旅とメイハネと音楽と

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#62

ギリシャ・サントリーニ島滞在記〈1〉

文と写真・サラーム海上

 

魚介料理をリサーチに、ギリシャの島へ!

 この連載でも2016年、2017年に取り上げてきたトルコ・カッパドキアの野外総合フェスティバル「Cappadox」。2018年は6月の中旬に開催となり、僕は三年連続で取材に訪れることにした。すると、その一月前の5月中旬、イスタンブル文化芸術基金で働く友人から「トルコの音楽アーティストを海外に向けて発信するショーケースのフェスティバルを6月下旬に行うんだ。今年もCappadoxに来るなら、そのまま月末までトルコにいてくれよ。DJも頼みたいし」とメールが届いた。
 もちろんフェス取材は大歓迎だ。しかし、Cappadox終了後、月末まで10日近く、どこで何をして過ごそうか? そうだ、近場のギリシャの島に飛んで、魚介料理をリサーチしよう!

 

tabilistaCappadox 2018、メインアクトはBaBa ZuLa!

 

 中東、そしてトルコの魚介料理を調べていくと、トルコ語の魚介の名前の多くがギリシャ語を起源に持っていることに気づく。スズキはトルコ語がレヴレク、ギリシャ語でラヴラーキ。鯛はチプラとチプーラ、イワシはサルダリエとサルデーレス、鮭はソーモンとソロモス、タコはアフタポトとフタポーディ、ムール貝はミディエとミディ、伊勢海老はイスタコスとアスタコス、etc……。
 古くからアナトリア半島の沿岸部にはギリシャ系住民が暮らし、後に中央アジアからアナトリア半島へと流入してきたテュルク系は歴史的にも宗教的にも魚をあまり食べなかったため、元々のギリシャ語の語彙が残ったのだろう。現在でも内陸部や東部のトルコ人は魚介を好んでは食べない。
 しかし、現在のイスタンブルやトルコ沿岸部のメイハネ料理、特にメゼを見る限り魚介料理を抜きにしては語れない。それにギリシャ系住民が多く暮らすイスラエルに行くと、トルコのメイハネ料理とよく似た魚介のメゼを頻繁に目にする。トルコの魚介料理の起源やさらなるバリエーションを求めるとギリシャ料理を無視できなくなった。
 そうと決めたらどの島に行こうか? ギリシャには無数の島がある。ロードス島やレスボス島、コス島ならトルコから簡単に船でも行ける。しかし、どうせなら普段の僕には思いつかないような場所に行こう。サントリーニ島なんてどうだろう?
 サントリーニ島はギリシャのキクラデス諸島の最南端にあるサントリーニ諸島のの最も大きな島。火山の爆発によって生じたカルデラ外輪山を元とした三日月型の島で、断崖に沿って密集して建てられた白く塗られた家の景観で知られる。また、北部の集落イアから海に沈む夕陽は「世界一美しい夕陽」と言われ、世界中の観光客、特に新婚旅行客を集めている。

 

tabilistaサントリーニ島フィラの夕暮れ

 

 突然降ってわいた東地中海での一週間の空白、こんな機会でもない限り、サントリーニ島なんて行くことはないだろう。またサントリーニ島にはアシルティコ種と言われる独自の葡萄があり、それを使った白ワインや酢が親しまれ、さらにトマトなどの野菜も独自の品種が存在していると聞く。
 
 6月19日、Cappadoxでのほぼ不眠不休の5日間取材を終えた僕は、午前中の飛行機でカッパドキアからイスタンブルへと飛んだ。続いて一時間の国際線でギリシャのアテネに飛び、さらに夕方の40分のフライトでサントリーニ島へと渡った。
 トルコは毎年訪れているが、ギリシャを訪れるのは大学の卒業旅行以来28年ぶり二度目だ。

 

tabilistaアテネの空港ラウンジのブッフェもギリシャ料理が並ぶ。トルコのメゼよりもヘルシーに見える。左上はビーツのジャジキ

 

tabilistaピンク色の空、エーゲ海の夕暮れ時にサントリーニ島に到着

 

