ブーツの国の街角で

ブーツの国の街角で

#62

ボルツァーノ郊外:気軽にアクセスできるドロミーティの絶景スポット

文と写真・田島麻美

bolzano-fuori_0

 

 

ユネスコの世界自然遺産に登録されているドロミーティは、標高3千メートル超の山々が18峰もあるヨーロッパ東アルプス山脈の一部。そのエリアは北イタリアのヴェネト、トレンティーノ・アルト・アディジェ、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリアの3つの州にまたがり、面積は14万ヘクタール以上に及ぶ。広大なドロミーティ山塊は山岳スポーツのメッカでもあり、一年を通して雄大な大自然と触れ合える環境が整っている。長期間滞在して山から山へと渡り歩くことができたらさぞ素晴らしいだろうが、時間的にも体力的にもそんな余裕がないという人でもドロミーティの大自然を満喫できるお手軽なスポットがある。ボルツァーノから登山電車やバスで簡単にアクセスできて、大自然の絶景も楽しめるオススメのスポットを2つご紹介しよう。
 

 

 大地のピラミッド

 

  ボルツァーノからロープウェイと登山電車を乗り継いで一気に標高1160mのレノン高原へ。爽やかで澄んだ空気を吸いながら、片道約1時間のハイキングが楽しめるコースがある。「Piramidi di Terra di Renon (レノンの大地のピラミッド)」と呼ばれる土柱群の奇観はヨーロッパでも有数の名所として知られているが、その奇観を望むハイキングコースは子どもから高齢者まで難なく歩けるよう整備されていて、「半日だけ街の喧騒から逃れたい」という時にも最適である。
  ボルツァーノの鉄道駅から徒歩10分足らずの所にあるケーブルカーの駅から、まずは標高1220mの「Soprabolzano (ソプラボルツァーノ)」へ。ボルツァーノ旧市街と周囲の山の斜面を彩る葡萄畑のパノラマを眺めながら、12分間の空中散歩を楽しむ。ソプラボルツァーノへ着くと、ケーブルカーの駅前にレノン鉄道という登山電車の駅が見えた。真っ赤な2両編成の小さな電車は、1907年開業の歴史ある登山電車だ。リュックを背負った高齢者グループ、小さな子ども連れのファミリーと一緒に登山電車に乗り込み、車窓の緑に癒されながら終点のコッラルボまで揺られること20分弱。下車して駅を出るとすぐ、幾つものハイキングコースの道のりを示す標識が目についた。小雨が降ってきたが道は整備されていると聞いたので、ポンチョを被って早速歩き始める。

 

 

bolzano-fuori_01

 

bolzano-fuori_02

 

bolzano-fuori_03

ケーブルカーの切符はボルツァーノ=ソプラボルツァーノ往復で10ユーロ。ボルツァーノと近郊の町を結ぶバス路線もある。郊外をあちこち見て回りたい人にはお得な乗り放題チケット『MobilCard』が便利。1日券15€、3日間23€、7日間28€でケーブルカー、登山電車、バスが乗り放題になる(上)。標高差900m以上を12分間で一気に登っていく(中)。100年以上の歴史を誇る登山電車レノン鉄道の駅はケーブルカー駅の目の前。遅延もストもなく時刻表通りに運行しているのがいかにもドイツを感じさせる。
 

 

bolzano-fuori_04

 

bolzano-fuori_05

レノン鉄道の終点Collalboコッラルボの駅。毎時1本の割合で運行している(上)。 駅前広場から始まるハイキングコースの標識。大地のピラミッドは目玉ルートなので誰にでもわかるようイラスト付きで表示されている(下)。
 

 

