありそうなあまり魅力的ではない無個性なビーチリゾートだった。メイン通りにはくたびれたバックパッカーたちが闊歩していた。

 道路に並ぶレストランやバーのメニューを覗くと、確かにフィラよりも値段は安い。しかし、ここには断崖絶壁に沿って続く白い壁と石畳の細い道、そして眼下に広がるカルデラの青い海がないじゃないか。せっかくサントリーニに来たのに、これでは世界のどこの国にいるのかわからない。やっぱりフィラに戻ろう!

 

tabilistasantorini2カマーリのビーチ。物価が安いと聞き、来てみたもののサントリーニらしさがどこにもない!

 

 とは言え、せっかく遠出してきたので、安い昼飯を求めて近くのレストランに入った。地元のビール「ミトス」をガブガブと飲みながら、ギリシャ料理を代表するメゼ、チーズ・サガナキ、そしてタコのグリルを注文した。

 サガナキとはギリシャ語で小型のフライパン、スキレットを意味する。チーズのサガナキと言えば、四角くはんぺん状に切ったチーズをそのサガナキで焼いたり揚げたりしたものを指す。そして、海老のサガナキと言えば、海老をサガナキに入れ、さらにトマトソースとチーズを加えて蒸し焼きにしたグラタン状の料理を指す。要はサガナキを使った料理はなんでもサガナキと呼ぶらしい。

 しかし、この店のチーズ・サガナキはチーズに小麦粉の衣を付けて油で揚げたものを普通のお皿で出してきた。これじゃサガナキではなく単にチーズのフライだよ。

 

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チーズ・サガナキ。せっかくならサガナキに入れて持ってきてよ!

 

 そんな店でも、やっぱりタコは美味かった。炭火でサクっと焼いたタコの足一本はしっかり下処理されていて、身が柔らかくテーブルナイフでサクっと切れる。ギリシャ料理の定番であるレモン汁とバターを溶かしたソースを回しかけて、口に放り込む。噛むほどに濃密なタコの旨味が口内に広がる。

 前回#62の記事でとりあげたレストランと同じく、この店でもタコの付け合せは乾燥豆をゆっくりと煮崩した「ファヴァ」だった。食感が全く異なるこの2つの組み合わせは定番なのだろう。ちなみに2品とビール2杯込みで32.5ユーロ=4,100円で済んだ。確かにフィラと比べるとずいぶん安い!

 

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タコのグリル。手前の紫キャベツの千切りには島特産のアシルティコ酢をかけていた

 

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カマーリのレストランのボード。魚介盛り合わせ二人分が35ユーロと確かに安い! フィラなら一人分のメインディッシュの値段!

 

 

ギリシャ・フュージョン料理の高級店『ラ・メゾン』

 その日の夕飯にはフィラから崖沿いの道を2km北に進んだ集落、イメロヴィグリにあるギリシャ・フュージョン料理の高級レストラン『ラ・メゾン(La Maison)』を訪れた。ここはTripadvisorで2018年の「Travellers Choice」に選定されている店だ。サントリーニに来ることを決めた直後に予約を入れておいたが、海に突き出たテラス最前列のテーブルは既に満席で、僕たちは二列目のテーブルをあてがわれた。 

 

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ラ・メゾンのテラス、二列目のテーブルから見たサントリーニの岸壁。左側の白い集落がフィラ。右の岸壁の上には前回取り上げたサント・ワインズ

 

 アシルティコ種ワインをボトルで頼み、喉を潤していると、アミューズとして運ばれてきたのが「しじみとワカメ、コンソメのスープ、ロブスターの卵添え」。器は二重底のガラスのお椀。そこから立ち上る香りはほぼ日本のすまし汁じゃないか! これはサプライズ! ほんの少し口に含むとしじみのダシ、ワカメと青ネギが混じり合って懐かしい日本の味である。しかも、赤唐辛子(鷹の爪?)がうっすら効いていて、日本のすまし汁よりエッジが立っている! なるほど、ギリシャも日本も海の幸の旨味を引き出すのが得意だからねえ。

 感心していると、全員お揃いの黒のクルター・パジャマーを着たイケメンのウェイターから「日本人ですか? ウチのシェフがどれほど日本料理を愛しているかが伝わりますか?」と話しかけられた。

 

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アミューズには「しじみとワカメ、コンソメのスープ、ロブスターの卵添え」。まるで日本料理!