 空港から乗り合いタクシーに乗って20分、どっぷりと日が沈む頃、島の中心的な集落フィラにある宿にチェックインした。岸壁をえぐった洞穴のような部屋に荷物を置き、テラスに出ると真正面には海が広がっているが、既に真っ暗で何も見えない。しかし、視界の左右には湾曲したカルデラ外輪山に沿ってグルっとホテルやレストランの灯りが広がっている。まずは到着を祝して近くのレストランで乾杯し、景色は明朝ゆっくり楽しもう。

 

tabilistaホテルのテラスに出たが、もう暗くて何も見えない

 

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ホテルからフィラのメイン通りをレストランへと向かう。観光客でいっぱい

 

 レストランに到着し、最初に頼んだのはサントリーニ・サラダ。味が猛烈に濃いミニトマト(サントリーニトマトと呼ばれている)、緑と黄色のパプリカ、フェタチーズのサラダに、今どきの国際的な健康志向だろうか、チアシードがたっぷり振りかけられていた。そして、器の底には乾パンかグリッシーニのような無発酵パンがたっぷり沈められていた。パンは野菜の汁やドレッシングがしみて、やわらかくふやけていて美味い! これは早速真似しよう。

 

tabilistaサントリーニ・サラダ。サントリーニ名物のミニトマトにパプリカ、フェタチーズのサラダ。上の黒い粒粒はチアシード


 続いてはビーツのジャジキ。ジャジキはトルコ料理のジャジュクのギリシャ版で、水切りヨーグルトにすりおろしたキュウリとにんにくを混ぜ込んだものだが、ここではキュウリの代わりにビーツを使って淡いピンク色に仕上げていた。これはアテネ空港のビジネスラウンジでも目にした。ビーツも世界的に流行している食材だ。

 

tabilistaビーツのジャジキ。ビーツも世界中で人気の野菜

 

 そしてメインディッシュはタコの足と大量の玉ねぎ、トマトを圧力鍋などで柔らかく煮込んだシチューの「スティファド」。下に敷かれている黄土色のソースは、乾燥した黄色い割豆をにんにくとともに長時間かけて煮つぶした「ファヴァ」。乾燥そら豆で作るアラブ料理のファヴァとほぼ同じものだが、独特の旨味がある豆はサントリーニ島特有の品種らしい。玉ねぎとトマトの甘みが溶け合いながらもしっかり濃い味が残るタコを、ネットリしたファヴァが受け止める。この組み合わせ、タコと豆の相性がすばらしい!
 初日から美味しいものに出会えるとは幸先いい。こうなったらギリシャ滞在中は毎日でもタコ料理を食べ続けるぞ!

 

tabilistaタコのスティファド、ファヴァのせ。これがその後一週間続いたギリシャのタコ料理天国の幕開けとなった!


 翌朝、午前7時前に目を覚まし、部屋のテラスに出ると、うわ~! 昨夜は真っ暗で見えなかった真正面のカルデラ湾には大型のフェリーが浮かび、岸壁の白い建物と真っ青な鏡面のような海が浮世離れした風景を作り上げている。ちょっと笑ってしまうほどシュールな景色だ。世界中から新婚旅行客が集まるわけだよねえ。

 

tabilista翌朝一番の宿のテラスからの風景。こんなの毎日見て暮らしたいよねえ!

 

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二泊したフィラの宿『Nonis Apartments』

 

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午前中のフィラ。無数にあるカフェやバー、レストランからは海が目前に!


 この日は島を代表するワイナリー「Santo Wines(サント・ワインズ)」を訪れ、アシルティコ種のぶどうで造られたワインを堪能することにした。
 サントリーニ島の表土は火山灰性のため、雨は土壌に吸い込まれ、河川は一つも存在しない。夏は35度を超える暑さとなり、一年中海風が強いため、葡萄の木は枝を螺旋状に巻いてバスケット状にし、自らが防風林や日傘代わりになるように育てる。そんな厳しい環境の中、長い根を通して土壌深くから水分を吸い上げて育ったアシルティコ種のぶどうを使ったワインは強いミネラルと酸味が特徴らしい。

 

tabilista世界中のセルフィー野郎、セルフィー家族でフィラは常に交通渋滞

 

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サントリーニ島のランドマーク、フィロステファニ教会はもちろん観光客だらけ

 

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ウェディングドレス姿でセルフィーしまくる観光客もけっこう見かけた

 