  アスファルトの道路に沿って建ち並ぶコッラルボの住宅街を抜けると、大地のピラミッド遊歩道の入り口が見えた。ここからは自然道になっている。深い渓谷を挟んで、向かいに雄大なドロミーティ山塊のパノラマを眺めながら、切り立った崖の上のハイキングコースを歩く。途中、のんびりと草を食む山羊の群れに出会い、まだぴょんぴょん跳ねている愛らしい仔山羊たちに草を食べさせてあげた。いつしか小雨も止み、雲の切れ間からキラキラと陽光が降り注いできた。ポンチョを脱いで洗い立てのような涼しい空気を肌で楽しみながら歩くこと20分。目の前に巨大な土柱の群れが現れた。なんとも不思議な、そして息を呑むような絶景に目が釘受けになる。
  展望台の説明書きによると、大地のピラミッドことレノンの土柱群はなんと2万5千年前に自然の侵食によってできたものであるらしい。氷河期の終わりに、後退していく氷河が谷を削りながら流れ、その作用で削り取られた岩石や土砂が堆積してこのような奇妙な地形になったという。ギザギザに尖った土柱のてっぺんには、まるで人為的に置かれたような岩が帽子のように乗っかっているが、これも全て自然の為せる技。しかもこの岩の帽子のおかげで土柱は風雨の侵食から守られているそうで、この帽子がなくなってしまうと土柱そのものが一気に削られてしまうらしい。気の遠くなるような時間と大自然が持つ驚異的なパワーに思いを馳せるにつけ、私たちが今こうして2万5千年前の大自然の奇観を目の当たりにできるのは奇跡だと思えてくる。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

bolzano-fuori_07

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

大地のピラミッドのハイキングコースからは渓谷の向かいにそびえるドロミーティの雄姿も楽しめる(上)。 ルート上には様々な解説ボードも整備されているので、エリア内の自然や歴史についても学べる(中)。展望台から大地のピラミッドを望む(下)。
 

 

  大自然の奇観を心ゆくまで眺めた後は、コースの終点マリア・サールの村まで足を伸ばしてランチタイム休憩。まだ本格的なヴァカンス・シーズンではないものの、営業している山小屋のレストランが一軒あったので迷わず入っていった。店内には先のハイキングコースですれ違ったドイツ人のお年寄りグループが、早くもビールを片手に盛り上がっている。シンプルなチロルの郷土料理が並ぶメニューから、お腹に優しそうなコンソメスープのカネーデルリを選び、デザートに温かいラズベリーソースをかけたジェラートを頼んだ。目の前に広がるドロミーティの大パノラマを楽しみながら、ほっとするような素朴なランチを満喫して帰路に着いた。

 

bolzano-fuori_09

 

bolzano-fuori_010

 

bolzano-fuori_011

ハイキングコースの終点マリア・サールの村にある山小屋レストラン「Egarterエガルテル」のテラスからの眺望(上)。パンとスペックのお団子「カネーデルリ」はチロル料理の定番。ほっとするような優しい美味しさ(中)。熱々のラズベリーソースをヴァニラ・ジェラートにかけた絶品デザート(下)。

 

カレッツァ湖

  ボルツァーノから行く日帰り絶景スポットの二つ目は、ドロミーティの湖の中でも特に有名なカレッツァ湖(Lago di Carezza)。紺碧の湖面に背後にそびえるラテマール山の勇姿が映る湖は、「イタリアで最も美しい湖」とも言われている。ボルツァーノとトレントの県境に位置しているのでハイキングをしながらこの湖にたどり着けるルートがいくつもあるが、「歩くのは嫌!」という人でもバスで簡単にアクセスすることができる。
   ボルツァーノのバスターミナルから毎時1本運行しているカレッツァ湖行きのバスに乗り、約50分で湖畔に到着。チケットは先日購入した3日間用のモバイルカードを利用した。このカード一枚でボルツァーノ近郊の目玉スポットを回れるのでとても便利だ。
   カレッツァ湖のバス停に降り立つと、もう目の前にため息が出るような絶景が広がっていた。まだ雪が解け始めたばかりで湖水の量こそ少ないものの、紺碧の湖面に映る真っ白な雪山が眩しいほどに輝いている。「わぁっ!」と歓声を上げたのは私だけではなく、バスに同乗していた親子連れやお年寄りも皆同様に夢中でカメラのシャッターを切っていた。
 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

bolzano-fuori_013

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

ボルツァーノ旧市街からSAD社のバスでLago di Carezzaへ。バスは直行と乗り換え二つの路線があるので事前にバス停横のチケット売り場で確認すると良い(上)。バスの車窓から眺めるドロミーティの雪山(中上)。カレッツァ湖のバス停。帰路は道路の反対側の停留所からボルツァーノ行きを利用。バス停横にトイレを備えたレストラン兼バール、お土産屋さんもある(中下)。標高1520mに位置するカレッツァ湖。背後のラテマール山が湖面に映る(下)