 

 続いての前菜は「手長海老と青菜のスシ、キャビアとタラモ添え」。プリプリに火を通した手長海老の身を、茹でて水を切ったほうれん草に似た青菜をシャリに似せてまとめたものに乗せて、スシに見立てている。それを、枯山水の砂紋のような白いお皿の上に配置し、二種類の魚卵を散らしている。食べるのが惜しいような美しい一皿だ。

 口に入れると、海老自体の甘みと青菜自体の甘み、さらに二週類の魚卵の塩と潮の味を活かしていて、何も余計な味付けがない。本当に枯山水のようなコンセプトの料理ではないか。

 

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前菜の「手長海老と青菜のスシ、キャビアとタラモ添え」。手前のクリーム色の丸いのがタラモ。黒いのはキャビア。まるで枯山水の庭みたい!

 

 もう一つの前菜は「サントリーニトマトのサラダ」。火山灰の土壌で育つサントリーニのトマトはいわゆる「牛の心臓」種のトマトを1/5サイズにしたような特殊な形をしている。水が少ない土壌だけに味が非常に濃い。そのサントリーニトマトと緑、黄、オレンジ色のミニトマトを丸いお皿に時計盤状に並べ、バジルのソースと乾燥黒オリーブの粉をふりかけ、真ん中に山羊チーズのソースを盛り付けた色鮮やかな一品。

 色の異なるトマトそれぞれの風味の違いを楽しんだ後に、今度は濃厚な山羊のチーズのソースにディップして二度目の美味しさ。これも特別な調理法は用いずに、地のもの野菜の力を引き出している。素材の味を引き出す料理体系として、西洋料理の中ではイタリア料理が最も知られているが、ギリシャ料理も負けてない!

 

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「サントリーニトマトのサラダ」。これも素材の味の組み合わせが素晴らしい

 

 そして、メインディッシュにはもちろん「タコの炭火焼き」! 焼いたタコの足に、細かく刻んだ乾燥ベルガモットとカラマタ産黒オリーブを添え、レモンバターソースにはタラゴンとローズマリーを刻み入れている。

 

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メインディッシュにはもちろん「タコの炭火焼き」。ルビー色のタコや黒光りするカラマタ産オリーブ、オレンジ色のベルガモットなど、まるで宝石箱のよう!

 

 タコにナイフを入れると、スルっと切れる。このタコの身だけでも充分美味しいのに、ドライベルガモットの香りと甘味、黒オリーブのねっとりした渋み、さらにほろ苦いハーブまでが多層的に訴えかけてくる。タコ足一本とは言わず、何本でも食べてしまえそうだ!

 

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タコが柔らかい!

 

 それにしてもタコの身を見た目は美しいままに、どうやって柔らかくしているのだろうか。圧力鍋やオーブンで蒸し煮にすればタコを柔らかくするのは難しくはない。しかし、調理するほどに色はあせていき、足の表面の吸盤は剥がれていく。

 後にトルコの料理好きの友人たちにタコを柔らかくする方法を聞く機会を得た。すると、ある友人からはタコを生きたまま冷凍庫に入れるのが良いとの答えが返ってきた。生きたまま凍らせると筋肉が硬直せず、また凍結と解凍をすることで筋肉や細胞が壊れるため、柔らかくなるとのこと。

 別の友人はタコを凍らせる前に大理石の机に繰り返し叩きつけて筋肉や細胞を壊しておくとさらに柔らかくなるとの答え。いずれにせよタコにとっては悪夢のような策略である。生きるとは罪深いのだ!

