東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#63

インドネシアの鉄道再び〈2〉

文・写真  下川裕治

ブリタール~スマラン

 ジャワ島のジャカルタから東側の路線は、梯子を横に倒したような形になっていた。支柱の部分が幹線で、すでに乗車していた。しかし梯子の足を載せる部分の路線が面倒だった。この路線を一気に乗ろうとすると、当たりに向かって辿る“あみだくじ”のように進まなくてはならなくなる。しばしばすでに乗車した幹線に戻らなくてはならない。

 梯子路線は3本あった。チカンペック~クロヤ、チレボン~クロヤ、スマラン~ソロである。このうち、チカンペック~クロヤ路線は乗っていた。

 ブリタールで乗ったブランタスと名づけられた列車は、スマラン行きだった。これに乗れば、スマラン~ソロ間を乗りつぶすことができた。

 

 

ブリタールからスマランに向かう列車ブランタス。発車前の様子を(ブリタール駅)

 

 列車は定刻にブリタールを発車した。まず環状線の残りの部分を進んでいく。クルトソノに着いたのは、午後の2時半すぎだった。これで環状線を乗り切ったことになる。

 列車はそこからソロに向けて西進していく。この路線はすでに乗ったジャワ島南側の幹線なのだが、梯子路線を制覇するためには乗らなくてはならなかった。

 ソロから北上することになる。山のなかにつくられた線路を進み、北側の幹線駅であるスマランに着く。なんだかローカル線の趣がある路線なのだが、資料によると、インドネシアではじめて敷かれた線路なのだという。

 インドネシアではじめて鉄道が開通したのはこのスマランで1867年のこと。オランダの植民地だった時代である。蘭印鉄道会社が担当した。その路線はやがてソロまでのびていくことになる。

 この沿線には、そんな歴史に裏打ちされた駅が残っているという。しかしソロに着いたのは夕方の6時すぎ。すでにあたりは暗くなっていた。ここから先の駅舎が古いことになるのだが、なにも見えない時間帯になってしまった。

 

DSCN0745車内販売の弁当、ナシペセル。ご飯の上にガドガドサラダを載せる感覚。ヘルシー駅弁?

 

 乗客の多くはソロで降りてしまった。エコノミの車内も空席が目立つ。夜汽車の風情が漂っている。終点のスマランタワン駅に着いたのは夜の9時近かった。これでソロとスマランの間を乗りつぶしたことになる。

 スマランタワン駅はなかなかみごとな駅だった。歴史が息づいている。これまでインドネシアの多くの駅を見てきたが、そのなかではいちばん歴史が伝わってくる。もっとゆっくり列車旅を楽しむなら、この駅で1時間、2時間と佇んでいたい気分だった。

 だがひとつ、気になる区間があった。

 ソロからの路線は、グンディという駅から西に向かって進み、スマランタワンに着いた。しかしグンディから北上し、北側の幹線駅であるガンブリンガンに出る路線があった。短い路線だが、ここを列車が走っているのかどうか……。もし、走っているとしたら、翌日、スマランタワンから戻り、この路線に乗らなくてはならなくなる。今日乗ってきた路線に再び乗らなくてはならない。

 幸い、切符売り場は開いていた。夜の9時すぎで、切符を買う客もいなかった。

 こういう説明がいちばん面倒だった。インドネシアの全鉄道に乗る……という酔狂な企てがなければ関心を惹かない路線である。駅員は僕の意図などわかっていないわけだから、「どうしてその路線に乗ろうとするの?」という不審な眼差しを向けてくるのはわかっていた。そこで全鉄道走破の話を持ち出してくるのも面倒だった。

 僕は路線図を開き、そこをボールペンの先でなぞりながら訊いてみる。

「グンディとガンブリンガン?」

 駅員は首を傾げる。若い職員だった。彼もよくわからいようで、後ろにいたベテラン職員になにやら聞いていた。そしてこんな言葉が返ってきた。

「ときどき走る列車があるそうです」

「ときどき?」

 微妙ないい方だった。その「ときどき」のために乗らなくてはならないのだろうか。どう訊いたらいいのだろう。少し悩んだ。

「明日は走るんですか」

 すると若い職員はまたベテラン職員に訊いている。

「明日は走りません。なにかのトラブルがあるときだけ走るそうです」

 僕は窓口の前でガッツポーズをつくった。昔は走っていたのかもしれないが、いまは周辺の線路が雨で水没してしまったときなどに臨時で使う……そう理解した。いや、そういうことにした。潔癖な性格なら、もっとしつこく訊いたのかもしれない。しかし僕にはまだ未乗車路線が残っている。そういうことでいいのか……という批判をやがて受けるのかもしれない。しかしもう気力がなかった。

 

DSCN0750スマランタワン駅に着いた。インドネシアの鉄道の歴史が伝わる駅

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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