 

  湖の周囲には森林散策ができる遊歩道があることがわかり、早速湖畔へ降りてみることにした。湖面越しに周囲を眺めると、昨秋にこのエリアを襲った猛烈な暴風雨の被害の後がまだあちこちに見られた。偶然居合わせた森林警備隊員の話では、この湖畔の森林には樹齢250年を超える木がたくさんあったそうだが、残念ながら暴風雨によってその多くは倒れてしまったそうだ。こんなに大きく丈夫そうな木々を一瞬でなぎ倒すとは相当な威力だったに違いない。倒木を切り分けるチェーンソーの音が絶え間なく響く中、30分ほど湖畔を散歩する。帰り道にふと湖面を見ると、小さな銅像が湖の端にちょこんと立っているのに気づいた。湖水の量が少なかったから見えたものの、きっと夏場は湖の底に沈んでいるに違いない。この銅像はいったいなんなのだろう?
  その答えは湖畔に立てれらた説明書きの看板が教えてくれた。これはカレッツァ湖の妖精の銅像で、妖精にまつわる伝説も残っている。その昔、湖の底深くに暮らす美しい妖精に恋をしたラテマール山の魔法使いがいた。魔法使いは何度も彼女をさらおうと試みるが、妖精はなかなか湖面に姿を現さない。そこで魔法使いは彼女をおびき出そうと、カレッツァ湖からラテマール山に向けて大きな美しいな虹をかけた。妖精は美しい虹を一目見ようと湖面に姿を表すが、魔法使いが捕まえようとすると再び湖の奥深くへ逃げてしまった。怒り狂った魔法使いは虹を掴むと粉々に砕いて湖の中に投げ込んだ。それ以来、湖水は虹の中のアイリスの色になったという。
  なんともロマンティックな伝説だが、周囲の美しい風景を眺めているとそれも納得できる気がしてくる。ちなみに妖精の銅像は水量が非常に少ない時にしか見られず、一年を通してもその姿が見られるのは稀だそうだ。私はしっかり妖精の姿を拝めてラッキーだった。
  湖畔の散歩を終えたあとは、バスターミナル横のバールでクラフトビールとソーセージのランチを味わい、帰路のバスが来るまでの間にお土産ショッピングも楽しんだ。たった半日とは思えないほど充実した時間を過ごすことができた。
 

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

湖畔の遊歩道へと降りて行く(上)。周囲を雪山と森林に囲まれた静かな湖(中上)。樹齢250年を超える木々に囲まれて、ひとときの森林浴を楽しむ(中中)。カレッツァ湖の湖底に住むという妖精の銅像は、水量が少ない時期にしか見られない(中下)。ランチはホワイトソーセージとプレッツェル。クラフトビールと合わせると最高(下)。
 

 

 

 

★ MAP ★

 

Map-Bolzano_fuori

 

 

<アクセス>
大地のピラミッド>>ボルツァーノからケーブルカーでソプラボルツァーノまで登り、そこからレノン鉄道でコッラルボへ。コッラルボまで1時間弱。コッラルボから大地のピラミッドの展望台を経由してマリア・サールまでのハイキングコースは片道約1時間10分。
カレッツァ湖>>ボルツァーノからSAD社のバスでカレッツァ湖まで約50分。季節によってルートや時刻表が変わるので、事前にターミナルで確認した方がいい。
 

<参考サイト>

ボルツァーノ観光情報(日本語)
https://www.bolzano-bozen.it/jp/visite-guidate.html

 

大地のピラミッド(英語)
https://www.ritten.com/en/highplateau/highlight/earth-pyramids.html

 

カレッツァ湖(英語)

https://www.suedtirolerland.it/en/highlights/nature-and-landscape/lakes/lake-carezza/

 

レストランEgarter(伊語)

https://www.egarter.net/

 

SAD社(伊語)

https://www.sad.it/

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は2019年6月27日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

Exif_JPEG_PICTURE

田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること19年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

ブーツの国の街角で
バックナンバー

その他のWORLD CULTURE

ページトップアンカー