 さて、デザートは一枚のスレートプレートの上に3つが並んだ。マスティック(ギリシャ特産の殺菌作用のある樹液)で味付けた焼きプリンと、干しイチジクをローズウォーターと砂糖水で煮たコンポート、そしてサクランボのアイスクリームだ。フルーツと乳製品が中心でお腹にもたれないのも嬉しい。

 

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デザート三種盛りは「マスティックの焼きプリン、干しイチジクのコンポート、サクランボのアイスクリーム」

 

 この頃には夕陽はテラスの右側、カルデラの北にある集落イアの後ろ側に沈み、空が急速に色を変えていた。

 勘定を頼むと182ユーロ=約23,000円。この特別すぎる立地とイマジネーションあふれる料理ならこの値段も納得かな。次回はもっとお腹を空かせて来て、シェフのおすすめテイスティングメニューを頼みたいな。

 

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テーブルから座って見た夕暮れの空。真夏のため太陽は画面正面のイアの後ろに沈んだ

 

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会計を済ませ、ラ・メゾンから出た時間の空

 

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いたる所で夏のセルフィー祭り絶賛開催中!

 

 

トルコのスープ、タルハナ・チョルバス

 さて、今回はトルコの田舎のスープ、「タルハナ・チョルバス」を作ろう。  

 タルハナは乾燥ヨーグルトの保存食品。ヨーグルトにトマト、赤唐辛子、パプリカ、パセリ、小麦粉、ひよこ豆の粉を混ぜ合わせ、団子状にまとめたものを10日ほど発酵させ、その後、天日で干して、一旦砕いてから粉に挽いたもの。

 使い方は簡単。みじん切りの玉ねぎやにんにく、トマトペーストとともにバターで炒めて、スープストックで溶いて、ひよこ豆やパスタなどを足し、煮込めばスープ「タルハナ・チョルバス」が出来上がる。長期保存出来るため、世界最初のインスタント食材とも呼ばれている。

 残念ながら、いまだ日本では手に入りにくいが、僕はイスタンブルを訪れる度に食材店で買い求めている。実はこの3月上旬に幕張メッセで開催された日本最大の食材展覧会「FOODEX」のために初来日したトルコ人シェフから置き土産としてタルハナをたっぷり頂いたので、それを使って作ってみよう。

 

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これが乾燥ヨーグルトのタルハナ

 

■タルハナ・チョルバス

【材料:4人分】

鶏手羽元:5本

玉ねぎ:1/2個

にんにく:1かけ

粒胡椒:小さじ1

月桂樹の葉:1枚

水:1.5リットル

塩:小さじ1/2

 

タルハナ:1/2カップ

バター:20g

トマトペースト:大さじ2

ドライトマト:5枚:ざく切り

バーミセリまたはカッペリーニ:20g:5cmの長さに割っておく

 

プル・ビベールまたは韓国の赤唐辛子フレーク:少々

乾燥スペアミント:少々

 

【作り方】

1.圧力鍋に鳥手羽元、玉ねぎ、にんにく、粒胡椒、月桂樹の葉、水、塩を入れ、蓋をして火にかける。圧力がかかったら、7分~15分加圧する。普通の鍋の場合、弱火で2時間、時々水を加えながら煮る。

2.減圧したら、鶏肉を取り出し、スープは濾しておく。鶏肉は骨を取り、身は細かく手でちぎり分ける。

3.別の鍋にバターを入れ、火にかけ、溶けてきたらタルハナ、トマトペーストを加え、焦げないように鶏スープを少々足しながら、ペースト状になるまでよく混ぜ合わせながら炒める。

4.鶏スープを鍋に入れ、お玉やフォークなどを使ってペーストを溶く。しっかり溶けたらざく切りのドライトマト、割ったバーミセリを加え、弱火で5分煮る。鶏肉を加え、鶏が温まったら、火を止める。

5.お皿に盛り付け、プルビベールと乾燥スペアミントで飾る。

 

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タルハナ・チョルバス完成! タルハナと鶏のスープさえあれば作るのは簡単!

 

(サントリーニ島編、次回に続きます!)

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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