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おなじみのトルコのお守り、ナザールボンジュウも、クリスチャンの国ギリシャに来ると十字架とセットになる

 

 サント・ワインズはフィラから南に3km下った集落ピルゴスの外れの断崖絶壁に建つ。フィラのバス停からバスに乗り、坂道を登り降りし、20分ほどで最寄りのバス停に到着した。
 門をくぐると、200人ほどが座れる屋内席と崖に面した野外席が数箇所あり、一番奥に離れて建つ小さな野外席では結婚式が開かれていた。ワイナリーというより、まるでエンタテインメント・レストランだ。アメリカ人の団体ツアー客が目立つ。

 

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フィラのバスターミナルから、サント・ワインズのあるピルゴスを目指す

 

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バスターミナルの壁に貼られていたサントリーニ島全図。火山のカルデラ外輪山の島というのがよくわかる

 

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サント・ワインズの入り口

 

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サント・ワインズの野外席。雨降ったらどうすんの?という作り(雨はほとんど降らないらしい)

 

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敷地内で結婚式!

 

 正面右側に遠くフィラが望める野外席の先端のテーブルに陣取り、10種類のワイン・テイスティングとシーフード盛り合わせを頼む。
 まずシーフード盛り合わせが運ばれてきた。大きなお皿に薄切りにした茹でタコのオリーブオイルマリネ、塩ダラのマリネ、スモークサーモン、七面鳥のハム、セルバチコ、前夜にもいただいた味の濃いミニトマトのサラダ、ゴマをまぶしたグリッシーニ(これが前夜のサントリーニ・サラダに用いられていたものだ!)。冷製を切って並べただけのものに、29ユーロ=3,638円とは結構な値段だが、二人でも食べきれないほどの量だ。

 

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シーフード盛り合わせ。柔らかい蒸しタコのオリーブオイルマリネが激美味! ゴマをまぶしたグリッシーニは、前夜のサントリーニ・サラダに用いられていたもの

 

 続いてなみなみとワインが注がれた9客のワイングラスがウッドプレートに載せられて運ばれてきた。スパークリングが2種類、白ワインが5種類、赤ワインが2種類である。そして最後の10杯目はアシルティコ種の干しぶどうから作った高級スウィートワインのヴィンサント。

 

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ワインのテイスティング。すべてが観光地プライスのサントリーニだが、ワインが10種類飲めて33ユーロ=4,142円はお得!

 

 これだけ飲み比べるとさすがにアシルティコの味を覚える。アシルティコの色はレモンイエローが基本。酸味が強く、鉱物性の後味が強く残る。オーク樽で熟成したものは、そこにバニラのようなまろやかな香りが加わる。赤ワインも悪くないが、夏の中東や地中海ではこうした個性の強い白ワインのほうが美味しく思える。
 それにしても酔いが回った。メニューにはグラス一杯60ccずつと記されていたが、グラスの目盛りを見ると明らかに80cc以上注がれているじゃないか! 昼からワイン一本以上も飲むことになるとは! まあ湿度カラカラの天気も最高だし、ホテルに戻ってもプールで泳ぐだけだから、昼から酔っ払っても何も問題はないのかあ……。

 

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最後にアシルティコの干しぶどうから作ったデザートワインのヴィンサント。これも濃厚!

 

 

ギリシャ料理、ビーツのジャジキの作り方

 今回のレシピはビーツのジャジキ。

 

■ビーツのジャジキ

【材料(作りやすい分量)】
プレーンヨーグルト:400g
ビーツ:50g(1/4個)
にんにくのすりおろし:1かけ分
レモン汁:大さじ1~2
塩:小さじ1/2
ベビーリーフ:適宜

【作り方】
1.プレーンヨーグルトはキッチンペーパーを敷いたザルに入れ、一晩冷蔵庫で水を切る。
2.ビーツはアルミホイルに包み、200度に予熱したオーブンで1時間焼く。
3.ビーツに金串がスッと通ったら、室温に冷まし、皮をむき、チーズおろしですりおろす。
4.ボウルに水を切ったヨーグルト、すりおろしたビーツ、にんにくのすりおろし、レモン汁、塩を入れ、混ぜ合わせる。
5.平たいお皿に盛り付けて、ベビーリーフで飾り付ける。パンですくっていただく。

 

(サントリーニ島編、次回に続きます!)

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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